大衆演劇の入り口から[其之六]・前編 いよいよ浪速クラブ公演スタート!藤美一馬座長が語る“芝居の気持ち”
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藤美一馬座長(2015/9/20) 筆者撮影
日本一安い芝居小屋
舞台を愛するSPICE読者の皆様!1200円でお芝居を観ませんか?今、えっ?と目を疑った方、どうぞ、大阪は新世界の芝居小屋・浪速クラブに足を運んでみてください。大人1200円で、3時間たっぷり人情芝居と舞踊ショーが楽しめます。芝居好きには天国のような劇場です。
浪速クラブ外観 浪速クラブ公式ブログより提供
浪速クラブ内部 浪速クラブ公式サイト提供
大衆演劇ならではなのが、ギュッと近い客席の距離。初対面でも近くに座れば古馴染みのように声をかけてくれる。
「どこから来たん?東京からわざわざ?大変やなあ~」
劇場に広がっているのは疑似家族的な温かさだ。毎日通うお年寄りも、幕間のトークかしましい主婦グループも、学校帰りに飛んできた高校生も、みなが集う。筆者が席に着こうとすると、隣の席の70代とおぼしき男性がじっとこちらを見て、「あんた、つくづく苦労知らずそうな顔してんなぁ…」とつぶやいた。人生の先輩のお言葉が胸にしみる。
さて11/1(日)、「劇団KAZUMA」の浪速クラブ公演がスタートした。
(1段目)藤美一馬座長 (2段目)左から柚姫将副座長、千咲大介座長(劇団千咲)、冴刃竜也副座長 (3段目)龍美佑馬さん、華原涼さん、藤美真の助さん (4段目)千咲凜笑さん(劇団千咲)、KEITAさん、ひびき晃太さん
その舞台をひとことで表すと、“職人技”。在籍10年以上のベテランが多く、客席の空気をヒョイと読みとって芝居を変える。今日はもっとお笑いに持っていこうか?泣かせどころでセリフを加えようか?お、座長のセリフが変わったな、そしたら自分はどう切り返そうか…一人一人が慣れた呼吸で、実に楽しげに、今日限定の舞台を紡いでいく。熟練の職人集団を見るような、クセになる面白さがある。
考えてみれば、その技術は驚きだ。芝居の人物になりきりつつ、客の反応を観察し、時には演技をゴロリと変え、同時に終了時間を計算する―一体、頭の中はどうなっているのだろう?藤美一馬座長に聞いてみました!
藤美一馬座長インタビュー
藤美一馬座長 左・立ち役(男役)(2015/6/24) 右・女形(2015/6/9) 筆者撮影
劇団KAZUMAを13年間率いる藤美一馬座長。女形の“お嬢さん”っぽい繊細さ、たおやかさは随一だ。一転して三枚目芝居ではとぼけた表情で、ギャグをしれっと連発する。笑えるだけでなく、底にはホロリとした優しさがある。演じられる人物がみな一生懸命で、おかしくて愛しい。
―今回インタビューさせていただくにあたって、一馬座長の色々な過去のインタビューを読み返したら、全部の紹介に「三枚目の芝居が十八番」って書いてあるんですね。
藤美一馬座長(以下、藤) 十八番ってわけじゃないんですけどね(笑)自分は三枚目のお芝居が好きですね。ま、自分が好きなんで、本数もちょっと増えて。
―特に好きなお芝居とかありますか?
藤 そうですね、『上州百両首』とか、ああいう泣き笑い的なお芝居は好きですね。あと落語を元にした『文七元結』だったり。『らくだ』なんかも好きですね。まあ落語のやつは全般好きですね。
―一馬座長は落語を元にお芝居を作られたりもしていますね。特に談志師匠がお好きって聞いたんですけど。
藤 そうですね。何年か前に談志さんのDVDがたまたま手に入って、観てて、すごいなぁ!って。うちの芝居の『紺屋高尾』の筋は談志さんのですね。
―たとえばこの方に憧れてらっしゃるとか、この方のような芝居がしたいという理想の役者さんみたいな方はいらっしゃいます?
