ONEOR8が旗揚げ20周年『ゼブラ』でチケット代が2,000円の大感謝祭。手塚治虫文化賞の矢部太郎と劇作・演出家の田村孝裕との愛の毒舌?!対談が実現
(左から)矢部太郎、田村孝裕
ONEOR8が旗揚げ20周年記念公演として『ゼブラ』を上演する。料金が20周年にちなみ2,000円となれば、目の肥えた演劇ファンたちによって早々に完売しそうなものだ。そこに『大家さんと僕』(新潮社刊、税込1080円)で第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞したカラテカ・矢部太郎の出演はきっと世間的な話題なのかもしれない。とはいえ実は、ONEOR8と矢部はちょっとした腐れ縁。作、演出をつとめる田村孝裕は若いころお笑いを目指していたこともあって、矢部との対談はなんだか漫才みたい?!で生き生き。
『大家さんと僕』はONEOR8の本番楽屋で書いていた
——『ゼブラ』はONEOR8の名作ですし、代が2,000円と聞いて、これはがなくなってからのインタビューでは遅いと思い、今とても旬の矢部さんと、藤山直美座長公演の演出で大忙しの田村さんに無理くり予定を合わせていただきました。
田村 ね、完売したらうれしいですけど……。
矢部 あはははは !
——話題の矢部さんも出ていらっしゃるから。
田村 この人、集客力ないですよ。
矢部 それは僕に言わせてくださいよ ! 僕が言うんならまだしも……。
——お芝居の話に入る前に、手塚治虫文化賞短編賞おめでとうございます。
矢部 ありがとうございます。
——お忙しいでしょうに、よく引き受けましたね。
田村 いやいや受賞する前に決っていたので、仕事のスケジュールはガラガラだったんですよ。
一同 あはははは
田村 だから逆に彼が稽古に来れるのか、こっちが心配ですよ。
矢部 大丈夫ですって。前より少し忙しいくらいです。
田村 印税、数千万とかなんでしょ ?
矢部 とんでもない。それに会社がすごく持っていくんで。
田村 賞を取ってから変わった ?
矢部 多少は。実は『大家さんと僕』はONEOR8さんの公演中に描いていたんです。
田村 スズナリの楽屋で本番中にね。
矢部 楽屋で暇そうな人に意見を聞いたり、アイデアをもらったり。
——じゃあONEOR8のテイストが入っている ?
矢部 入っています、入っています。小ギャグとか、田村さんの影響は相当あります。
田村 そんなわけないじゃないですか。
矢部 本当ですよ、その証拠にこの本には田村さんも出ています。
田村 1ミリくらいですよ、
矢部 いやいや、これ見たら完全に田村さんだってわかりますよ。ここ、ここ。
田村 わかんないでしょ。
第22回手塚治虫文化賞 短編賞『大家さんと僕』(新潮社刊)より ⓒ矢部太郎
——……
矢部 これです。演出席で帽子をかぶっている後ろ姿、これ田村さんに見えますよね ?
——……これ掲載してもいいですか ?
矢部 もちろんです。でも一応、新潮社さんに確認してみます。
田村 かっこいー。言ってみたいなあ、そういうこと。やっぱり先生って言われるの ?
矢部 担当の人は言わないです、田村さんと同じような扱いです。受付のお姉さんは「矢部先生がお待ちです」とか言ってくれるんですけど、チョー恥ずかしいです。でも田村さんも先生じゃないですか。
田村 言われないよ。
矢部 (『ええから加減』の稽古場で)藤山直美さんと赤井英和さんがおっしゃってますよ。
田村 あれは大阪独特の言い回し。大阪の先生と東京の先生は違うの。
課題に地道に向き合っていたら旗揚げから20年がたった
——劇団の旗揚げ20周年、本題はこれです。改めておめでとうございます。
田村 ありがとうございます。でも演劇への貢献度で言ったら5年ぶんくらいしかありません。
矢部 あははは!
田村 いや、本当に。才能ない人間の集りですから、頑張ったというか、課題が多すぎて地道に向き合っているうちに20年たったという感じです。
——作品とともに劇団として熟成してきたという感じはありますよね。
田村 僕は昔から作品が老成しているとよく言われていて、そのころに比べれば作品と年齢が合ってきたとは思います。
——ところで矢部さんがONEOR8に出るようになったきっかけは ?
