ピンク・リバティ『夕焼かれる』稽古場レポ&山西竜矢インタビュー
劇団子供鉅人所属の俳優で、演劇ユニット「ピンク・リバティ」を率いる山西竜矢。ピン芸人として活躍後、俳優に転身した異色の経歴の持ち主だが、子供鉅人での怪演ぶりは多くのファンを魅了する。2016年より同ユニットを立ち上げ、脚本・演出を務めている。映像分野でも評価の高い山西の新作『夕焼かれる』は、殺人事件をモチーフとしたミステリー作品。写実性と虚構性を行き来しながら混沌とした世界観を生み出すピンク・リバティの稽古場を訪れた。
◆本気のバレーボールで稽古スタート
のっけからこんな書き出しで恐縮の限りだが、この5年ほど、山西竜矢のことがずっと気になっている。劇団子供鉅人の公演『HELLO HELL!!!』(2013年)で初めてその姿を目撃したときは、立ち振る舞いからしてベテランの風格すら漂っていた。劇団の主要メンバーなのだろうと思っていたところ、山西にとって『HELLO HELL!!!』は子供鉅人初参加の作品だったと、だいぶあとになってから聞いて驚いた(『HELLO HELL!!!』上演ののちにすぐ劇団員になったらしい)。以来、彼の出演舞台だけなく、同じく劇団員である影山徹とのコントユニット「こどもはれんち」でのシュールで低体温な笑いを見るにつけ、ますます彼のことが気になり続けるのだ。
そんな山西が2016年に演劇ユニットのピンク・リバティを立ち上げ、早くも4回目の公演となる。初のミステリー作品となる新作公演『夕焼かれる』の稽古を見学するため、都内某所へ。
携帯の電波がやや微弱な地下の一室で稽古は行われた。いきなり始まったのは、バレーボール。3チームに分かれて、総当たり戦で試合は行われる。これは、子供鉅人でも採用している稽古前のウォーミングアップなのだという。ビルの屋上でOLが楽しむバレーボールを想像するなかれ、彼らは罰ゲームを賭け、30分間本気で戦い、ガチンコの試合を繰り広げていた。
アップののち、稽古がスタート。俳優陣が車座になって、山西に視線を向ける。
「自分のために芝居をしないでください。志度実(編注:大村わたるが演じる主人公)を浮かび上がらせることだけを考えてほしい。みんなが、自分だけではなく全体のことを考えてやると、結果的に自分も素敵に見えると思うから」
稽古場での山西の言葉は、常に正確だ。彼とは取材以外の場でも何度か話したことがあるが、語り口は明瞭で簡潔だ。少々毒舌なところもあるけれど、曖昧さに逃げないで本質的なことを語ろうとする彼は、28歳にして、演出家としても堂に入っている。
ウォーミングアップで繰り広げられる本気のバレーボール
◆取材を重ねて脚本を執筆
『夕焼かれる』は、殺人を犯したある男のそれまでの人生を、週刊誌記者が取材を通じて追うというもの。脚本の執筆にあたり、実際の週刊誌記者や、ペットショップの店員など、作中の登場人物に重なる様々な人々に山西が話を聞いたという。
これまでのピンク・リバティ作品のスタイルに近い、リアルな会話を描く台本が仕上がった。しかし、場面転換が多く、時系列も前後する。稽古を見ると、シンプルな会話劇とは異なる、会話とは別次元で進行するミザンス(俳優たちの動き)が駆使され、具体的な会話と逆方向に力点が存在する、不思議な抽象性を帯びた舞台空間がつくられようとしていた。
そのため、稽古は台本の序盤部分を丁寧に繰り返していた。大半の俳優が複数の役を演じ、その出入りで彼らがモブのような機能を果たす。語られる台詞のタイミングと、モブのタイミング、その動きの詳細を決めるまでに、時間を費やしている。
「そこ、それぞれ自分で考えて」
山西は、モブの細部について俳優たちにある程度一任していた。あとでその理由を聞くと、「本来僕は細かいほうなので、言い始めたらどんどん言っちゃうんです。そうすると役者が能動的に考えることを放棄してしまうから」と話してくれた。
筆者が訪れたのは本格的な稽古も始まったばかりで、出来栄えを云々するタイミングではないが、「完成の日は近い」と感じた。山西のなかで、明確なビジョンが頭のなかに存在していて、迷いなくそれを俳優たちに伝えようとしていたからだ。
複雑な動きを何度も繰り返し、約5時間の稽古はあっという間に終わった。稽古後、山西から本作について話を聞いた。
稽古場ではいくつものシーンが繰り返された
◆「受け」と「待ち」と役者の野心
――稽古の冒頭で、「自分のために芝居をしないで」と話していましたね。それはどういう意図だったのですか?
