the quiet room、約3年振りとなるフルアルバムを引っ提げてのツアー真っ只中の”いま”に迫る
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the quiet room
10月9日に、約3年振りとなるデジタルフルアルバム『不時着する運命たち』をリリースした、the quiet room。今作は、「表情豊かに生きる」というバンドコンセプトに忠実でありつつも、アレンジャーを交えての楽曲制作を増やすなど、常に進化を止めない彼らのモードがよく分かる作品に仕上がっている。現在進行形で、全国10都市ワンマンツアー『the quiet room Tour 2024-2025 ” いま、偶然を抱き寄せて ”』を行なっている彼らに、今作やライブについて話を訊いた。
──3年振りの振りのフルアルバムリリースですが、ここに至るまでにZepp Shinjukuでのワンマンライブや初のホール公演など、かなり精力的に活動されていましたよね。振り返っていかがですか?
斉藤弦:Zepp Shinjuku公演からまだ1年も経っていないというのが信じられないですね。ライブやリリースもコンスタントにやっていたので、ここまで本当にあっという間でした。
前田翔平:Zeppが終わってから制作モードになったんですけど、それでももう12月かぁという感覚です。ライブに制作、レコーディングと、今年も盛りだくさんではあったんですけど、Zeppまでのスケジュール感に比べたら緩やかだったようにも思います。
菊池遼:今年はそんなに忙しかったという感覚はなかったです。というのも、Zeppという大きい目標を立てて、そこに向けて進んでいくということが、自分にとって特別なものだったので、終わった後は自分を見つめ直す期間や、これからどうしていきたいのか?と考える時間は多かったように思います。個人的には、目標がないと頑張れないタイプなので、”バンドにとって、次に目指すべきところはどこなのか?”を考える1年だったなと思います。
the quiet room
──そんな考えの中で、今作の制作にあたってのコンセプトや方向性は決めていたんですか?
菊池:アルバムという単位での作品をリリースすることへのこだわりがあるので、数年前からの単曲配信主流の時代の流れに乗っかりつつも、その段階からアルバムへの意識は強くありました。
──単曲ずつだけども、これらをまとめた時に生まれる流れは、早い段階から意識していたと?
菊池:そうですね。バンドのテーマである「表情豊かに生きる」を前提として、単曲配信に向けてそれぞれ曲を書いているので、世界観や歌詞の内容を全部しっかりリンクさせることは難しいですけど、楽曲のキャラクターや色については、アルバムにした時に飽きが来ないように調整はしていました。
斉藤:自分たちが中高生くらいの頃って、好きなアーティストがアルバムをリリースするって、すごいドキドキしたんですよね。今の時代は、先ほどの話にもあったように単曲聴きが主流になっているので、あの頃とはまた違う聴き方になっているかもしれないですけど、アルバムの流れや、コンセプトに沿った作品から生まれる独特の流れというのは、やっぱり特別だなと思います。
前田:アルバムだからこそ出せる曲もあるもんね。
── 1曲目の「偶然を抱き寄せて」は、アルバム初出しの曲であり、作品の幕開けを担うポップで華やかな楽曲になっていますね。これはそれこそ、アルバムだからこそ入れられるようなショートチューンになっています。
菊池:今作は全体的にライブを意識していたので、ショートチューンを作りたいという気持ちがありました。ライブハウスにお金と時間を掛けて遊びにきてもらうなら、限られた時間の中で一曲でも多く楽曲を届けたいと思っています。そういう意味で、「偶然を抱き寄せて」と最後に収録した「Overtime」はショートチューンにしました。
──最初から1曲目を想定していた?
