黒木華と永井愛が二兎社「書く女」を語る!

2015.11.3
インタビュー
舞台

[永井愛/黒木華] 撮影:平田貴章

すべての歯車がぴったり合ったタイミング

2016年1月21日(木)から世田谷パブリックシアターにて、二兎社公演40「書く女」が上演される。本作は、「たけくらべ」「にごりえ」などの秀作を書き、わずか24歳で亡くなった小説家・樋口一葉の半生を作家・演出家の永井愛が舞台化した作品だ。

本作で主人公の一葉を演じるのは、映画『小さいおうち』(ベルリン国際映画祭・最優秀女優賞、日本アカデミー賞・最優秀助演女優賞)、『母と暮せば』(2015年12月公開)、TVドラマ『天皇の料理番』、大河ドラマ『真田丸』(2016年放送)、そして舞台では野田秀樹、蜷川幸雄、栗山民也、長塚圭史ほか多数の作品に出演し、いずれも非常に高い評価を得ている旬の女優・黒木華

「書く女」永井と、「演じる女」黒木に今回の上演について話を聞いた。
 

[黒木華/永井愛] 撮影:平田貴章

――「書く女」初演から10年経ちましたが、今なぜこの作品をもう一度上演したいと思われたのですか?

永井:初演から10年歳を取ったところで、もう一度、若い一葉の作家的成長に立ち会ってみたいと思いました。また、初演の時は……初演の方には本当に申し訳ないのですが、作品が書きあがるのが遅かったので、今回はじっくり洗いなおす、作り直す作業をしてみたいと思ったんです。

今回は林正樹さんのピアノが入りますので、また一つ新しい刺激になると思います。今年、北九州芸術劇場でこの作品のリーディングをしたのですが、そのときに林さんがたまたまピアノでついてくださって、その場で即興でやってくださったのがとても忘れられなくて、今回改めてお願いしました。ジャズの即興が一葉のパッションにすごく合う気がしたんです。新しい感じだなと思って。すごく豊かなのに軽やかで、呼吸がわかる方です。

[永井愛] 撮影:平田貴章

――「書く女」をそもそも書こうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

永井:元・世田谷パブリックシアターのプログラム・ディレクター、松井憲太郎さんから、「永井さん、次はこのネタで(脚本を)書きませんか? 」という提案が当時よくあったんです。「チェーホフはどうですか? 夏目漱石はどうですか? 」と。その中の一つが樋口一葉でした。ちなみにチェーホフについては、日本の『三人姉妹』を書こうとなり、そこから『萩家の三姉妹』が生まれ、夏目漱石については、未完となった『明暗』の結末を書こうということになり、『新・明暗』が生まれました。松井さんがお題を出してくれると新しい扉が開くようでした。

そして樋口一葉。彼女の作品をデビュー作『闇桜』から順番に読んでいったんです。『闇桜』を読むと、この人が後々『にごりえ』や『たけくらべ』を書く人にはとうてい思えないんですよ。言葉は巧みですが、内容がどうも絵空事すぎて。「作家の道に進むのはやめた方がいいのでは? 」って言ってあげたいくらい(笑)ところがそこからの成長が目覚ましく……逆に彼女の生活はどんどん貧乏になるのですが、作家の腕はぐんぐんあがっていく。一葉には「奇跡の14か月」と呼ばれる、名作を数多く生み出した時期がありますが、その14か月とは死ぬ直前の14か月なんです。こういう作家的成長をする人は、あまり例がないんじゃないでしょうか。その理由を彼女の書き残した日記から探ってみたくなりました。最初は松井さんきっかけでしたが、途中からは私が書きたいと思うことがいっぱい出てきたんです。

一葉は「秘めた情熱」を持った女性。みなさんが想像しているイメージとは異なり、ものすごくアグレッシブで魅力的な女性なんです。日記の中でも誰かをこっぴどくののしっていたりしていて(笑)

[永井愛] 撮影:平田貴章

――そんな魅力的な樋口一葉を演じるというお話が来た時、黒木さんはどう感じられましたか?

黒木:大丈夫かな、自分にできるかな? って思いました。初演は寺島しのぶさんが演じられていますし……私から見たら本当に遠い存在の方ですし。また、主演となると周りをひっぱっていかなくてはならない、という思いもあって不安でした。

でも永井さんの脚本って、本当に引き込まれるというか、読んだだけでもおもしろくて。

永井:あら、ありがとう!