藤 昔は憧れるとか、こうなりたいっていうのはありましたけど…今はそうですね、お芝居は“自分の気持ち”ですよね。自分の感情をどうお客さんに出していくか。
―私は舞台に立ったことがないので疑問なんですけども、自分の感情を出す、というのはどういうことなんでしょうか…?筋はもう全部決まってて、流れも全部決まってて、その中で終了時間あと何分でって計算してる頭もあるわけじゃないですか。
藤 ま、そうですね。時間のこととか、相手のセリフだとか、噛み合っていかないとお芝居にならないので…その上で、お芝居やってるそのとき、そのときに、僕はその役になりきるように努力するんですけど。この役の、こいつはこういう性格だろうから、だからこういう物語になってるんだろうな、ということは、元々あるこのセリフじゃちょっと強すぎるよな、とか、教えてもらったこのセリフじゃ逆に弱すぎるな、とかっていう部分は自分なりに変えますね。
―それは事前に座員さんと共有されます?
藤 いや、もうやってるときですね。
―本番の舞台をやってるときに、ですか?
藤 やってるときに、ふと思うんですよ。
―実際に、それでセリフを変えちゃうんですよね。
藤 変えますね。
―相手が焦ったりしません?
藤 焦る時もありますね。
―そういうときはどうされます?もう、特に何もしませんか?
藤 もう、特に何も。向こうは向こうで、任せますし。
―そしたら、もうそれに、切り返しができるようにならないと…
藤 だからもう、うちのメンバーはそういうのはうまいんじゃないかなぁと思います。まあ(役者経験が)長いんで、みんな。
―2年前の浅草公演の『三代の杯』で、指導でいらしていた美影愛さんに対して、「芝居に引っ張られるようにして涙が出た」っておっしゃってたと思うんです。相手の芝居に引き込まれる、というのはよくあるんですか?
藤 芝居の相手にもよるんですけど…芝居の役になってる人は、もうその役に見えちゃうんで。だから芝居中は、もう美影先生じゃなかったんですね。その役になっちゃってるんで。僕もそうなると、自分もその役になっちゃって。相手がやっぱりうまい方だとグッと引き込まれますし、自分が引っ張っていかなきゃみたいになると、ちょっとしんどいかな…(笑)っていう気はします。
―役になってる頭っていうのと、これは芝居だからこういう風に追っていかなきゃって思ってる頭って、同時にあるんですか?
藤 あの~おかしなもんで、もう身についてるというか…お芝居中って色んなこと考えながらやってるんですけど、結果はまりこんでいくと、その役のことしかわからなくなってたりするんですね。だからハッと気付くと時間オーバーしてたりとか。逆にオーバーせずに時間まで行かなかったな、とかいうこともありますね。
―そのはまりこむのが、解ける瞬間っていつですか?引っ込んだときですか?
