日本生まれの日本人が到達したことがない、前代未到の場所へ――ONE OK ROCK、NY公演レポート! 現地日本人ライターがみたONE OK ROCKの魅力とは?
「ウィー・アー・ワン・オーケー・ロック!」
ヴォーカルのTakaがそう自己紹介すると、タイムズ・スクエアーに集まった2000人以上のファンから「ワァ!」という歓声が上がった。2日間をソールドアウトにした横浜アリーナよりずっとずっと小さいけれど、ベストバイ・シアターからプレイ・ステーション・シアターと改名したばかりの会場は、マンハッタンでも音響と設備がいいことで知られる一流のヴェニューだ。テレビ女優からシンガーへの転身を宣言したアリアナ・グランデのデビュー直前ショウケースも、絶体絶命かと思われたクリス・ブラウンの再出発ライヴも、筆者はここで観た。 ONE OK ROCKがこのステージに立つのは、昨年に続いて2度目。『35xxxv』でUSデビューを果たした2015年の本腰ツアーの皮切りのステージに、十二分にふさわしい。
ステージ前にオールスタンディングのスペースと、後ろ半分に勾配をつけた椅子席があり、エンジニアの卓が並ぶ真後ろ、自分としてはベストシートに座った。音響エンジニアは日本人、帯同しているところに気合いが窺える 。観客は、と見渡すとアジア系の人たちとそれ以外が半々。アジア系でも、日本語を話していない。 韓国系や中国系アメリカ人なのだろう。インド系の人も目立った。語弊があるのを承知で書けば、偏差値が高そうな若者たちだ。席の隣は、白人と黒人の仲良しグループだった。順番でツアーTシャツを買いに行っていた彼らに話しかけたら、きっかけは映画『るろうに剣心』で、今回はライヴ後のミート&グリートに参加できるVIPを買ったほどの熱心なファンだとか。
日本人アーティストのアメリカ進出は、とっても難しい。ロックやR&Bといった、アメリカが本場のジャンルで勝負する場合はなおさら。ひと昔前は、日本の大物が「ニューヨーク公演をした」という話題作りために来るケースもあったけれど、もうそういう時代でもない。ONE OK ROCKのニューヨーク公演はきっちりソールドアウトになり、筆者は公式転売サイト、Stubhub で倍の値段で購入した。 会場の入り口でONE OK ROCKのメンバーの写真と、「Sold Out」の文字が交互に映し出される電光掲示板を眺めながら、様々な肌の色の人たちが列をなしているグッズ売り場を見ながら、いちいち、感動した。ああ、ほぼ自力でここまで来る、日本人アーティストが出現したのだ、と。
Takaのヴォーカルの高い精度と英語の発音の正しさは、日本の音楽史上、事件だ。ライヴで生声を確認しないと、と思い、“係”を自認しているキング・オブ・R&BのR・ケリーのバークレー公演を見合わせて、ONE OK ROCKを観に行ったのだ。 ライヴは疾走感溢れる「Take me to the Top」からスタート。予想以上にドラムの音が前に出る 。バンド全体の動きが揃うカ所が多くて、独特の美しさがある。『35xxxv』に入っていない、「The Beginning」で観客が大喜びした。長い間のファンがついているのだな、と思う。英語のパートでは元気よく合唱し、日本語になるとモゴモゴになる人が多いのが、ちょっと面白かった。
「Heartache」は、ギターだけの音色で歌い出してから全員の演奏へ。この曲の歌声を聴いて、当初の目的は果たせた。ほめ殺しスレスレのことを書くと、Takaは歌詞とメロディー云々ではなく、声質そのものでストーリーを語れるタイプの、希有なヴォーカリストだ。9曲くらい演奏したところで、バンドは一旦引っ込んだ。45分くらいだったから、ずいぶん短い。アンコールで戻って来て「Wherever You Are」を丁寧に歌った。打ち込みの音色が強い「Paper Planes」はライヴでも違和感がなかったし、〈キャッシュ・イン、キャッシュ・アウト〉のフレーズで合唱になっていた。彼ららしさを失わないまま、アメリカの“いま”の音に寄ったのは正解だと思う。従来のラジオでも、主流になりつつあるストリーミングでも、 ほかのアーティストの曲との親和性が高く、繋ぎやすいシングルがあるのは大切だから。
この原稿を書いている時点で、ONE OK ROCKは全米ツアーを続行中だ。All Time Low やSleeping with Sirensいったアメリカのバンドと一緒にツアーをまわることもあって、セットリストが短い理由も納得。いちファンとして、もちろんアメリカ、いや世界進出を応援しているけれど、それは「頂点を目指せ」的なことではなく(音楽は勝ち負けではないし)、ごく自然に、ONE OK ROCKの音楽がたくさんの人に、広く沁み渡るといいな、と思う。アメリカ人の友だちに気に入っているバンドや音楽を挙げてもらった中のひとつがONE OK ROCKで、「あ、そういえば彼らって日本人だよね」くらいの感じ。本来なら地続きなのに、言葉の壁のせいで日本生まれの日本人が到達したことがない、前代未到の場所。今回の『35xxxv』のツアーで、4人はその場所へ足を踏み入れ、歩き始めた。
Text:池城美菜子(Twitter:@minakodiwriter)
◎公演情報
ONE OK ROCK
2015年9月20日 NY・プレイ・ステーション・シアター