“乱歩”をお題に、はせひろいちが名古屋の名勝で…

2015.10.27
インタビュー
舞台

『乱歩からの招待状』チラシ

大正期に建てられた「東山荘」が舞台の、はせ流・乱歩ミステリーツアー

この世を去って半世紀を迎えた今なお、多くの人々を魅了し続ける作家・江戸川乱歩(1894-1965)。三重県名賀郡名張町(現・名張市)に生まれ、3歳から高校卒業までを名古屋で過ごすなど当地とゆかりの深い乱歩をテーマに、はせひろいち率いる岐阜の劇団ジャブジャブサーキットが『乱歩からの招待状 ~江戸川乱歩没後50年・名勝「東山荘」に偲ぶ~』を上演する。今作は、名古屋市などが主催する『やっとかめ文化祭』の舞台公演のひとつで、名古屋市瑞穂区にある国の有形登録文化財「東山荘」を舞台にした、観客参加型“謎解きミステリーツアー”スタイルの上演になるという。

【『やっとかめ文化祭 ~芸どころ・旅どころ・なごや~』とは…】 2015年10月30日(金)~11月23日(月・祝)の25日間に渡って開催される、今年で3回目を迎えたまちの祭典。名古屋の歴史・文化の魅力を集結し、まちじゅうを会場にして辻狂言やストリート歌舞伎、お座敷ライブ、「なごや学」の講座、歴史まち歩きetc.…150を超える多彩なプログラムを期間中の毎日開催する。


 『やっとかめ文化祭』の今年の演劇公演は、「名古屋の名勝を舞台に、ゆかりの深い乱歩を題材にしたミステリーツアー形式のものを…」ということで、ミステリー作品を多く手がけるはせに白羽の矢が立ったというわけだ。はせがこれまでに上演した原作モノのミステリー劇といえば、日影丈吉作品を舞台化した2006年の秀作『亡者からの手紙~日影丈吉作品群に顧みる昭和の犯罪考~』が思い出されるが、それ以降原作モノを扱うことはほとんどなく、思い返せばこれまで「乱歩」が話題にのぼったこともなかった。ミステリーファンのはせにとって、乱歩とは一体どんな存在なのか、そして本作はどのような作品になるのかを上演場所の「東山荘」で伺った。

舞台の一室「第一洋室」にて

── チラシでは乱歩と「東山荘」との縁が匂わせてありますが、実際に乱歩はここを訪れているんでしょうか。

いや、来てないと思う。当時の細かいことが載った文献がないのではっきりした事実はわからないけど。ただ、大正14年に小坂井不木(名古屋在住の恩師で先輩作家。乱歩の処女作『二銭銅貨』を激賞、乱歩を世に出す一助となった)を訪ねて鶴舞の辺りのご実家に都合3回も来てるんですね。で、3回目に横溝正史を連れて来たのは間違いない事実で、だったらその3回目くらいに「東山荘」にちょっと寄ろうか、っていうイメージのフィクションです。

── 脚本ではその辺りをどう扱っていらっしゃるんですか?

ツアーに参加していただく皆さんは、TVドラマ『タイムスクープハンター』のノリで、未来からここに覗きに来ていますという感じです。交渉術の内容はお知らせできませんが(笑)。ということで、大正14年の乱歩、不木、正史の3人がいるという感じになってるんですね。

── ミステリーツアーという形式で上演されるのは初めてですよね。

初めてです。ここで一番広いのが第一和室なんだけど、そこがどう見てもMAX30名なので、ミステリーツアーということだし3つに分けようかと。お客さんは受付の段階で10名ずつ3ルートに分かれてもらって、庭も素敵なので、晴れていれば庭巡りから入るチームがあったり、屋内に入るチームがあったり。共通するドラマを見てもらうところもあるんだけど、それぞれに違う展開やそのルートなりのストーリーもあります。最後に大広間で30分くらいの解決編を観ていただく、という仕掛けですね。

── 3ルートの観客は途中で鉢合わせしたりするんでしょうか。

一応しないように庭から回ったりする予定ですけど、実際にやってみないとわからないところもあって。もしかしたら鉢合うかもね(笑)。

「東山荘」見取り図

 

── 前半は10名で観劇というコンパクトさも面白いですね。

そうですね。例えばこの第一洋室で演る時も、小芝居をしながら周りになんとかお客さんが入れるくらい、っていうようなイメージなんですけどね。

── 3ルートあると、ご自身が管理できないシーンもあるということですよね。

ほんとそうなんですよ。だからそれを最終稽古で徹底シミュレーションしておかないと。本番はどこかのルートに紛れ込んで観てることにはなると思うんですけど、何が起きるか僕らもわからないですね。

── 脚本を書くにあたって参考にした乱歩作品はあるんでしょうか。

いやぁ、そう思っていろいろ読んだんですけど、直接「東山荘」が出てくるものもないし好きな作品が3つくらいしかないんだよな(笑)。

──ちなみにどの作品が?