藤 僕ら最終の幕のことを“バレ”なんて言い方しますけど、チョンチョンチョーンて刻みが鳴って、バレの幕が閉まったら…ですね。
―閉まったら、あ、終わった…と。
藤 閉まったら、ああ、今日はまあまあだったかな、とか。今日はまあうまくいったかな、とか。そういう自己評価がありますね。
芝居の幕が閉まるとすぐに口上挨拶がある。左・KEITAさん 右・藤美一馬座長(2015/10/29) Emaさん撮影
「どんどんお芝居は変わっていきますね」
―特に、お客さんに人気のお芝居ってあります?これやってほしいって言われたり。
藤 『へちまの花』はやってほしいって言われること多いです。
※へちまの花…大衆演劇定番の芝居の一つ。不細工だけれど心優しい娘の結婚をめぐる騒動を描く。
藤 僕は娘役なんですけど、最初はやっぱり勘違いしてお笑いのお芝居だから面白ければいいっていう考えだったんです。でも役になって考えれば、とってもかわいそうな子で、一生懸命な子だから、そこをお客さんに伝えるようにっていう感じでやってますかね。
―6月に三吉演芸場で劇団KAZUMAの『へちまの花』を観たんです。主人公の娘の悲しさがすごく伝わってきました。
藤 あれは本当、お笑いの芝居なんでしょうけど、泣かせるとこは泣かせたいんで、そんな感じでやってます。
―やってるうちにそういう変化って出てくるものなんですか。
藤 だからどんどんお芝居って変わっていきますね。元々真面目だったのが、超でたらめになったり、でたらめだったのが、なんだか筋が良いから、わりと良いお芝居に収まってきたり。
―大衆演劇雑誌『花舞台』のインタビューで、年齢も重ねたのでこれからは老け役とか敵役もやっていきたいというようにおっしゃってましたけど、この役をやってみたいというような像はありますか?
藤 今日やっていた『兄弟仁義 男の詩』なんかは、ちょっと設定を変えてやってみたいなっていうのとかはありますね。直次郎(善)と大島(悪)の関係をもっと深くしたら面白いんじゃないかな、という気はします。深すぎると他の人間関係が目立たなくなっちゃうんで、まぁそこそこですかね。で、あくまで悪い奴は悪い奴で置いときたいかなって。
※インタビューを行った9/20の平針東海健康センターでの芝居が『兄弟仁義 男の詩』だった。
お客さんからの声援に笑みが零れる。藤美一馬座長(2015/9/20) 筆者撮影
今回は前半に真面目な芝居を
―11月はいよいよ浪速クラブ公演ですね。
藤 うちは特に関西でやるときは、お笑いのお芝居が多いんで。でも今回はちょっと今までと違って、真面目なお芝居をちょっと多くやっていこうかなぁという気持ちにはなってます。いつもは初日、2日目、3日目とかってこう…お客さんに親しみをもってもらうっていうのも一つなんですけど、わりと明るいお笑いのお芝居を持っていくんです。まぁ、今回はわりと前半に真面目なのを持っていこうかなぁという感じですかね。
―これまでに作られたたくさんのお芝居の中で、自分で思い入れが強いというか、満足度が高いというか、これはちょっといいものができたなというものはありますか?
藤 自分で作ったお芝居でこれっていうのはないですね~…よその劇団さんから教えていただいたお芝居とか、僕みたいなあんまり知識のない人間が作ったお芝居よりは、知識を持った人が作ったお芝居のほうがやっぱりしっかりしてるんで、最近はよく、よその劇団さんにお芝居教えてもらったりというようなことはありますね。市川市二郎座長(劇団三桝屋)だったり、市川英儒座長(優伎座)だったり、市川かずひろ座長(劇団華)だったり、最近だと葵好次郎会長にお願いして、清水の次郎長の芝居を教えていただいたり。
※葵好次郎会長…大衆演劇団の同志会「演友会」の会長。
―それは浪速クラブで出したりしますか?
藤 そうですね、浪速クラブで特別狂言みたいな形でやろうかな、とは思ってます。
―それはいいニュースを聞きました、ありがとうございます!
(9/20、平針東海健康センターにてインタビュー)
劇団KAZUMA、浪速クラブ公演記念記事はまだまだ続きます。後編では3人にご登場願います。柚姫将副座長・冴刃竜也副座長・千咲大介座長(劇団千咲)、トリプルインタビュー!
⇒過去記事:大衆演劇の入り口から[其之壱]劇団KAZUMAの“人間の匂い”
男優が多いため舞踊ショーは迫力がある。左から千咲大介座長(劇団千咲)、KEITAさん、龍美佑馬さん、冴刃竜也副座長(2015/10/29) Emaさん撮影
●阪神高速松原道「なんばIC」より10分