母と娘の“愛の深さ”を知るハッピーストーリー『マンマ・ミーア!ヒア・ウィー・ゴー』 #野水映画“俺たちスーパーウォッチメン”第五十六回
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(C)Universal Pictures
TVアニメ『デート・ア・ライブ DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。
マンマ・ミア!ヒァゴーアゲェ〜ン♪ スウェーデンの人気グループABBAによる「マンマ・ミーア」は、つい口ずさんでしまうフレーズでおなじみの楽曲だ。テレビ番組などでもよく使われているので、皆どこかしらで耳にしたことがあるのではないだろうか。そして、この曲を中心に構成されたにしたブロードウェイ・ミュージカルの映画化作が『マンマ・ミーア!』(08)である。随所に散りばめられた楽曲と登場人物の心情がピッタリとリンクしたこの映画を観て、「なんてハッピーな作品だ!」とほっこりしたもの。そして、続編となる『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』が、前作公開から10年を経て日本で封切られた。
エーゲ海に浮かぶ、カロカイリ島。ソフィは、亡き母・ドナとの夢だったホテルを完成させ、オープニングパーティーの準備に勤しんでいた。あとは招待客の到着を待つだけとなった矢先、ニューヨークでホテルビジネスを学ぶ夫とすれ違いが起きてしまう。不安に駆られるソフィは母に想いを馳せる。たった一人でこの島にたどり着き、私を育ててくれた母は、一体どんな気持ちだったのかと……。
パワーアップした演出と豪華キャストたち
(C)Universal Pictures
前作では、架空の島のホテルを舞台に、ドナ(メリル・ストリープ)と娘のソフィ(アマンダ・サイフリッド)、そしてソフィの結婚式に招待された“父親かもしれない”三人の男性たちが巻き起こす騒動を描いた。本作で主軸となるのは、現在のソフィと、若き日のドナだ。ドナがどうしてカロカイリ島にたどり着き、三人の男性と出会ったのか? 前作では触れられなかったその辺りの話が明らかになる。
物語以外で注目すべき点は二つ。まず一つめは、パワーアップしたミュージカル演出。すべてのミュージカルシーンがABBAの楽曲で構成されているのは前作と同じだが、歌周りの演出が、格段に華やかになっているのである。例えばドナが恋の相手の一人・ハリーと歌う「恋のウォータールー」は、ナポレオンが敗れた戦いをモチーフにした歌だ。劇中では、レストランの店員や客を巻き込み、この戦いを再現するかのごとく恋の駆け引きが繰り広げられるのである。赤いテーブルクロスをマントに見立て、テーブルを渡り歩くハリー。その情熱的な歌声に乗せられてゆくドナの姿を観ていると、こちらのテンションもグッと引き上げられる。とても見応えあるワンシーンだった。
二つ目の注目点は、現在と過去、それぞれのキャラクターを演じるキャスト陣のそっくり具合だ。若き日のドナを演じるのは、『ベイビー・ドライバー』(17)も記憶に新しいリリー・ジェームズ。奔放なドナを、美しく華やかに演じている。一見、「メリル・ストリープと似てるかな…?」という思いが頭をよぎるのだが、ストーリーを追う内に、豪快な笑顔や仕草など、「まんまドナだ!」と思うほどに完璧だった。
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父親三人組の現在を演じるのは、前作に続き、『007』シリーズのピアース・ブロスナン、『キングスマン』(15)のコリン・ファース、『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』(06)のステラン・スカルスガルドら豪華キャスト。彼らの若き日の姿を演じる三人は新進気鋭の俳優たちなのだが、まぁーよく似ている! 佇まいや喋り方など、雰囲気バッチリ。現在と過去を行ったり来たりしても、キャラクターのイメージがブレないおかげで、物語への没入感はとても高いはずだ。
母と娘の愛の深さ
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ノリノリで楽しいポイントもたくさんある本作だが、メインとなっているのは、やはり母と娘の繋がりだ。母がどんな想いで自分を産み、育ててきたのか。訊いてみたくとももういない母の代わりに、ソフィを大切に想う周りの家族たちが、やかましくともあたたかく寄り添う描写にはグッとくるものがある。また今回、ソフィ自身にも新しい命が宿っていることが明らかになり、「母親になる」というテーマも描かれている。
この辺りは、男性にはピンとこない話かもしれない。そもそも公式サイトでも恋占いやお母さんとのエピソード募集など、女性が反応しやすい企画が並んでいるため、男性が本作に触れるのはなんだか気恥ずかしいかもしれない。それでもぜひ、尻込みせずに観てほしい。
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ノリノリハッピー!なテンションで進む前半と比べて、クライマックスは愛の物語に変わってゆく。「誰かをこれほど愛せたら、これほど愛されたらどれだけ幸せだろう?」と思うと同時に、「自分もまた、愛されて生まれてきたのだ」と思い知らされる最後になっているからだ。私自身「まぁ今回も楽しませてくれるだろう」くらいのノリで劇場に足を運んだのだが、そんなハードルを見事に飛び越えた本作に大号泣させられてしまった。
前作を観ておけばより楽しめること間違いなし。そしてより完成度の高い一作となっている。ABBAの名曲とともに、不変の愛の物語を味わってほしい。
P.S.スタッフロールの後にもオマケがあるので、最後まで席を立たぬよう!
『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』は公開中。