田村 それこそ東宝でやった『ゼブラ』に出演してもらったんです。
矢部 僕はココリコの田中直樹さんが出られた『莫逆の犬』を見たのが初めてでした。
田村 夕方の4時、5時くらいにシアタートップスの階段の一番上、そこが当日券売り場の先頭なんですけど、そこにぽつんと座っていて、「矢部太郎がいるぞ」ってざわついたんですよ。
矢部 僕は田中さんと面識がなかったので、をお願いすることもできないし、売り切れている感じだったので並びました。
田村 彼が演じた役(四女の同級生・浅野)は、ONEOR8の公演では座長(恩田隆一)がやったんですけど、僕自身が求めたのは、学業もコミュニケーションもあまりできない小学校の同級生のイメージだったんです。でも初演も再演もなかなかそのイメージには近づけなかった。東宝でやるにあたりキャスティングをどうするか考えたときに、トップスの階段でぽつんと座っていた彼の姿を思い出して、
矢部 それ僕だけじゃないでしょ。毎日誰かしら座っているわけですから。
田村 で、その役がドはまりしたんですね。この人、お芝居は上手じゃないけど、
矢部 ちょっと !
田村 うまくないけれど、誰もできない芝居をするという意味では役者だなと思ったんですよ。それで『ペノザネオッタ』を彼の主演でやったときは『ゼブラ』と同じ同級生の役を演じてもらいました。けれど出とちりはするし、せりふは飛ばすし。
矢部 せりふは覚えてたんですけど、本番になると違うことを考えてしまって。
田村 幕開け最初のせりふを飛ばすんですよ。劇中ならともかく、冒頭から飛ばすやつ、初めて見たよ。
矢部 いや、無言でファミコンをやっているシーンから始まるんですけど、その時間が長かったので気を取られちゃって。明転してすぐせりふだったら僕だって言えますよ。あの始まり方は難易度高いですよ。
田村 そういうのを経て互いの家で麻雀をやる仲になりました。僕はほかの現場で役者さんと仲良くなることはないので稀有な存在です。
ONEOR8『ペノザネオッタ』(2011)
ONEOR8『ペノザネオッタ』(2011)
矢部太郎がいると稽古場が和む
——矢部さんから見た田村さんは ?
矢部 『莫逆の犬』を見たときにすごく引き込まれたんです。でもまさか自分が出られるなんて思っていなかったから、『ゼブラ』で誘っていただいたときはうれしくて。稽古の最初のときに、ウケようがすべろうが全部俺の責任と言っていただいて、すごく信頼できる方だと思ったんですよ。僕、緊張しがちなところがあるんですけどその一言で安心できた。リラックスしすぎて出とちりしちゃうんでしょうね。でもそれも結局は田村さんの責任なんですよ !
田村 なんでだよ !
矢部 すべて俺の責任っておっしゃいましたから。それに田村さんに演出されているわけですから。
田村 俺は出とちりは演出してないから。
一同 笑い
矢部 それにしても僕をよく使ってくださいます。
田村 バーターだからね。
矢部 苦笑
田村 単純にいじり甲斐がある。ほかの現場はどうか知りませんけど、彼がいると稽古場が和むんですよ。出とちりしても、すべってもみんなが許す。
矢部 爆笑をとってみんなを和ませているんじゃないんですか ?
田村 それは違います。稽古場を和ませるために、僕は商業演劇をやるときは必ずこの人を連れていきたいと思っているんです。だからバーター(笑)。
矢部 ありがたいことですけどね。でも僕はONEOR8の準劇団員になれるかなと思っていたら、研究生に降格になってしまって。
田村 どうして降格になったんだっけ ?
矢部 仕込みに行かれなかったからです。
田村 あぁ、そうか。彼は出演してなくても仕込みに来てくれるんです。
矢部 舞台美術にペンキ塗りするのがめっちゃ好きなんですよ。本当に楽しくて、これが何よりも好きだと思います。
田村 準劇団員とか言ってたんですけど、ここのところ忙しくて来れなくなったから降格(笑)。
初演のメンバーの現在が見事に一致したから、『ゼブラ』を同じメンバーでやってみたかった
ONEOR8『ゼブラ』(2005)
ONEOR8『ゼブラ』(2005)
——少し作品のことも伺います(笑)。『ゼブラ』は、母と4人姉妹の悲喜こもごもを、子供時代と大人時代を交互に描いた作品です。20周年記念に選んだのはなぜですか ?
田村 代表作とかそんなふうに想ったわけではないのですが、ありがたいことに、ほかでやらせていただいたり、いろんな方がやってくださっているんです。
矢部 最近高校生もやってくれましたし、日大芸術学部には僕も田村さんと一緒に見にいきました。
田村 日芸は山田和也さんが、新国の研修所では鈴木裕美さんが演出してくださったんです。そういう意味では10年以上前に書いたものですが普遍性のある戯曲なのかなぁと。初演当時みんな30代半ばだった。それが今では結婚したり子供ができたり見事にみんな役の設定どおりになってきた。今やったら面白いんじゃないかと思ったんです。でも逆に言えば劇団でやるのは年齢的に最後になると思います。それから20周年・2,000円には座長がこだわっていたので、だったら背伸びするのではなく、できるだけ初演の人たちとやりたいと思ったわけです。そして東宝版でドはまりした矢部さんも呼べることになりました。
——どんなヒントから生まれた作品ですか。
田村 ほぼ僕の実体験です。小さいころ、母からは父親が浮気しているよって聞き、父からは母親が先に浮気したんだと。最初は嫌だったんですけど、そのうち事実なんてどっちでもよくなって、それぞれとうまく付き合っていきたいなと。そんな子供のころの気持ちを、いろんな登場人物に乗せて書いたというか。同時に、向田邦子さんの『阿修羅のごとく』の影響が強くあって生まれたのかなと思います。
——そういうところに矢部さんみたいな存在が入ると、芝居の幅も広がりますか ?
