舞台『弱虫ペダル』IRREGULAR 2つの頂上 東京公演スタート[ゲネプロ]
ハンドルだけを持った役者が己の身体表現を駆使してステージ上に自転車レースを出現させるという、まさに舞台ならではの躍動感が感動と評判を呼び、回を重ねるごとに観客動員を伸ばして来た、舞台『弱虫ペダル』。そのシリーズ7作目となる「IRREGULAR~2つの頂上~」、東京公演開幕前日に行なわれたゲネプロの模様をレポート!
ゲネプロレポート
これまでアニメ好きの高校1年生・主人公の小野田坂道が仲間たちに触発されながら自転車乗りとしてその才能を開花させていく成長物語と、坂道を取り巻く高校生ライダーたちとの交流、そして彼らが全力でぶつかり合うインターハイの3日間を中心に描かれて来た本作だが、7作目となる「IRREGULAR~2つの頂上~」は、通常の作品とはひと味違うスピンオフ。坂道の所属する総北高校自転車競技部でクライマーを務める巻島裕介と、同じく箱根学園でクライマーを務める東堂尽八の長きに渡る素晴らしきライバル物語の顛末が、熱く激しく刻みつけられていた。
“頂上の蜘蛛男(ピークスパイダー)”と呼ばれる巻島と、“眠れる森の美形(スリーピングビューティー)”と呼ばれる東堂。育った環境も自転車競技との出会い方も異なるふたりは、初めて競技会で出会った瞬間から常にどちらが先に坂(山道)を制するかを競い合うことを宿命づけられた強力なライバルとなる。考え方やスタイルは正反対。しかし、自身の美学を貫きながら孤高に頂上を目指して走るという“生き様”は合わせ鏡のようにぴたりと一致! 互いに強烈なシンパシーを感じながら日々高め合い競い合う姿は、見ていて気持ちがいい。
巻島役の廣瀬智紀は、人付き合いが苦手で不器用だった少年が、自信満々に個性的なフォームで走るようになっていくまでの心の成長を丁寧に表現。東堂役の北村諒は、育ちの良さから来る嫌みのないナルシストとしてのカッコ良さを最後までブラさない。互いが互いを引き立て合うこのふたりの関係、絶妙な人物コントラストは本作の大切な柱。美しい友情の結晶だ。
全体の構成は濃密かつボリューミー。インターハイ3日間を含め、ふたりがこれまで対戦してきたレースのハイライトシーンが次々にダイジェストで展開、人間ドラマはもちろん、演出・脚本の西田シャトナーが俳優たちとともに創りだしてきた自転車競技のフォーメーションの数々が惜しみなく披露されていく。ブリッジ状の直線コースと2本のスロープを人力で縦横無尽に移動させるセットの変化と、車輪の回る音や風切り音、進行方向に合わせて角度を変える照明の“陽射し”によって選手たちが今どんなコースを走り抜けていくのかがイメージできてしまうこの空間は、ペダステでしか味わうことのできないスピード感溢れる“レース体験”。シリアスな展開の最中、笑い&ドタバタアリのスパイスとして、キャスト全員が本役のほかに複数の兼ね役で舞台上をにぎわせる人海戦術もまた、嬉しいお約束である。
前作までとの大きな変化は、坂道役が小越勇輝にバトンタッチしたこと。シリーズ途中で主人公が交代するのは作品にとっての影響も大きいが、本作での坂道は“先輩たちのしのぎ合いを眩しく見つめる未知数のルーキー”という、少し傍観した立ち位置。そんなフレッシュな役どころの在り方そのままに、自然にカンパニーに溶け込み先輩たちの自転車精神を柔軟に享受していた小越。天真爛漫な笑顔で末っ子的魅力をしっかりと発揮しながら、“この先”への希望も感じさせる新・坂道としてきっちり役割を果たしていた。