黒木:『見よ、飛行機の高く飛べるを』もそうです。私、演劇部だったので。いろんな演劇部がこの作品を上演していたのを思い出します。

どの作品でもやる前は不安ですが、永井さんとこの作品ができるのがうれしくて。私、一葉が亡くなる年齢(24歳)より年上(25歳)になってしまいましたが、でもまだ年齢が近いので今この作品ができるのは、私にとっていい機会だと思います。ありがたい機会をいただけたと思っています。

[黒木華] 撮影:平田貴章

――そんな黒木さんを一葉役にキャスティングしたい、と思った永井さん!当時の心境は?

永井:(黒木さんのキャスティングは)ほぼ不可能と思っていました。ダメもとでお願いしたんです。黒木さんのお名前はもちろん知ってましたが、ご縁がなくて。いきなり二兎社の舞台に出てください、とお願いするのは難しいだろうなって思っておりました……が、山田洋次監督(映画『小さいおうち』『母と暮せば』を監督)が、前から二兎社公演を観ていてくださったので、山田さんを通してお願いしまして(笑)。「考えていただけるだけでも嬉しいです」って言い方をしたのですが、まさかのOKでした。信じられなかった。今、私の中でのベストキャストですから。

――TVドラマ、映画、そして舞台と色々な表現ジャンルで活躍されている黒木さんですが、舞台ならではの快感はありますか?

黒木:やはり観てくれている人がその場にいる、ということですね。それはすごく尊いことだなと思います。1か月、2か月の間、その芝居のことだけを考えて稽古をするじゃないですか。目の前でお客さんが嬉しそうにしてくれるのを見ると、ああ、やっててよかったな、って思います。

[黒木華] 撮影:平田貴章

――さきほどお話にも出てきましたが樋口一葉といえば、「奇跡の14か月」。もし自分の人生が残り14か月となったとき、最後にこれだけはどうしてもやっておきたい、と思うことはありますか?

永井:最近、友人が病気になって亡くなったり……この年齢だといろんなことを考えますね。あと1年しかなかったらとか、そう仮定してみると、やっぱり戯曲を1本書くだろうなぁ。楽しく海外旅行でもして毎日おいしいものを食べて暮らそうかなとも思いましたが、でも何が何でも1本戯曲を書いて上演するところまで持ち込むだろうな、それなら「やった! 」と思って死ねると。

黒木:私はやっぱり舞台をやりたいです。

永井:ええ? 舞台? 映像じゃなくて? 嬉しいなー!

[永井愛/黒木華] 撮影:平田貴章

――お二人ともお仕事を選ばれるんですね。そういえば、一葉も半井桃水(なからいとうすい)への恋愛と創作活動のはざまで、結局創作活動を選んでしまうのですが……。お二人の場合、恋愛とお仕事をもし天秤にかけることになったらどちらを選びそうですか?

永井:(笑)この仕事は、樋口一葉もそうだと思うのですが、一見天秤にかけたようであっても、不思議な形で恋愛と創作活動は両立するんですよ。樋口一葉の小説では女性の恋心がとても官能的に描かれますが、それは彼女自身が桃水に抱いた思いの反映でしょう。恋が果たされない場合でも、小説のリアリティとして実体験は作品の中に生きてくるはずですから。

……なので、表現者にとっての恋愛はそういう形で両立できれば、と思いますね。現実には添い遂げられなくても、その想いを創作のほうに活かせれば。

黒木:一葉ってすごいロマンティックですよね! 『たけくらべ』の、いずれ遊女になる美登利とお坊さんになる信如の話とか……あとかわいらしいって思う場面もたくさんあります。

永井:一葉の出会った人物や、印象的な出来事の多くが作品に活かされていると思いますよ。これが違う職業だとなかなかそうはいきませんが、創作活動には無駄になる体験というのは一つもないと思います。

黒木:私は……どちらを、って悩まないかもしれません。恋愛はお芝居でたくさんやらせていただいているから……。

[黒木華] 撮影:平田貴章

――そのときには、悩まずに選択できそうですか?

永井:いやいや、両立させそうですよ(笑) 絶対両方うまく手に入れそう!

