新派と松竹新喜劇が藤原紀香を迎え豪華二本立て『二月競春名作喜劇公演』会見レポート
左から藤山扇治郎、渋谷天外、水谷八重子、波乃久里子、藤原紀香
創立130年の劇団新派と、創立70年の松竹新喜劇がコラボレーションする『二月名作喜劇公演』。2019年2月(会場:新橋演舞場)の上演に先駆けて、都内で製作記者発表が行われた。会見には、新派より水谷八重子、波乃久里子、松竹新喜劇より渋谷天外、藤山扇治郎、そしてゲスト女優の藤原紀香が登壇した。
会見の冒頭では松竹株式会社副社長の安孫子正氏が、この公演を「喜劇がベースの、珠玉の名作を皆さんにお届けする貴重な機会」であると紹介。同社が新派とも松竹新喜劇とも関わりを持ちながら、歴史を重ねてきたことに触れ、「さらに強力なゲストである藤原紀香さんは、片岡愛之助さんの奥様でいらっしゃいます。私たち(松竹)の身内だと思っています」と場を和ませた。
演目は、『華の太夫道中』(昭和30年初演。作・北條秀司『太夫さん(こったいさん)』を改題)と、『おばあちゃんの子守唄』(昭和29年初演。作・舘直志『船場の子守唄』を改題)。両劇団の名作が、昼夜共通の二本立てて上演される。
水谷八重子が新喜劇に派遣?!
松竹新喜劇の『おばあちゃんの子守歌』で主人公の節子を務めるのが、新派の水谷八重子。
水谷八重子
昭和の喜劇王・藤山寛美が演じた、おじいさんの役どころを、おばあさんに書き換えての上演となる。水谷は開口一番に「うれしいんだか、悲しいんだか。松竹新喜劇の足を引っぱりに行くような気がして、いたたまれない」と神妙な面持ち。波乃が「どうして?!」と思わずこぼしたところで、水谷は続ける。
「『船場の子守唄』の映像を拝見しました。寛美先生が(この作品で)言いたいことを言い尽くしていらっしゃる。それに対してお客さんがワーっとウケていらして、これは私に到底できるものではありません」「どれくらい子供に好かれるおばあさんになれるか。子どもを持ったことのない私ですが、猫を飼っております(笑)。小さい命の大切さから、人情というものをお客様にお伝えできれば」と、ユーモアをまじえつつ、この役への真摯な思いを明かした。
最後は「新派から派遣されてまいります。一番下の者として、おかもちも持ちます。何でもおっしゃってください」と天外に深々と頭を下げ、一同の笑い声の中、挨拶を締めくくった。
「おかもちも持ちます。なんでもおっしゃってください」と水谷八重子。
波乃久里子は『華の太夫道中』で、6度目のおえい役。
「私は姉(水谷)とは逆さまに、本当にうれしい二月でございます。花柳章太郎先生より譲り受けた役。藤原紀香さんがきみ太夫をやってくださることも大変うれしく思います」
過去に五回、おえいを勤める機会を得られたのは、そのたびに喜美太夫を演じていた藤山直美が、声をかけてくれたおかげだと感謝を述べる。
「『太夫さん』は、(初演でおえいを演じた)花柳章太郎先生が、劇作家の北條秀司先生の一年間を買って京都に住まわせて作った大事な作品です。大事につとめさせていただきます」
波乃久里子
渋谷天外(三代目)は、『おばあちゃんの子守唄』で、節の息子・平太郎役で出演。水谷の役どころを、初演では曽我廼家十吾、その後は渋谷天外(二代目)、藤山直美、そして自身も勤めたことを紹介。そして「私はええ加減な方ですが、まあ~、大丈夫やと思いますよ!」と軽妙な語り口でエールを送ると、水谷をはじめ一同は爆笑。
「孫、子ども、おばあちゃん。この三世代のタテの絆を描いています。この芝居をみてお互いがお互いを思う気持ちを思い出していただければ、という主題のお芝居です。二代目(父)の脚本ではございますが、主役が変わるたびに芝居の匂いも変わっていく作品です」