田村 ありますね。僕は当て書きなんですけど、矢部さんには、うちの俳優たちを想定するときには出てこない突飛なせりふが出てきます。
矢部 僕は田村さんのお芝居を見ていると、面白いというよりも、まず笑えるんです。それがすごいと思って。それでいてすごく悲しいところもありますから。笑えて悲しいというのは喜劇の本質だと小松政夫さんもおっしゃってます。
田村 笑えると言ってもらえるのはうれしいです。
——女性キャストの皆さんなどは生活感も含めてよりリアルな魅力が出てくると思いますが、矢部さんには10年分の何を期待されますか ?
田村 期待 ? 何もないですよ。
矢部 期待してくださいよ !
田村 うーん……賞を取ったことで矢部太郎という色がついたと思うんです。その色を裏切らない芝居をしてくれれば。と言いつつ、どんな色がついたんだろうね ?
矢部 又吉直樹くんみたいな色じゃないですか ?
田村 それ、かっこよすぎでしょ。
矢部 じゃあ胡散臭い又吉くん(笑)。
田村 受賞を通して世間に伝わったのは、矢部太郎がへんな奴だという部分か、大家さんとの関係で温かい人という部分か。僕はへんな人が圧倒的だと思うんです。
矢部 えー。確かに又吉くんみたいな仕事依頼はなくて、相変わらず梅干しだけ1週間食べ続けるとか、裸で何かするとかですけど。
田村 いつまでたってもチ●ポ触っているしね。
矢部 いや、バインダー持って登場するから触らなくていいんです(笑)。
田村 ははは ! だからそこは裏切らないでほしいと思いますね、へんに気取らずに。世間的にはすごい先生かもしれないですけど、ONEOR8では研究生ですから。チラシの撮影をしたときも、昔はチャリンコで来てたんですけど、タクシー移動になっててムカついたんですよ。
矢部 ちょっと、ちょっと、切り取り方がひどいですよ。その日は釣りのロケで東北に行く予定があったんです。2泊だから大きなスーツケースが必要でタクシーを使いました。しかも電車だとかえって遠回りになる場所でもあったんです。そこまで言わないと、ただ天狗になったみたいじゃないですか !
《田村孝裕》1998年舞台芸術学院を卒業後、同期生9人で劇団を旗揚げ、すべての作品で作・演出を務める。2005年劇団公演のために書き下ろした『ゼブラ』が岸田戯曲賞候補になり注目を集める。近年はさまざまな劇団、プロデュース公演にも作品を提供、演出も手が掛ける。主な作品に、椿組『花火、舞い散る』(作・演出)、シアタークリエ『ゼブラ』、PARCO劇場『カーディガン』(作・演出)、シアタークリエ『ええから加減』(作・演出)など。テレビドラマや映画の脚本執筆なども増えている。
《矢部太郎》1997年11月にお笑いコンビ・カラテカを結成。2001年に日本テレビ系バラエティ「進ぬ!電波少年」でブレイク。バラエティ番組のほか、俳優として映画や舞台にも出演するなど、多方面で活躍。2017年10月、『大家さんと僕』で漫画家デビュー。翌年4月、『第22回手塚治虫文化賞』の短編賞を受賞。
取材・文=いまいこういち
公演情報
■会場:東京芸術劇場シアターイースト
■脚本・演出:田村孝裕
■出演:
冨田直美 和田ひろこ 恩田隆一 伊藤俊輔 山口森広
弘中麻紀 星野園美 瓜生和成 吉田芽吹 古屋治男
新垣里沙 矢部太郎
■前売り開始:2018年10月21日(日)10:00~
※2018年10月19日(金)18:00まで e+座席選択先行
■料金(税込):全席指定2,000円/当日2,500円 ※未就学児童入場不可
■開演時間:4・5・7日19:00、6・8日15:00/19:00、9日15:00
■問合せ:劇団 Tel.080-6577-1399
茨城・水戸芸術館:12月1日(土)~2日(日)
北海道公演:12月11日(火)~17日(月)
岩手・宮古市文化会館:12月19日(水)
大阪・一心寺シアター倶楽:12月22日(土)~23日(日)