ポップヴァイオリニスト・式町水晶の奇跡は前進あるのみ~「孤独の戦士」から「希望への道」へ!
ライヴでは、エレキヴァイオリンも使う。アルトの低音域もカバーした5弦製だ
今春、CDアルバム『孤独の戦士』(キングレコード)でデビューした、ポップ・ヴァイオリニストの式町水晶(しきまち・みずき、22)。絶妙なトークで聴衆を笑わせながら、オリジナル曲、映画音楽、唱歌、タンゴなど幅広く演奏する。愛称は「みっくん」。
「ヘアメイクの仕事をしていた母の後押しで、幼い頃からCMに出たりして、人前で喋るのは好きですよ」と、人なつこい笑顔で話す。早産で未熟児だったことから、脳性麻痺や緑内障など複数の重い病気を抱え、義務教育中は車いすでの学校生活。母は息子を、困難を乗り越えていける強い人に育てようと、人前でのチャレンジを応援し、人とのつながりの大切さも教えた。その中で、4歳からリハビリで始めたヴァイオリンが、彼の天職になった。
「教えてくれる先生がなかなかいなくて。根気よく教えてくれた最初の先生が中澤きみ子先生。10歳からは中西俊博先生。指先にどう力を入れたらいいのか、弦1本ずつ、やれるパッセージから、じっくり時間かけて教えてくださった。僕の場合は力を抜くのが苦手で、緊張すると人の3倍くらい力が入る。意図したところにちゃんと力が入り、違うところに入らないよう、脳に覚えさせる練習をいろいろしました」
「TSUNAMI VIOLIN」で、新曲「希望への道」を演奏
なんと、こんにゃくや豆腐を上手につかむ自主トレも! 今やライヴでは「毎日豆腐を食べて、お肌がキレイになりましたよ」などといって観客を笑わせる。洒落た衣装を着こなし、立位でアグレッシブに演奏して見えるが、実は体調のすぐれない日は珍しくない。小脳低形成で転びやすく「一定の決まりがある動きは続けられないな。ラジオ体操はうまくできない(笑)」。学生時代は障害のせいでいじめられ、思春期頃は「ヴァイオリンは武器だった」という。
「友達になりたくて相手の趣味の知識を増やしたりしても、いじめのターゲットは自分のみに集中する。ストレスが溜まって、人と接触しなくなって『ヴァイオリンで見返してやる!』と練習してたら、中西先生に『最近、音がキツくなったね』と言われたので、『ヴァイオリンは武器です』というと、先生が涙ぐんで『僕はみっくんになってあげられない』と仰って……。自分のことを分かろうとしてくれる人の姿は、一番身にしみますね」
目の症状が悪化して、医師から「失明するかもしれない」と言われて希望をもてずにいた頃でもあった。そんなとき、医療刑務所の慰問依頼に応えて「孤独の戦士」を作曲。12歳の不屈の魂が震える音楽が、奇しくもデビューアルバムのタイトル曲になった。
「メジャーデビューは、今まで頑張ってきた証のベルトです。以来『メジャーって何だろう?』って考え続けましたが、通過点だと思い至りました。演奏で一番大切にしていることは『人間としての温かさ』。もっともっと技術を磨いて、人の心に寄り添う演奏をしていきたいです。きみ子先生の音、とても温かい、人柄が出てて・・・」
その、きみ子先生の夫でヴァイオリン修復製作家・中澤宗幸が作った「TSUNAMI VIOLIN」を携え、東日本大震災の慈善コンサートや被災地慰問も続けている。
「宗幸先生が陸前高田の流木から使える木材を見つけて作られたヴァイオリンで、魂柱(こんちゅう)には、津波にのみ込まれても生き残っていた“奇跡の一本松”の木片が使われています。鳴りがよくなるまで1年くらいかかりましたけど、温かみのある音で、大切に使っています」
「TSUNAMI VIOLIN」のボディーには、“奇跡の一本松”のペイントが!
魂柱は、ヴァイオリンの表板と裏板を支える一本柱で、音色や響きの要だ。この夏、岩手県陸前高田市や宮城県南三陸町を訪れた際には、新曲「希望への道」が生まれた。ライヴで演奏したら好評で、新たな扉が開けつつある。
「最近『自分は本当にいい生き方してきたか?』って思うんです。 友人も絆も断ち切ってやってきて、勉強の成績もヴァイオリンの腕前もあがったけれど、周りとの関係性をもっと大切にしながらやってくればよかったかもしれない。母は『私は財産残せないから、人とのつながりは大切にしなさい』ってよく言います」
希望と絶望の繰り返しの中で自問し続けた「分かり合えない、でも分かってほしいと思う」人の心。怒りに燃え、周囲を拒絶し、反撃や復讐を考えたりするのは、誰の心にも潜んでいる。だから「理解できなくても、歩み寄ってくれるとうれしい」。障がいがいつ悪化するかもしれない恐怖と常に戦いながらも、「孤独の戦士」から「希望への道」へ、日々前進あるのみ。
「解剖学者さんに『型に縛られない音楽、ジャズやポップスに向いてるね』と言われました。支えてくれる人がいたから、やってこれた。あきらめない僕と母に応えてくれた人たちのおかげです。感謝の気持ちを込めて演奏を続けていきたいです」
秋の慰問先は、南三陸町、陸前高田市、盛岡市、一関市の予定。12月には、都内の四谷区民ホールでクリスマスコンサートも開催する。
文=原納 暢子
公演情報
■出演:式町水晶 With Gt.ファルコン Gt.真鍋貴之
■会場:November Eleventh 1111 Part2 http://www.risingdragon.jp/
■Charge:3,500円(別途2オーダー)
式町水晶クリスマスコンサート2018
■会場:四谷区民ホール
■日時:2018年12月21日(金)Open 18:00 / Start 18:30
■料金:全席自由 前売4,500円 / 当日5,000円
■クラシック・フォー・ジャパン:https://classic-for-japan.or.jp/tsunami_violin/concept.php