記者から本作で新たに挑戦したいことを尋ねられると「台詞を少なくしたいです」と即答し、ふたたび会場を笑わせる。再演を重ねる中で増えていった台詞を、稽古の中で見直していきたいという。
渋谷天外
『華の太夫道中』と『おばあちゃんの子守唄』の両作に出演予定の藤山扇治郎は、自身のルーツと新派との関わりを辿って紹介。おばの藤山直美は過去に五度、『太夫さん』の喜美太夫を勤め、祖父の藤山寛美の芸名の名付け親は、新派の名優・花柳章太郎。さらに扇治郎自身の初舞台は、波乃久里子の弟である十八世勘三郎が見届けた。
「素晴らしい先輩方と共演させていただけることが一番の糧になります。諸先輩方の力をお借りし、一生懸命つとめさせていただきます」と気合いのコメント。
水谷と波乃は、とても大きな存在であるとした上で、過去の共演時には「楽屋で昔の役者さんの話を聞かせてくださったり、食べきれないほど中華を頼んでくださって、ちょっと残ると『何で食べないのよ!』とおっしゃったり」と微笑ましいエピソードを披露。水谷についても「隣にいてくださると心癒されるんです。実はギャグとかダジャレがお好きで」と、雰囲気を感じさせた。
藤山扇治郎
藤原紀香は『華の太夫道中』に、きみ子(きみ太夫)役で出演。京都島原の遊郭にひきとられ、おえい(波乃)に芸を仕込まれるという、役どころだ。
「新派さん、松竹新喜劇のみなさんと一緒に舞台に上がらせていただき、稽古をさせていただける。役者のはしくれとして幸せな機会を迎えさせていただきました。しかし、役どころには緊張しております。藤山直美さん、水谷八重子さん、初演では京塚昌子さんと、名優の方々が演じてこられた役ですので、ビデオを擦り切れるほど観ました。そんな方々の真似なんていうことは、できません。私にできることは、しっかりと本気で稽古に向かい合い、私なりのきみ子を自分の中で模索してまいります」
藤原紀香
劇中で、三味線を扱うシーンがあることから、すでに稽古を始めているという藤原。
「久里子お姉さん演じるおえいに、三味線を習うシーンがあるのですが、まずは弾けないと、弾き間違える演技もできません。舞台を観にいっても、三味線方の皆さんの手をずっとみているようになりました。色々なことに対し、奥が深すぎるなと感じるようになりました。プレッシャーはございますが、女優としてもっともっと勉強していかなあかんと思います」
会見では、藤原紀香のミニドレスも話題に。ユミカツラのもので、広重を想起させる花魁が描かれている。
質疑応答で、松竹新喜劇との思い出を尋ねられた水谷は、新橋演舞場取り壊し前の記念公演で、たった一回だけ藤山寛美と共演したことを「一回だけしか共演できなかった悔しさと、一回でもご一緒できた喜び。それに尽きます」と感慨深げに語った。
新派130年、松竹新喜劇70年。ふたつの歴史が贅沢に重なり合う『二月名作喜劇公演』は、2019年2月2日より23日まで新橋演舞場にて上演される。
取材・文・撮影=塚田史香
公演情報
■会場:新橋演舞場
「華の太夫道中」作:北条秀司(「太夫さん」)
「おばあちゃんの子守唄」作:舘直志(「船場の子守唄」)
水谷八重子、波乃久里子、渋谷天外、藤山扇治郎、藤原紀香、
高田次郎、井上惠美子、曽我廼家八十吉、曽我廼家寛太郎、
曽我廼家文童、瀬戸摩純、春本由香、丹羽貞仁 ほか
■一般発売:2018年12月25日(火)
■公式サイト:https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/enbujo1902/