黒木:(笑)そうかもしれませんね。“選ぶ”っていうのも自分でなく相手の方が考えることかもしれませんね。

[インタビュー&文:こむらさき]
[撮影:平田貴章]
[スタイリスト(黒木華):髙品逸実]
[ヘアメイク(黒木華):外丸 愛 (SOF)]

<プロフィール>

●黒木 華(クロキ ハル)
女優。大阪府出身。大学在学中に野田秀樹の演劇ワークショップに参加。2010年、NODA・MAP番外公演『表に出ろいっ!』のヒロインオーディションに合格。2011年『東京オアシス』で映画初出演、2012年『おおかみこどもの雨と雪』で声優初挑戦、連続テレビ小説『花子とアン』、TBSテレビ60周年特別企画『天皇の料理番』などテレビドラマでレギュラー出演し、映画でも初主演した『シャニダールの花』や『舟を編む』での演技が評価されキネマ旬報ベストテンや日本アカデミー賞など、日本の主要映画賞で計7つの新人賞を受賞。2014年2月、『第64回ベルリン国際映画祭』にて映画『小さいおうち』で銀熊賞を受賞。日本人女優としては最年少の受賞となる。他に舞台では、野田秀樹作・演出『南へ』、阿佐ヶ谷スパイダース(作・演出:長塚圭史)『荒野に立つ』、蜷川幸雄演出『あゝ、荒野』、中屋敷法仁演出『飛龍伝』、栗山民也演出『SEMINAR セミナー』、青山円劇カウンシルファイナル中屋敷法仁演出『赤鬼』等に出演。
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●永井 愛(ナガイ アイ)
劇作家、演出家、二兎社主宰。桐朋学園芸術短期大学演劇専攻科卒。身辺や意識下に潜む問題をすくい上げ、現実の生活に直結した、ライブ感覚あふれる劇作を続けている。演出面でも、リアルな装置を舞台一杯に飾った写実的なものから、前衛的な抽象舞台を使ったものまで、趣向を様々に変え、常に演劇的冒険を心がけている。日本の演劇界を代表する劇作家の一人として海外でも注目を集め、『時の物置』『萩家の三姉妹』『片づけたい女たち』『こんにちは、母さん』など多くの作品が翻訳・リーディング上演されている。最近の作品に『シングルマザーズ』『こんばんは、父さん』『鴎外の怪談』等がある。紀伊國屋演劇賞個人賞、鶴屋南北戯曲賞、岸田國士戯曲賞、読売文学賞、朝日舞台芸術賞秋元松代賞などを受賞。

[黒木華/永井愛] 撮影:平田貴章

公演情報
二兎社公演40『書く女』​

■日時・会場:
[東京]121日(木)~131日(日)世田谷パブリックシアター 一般発売11/29(日)
[埼玉]117日(日)富士見市民文化会館キラリふじみメインホール 一般発売11/14(土)
[愛知]202日(火)穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホール 一般発売11/14(土)
[岐阜]204日(木)大垣市スイトピアセンター 一般発売10/30(金)
[石川]206日(土)07(日)能登演劇堂 発売中
[山形]209日(火)伝国の杜 置賜文化ホール 一般発売11/19(木)
[滋賀]211日(木・祝)滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール ※発売中
[兵庫]212日(金)・13(土)兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール ※発売中
[栃木]214日(日)足利市民プラザ ※発売中
[東京]216日(火)大田区民プラザ 一般発売11/18(水)
[広島]218日(木)はつかいち文化ホールさくらぴあ 一般発売11/01(日)
[福岡]221日(日)北九州芸術劇場 中劇場 一般発売12/13(日)

■出演:
黒木 華 [一葉]

平 岳大 [半井桃水……一葉の小説の師]

朝倉あき [樋口くに……一葉の妹]
清水葉月 [い夏……一葉の友人]
森岡 光(不思議少年)[野々村菊子……一葉の友人]
早瀬英里奈 [半井幸子……半井桃水の妹]
長尾純子 [田辺龍子(花圃)……小説家。一葉のライバル]

橋本 淳 [平田禿木……英文学者、随筆家]
兼崎健太郎 [川上眉山……小説家]
山崎 彬 [馬場孤蝶……英文学者、評論家]
古河耕史 [斎藤緑雨……小説家、評論家)]

木野 花 [樋口たき……一葉の母]


■作・演出:永井愛
■作曲・ピアノ演奏 林正樹
■公式サイト:http://www.nitosha.net/