菊池:そうですね。アルバムの曲順や雰囲気を考える中でオープニングソングが必要だと感じて後から書き上げました。今作のタイトルの『不時着する運命たち』は前回のツアータイトルから取っていて、この「偶然を抱き寄せて」というタイトルは今回のツアータイトルから取っているんです。今自分たちがやりたいことや伝えたい歌詞に、その時にやっているツアーのタイトルがリンクすることが多かったので、過去と未来を繋げるという意味でも、アルバムの1曲目に名付けました。
菊池遼
──この『不時着する運命たち』という言葉の真意は何なんでしょう?個人的には、様々な時期に生まれた楽曲たちが、このアルバム上に不時着することで特別な意味を持つし、そういった日常に潜む奇跡を体現している……という解釈だったのですが。
菊池:なるほど、そういう考え方もできますね。タイトルに対して想像を膨らましてもらえることはとても嬉しいです。敢えて真意を説明するとすれば、僕、元気がない時によくライブハウスにいくんです。救いを求めて音楽を聴きに行くことがある種の「不時着」だと思っているんですよね。燃料切れで元気がない時や、ワクワクしたい!と思った時にライブハウスに行くという行為が、人生においての羽休めのようなものだと考えています。目まぐるしい生活の中で不時着を余儀なくされたときにthe quiet roomの音楽やライブが居場所であれたらいいなと思って今作のタイトルを名付けました。
──the quiet roomの音楽や活動と、ライブやリスナーの方々との繋がりというのは、切っても切り離せない大前提になってきているんですね。
斉藤:でも、今回のギター制作に関して言えば、今の話とは逆というか、ライブでの再現を想定していなかったです。というのも、ライブではできないことを、音源上でならできるという考え方で作りました。例えば「Bad Ideas」に至っては、どれを弾くとかは決めずに、入れたいフレーズを全部入れて、じゃあライブでどれを弾こうかな?という感じでやりました。なので、ギターが同時に8本くらい鳴っている瞬間もあるんですよ。
──今までも、そういうこともやってみたいという気持ちがあった?
斉藤:ありましたね。今までは、そういうフレーズがあったら鍵盤にお任せしていたんですけど、そういう作り方はやってきたので、今回はそこの縛りをなくして挑戦してみました。それは、今までピアノに任せられていたからこそ生まれた考え方なんですけどね。最初は楽しそうだなと思っていたんですけど、逆にどこまでやっていいのか分からなくなって苦戦したりもしましたが、最終的に良い作品になったので、楽しかったです。自分自身、逆にギターが入っていないような音楽も聴くので、そういう今までになかった一面を、今後もthe quiet roomの曲に落とし込めていけたらいいなと思います。
前田翔平
──「Bad Ideas」は、かなりゆるっとした雰囲気の楽曲ですよね。
菊池:そうですね。最近恋愛の曲は、書かなきゃ!という気持ちで書いている節があるので、「Bad Ideas」はそういう曲じゃなくてもいいよなぁ……という、楽な気持ちでかけた曲ですね。恋愛の曲は個人的に結構ネタが尽きてきているので、友人たちに色恋話を取材してネタにさせてもらったりしてたんですよ(笑) この曲に関しては、シンプルに自分が友人たちと旅行に行った時のことを書いた曲なので、ありのまま気楽に楽しんで作れましたね。
── ここまでのアルバム上の流れで言えば、良い意味で異色ですもんね。「Twinkle Star Girl」は、失恋といえどもアッパーな楽曲ではありますが。
菊池:失恋を描く上で気をつけている点もあって、あまり重くなりすぎないようにはしています。歌詞の中ではとんでもないことを言っていたとしても、アレンジやリズムといった音楽的な部分では軽やかにして、聴いていて疲れないというか、暗い気持ちにならないように心がけています。聴いていて気持ちがズーンと重くなってしまうのは、自分たちのコンセプトには合わないなと思っているので。
──でも、恋愛関係の曲を作るのに多少なりとも苦手意識があるのに、取材してまで書こうという思いはどこから来るんですか?