チームとしての強固な結束と同時に、なにかあったら仲間を置いて先へ進むという非情な判断も要求される自転車レース。強い個人と強い他人との絆が共存する世界は、ウソのない関係がなければ成り立たない。止まることのない2時間30分、ここまで過酷で見応えがある芝居をガッツリ届けてくれる舞台上の役者たちもまた、ウソのない絆でペダルを漕ぎ続けていた。その熱に誘われ、友情とスピード感に酔いしれる──理屈を超えた体感が、ここにはあった。
囲み取材より
名古屋は今までにない大きな劇場でしたが、とてもいいスタートを切れたので、それを東京・大阪・福岡にも繋げていければ。今回は巻島と東堂をメインに描く作品ですが、尊敬できる役者さんたちが周りで支えて走ってくれていますので、僕らふたりもより一層座長として、自分たちの全力の走りをお届けしたいと思っています。自転車は過酷さも困難も、本当に楽しさに変えてくれるんです! 今までの(巻島と東堂の)集大成としても自信を持ち、楽しさの伝わる公演にしたいです。
今回はインターハイ3日目という山場を超え、新たに東堂と巻島がメインで描かれることが嬉しくて、全力でやらせてもらっています。名古屋のお客様の温度も感じることができ、その温度を持って東京からもしっかりと走れたらいいなと思っています。“出会って繋げる”をテーマに、総北高校と箱根学園のチームカラーの違いも見せたいですね。僕らにできるひとつひとつを全力でやり、しっかりと客席を包み込んで…客席も一緒に走れるような公演にしたいです。
今回初参加で不安もありましたが…名古屋で舞台に上がり、改めて「この作品はお客様と一緒に創る舞台だ」と確認しました。楽しいです。物語はふたりの先輩の友情・絆が見どころですが、その思いを坂道や真波…次の世代にバトンを渡していくところも詰まっているので、そういうところも感じてもらえたら、みんなの普段の関係性も見えるんじゃないかと。名古屋で感じたモノを背負い、さらに続いていく公演の中で『弱虫ペダル』のよさを伝えていきたいです。
シリーズ初の名古屋公演は劇場も最大規模で、身の引き締まる思いで臨みました。ペダステはお客様と一緒に創る舞台です。名古屋で創れたベースを基に、この先もいい公演にしたいですね。今回はより一層、芝居として挑戦している部分も大きいですし、本気でやっている僕らの姿や汗、熱量は、一生懸命やればやるほど伝わるモノがあると信じています。お客様に身体の心配をされる集団ですが(笑)、ふたりの座長を中心に、頂上を目指して頑張っていきます。
[取材・文=横澤由香]
[撮影=平田貴章]
©渡辺航(週刊少年チャンピオン)2008/「弱虫ペダル」GR製作委員会
©渡辺航(週刊少年チャンピオン)/マーベラス、東宝、セガ・ライブクリエイション
<公演日程・会場>
2015/10/8(木)~12(月・祝) 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール(愛知県)
2015/10/22(木)~10/25(日) TOKYO DOME CITYHALL(東京都)
2015/10/29(木)~15/11/3(火・祝) 梅田芸術劇場 メインホール(大阪府)
2015/11/7(土)~15/11/8(日) キャナルシティ劇場(福岡県)
<スタッフ・キャスト>
原作:渡辺航「弱虫ペダル」(秋田書店『週刊少年チャンピオン』連載)
演出・脚本:西田シャトナー 音楽:manzo
巻島裕介 役:廣瀬智紀
東堂尽八 役:北村諒
小野田坂道 役:小越勇輝
今泉俊輔 役:太田基裕
鳴子章吉 役:鳥越裕貴
田所迅 役:章平
金城真護 役:郷本直也
福富寿一 役:滝川英治
黒田雪成 役:秋元龍太朗
真波山岳 役:植田圭輔
水田信行 役:桝井賢斗
糸川修作 役:大野瑞生
寒咲通司役:安里勇哉
パズルライダー:
一瀬悠 掛川僚太 伊藤玄紀 河野智平 廣瀬真平 村上渉