おっちゃん&ミンジュの怪しいK-Pop喫茶[第6話]4 walls
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f(x) 4 walls ジャケットより
からんからーん
おっちゃん「いらっしゃい」
客「ううー、寒ぅ!」
おっちゃん「もうすっかり冬やなぁ」
客「ホンマやな。コーヒー頂戴」
おっちゃん「冷やで? それとも燗つける?」
客「熱燗にしてや。もお冷コーちゅう季節やないで」
おっちゃん「それもそうやな」
からららんからからーん!
どたどたどたっ
ミンジュ「おっちゃん、聞いて聞いて!(ぜーぜー)」
おっちゃん「どないした? あんまり寒いんでマラソンしとるんか?」
ミンジュ「赤貧ギャルかっ! 使い捨てカイロ買うくらいの小遣いは持ってるわ」
客「お、ミンジュちゃんや。相変わらず可愛ええなぁ(でれー)」
ミンジュ「それより聞いてや。ウチ、今度カムバックするんやで」
客「おおっ!」
おっちゃん「カムバックって、ミュージカルにか?」
ミンジュ「そうそう、アヨンとWキャストで『シンデレラ』にな。…って、アホか。それをカムバックとはゆわんやろ。5年ぶりに新曲出して、芸能活動再開させるんや」
客「わぁ。それはおめでとう!」
ミンジュ「おおきにぃ(にっこり)」
おっちゃん「カムバックゆうたら、今週のf(x)の新曲、アレは凄かったな」
ミンジュ「(かくん)え、f(x)やて?」
おっちゃん「f(x)に比べたら、自分の新曲なんてカビの生えたハナクソのようなもんやろう。聴くまでもないわ」
ミンジュ「カ、カビの生えたハナクソ?(ぶるぶる)」
客「ミンジュちゃんの5年ぶりの再起を真っ向から切って捨てたで(呆)」
おっちゃん「今回のf(x)の新曲は、ある意味姉貴分の少女時代をも上回る出来なんやから、周辺でノイズを立ててはあきまへん」
ミンジュ「こ…こんな奴に報告に来たのが間違いやった(がっくり)」
客「うーむ。少女時代を超えたとまでゆわれると、ちょっと興味が出て来たな。ミンジュちゃんには悪いけど、観てみようっと」
ぽち
客「ほー、これが」
おっちゃん「素晴らしかろう」
ミンジュ「う、これは…(汗)」
客「なんとも不思議なストーリーやな」
おっちゃん「ソルリが辞めてから、やたら4人でひとつ、4人で完全体ゆうのを強調しとったからいかがなもんかと思うとったけど、まさにそのような内容のMVが上がってきたな」
客「そうなん? ワシ、あんまりf(x)のこと詳しゅうないねん」
おっちゃん「ほな教えてあげよう。
f(x)は少女時代と同じSMエンターテインメントのガールズグループで2009年にデビューしたんや。
元は5人組で、先鋭的な作風と優れたヴィジュアルを特徴として、女子からもたいそう人気があった」
ミンジュ「メンバーのひとり、エンボ(Amber)って娘がほとんど男みたいなルックスやったからね」
客「へー」
おっちゃん「まだ5人組やった頃のf(x)がこれや」
ぽち
客「なんやら訳判らんMVやな」
おっちゃん「うむ。なんちゅうても先輩が絶大な人気を誇る少女時代やさかい、競合せんところで個性を出すのに難儀してな。方向性が定まるまで3~4曲かかったんやけど、その結果到達したのがこのアヴァンギャルド路線や」
客「はぁはぁ、『さくらメメント』みたいな?」
おっちゃん「それはアーバンギャルドや! そんな“トラウマテクノポップ”ちゃうわ」
おっちゃん「アーバンギャルドはサブカル、f(x)はポップアートじゃ」
ミンジュ「どっちも訳判らんけどな(笑)」
おっちゃん「『Red Light』ではだいぶやり過ぎちゃった感があるけど、奇抜で中毒性の高い曲と、美女揃いなのにとんがったビジュアルちゅうコンセプトが受けて、f(x)は一躍人気グループとなった。
構成メンバーも、元中国雑伎団、元相撲取り、入れ墨男、元子役女優、元少女時代の妹とバラエティに富み、個性豊かやった」
ミンジュ「さっぱり説明になってないど(呆)」
客「元少女時代の妹の“元”ってどこにかかるの? 妹?」
おっちゃん「“元”妹ってどうゆう関係やねん。兄貴が離婚でもしたっちゅうんか?
