【レポート】「冨田勲 映像音楽の世界~Sounds of TOMITA~」冨田勲メモリアルコンサート~特撮・アニメ・映画音楽特集~、TV放送も決定
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コンサート当日の模様
金属恵比須・高木大地の<青少年のためのプログレ入門> 番外編
冨田勲の作曲した特撮・アニメ・映画音楽をフィーチャーした「冨田勲 映像音楽の世界~Sounds of TOMITA~」というメモリアルコンサートが2018年9月に開催された。なお、この模様の一部は2018年11月10日(土)23:30からBSテレ東「エンター・ザ・ミュージック」で紹介されるので、ぜひ視聴いただきたい。
冨田勲といえば、筆者は、小学校時代からシンセサイザー音楽の大御所として聞き馴染んではいたものの、実のところ作曲家としての一面を軽視していた。
それが2年前、「決定版 大河ドラマ全曲集」を購入したきっかけで印象ががらりと変わった。1983年放送の「徳川家康」のオープニングテーマに衝撃を受けた。NHK交響楽団と合唱隊(慶應義塾ワグネル・ソサィエティー)の演奏を支えるのが自動演奏装置「シーケンサー」(ローランド製のMC-8という機材)。そして、打ち込みと思われるドラム音。これが冨田のペンによるものだった。
今でこそオーケストラとシンセを掛け合わせることは日常茶飯事だ。近年の大河ドラマでは――オープニングテーマでこそないものの――『おんな城主 直虎』(2017)「竜宮小僧のうた」(菅野よう子)においてシーケンサー(もしくは「アルペジエーター」という、自動分散和音再生機能)とオーケストラの同期演奏を行なっていたりもする。しかし、そういったことを1983年の時点で行なったというのが非常に革命的なのだ。
ということで、筆者は「作曲家」冨田勲にドップリ浸かってしまったのである。
実は、この頃に筆者は歴史小説家の伊東潤氏と邂逅。筆者の主宰するバンド「金属恵比須」にて、伊東氏原作の歴史小説の「サウンドトラック」的な曲をつくろうという企画が持ち上がった。
結果的に2018年の今年、伊東氏のデビュー小説「武田家滅亡」(角川文庫刊)のイメージ・アルバムを発表するに至ったのだが、冨田の影響は計り知れない。なお、主要曲「勝頼」で、金属恵比須としては初のシーケンサーを導入したのだが、こちらもローランド製(SE-02)だった。影響力強し。
「作曲家」冨田への興味。そして、大河ドラマのオープニングの分析などが重なっていたちょうど同じタイミングで、「冨田勲 映像音楽の世界」コンサートのインフォメーションが舞い込んできた。これは行かずしてどうする。
2018年9月17日、東京国際フォーラムホールCにて、そのコンサートは行なわれた。会場に入るや早速物販コーナーを物色。なんと長蛇の列。主に50~60代の男性が多く並んでいる。冨田がテレビの仕事で大忙しだったあの頃のテレビっ子たちだろう。
そこで販売されていたのはSF特撮ドラマ『マイティジャック』のTシャツと、会場にて限定300部のみ販売された『マイティジャック大全』という超レアものCD。現在、『マイティジャック』関連のサウンドトラックは20年以上廃盤となっているのだが、このたび、コンサートの企画・制作を行なっているスリーシェルズがこのコンサートだけのためにCDを制作。3枚組で、現存する音源すべてをリマスターしたという、マニアにはヨダレが止まらない仕様だ。筆者も物販の列に並ぼうとしたところ、すでに売り切れ。大人気のアイテムだった。残念……。なおスリーシェルズとは日本作曲家専門レーベル。伊福部昭や黛敏郎、團伊玖磨、芥川也寸志など名だたる日本の20世紀音楽作曲家の音楽のリリースや演奏会に尽力している。
会場に入ると、舞台の真ん中にミニモーグなどの大量の機材が設置されている。齋藤久師によるプレコンサートがすでに始まっていた。
「シンセ番長」という異名を齋藤による演奏は「アナログシンセサイザーライヴ『オマージュ冨田勲』」。和音の出せないこの古いシンセを使い、耳をつんざくような生の電子音にエコー効果をかけることによって重層的な音世界を紡ぎ出す。冨田のシンセ音楽はあらかじめ計算された構築の美だったが、齋藤氏は良い意味で正反対のパフォーマンス。即興によって偶発的に現れた音をエフェクト処理によって何重にも重ねていく。最後は聴き慣れた『惑星』のイントロのオルゴールを加工させて終了。ミニモーグ好きとしてはたまらない、肌で感じ取る電子音の世界を聴かせてもらった。
