新国立劇場バレエ団が一丸となっての舞台に! 期待高まる『不思議の国のアリス』公開リハーサル
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撮影:西原朋未
2018年9月24日、新国立劇場中劇場で新制作のバレエ『不思議の国のアリス』(以下「アリス」)の公開リハーサルが行われた。
公演を待ちこがれる大勢のファンが見守る中、アリス役の米沢唯、ハートのジャック役の渡邊峻郁、白ウサギ役の木下嘉人、イモ虫役の宇賀大将が、英国から来日した2人の指導教師、ジャクリーン・バレットとジェイソン・ファウラーとともに舞台上で約1時間のリハーサルを披露した。リハーサルとその後のトークを通し、ダンサーをはじめバレエ団が一丸となってこの「アリス」を成功させようするモチベーションの高さが窺え、来るべき公演がより楽しみになるリハーサルであった。(文章中敬称略)
■待ち遠しい! 飢餓感MAXのファンが見守るリハーサル
クリストファー・ウィールドン振付の『不思議の国のアリス』は2011年、英国ロイヤルバレエ団(ROH)が16年振りに新制作を行った全幕バレエだ。古典と現代バレエを融合させ、伝統と最新技術を駆使したこの作品は、「大人から子供まで楽しめる現代バレエ」として一躍話題になった。日本でも来日公演(2013年)やテレビ放送、そして「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」の映画館上映により、人気の作品となった。
その「アリス」を新国立劇場バレエ団が、オーストラリア・バレエ団との共同制作により上演すると発表したのは2017年のこと。技術はもとより演技力・表現力には定評のある新国立劇場バレエ団に、アシュトンやマクミラン作品など英国の演劇性の高い作品は非常に親和性が高い。このニュースはファンには大いなる期待を持って迎えられ、「早く見たい」「キャストはどうなるの?」という、いわばファンも期待&飢餓感MAXのなか、この日のリハーサルを迎えたのである。
登場したのはすでに発表されている主演の米沢、渡邊に加え、白ウサギに木下、イモ虫に宇賀。リーフレットの写真から推測するキャストを含め、どんなキャストになるのか、期待と妄想は膨らむ一方だ。
■宇賀が魅せる、ユニークなイモ虫の踊り
リハーサルのトップバッターはイモ虫の宇賀。このイモ虫はROHが「アリス」を制作した際も、リハーサル風景の動画に取り上げられていたもので、この作品の見どころの一つともいえる場面の一つだ。中東あるいはインドを思わせるエキゾチックな音楽に、冒頭のガーデンパーティーではターバンを巻いた姿で美女を従えて現れるマハラジャでもあることから色気も漂う役である一方、踊りには尺取り虫を思わせるようなユニークな動きもあるという、様々な要素が入った役どころといえる。
撮影:西原朋未
登場した宇賀はどことなく緊張気味だが、踊りが柔らかく、コンテンポラリーの動きにもしっかりとついて行けており、長年地道に積み重ねてきた堅実な努力が見えるようだ。時折ファウラーが止めて、上半身や腕の動きにもっと表情を付けるよう指導。本番までどのように進化していくのか、楽しみになる。
イモ虫のソロかと思いきや、途中から米沢が登場し2人がペアで踊るシーンへ。腰を落として足から腰がテーブル型に、お腹のところで胃袋をさするようなイモ虫独特の振り付けは、見ていて実に楽しい。すっかり緊張も解けて、楽しそうに踊る宇賀の表情が実に印象的であった。
撮影:西原朋未
■白ウサギとアリス、そしてハートのジャックが登場
続いて白ウサギの木下と米沢のリハーサル。白ウサギを追って穴に飛び込んだアリスが白ウサギと再会するシーンだ。
イライラと神経質そうな木下の白ウサギは、もちろん木下自身のきりっとした雰囲気を漂わせる一方、どことなくROHの名白ウサギであるエドワード・ワトソンのちょい悪な面影もよぎり、なるほど、と納得する。
撮影:西原朋未
オルゴールの音色のようなピアノに合わせて「ハートの女王に首を斬られてしまうぞ」ポーズを取る2人。これもまた、この「アリス」の印象的な振付の一つだ。
撮影:西原朋未
白ウサギとアリスのパ・ド・ドゥ(男女2人の踊り)……と思いきや、突然そこへ、渡邊扮するハートのジャックがつむじ風のように登場。ハートの女王の兵隊に追われている設定で、3人で泥棒扱いされてしまうタルトを押し付け合いが。木下、米沢、渡邊の表情はそれぞれ本番さながらの真剣さ。すでに物語を見ているようで、リハーサルと言いつつもその完成度の高さに驚かされる。
撮影:西原朋未