菊池:表情豊かに生きる人生で、恋愛を全くしていないのはマズいかな?と思っているからですかね……。恋愛って、人生においてかなり大きなイベントじゃないですか?誰かと付き合うとか、結婚して家族ができるとか。周りにそういう友達も増えましたしね。なので、日常を歌い続けるバンドとしては、外せない話だなと思っています。
──ちなみに、「Bad Ideas」の中で「いま何時?」「ここ何処?」って言ってるのってどなたなんですか?めちゃくちゃダルそうに言ってますけど……(笑)。
菊池:あ、それは僕ですね。(笑) 僕、結構夜型の生活リズムなんですけど、友人は規則正しい朝型のリズムの人が多くて。特に家庭があるような友人たちとはきっちり朝から集まって遊ぶんですけど、ちゃんと朝出発するの個人的にかなり厳しくて。(笑) なので、その時の自分の感じをそのまんま出してます。(笑) ちなみに、曲中に入っているガヤやイエーイっていう声は、遊びに行った時に友人たちの声をこっそり録った時のものです。
斉藤弦
──その部分含めてめちゃくちゃリアルですね(笑) 先ほど斉藤さんが、今作において挑戦したところを話してくださいましたが、前田さんはありますか?
前田:僕は、ライブでやったらどうなるかな?と想像して作ることが多いですね。最近は同期を用いてライブを行うことが普通になってきているので、ここをどうしたら盛り上がるだろう?と、お客さん目線で考えることが増えました。あとは、アレンジャーさんに入って頂く機会が増えてきたので、その経験で得た気付きを活かしてフレーズを変えていくことは多かったです。
──具体的には?
前田:もっとやっていいんだな、と思えるようになりました。アレンジャーさんが、たまたま皆さんベーシストの方だったので、先に持ってきてくれるフレーズが「こんなにやっていいの?」ってくらいフレーズが動いているものだったんですよ。それが衝撃だったし、大きな気づきでしたね。今まではサビで8ビートをしっかり弾くようにしていたところを、もっと弾くところは弾いちゃえ!と思えるようになったのは自分にとって大きな変化でしたし、何より自分が飽きなくなりましたね。
菊池:今回のアルバム制作を意識する第一段階である「Twinkle Star Girl」の制作で、須藤優さんにアレンジャーとして入ってもらえたというのが大きかったですね。コーラスワークについても、かなり刺激を受けました。上でハモるのか下でハモるのか?や、重ね方についても勉強になりました。
斉藤:でも、アレンジャーさんに入ってもらうことで、ここまで劇的に良くなるのか!と知ってしまったので、逆に今まで通り自分たちだけで作った時に、クオリティーを落ちたと感じてしまったらどうしよう?という怖さはありましたね。だからこそ、負けたくない!という気持ちが生まれましたし、その気概を持って新曲を作っていけたことは良かったなと思います。
──個人的には「もう少し前から」が好きです。特にBメロの哀愁と、鍵盤のジャジーな感じがたまらないなと。
菊池:この曲は、キーボードを入れたら良いよねという話をしていたにも関わらず、入れる前に曲が出来上がってしまったんですよ。なので、完成後の音源に後から入れてくれた鮎京春輝(fews)さんは、きっととても大変な思いをしただろうなと……。
斉藤:何となくでもキーボードを入れてもらった上でレコーディングすれば良かったのにね。
菊池:普通、デモの段階で渡すもんな……(笑) でも、春輝さんのプレイと曲の雰囲気がとてもマッチしていたので、お願いして良かったなと思っています。
──「Ghost Song」も、かなり攻めた楽曲ですよね。初っ端の「ねえ くだらないリリックのJ-POPで 高鳴っていたいんだった」という歌詞も痺れます。
菊池:喜怒哀楽の、怒や哀の部分をフックアップしたいという気持ちと共に、昨今の音楽が消費されていくスピードの速さ対するカウンター的な意図も含まれています。くだらないJ-POPと言いつつ、そんな音楽が流行っていた時代って、幸福度が高かったなとも思うんです。結局、そういう音楽に乗って、何となくテンション高くいられたあの時代の良さもあったし。でも今は、SNSでサビだけ流れて盛り上がって、次はもう違う曲、という目まぐるしいテンポで回っていく。その中で、一石を投じて、リスナーの方にも考えてもらえたら良いなと思います。
──曲調もロックで、ギターやベースの強さもひしと感じられます。
菊池:華やかなポップさとは別の、こういったロックな部分もしっかり見せていきたいなと思います。
── 一方「Nowplaying」は、リスナーの人生に寄り添いたいと常に考えて音楽を生み出しているthe quiet roomらしい、新視点の楽曲だなと感じました。
菊池:この曲は、自分の人生が一つのアルバムやプレイリストだったとしたら、今は何曲目なんだろう?と考えることをテーマにしている楽曲です。これは、単曲配信した時とアルバムの流れの中で聴くのとは、かなり印象が変わったなと思える曲ですね。今作の何曲目に入れようか?とも考えましたしね。
── 最後から2曲目にしたのは?