齋藤久師
このプレコンサートが終了し、15:00より本編が開始される。
第1部は【手塚治虫のアニメ音楽より】から始まる。指揮者の藤岡幸夫(BSテレ東「エンター・ザ・ミュージック」司会者でもある)、オーケストラ・トリプティーク、そして冨田勲メモリアル合唱団が壇上に。オーケストラ・トリプティークは、日本の作曲家の音楽を専門に奏でるオーケストラだ。このコンサートにピッタリの楽団である。
1曲目は「ジャングル大帝のテーマ」。壮大な合唱が印象的な名曲。フルートによるシークエンス・フレーズは、後の「徳川家康」のシーケンサーに通ずるアレンジで、冨田は楽器ありきのアレンジをしているのではなく、あくまで頭に思い浮かんだアレンジをどの楽器に振り分けるのかという思想の人なのだと実感した。
「ビッグX」の後、「リボンの騎士 オープニングテーマ」、「リボンのマーチ」と続く。なんと、1967年のオリジナル版を歌っていた前川曜子がゲスト出演。あの思い出の歌を見事に再現。だって本人だもの。
監修の樋口尚文と中江有里によるMCを挟みつつ、【NHKのための映像音楽より】が始まる。
まずは誰もが知る「きょうの料理」。マリンバ3名による演奏だったが、聞きなじみがあるわりには意外と生で聴いたことのない曲である。わずか1分足らずだが、1度聴いたら忘れられないメロディ。監修の樋口によると、ほぼ即興で作られたそうな。それが60年以上採用されているというのはやはり冨田の作曲能力、天才というほかない。
続いて名曲中の名曲「新日本紀行テーマ」。西洋の楽器を使っているのにオリエンタルにアレンジされており、生で実際にオーケストラを見ていると、「こうやって演奏しているのか」と勉強になることが多い。
そしてお待ちかね、大河ドラマのコーナー。
まずは1963年の「花の生涯」。江戸幕府大老・井伊直弼を主役に据えた、記念すべき大河ドラマ第1回作品。数々のCDに収録されているオープニングテーマに前奏と後奏が加えられ、より壮大に。
次に1983年の「徳川家康」。篠田元一によるシーケンサーが左右に鳴り響く。篠田は、筆者にとっては『キーボード・マガジン』の連載の記憶が鮮烈だ。ほかにも、シンセサイザー関連の記事を多く執筆していたりし、シンセサイザー界の第一人者である。
そんな篠田による「通奏低音」ならぬ“通奏高音”のシーケンサーが会場中を浮遊し、まさに「トミタサウンド」といえる、オーケストラとシンセサイザー音の融合が始まった。そこに荘厳な男声合唱が小さな音で加わる。同じメロディを繰り返すのだが、そのたびに転調する。そしてそのたびに音量も増していく。小さな小川がやがて大河となるオープニング映像を想起させる見事なアレンジだ。エンディングは、オリジナル版よりもやや長くシーケンスフレーズを流し、篠田による手元のツマミでフェイドアウト。少し得した気分になった。
最後は1974年の「勝海舟」。前曲とは打って変わって軽快だ。イントロと中間部のジャズ風なピアノが重要な楽器なのだが、これをなんと篠田によるシンセサイザーで奏でられるという衝撃。オーケストラと一緒に奏でられるのは本物のピアノだという先入観を見事に破った編成である。冨田のコンサートだからこそかもしれない。こちらもCD収録版よりも長く、ダイナミックな演奏が堪能できた。
なおこのとき、演奏に白熱したためか、篠田が椅子ごと転倒するというアクシデントが発生。演奏後、指揮の藤岡が篠田への拍手を促すと、会場が一体となって大声援。微笑ましい一幕だった。
次に【創作ダンスのための音楽~大妻嵐山高校ダンス部との共演~】のコーナー。ここではダンスの教育教材用として冨田が作曲した「コムポジション『愛』」(1974年)を、コレオグラファーの辻本知彦が振付し、埼玉県にある大妻嵐山高校ダンス部の女子高校生たちが、オケの前に設けられた専用ステージでダンスを披露するという、このうえなく貴重なパフォーマンスをまのあたりにすることができた。
ここで第1部が終了。休憩を挟み第2部へ。【映画音楽より】のコーナーに突入。