『D坂の殺人事件』や『心理試験』『二銭銅貨』は好きです。ちょうど大正14年くらいに書かれたものなんですね。あまりエログロになってない純粋推理の頃。

── そういえば、今まで乱歩についてお話されるのを聞いたことがなかったなと思いまして。

あんまりしないですね(笑)。横溝正史の方が好きだな。というかね、小坂井不木は好きなんですよ、すごく。今回は乱歩なので難しいなと思いながら、乱歩がちょうど売れ出す頃にスポットを当てているので、ミステリー好きにわかってもらえそうな若干の遊びは入れてます。「東山荘」を舞台にちょっと前に起きた未解決事件があって、それをたまたま作家3人が遊びに来ていて乱歩が解決するというストーリー立てにはなってるんですけど、そのトリックや起きた事件が乱歩的か、と言われるとそうじゃないよっていう(笑)。

── 多分に創作で構成されているということですね。

そうですね。トリックとしてはよくあるものですが。密室であそこに針を通して…とかそういうのじゃなくて(笑)思考実験的なミステリー。相変わらずですけども。

── はせさんの作品は現代や近未来の設定が多いですが、大正とか昭和初期といった時代背景のものは珍しいですね。

そうですね。『アインシュタイン・ショック』(2007年上演)の舞台が大正11年ですから「衣裳イメージとしてはあの頃だね」なんて喋ってはいるんですけども。あとは日影丈吉をやらせていただいた時ですね。こんなことを言うと逃げみたいですけど、「東山荘」のロケーション自体が最高の舞台美術ですよね。昼間の公演しかありませんし、照明もほとんど使わない。暗転もできませんし。ウチはワンシチュエーションものが多いのでそんなに苦手な設定ではないんだけど、家でここの見取り図を見ながら書いてるじゃないですか。これ、ホントに上手くいくのか!? と思って来てみると、「アッ違う! ダメダメ!」と思ったりして(笑)。予定より2回くらい多く見に来させていただきました。

── 見取り図を見ながらあれこれ考えるというのは、すごく面白そうですね。

上手くいくといいんですけどね。あともうひとつ難しいのは、お庭は一般開放ですから、庭から「東山荘」を見ていらっしゃる一般の方もいるわけで。全室を暗幕で覆うこともできないですし、あまりしたくないなというのもあって。それと、庭にいらっしゃる一般の方をどう扱うかは役者の仕事になってきますからね。そういうアテンド含みの演技とか、前説的に事件を伝えるというようなことも必要なので、役者もちょっと鍛えられるなと。

── 見どころはどんなところでしょうか。

目的としては「東山荘」という文化財を紹介しながら、江戸川乱歩、小坂井不木、横溝正史の3人の交流が大正14年に名古屋で実際に始まったという歴史的なこと、そしてミステリーの3つがちゃんと融合してお見せできるといいなと思います。ただの謎解きツアーじゃないところにできれば行きたいですね。

── 今後、原作モノを手がけようという構想は?

不木さんはやってみたいと思ってます。小酒井不木をフューチャーしながら、それこそ乱歩だ横溝だっていう、昭和初期ぐらいのことをね。短編を織り交ぜながら「小酒井不木記」みたいなことを、そのうちやりたいなと思ってます。

 

【「東山荘」とは…】 綿布問屋であった伊東信一氏の別荘として、名古屋市瑞穂区の山崎川沿いに創建。大正元年の着工から10余年を経てようやく完成し、伊東家の山荘という意味で「東山荘」と命名された。伊東氏の遺言で名古屋市に寄付され、昭和14(1939)年より公園として一般公開を開始。昭和43(1968)年より茶室、和室などの貸室として利用されている。
 
 
イベント情報
やっとかめ文化祭2015 芸どころ名古屋舞台
劇団ジャブジャブサーキット『乱歩からの招待状〜江戸川乱歩没後50年・名勝「東山荘」に偲ぶ〜』


■作・演出:はせひろいち
進行・出演:劇団ジャブジャブサーキット
日時:2015年11月12日(木)14:30~、13日(金)10:30~・12:30~・14:30~、14日(土)10:30~・12:30~・14:30~、15日(日)10:30~・12:30~ ※各回30名限定
会場:名古屋東山荘(名古屋市瑞穂区初日町2-3)
料金:一般3,000円、学生1,500円(日時指定・自由席)  ※既に完売の回もあるため、予約はお早めに
問い合わせ:やっとかめ文化祭実行委員会 事務局 名古屋市文化振興事業団 052-249-9385(平日9:00~17:00)
公式サイト:www.yattokame.jp