少し前に、公募で集まった俳優向けのワークショップをやったとき、それを以前より強く思ったんです。僕自身もそうだけど、役者はどうしても自分がおいしくなりたいと思うものなんです。だけど、芝居をするうえで本当に重要なのは相手の台詞を聞いているときだったりする。「受け」と「待ち」の時間が、役者にとって大切だということを、ワークショップを通して再確認したんです。
――目立ってやろう、傷跡を残してやろうという野心は……。
それは当然役者にとって必要なんですけど、塩梅が重要ですよね。僕自身、目立ちたいだけで役者を始めたような人間だから(笑)、その気持ちはすごくよく分かるし、野心はあって悪いものではないと思います。だけど、それだけじゃ作品への大きな貢献はできない。
今回は、物語の軸となる殺人犯・志度実(大村わたる)を浮き立たせる意識が重要だということを、それぞれの役者に早い段階から伝えていますね。ほかの俳優が彼の存在を際立たせることに徹したほうが、結果的に各々も粒立っていくと思います。
――ミザンス(役者や装置の配置)は細かく決めず、役者さんたちに任せていましたね。
今回のキャストは、違うジャンルの様々な現場でやってきた、優秀な役者の集まりです。そういう彼らが自分で考え、意見を持ち寄ってアグレッシブに動いてくれると、思ってもいなかったような画が生まれたりします。それを期待しているというのが大きいですね。結局、最終的には細かく指定していくにしても。
演出助手の台本には、細かい動きが記されている
――稽古を見学した印象では、山西さんなりの柱があって、それに基づいて演出しているように見えました。
柔軟ではいたいですけど、ルールはありますね。大村さんの役を全員で際立たせることもそうですし、「この役はこういう言い方はしない」とか、僕のなかである程度ルール化していることは多いと思います。
――ピンク・リバティの作品群からイメージするのは、混沌とした世界をリアルに描くというものです。会話の応酬はリアルだけど、今回の場合、もっと虚構の世界の描き方が強くなるのでしょうか。場面転換も多いですし……。
台詞のうえでは会話劇ですけど、動線がエンタメ、という作品にしたいんです。それって、あまりこれまでの演劇にない見せ方なんじゃないかと。ピンク・リバティのこれまでの作品は、ナチュラルな会話の部分と、あきらかに虚構である部分とがサンドイッチになるようにつくってきたのですが、今回は、台詞そのものは全部日常的な会話だけど、演出は虚構性の高いものにしたいんです。
だから、美術も抽象的ですね。ないものをあるように見せるのが演劇の面白いところですから。見せ方の部分については、かなりチャレンジングだと思っています。
――今回は約130人のオーディションからキャスティングしたとか。
オファーしたのは、これまでも出てくれたうらじぬの(劇団子供鉅人)、葉丸あすか(柿喰う客)、半田美樹の3人ですね。座組に関していつも思うのは、同じような雰囲気にはしたくないということです。違うベクトルの強い個性を持った人たちで、歩み寄って作品をつくるのが好きなんです。素敵な俳優であっても、質感の近い人がキャストとして並ぶのは避けています。いろんなところで別々の方法論を学んできた役者さんが集まって、同じ方向を目指した方が刺激的な作品になる気がするというか。そのために今後僕たちがやるべきなのは、ひたすら稽古を重ねることしかないんですけど……。
【動画】ピンク・リバティ『夕焼かれる』予告編
撮影・取材・文/田中大介
公演情報
■脚本・演出:山西竜矢
■出演:大村わたる(柿喰う客/青年団)、平井珠生、橋口勇輝 (ブルドッキングヘッドロック)、大島萌、山西竜矢 (ピンク・リバティ/劇団子供鉅人)、うらじぬの (劇団子供鉅人)、土屋翔 (劇団かもめんたる)、中山まりあ、半田美樹、葉丸あすか(柿喰う客)
■日時&会場:2018年11月13日(火)~18日(日)◎下北沢 小劇場楽園
■料金:一般前売3,500円 / 当日4,000円(全席自由席)
■問い合わせ:ピンク・リバティ kodomo.pinkliberty@gmail.com
■公式サイト:http://pinkliberty.net/yuyakareru/