映画「ノストラダムスの大予言」から。篠田によるフェイザーのかかったストリング・アンサンブル系の電子音で幕を開ける。そしてオーケストラが入り、冨田お得意の口笛シンセ音によるメインテーマが流れる――はずが、機材トラブルによって鳴らない。藤岡がタクトを振って、演奏中止の合図を送る。そして咄嗟のMC。この音が鳴らないと意味がないと。そして、冨田のサウンドを研究し、つくりあげた篠田の音を是非とも聴いてほしいという指揮者の願いにより、もう一度演奏がやり直された。
ゾクッと寒気さえ覚える恐ろしいモーグ口笛サウンドが会場内に鳴り響く。うんうん、やっぱりこの音だよ――と会場は藤岡の判断の正しさに納得し、やがてその音に圧倒されていく。「滅亡のテーマ」「メインタイトル」「永遠の生命(愛のテーマ)」などが奏でられた。
樋口によれば、「ノストラダムスの大予言」のサウンドトラックは「北米的なサウンド」に感じたという。たしかに、ここまで大胆にシンセサイザーを導入した日本映画はなかったかもしれない。
続いて「特撮作品より」では、まず「キャプテンウルトラ」を。時期としては「ウルトラマン」と「ウルトラセブン」との間に挟まれた1967年放映のSF特撮テレビ番組だ。「ウルトラ」と称するが、円谷ではなく、東映作品である。かの小林稔侍がキケロ星人のジョーを演じたことも、もはや伝説的だ。
樋口によれば「キッチュなのだがポップ」とのこと。樋口は、「スリー、ツー、ワン、ゼロ!」の部分を受け持つ杉並児童合唱団に「ここの歌詞は泣くところだから気合入れて!」と、直接に「ご指導」(?)を施す場面も。会場が笑いで包まれる。
筆者もかつて、杉並児童合唱団と共演(Shinsekai「Hamatai」)したことがあり、また筆者の生まれも育ちも杉並、ということで彼女たちへの思い入れが強い。その朗らかな声で全身が包まれると、「ああ、故郷の声だ……」と妙に郷愁にかられてしまう。そしてなによりも、大人の男声合唱と混ざることによって、“昭和感”がぐっと増すから不思議だ。前述の「スリー、ツー、ワン、ゼロ!」の後に来る「そら行け、キャプテン、ウルトラ~」の、特に「ウルトラ~」の部分などは震えが来る。また冒頭部分で打ち鳴らされる勇ましいティンパニーを生音で聴けたのも感激だった。
最後は1968年に円谷プロダクションが制作した「マイティジャック」。冒頭の物販の様子にも書いたが、1968年4月からわずか3カ月しか放映されなかった幻の特撮テレビドラマ。これを期待してきたオーディエンスが多い。「007とサンダーバードを足して2で割ったような」特撮作品で、これを生演奏で聴けることは、監修の樋口曰く「卒倒しそう」とのこと。事程左様に今回のコンサートにおけるクライマックスというべきプログラムなのだった。
指揮・藤岡のやる気もひとしおで、生前の冨田に、是非とも「マイティジャック」をやりたいと懇願したこともあるそうだ。だが冨田、「この曲は楽譜が残ってないんだよ。そして、どんな曲かも憶えていないんだよ」と答えたという。そのようなわけで、今回は楽譜を起こし直し、更には円谷プロダクションの協力まで得て、映像との同期演奏が実現した。
「昭和のアツさ」が詰まったエネルギッシュな演奏で、あっという間に15分が過ぎた。映像には当時の緻密な模型がいくつも登場し、目頭が熱くなってきた。たしかに、昭和の人力特撮、最高だ。ふと「CGなんかいらねぇぜ」と歌った大槻ケンヂ率いるバンド「特撮」の「特撮のテーマ」を思い出した。ミニチュアによる独特な質感が、今のコンピューターグラフィックには出せない、熱い何かを感じさせる。
こうして本編終了。拍手喝采、アンコールへ。「マイティジャック」の歌詞がスクリーンに映し出され、客席も総立ちで熱唱。暑い、熱い、昭和はとにかくアツかった。
コンサート当日の模様
このコンサートは、間違いなくシンセサイザー奏者、そして作曲家である故・冨田勲の目指していた音楽像だったのではないか。オーケストラとシンセサイザーがここまで違和感なく耳に入ってくるという経験が未だかつてなかったゆえに非常に新鮮な音空間を経験することができた。アコースティックとエレクトリックという一見相反する楽器同士だが、冨田にとってはパレットで絵具を混ぜるように、出したい音色に分け隔てはなかったはずだ。