この場合は“元”少女時代ってことや」
客「元少女時代のメンバーの妹…あー、あの人の」
おっちゃん「そうそう。姉に似てないけど、超美人なのは間違いない。この娘と元子役のソルリって娘がビジュアル的な柱やったんやけど、ソルリの方がなにかと話題が多くてなぁ」
客「ちゅうと?」
おっちゃん「まぁほとんどがネチズンの噂やけど、曰く、性格が悪い、ステージマナーがなってない、すぐサボる、年上の男とつきあってる、などとなにかと口撃されて来たんや」
客「年上の男とつきあってると、なんで悪口ゆわれるねん?」
おっちゃん「アイドルやから、そうゆうことも口撃の対象になるんや。で、実際14歳年上のラッパーとつきあってることがバレて、大騒ぎ。
あんまり悪口が凄くて、ノイローゼになったのか、『Red Light』でカムバックしてすぐの時期にもかかわらず、ソルリは活動を休止してしもうたんや」
客「ありゃまぁ」
ミンジュ「その間f(x)は4人で活動して、いつの間にか4人が当たり前みたいな状況になってもうたんよ。
一方ソルリはアイドルを辞めて、悪口が届かないドラマや映画界に活路を見いだしたって訳。元々人気のある子役やったからね」
客「なるほど、それで今は4人なんやね」
ミンジュ「そやねん」
おっちゃん「ほんで、この『4 Walls』は4人体制になって初めての活動だけに、f(x)がどう変わったのか、あるいは変わってないのか、世間の注目を集めてたんや。
『Party』をリリースする時の少女時代みたいなもんや」
客「なるほど。で、実際4人になって変わったの?」
おっちゃん「変わったとも、変わってないとも、どう捉えるかによるけど、明らかに洗練された感じはする」
客「洗練?」
ミンジュ「そおゆう意味では“進化した”ともゆえるよね」
おっちゃん「そおなんや。まず曲が、ジャンル的にはディープなEDMなんやけど、めっちゃ聴きやすいし心地ええんや。
それにMVがなんとも不思議な映像とストーリーで、何度も観たくなる」
客「確かに一度観ただけじゃ、よく判らんものなぁ」
おっちゃん「多分4人が役割をめまぐるしく入れ替えることで、四位一体ゆうか四身一体というか、そんなイメージを込めておるみたいなんや」
ミンジュ「時間が止まったルナが空中に浮いてるカットは、萩尾望都の『東の地平西の永遠』を思い出させる強烈なイメージやね」
客「ふるっ」
おっちゃん「f(x)はポップアートやゆうとるやないか。サブカルになぞらえるんやない」
ミンジュ「ちぇー」
客「4つの壁って言うと、なんだか周りを壁で囲まれた閉鎖空間のような気がするけど、これはそうやないね」
おっちゃん「そう、歌詞では4つの向かい合った鏡が作り出す視覚的迷路と言ってるし、CDのジャケットも何かを囲ってる訳やない」
客「まるでモノリスみたいにも見えるな」
おっちゃん「うむ、そういう未知のイメージもある」
ミンジュ「む(漫画はあかんくて映画はええんかいな)」
おっちゃん「とにかく、やたらと4人を強調するのはソルリファンにとって忸怩たるものがあるやろうけど、実際ソルリが抜けた物足りなさや不自然さを全然感じないんからたいしたもんや。
むしろ最初から4人組やったんやないかと思うくらい完璧に見える。
音楽番組でのパフォーマンスがまた息ぴったりで、ここにソルリが入る余地はないと思うほどや」
客「そ、そんなに?」
ミンジュ「ダンスの振り付けが素晴らしくオシャレでねえ。ビヨンセの振付け師カイル・ハナガミが振付けたんやって」
客「帰る、洟かむ?」
ミンジュ「はいはい(呆)」
おっちゃん「とにかく、我々の心配を軽く吹き飛ばすほど、衝撃的なカムバックやったとゆえるやろう。
都会的なオシャレ度と言う部分においては、姉の少女時代を完全に超えておる。
これまでのようにアヴァンギャルドな曲やが、今までのようにトリッキーではない。攻めであっても奇抜ではない。
奇抜な要素はRed Velvetに譲って、少し大人になったのかもしれんな」
客「なるほど、末妹が出来たことで、個性にも変化が生じたか」
おっちゃん「そやけど、本質までは変わらんし、その辺の配分がさすがはSMエンターテインメントや。韓国最大の芸能社なのは伊達やない。
見事な差別化、見事な棲み分けなんである。
少女時代が具象なら、f(x)は抽象画の魅力。少女時代が華やかな活劇なら、f(x)は謎に満ちた心理劇。
そう、少女時代が『ガンダム』なら、f(x)は『エヴァンゲリオン』のごとき世界観を持っておるとゆえよう!(どーん)」
ミンジュ「あ、f(x)をサブカルになぞらえた!」
おっちゃん「…そ、そんで、このアルバムな、『4 Walls』以外の曲も素晴らしいんやで(汗)」
ミンジュ「おい」
おっちゃん「もうテヨンたんのアルバムと交互にヘビロテや」
客「へー。そんならワシもちょっと聴いてみようかな」
おっちゃん「聴きなさい聴きなさい、すぐ掛けてあげよう(すっく)」
ミンジュ「こら、誤魔化すんじゃない」
おっちゃん「うるさいな。お客さんが新曲聴きたいゆうておられるんじゃ、黙れや」
ミンジュ「聴くならウチの新曲を聴け」
客「ちょっとミンジュちゃん、マジでうるさいから。今ワシは自分の新曲に構ってられへんから」
ミンジュ「がーん! 味方がおらんよおになった。四面楚歌やー」
おっちゃん「いやいや、四面壁といいなさいよ(笑)」