大人のための上質な舞台を小劇場で/舞台「悲しみを聴く石」那須佐代子×上村聡史インタビュー

2015.11.10
インタビュー
舞台

女優の那須佐代子が支配人を務めるシアター風姿花伝のプロデュース公演「悲しみを聴く石」が12月11日(金)からシアター風姿花伝で上演される。演出の上村聡史と那須佐代子にインタビュー取材した。

シアター風姿花伝によるプロデュース公演の1本目として2014年に上演した舞台「ボビー・フィッシャーはパサデナに住んでいる」は第22回読売演劇大賞の優秀作品賞を受賞。演出を務めた上村聡史は最優秀演出家賞に選ばれた。故・扇田昭彦氏も『無残に崩壊する家族を描く、じつに細やかで、しかも壮絶な描写力に富む出色の舞台だ。』とこの作品を高く評価した。

舞台「悲しみを聴く石」チラシヴィジュアル

そして今回、2回目のプロデュース公演は、アフガニスタン出身の作家、アティク・ラヒミが書いた、フランス文学界最高峰の賞ゴングール賞受賞作(2008年)「悲しみを聴く石」(原題:SYNGUÉ SABOUR)を上演する。
本作はイスラム社会における報復の連鎖と男女差別、その中で抑圧された性を描くことで、地域特有の問題を扱っている。戦争や男性社会に対する女性の怒りや悲しみ、そして求道・求愛という普遍的なテーマを描いた秀作だ。

エントレでは演出を務める上村聡史と、出演者であり劇場支配人でもある那須佐代子の2人にインタビュー取材し、本作の魅力について聴いた。【動画8分】


 
この作品を選んだ理由は?

上村聡史(演出)
「ある人から『上村さんが好きなタイプの小説じゃないですか?』と言われて何年も前に紹介された小説だったんですね。それで去年、『ボビー・フィッシャーはパサデナに住んでいる』という作品を同じシアター風姿花伝プロデュースで上演したんですけども、その候補の一つとして提出していた作品だったんです。」

那須佐代子(出演・シアター風姿花伝 劇場支配人)
「すごく力のある小説で、ものすごく面白かったんですけども、その時は小説だったので戯曲にするのは時間がかかるということもあり、他の作品を選んだんです。でも、すごくメッセージ性のある作品なので、やっぱり取り組みたいなと思ったのが今回選んだ理由です。」

演出を務める上村聡史

上村聡史
「小説から舞台にするというのを、今までやったことが無いので不安もあったんですけど、挑戦する、挑んで行きたいということもありました。戯曲と小説という表現形態が違うものも凌駕しながらやっていくという姿勢をもってやれば作品が息づくのかなと思って、やることになりました。」

ストーリーについて

上村聡史
「ある中東の紛争の激しい地域で動かなくなってしまった夫を看病している女性が、戦況が激しくなっていくのと同時に奥さんが秘めていた「内なる秘密」が吐露されていくというお話です。ちょっと言えないんですけど、最後にすごいことが起きてしまうというドラマになっています。
女性の苦しみだったり、戦争の恐怖などが表出されていく物語になると思います。」 

出演者の那須佐代子

那須佐代子
「イスラム教の色も濃いんですね。コーランのこととか、アッラーに捧げる祈りとかもあったりするんですね。この作品を選んだ時点よりも今の方が、イスラム圏というか、中東の問題というのは、あまり対岸の火事とは言えない状態になってきていますよね。戦争が起きるというのはどういうことなのか、庶民にとってはどういうことなのかということを考えると、みなさんに観て頂きたい作品だなと思っています。」

上村聡史
「一般的には哲学的で難しいと言われてしまう芝居でも、僕はあまり難しいものを作っているという意識はなくて、むしろ今を生きている僕たちの皮膚感覚で伝わるようにって努めているつもりです。なかなかこういうタイプの芝居とか映画とかを体験したことがない方にも来て頂きたいなって思います。」

本作とは直接関係のない特別質問なのですが、
これまで観た中で、最も影響を受けたお芝居を教えてください。

上村聡史
「演出者として意識が変わったのは、やっぱり在外研修で1年間、ロンドンとベルリンに行ってた時にたくさんいろんな芝居を観たんですけど、ワルシャワに行ったときに観た、クリストフ・ワリコフスキというヨーロッパではすごい有名な演出家の作品で「(A)POLLONIA(アポロニア)」っていうアポロン神話をモチーフにした5時間ぐらいのお芝居です。

俳優たちのアンサンブルというか、存在感もすごいし、映像を使ったりだとかボディペインティングをしたりだとか、すごいいろんなことをする芝居で、とにかく劇空間がすごい熱量を持っているというか、演出効果が俳優たちのパフォーマンスをアシストし、また刺激し、いろんなものが触発し合ってパフォーマンスが成立しているっていうのを再確認させてくれましたし、芝居ってこうでなくちゃいけないんだっていうのを意識させてくれた作品でした。」

那須佐代子
「私が早稲田大学に入った時に芝居やろうかな、どうしようかなと思っていた時に、第三舞台がスズナリでやった「モダン・ホラー」という作品を観たんです。後から聞いた話なんですけど、岩谷さんという素敵な俳優さんが事故で亡くなって、その追悼公演だったそうなんです。スズナリも初めてだし、第三舞台も初めてで、もうぎゅうぎゅうの客席で、最前列の端、スピーカーの目の前に座らされて観たんです。

芝居がどういう風に面白かったかは覚えてないんだけど、とにかく舞台の上が異常な熱気だったんですね。それを観たときに『やっぱり芝居やりたい』と思ったんですね。なのであの公演が自分の人生には大きな影響を与えたんだと思います。」

舞台「悲しみを聴く石」の見どころは?

上村聡史
「自分は一人ではなく、絶対に世界のみんなとつながっていて、自分がどういう立ち位置なのかということを発見できるような芝居にするつもりでいます。物語自体の話を聞くと難しそうだなと思うかもしれないんですけど、そこを超越して、ギュッと心を鷲づかみにするような仕掛けを想定していますので、是非劇場に来て頂いて、そこを観て頂ければと思っています。」

那須佐代子
「戦争と、女と、男と、愛の話だと思います。最終的には『ああ、人間ってこういう生き物だよね』っていうような共感を持って観て頂ける作品になると思っていますので、是非12月はシアター風姿花伝までお越しください。」


「黄金のコメディフェスティバル」などでシアター風姿花伝を訪れたことのある方もいるのではないだろうか。私も先日「ナイスストーカー」や「ひげ太夫」を観て大笑いして帰った観客のひとりだ。同じ劇場でこんなにも違う作品が上演されることについて那須に聞いたところ「なるべく可能性を狭めてしまわず、挑戦してきたい」という答えだった。
この劇場でコメディ的な舞台を観て笑って帰ったあなた。次は上質で大人な作品に挑戦してみてはいかがだろうか?

詳細は公式サイトで。
舞台「悲しみを聴く石」公式サイト

(撮影・編集・文:森脇孝/エントレ)


 

公演情報

シアター風姿花伝「悲しみを聴く石」

【作】アティク・ラヒミ
【翻訳】岩切正一郎
【演出】上村聡史
【出演】那須佐代子 中田顕史郎 清水優
​【日時】2015年12月11日(金)~12月21日(月)
【会場】東京・シアター風姿花伝
【公式サイト】http://www.fuusikaden.com/kanashimi/index.html

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