CDの「徳川家康」を聴いて感じていたそのサウンド思想を実際に生で体感するにあたり、どの楽器がどのような音色を奏で、どのような世界が構築されるかをついつい目と耳を凝らし見入ってしまった。これは本当にいい勉強になった。しかしコンサート終了時にはクタクタとなり、肩も凝ってしまった。
そういえば、MCでこんな話が出ていた。当時、多忙を極めていた富田だが、東京―大阪間を自らハーレーで横断していたという。それでも不思議と肩凝りが全くなかったのだそうだ。その理由を聞くと、「東西」をバイクを使って高速で移動することにより、電磁波かなにかの影響で肩凝りがなくなるそうなのだ。ちなみに「南北」では効かないという……。筆者も肩凝りを解消すべく、バイクで東京―大阪間を行き来してみるとするか。
文・取材=高木大地(金属恵比須)
放送情報
■放送日時:2018年11月10日(土)23:30
■出演:
冨田勲(作曲家)
前川陽子(歌手)
オーケストラ・トリプティーク
冨田勲メモリアル合唱団
杉並児童合唱団
藤岡幸夫(指揮者)
繁田美貴(テレビ東京 アナウンサー)
9月に東京国際フォーラムで行われた、藤岡幸夫指揮によるコンサート「冨田勲 映像音楽の世界~Sounds of TOMITA~」のリハーサルと本番の模様を放送。“世界の冨田”が残した楽曲の数々をお届けする。
冨田勲の没後では最大規模となるメモリアルなコンサート。庵野秀明監督から「マイティジャック」を生オーケストラで聴けることへの感激のメッセージが届くなど、コンサート開始前から話題になった。
コンサート司会は樋口尚文と中江有里。藤岡幸夫指揮、オーケストラ・トリプティーク、篠田元一のシンセサイザー、合唱、ダンスという総勢150人に及ぶ出演者が熱演!花の生涯、徳川家康、勝海舟など「大河ドラマのテーマ音楽」や「マイティジャック」「キャプテンウルトラ」「ノストラダムスの大予言」などの特撮音楽、そして生誕90年の手塚治虫のアニメ音楽などを大特集した。藤岡幸夫の指揮により、シンセサイザーを加えたオーケストラにダンスや合唱も参加しての圧巻のステージに、来場したファンは、鳴り止まぬ拍手で色褪せぬトミタサウンドへ喝采を送った。アニメ映画音楽、現代音楽、日本の作曲家の演奏に定評のあるオーケストラ・トリプティークのエネルギッシュな演奏がトミタサウンドを新たな時代に届けるような歴史的なコンサートとなった。
公演記録
■日時:2018年9月17日(祝・月)15:00 開演(14:15 開場)
■会場:東京国際フォーラム・ホール C
■監修:樋口尚文
■演奏:オーケストラ・トリプティーク(コンサートマスター:三瀬俊吾)
■合唱:合唱、児童合唱(冨田勲メモリアル合唱団を特別編成)
■司会:中江有里
■歌手:前川陽子
【アニメ音楽】
手塚治虫作品より、ジャングル大帝のテーマ、リボンの騎士、リボンのマーチ、ビッグX
「きょうの料理」
「新日本紀行」テーマ
大河ドラマ「花の生涯」テーマ、
大河ドラマ「徳川家康」テーマ、
大河ドラマ「勝海舟」より
映画「ノストラダムスの大予言」組曲
「キャプテンウルトラ」より
「マイティジャック」より(映像とともに演奏)
高木大地(金属恵比須)ライブ情報
■日時:2019年1月26日(土)18:00開演(開場17:00)
■会場:横浜ベイジャングル
■出演:難波弘之&荒牧隆、金属恵比須、那由他計画、百様箱
■問合せ:居酒屋ROUNDABOUT 045-680-0630
■
■日時:2019年3月23日(土)
■会場:高円寺High
■出演予定:金属恵比須、xoxo(Kiss&Hug) EXTREME
■金属恵比須公式サイト:http://yebis-jp.com/
筆者・高木大地のリリース情報
発売中
定価:2,500円
取扱予定店舗:ディスクユニオン、HMV、タワ―レコードほか
1. 新府城
2. 武田家滅亡
3. 桂
4. 勝頼
5. 内膳
6. 躑躅ヶ崎館
7. 天目山
8. 道連れ
9. 罪つくりなひと
10. 大澤侯爵家の崩壊
11. 月澹荘綺譚
稲益宏美 ヴォーカル
栗谷秀貴 ベース
後藤マスヒロ ドラム(元・頭脳警察、人間椅子)
髙木大地 ギター
宮嶋健一 キーボード