三島由紀夫×ノゾエ征爾『命売ります』稽古場レポート 個性的で魅力的な役者陣が描く三島ワールド
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撮影:森恒河
2018年秋、三島由紀夫の遺作『豊饒の海』とユーモアにあふれた小説『命売ります』が相次いで舞台化、上演される。『豊饒の海』は現在絶賛上演中だが、脚本・演出・出演のノゾエ征爾が手掛ける『命売ります』は、2018年11月24日(土)からいよいよサンシャイン劇場にて上演される。
初日までのカウントダウンが始まった『命売ります』。本作の稽古場を見学することができたので、その模様をお伝えしよう。
ステージの上には大人が一人寝転がれるくらいの大きさの長方形の台が6×2個、台の奥にはアパートの扉のようなものが6個。下手には階段があり、そこから上がると、またアパートのように扉が7個並んでいた。二階の通路にあたる場所には「命売ります」という看板が掲げられている。
撮影:森恒河
撮影:森恒河
稽古場に入った時、羽仁男役の東啓介らキャストたちが話をしていたが、その中に警察官姿のノゾエもさりげなく混ざっており、気がつくのにしばらく時間が必要だった。
今回脚本・演出・出演の三役をこなすノゾエは、その警官姿のままステージと演出卓を行き来し、スタッフとマメに言葉を交わしていた。
撮影:森恒河
この日は衣裳付き稽古ということで、ふと、キャストが身につける衣裳が気になった。薄めのモスグリーン、サーモンピンク、濃茶、濃紫、ベージュ、柄物……カラフルな色が目に飛び込んでくる中、東だけが真っ白のジャケット姿。物語を通して出会う人々のさまざまな「色」に染まるつもりなのか、逆に何者にも影響されない、という意味での「白」なのか。その答えはこの舞台を観ればわかるのだろうか。
「まもなく始めます」のスタッフの声にキャストたちがパッと持ち場に散らばっていく。東に最初の仕事の依頼をする老人役の温水が台の上に立っていて、羽仁男がその様子を眺めているところから物語は始まったー。
撮影:森恒河
老人はとある女性のディテールを早口でエキセントリックに、そして具体的に説明しては「どうだ?」と何度も羽仁男に確認。温水が個性的な人物を演じる様に徐々に笑いがこみ上げていく。
個性的なのは老人だけではない。羽仁男の命を買おうとする、図書館の中年女(家納ジュンコ)、少年(上村海成)とその母(樹里咲穂)。物語の後半で出会う玲子(馬渕英里何)、物語の節目節目に登場する娘(川上友里)やおばちゃん(平田敦子)に至るまで、皆何か、どこか普通ではない強烈なクセと存在感を持っており、魅力的。羽仁男の前に新たな人物が登場するたびに次はどのように羽仁男に絡んで、どう振り回すのか、と楽しみになってくる。
撮影:森恒河
撮影:森恒河
羽仁男が没個性という訳ではもちろんない。ただ周りのキャラクターが余りにも個性的過ぎて、「命を売る」という、これ以上ない変わった事をしようとしている羽仁男が逆に普通に見えてくるのだ。
だが、この過程があるからこそ、物語の後半で羽仁男が見せる「真実の姿」がより際立つのだ。彼はどんな結末にたどり着くのか。それは是非劇場にてご確認を。
撮影:森恒河
撮影:森恒河
また冒頭に触れた長方形の台もこの物語の方向性に大きな影響を与えていた。キャストたちは台から台へとその上を動き回り、台の上に寝ころび、時には台から降りて上にいる人を見上げ、さらには台の下から這いずるように登場し、観る者を驚かせる。果たして本番はどんな設えになるのかも気になるところだ。
撮影:森恒河
漫画のようにコミカルな芝居の中でキャラクターたちが放つ台詞の端々に、原作者三島由紀夫の思考が見え隠れする。『豊饒の海』でも描かれているが、若く美しいまま死ぬのを良しとするか、老いを受け入れながらも生きるのを良しとするのか……。三島の永遠のテーマであり美学は、ユーモア溢れる『命売ります』の中でもやはり描かれている。
ある人物が口にする「じっくり時間をかけて死を編んでいる」という台詞が特に印象に残っている。その真逆の位置に、若くして命を売ろうとする羽仁男の存在があるのかもしれない、と。ただその羽仁男も決して達観しているのではなく、未だ葛藤している。
撮影:森恒河
撮影:森恒河
三島は本作を発表した2年後、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地で割腹自殺を遂げる。「人間はなんでこんなに煩わしいのか」と叫ぶ羽仁男の言葉は、ある一つの「答え」にたどり着く直前の三島本人の叫びなのかもしれない。
劇中でキャストたちが歌う、懐かしくも美しく、時々不協和音も織り交ぜたハーモニーを聴きながらそんな事を思わずにはいられなかった。
取材・文=こむらさき
公演情報
■原作:三島由紀夫
■脚本・演出:ノゾエ征爾
■美術:深沢襟
■照明:吉本有輝子
■音楽:田中馨
■音響:井上直裕(atSound)
■衣裳:駒井友美子
■ヘアメイク:西川直子
■演出助手:神野真理亜
■舞台監督:榎太郎
■企画:田中希世子
■プロデューサー:藤井綾子
■製作:井上肇
■企画製作:株式会社パルコ
東啓介 上村海成 馬渕英里何 莉奈 樹里咲穂 家納ジュンコ
市川しんぺー 平田敦子 川上友里 町田水城 ノゾエ征爾 不破万作 温水洋一
■公演日程 :2018年11月24日(土)〜12月9日(日)
■会場 :サンシャイン劇場
■入場料金 :S 席 8,500 円 A 席 7,000 円(全席指定・税込)
■問合せ :パルコステージ 03-3477-5858(月~土 11:00~19:00 日・祝 11:00~15:00)
■公式サイト:http://www.parco-play.com/web/play/inochi/
■公演日程:2018年12月22日(土)
■会場: 森ノ宮ピロティホール