この間、バレット、ファウラーの両氏が「もっと表情を」「上半身をしっかり」「スピードを持って」など指導を入れながらリハーサルは展開する。そして再会を喜ぶアリスとジャックのパ・ド・ドゥが終わったところでバレットが客席に向かってにっこりと笑い「素敵でしょう?」と一言。
客席からは拍手が起こる。バレットの満足そうな微笑みが、とてもいい雰囲気の中で日々充実したリハーサルが行われているかを物語っているようだ。
撮影:西原朋未
■新国一丸! 「バレエ団の底力が試される」作品
リハーサル終了後に米沢、渡邊と、バレット、ファウラーが客席からの質問に答えた。
まず会場からは飛び出したのは「その他のキャストの発表はいつ?」という問い。それに対しバレットは「全ての役が決まったわけではない。頭の中で大体目途は立っているが、全員に公平にチャンスを与えたい」と話し、ファウラーも「それぞれのキャラクターの雰囲気の組み合わせや、複数の役をやる人のバランスもあるのでもう少し時間が必要。大体あと10日から2週間くらいで発表できれば」と答えた。
さらに指導者2人は新国立劇場バレエ団のダンサーの印象について「非常に呑み込みが早くあっという間に振付を覚え、きちんと復習をしてくるのがすばらしい。さらに役柄を掘り下げ、磨き上げることができる」と語った。
撮影:西原朋未
また主演の米沢はアリスを実際に踊った印象について「やればやるほど大きな役だなと思う。難しい役で出ずっぱりのため休む間もなく、一瞬たりとも気が抜けないが、遣り甲斐を感じている。本番の舞台に上がるのが楽しみ」と語り、渡邊も「遣り甲斐のある振り付けで、パドドゥは本当に難しいが、充実している」と話す。バレット、ファウラーの指導者2人については「ダンサー一人ひとりにあったやり方で愛をこめて、細かく指導してくれ、もっと上手になれると思わせてくれる」と異口同音に述べた。
またこの「アリス」という作品について「カンパニーの底力が試される作品。全員が全力でやらないと成立しない」と米沢。「(リハーサル中は)みんな輝いていて、カンパニーの雰囲気がいい。全員がこの作品を愛しているように感じるし、それがこの作品の力だと思う」とも。そう語る米沢、渡邊の表情は充実感に溢れ、またダンサーを見守るバレット、ファウラー両名の眼差しも温かい。ダンサーをはじめとするスタッフ全員のモチベーションが非常に高いことがうかがえた。
撮影:西原朋未
最後に大原永子芸術監督が「全員が必死にならないといけない難しいバレエだが、これは必ずやバレエ団を成長させてくれる作品です。必至に頑張り、少しでもスタンダードの高い公演になるよう頑張ります」と挨拶。
11月2日からの公演がますます楽しみになるリハーサルであった。
撮影:西原朋未
取材・文・撮影=西原朋未
公演情報
■公演日程:
2018年11月2日(金)19:00
2018年11月3日(土・祝)14:00 ※託児サービス利用可
2018年11月4日(日)14:00 ※託児サービス利用可
2018年11月7日(水)13:00
2018年11月8日(木)13:00
2018年11月10日(土)13:00 ※託児サービス利用可
2018年11月10日(土)18:30
2018年11月11日(日)14:00 ※託児サービス利用可
■振付:クリストファー・ウィールドン
■美術・衣裳:ボブ・クロウリー
■照明:ナターシャ・カッツ
■台本:ニコラス・ライト
■映像:ジョン・ドリスコル、ジュンマ・キャリントン
■パペット:トビー・オリー
■マジック・コンサルタント:ポール・キエーヴ
■指揮:ネイサン・ブロック
■管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
■共同制作:オーストラリア・バレエ
2018年11月2日(金)19:00 アリス米沢 唯 ハートのジャック渡邊峻郁
2018年11月3日(土)14:00 アリス小野絢子 ハートのジャック福岡雄大
2018年11月4日(日)14:00 アリス米沢 唯 ハートのジャック渡邊峻郁
2018年11月7日(水)13:00 アリス小野絢子 ハートのジャック福岡雄大
2018年11月8日(木)13:00 アリス米沢 唯 ハートのジャック渡邊峻郁
2018年11月10日(土)13:00 アリス小野絢子 ハートのジャック福岡雄大
2018年11月10日(土)18:30 アリス米沢 唯 ハートのジャック渡邊峻郁
2018年11月11日(日)14:00 アリス小野絢子 ハートのジャック福岡雄大
■公式特設サイト:https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/alice/