菊池:明日死ぬかもしれないし、どの曲が最後だとしても後悔しないように生きたいし、生きてほしいと思っていたので、正直、この曲を置くならアルバムの最後だなと思っていたんです。でも、最初にお話したように、ライブの流れを考えると、やっぱり最後にひとつ盛り上がりたいし、ここで終わりかと思わせておいて逆転する感じが自分たちらしいなと思ったので、こういう曲順になりました。
──最後の「Overtime」は、ドラムの一発締めがない曲じゃないですか?それもまた、次に繋がっていくように聴こえました。
菊池:ああ、それはあると思います。録ったときは、正直そこまで考えてはいなかったんですけど、僕自身も改めて聴いた時に、繋がっていく終わり方になっているなと思いました。
the quiet room
──現在はツアー中とのことですが、初日を終えて、感触的にはいかがですか?(取材時は、shibuya eggmanでの初日を終えたところ)
菊池:正直、ツアー初日って、緊張もあってあんまり上手く演奏できなかったり、お客さんも新曲に慣れていないことから空気感が作りきれないということも多いんですよ。でも、今回の初日はそんなこともなかったです。今作がライブを意識して作られていたこともあってなのか、ノリ方や盛り上がり方を分かってくれている人が多かったように思います。なので、ここから先もっと曲が馴染んでいって、全員でファイナルに向かって行ければ、かなり良い感じになるんじゃないかな?という予感はしています。
斉藤:今まで何回もツアーはやってきたんですけど、今回のように、ちゃんと1作品を引っ提げて回るツアーは久しぶりなので、かなり楽しみですね。お客さんも、これを聴けば楽しめる!ということが分かっているし、初めてthe quiet roomのライブに遊びに来る人にとっても分かりやすいと思うので、良い流れができるんじゃないかと思います。あとは、新曲がどう浸透していくのかが楽しみですね。
前田:お客さんが、短い期間でも、今回の作品をしっかり聴き込んできてくれたんだなというのが分かった初日でしたね。eggmanということもあり距離も近かったし、初日でこれなら、ファイナルはどうなるんだろう?というワクワク感があります。
菊池:でも、「Bad Ideas」の「ヘイ!」のところは、お客さんが裏と表をミスっていたので、注意しました。
全員:笑。
──あはは!手厳しい(笑)
前田:裏とか表とかわからない人もいるんだから(笑)。
斉藤:あれはテロップ出さないと無理だな~(笑)。
──昔からのファンでも難しいかも(笑) でも、今作には初期からある「ラストシーン」の再録もありますし、色々な方が楽しめるライブであり、作品になっていますね。
菊池:最新のリリースやライブが一番かっこよくなければいけないとは思っているんですけど、そうなると過去の曲をやる機会がどんどん減っていってしまうなとは思っていて。それを寂しいと言ってくれる方もいますし、そういう人たちにも喜んでもらえるような仕掛けがあったら良いなと思ったので、今回はああいう形で収録しました。「ラストシーン」はサブスクでも聴けなかったので、聴ける人と聴けない人がいるのも嫌でしたしね。これからも、昔から好きでいてくれる人も、この作品をきっかけに好きになってくれた人も、分け隔てなく楽しめるように活動をしていきたいですね。
取材・文=峯岸利恵 撮影=大橋祐希
the quiet room
リリース情報
「Ghost Song」Music Video:https://youtu.be/VPqvG2aAjmM
<収録曲 >
1.偶然を抱き寄せて
2.知りたい
3.Ghost Song
4.Tsubomi
5.Twinkle Star Girl
6.もう少し前から
7.悪い癖
8.Bad Ideas
9.ラストシーン
10.知らない
11.Nowplaying
12.Overtime
ツアー情報
open 16:30 / start 17:00
open 18:00 / start 19:00