「わりなき恋」一人芝居も上演、岸惠子トークショー『ひとり語り 輝ける夕暮れ』開催決定 取材会レポート
岸惠子
フランス・パリへ移住してからも第一線で活躍し、映画女優として今年デビュー68年目を迎える岸惠子。昨今は作家としても精力的に活動しており、2015年、2016年には自身の著書『わりなき恋』の朗読劇を全国17カ所で行っている。
今回2年ぶりとなるトークショーが2019年5月18日(土)東京・新宿文化センター大ホールで初日を迎える。『岸惠子 ひとり語り 輝ける夕暮れ』と題し、東京・神奈川・千葉・埼玉・名古屋・大阪10カ所で公演が予定されている。軽妙なトークに定評のある岸がどのようなショーを見せてくれるのか。都内で行われた記者発表の模様をお伝えする。
今回のトークショーは1部に一人芝居「わりなき恋」が上演され、第2部にフリートークが行われる構成となる。岸は改めて「わりなき恋」を執筆するきっかけとなった出来事にふれ、「人生の夕暮れ時にパーっと虹の立つような話があればいいなと思っていました」と語る。高齢の男女が出会って恋に落ちる物語を書きたいと20年ほど前から思っていたのだそうだ。岸自身が経験した飛行機の中での出会いをつかんで、4~5年かけて物語を編み出したのだという。
今回の一人芝居は、2015年と2016年に上演されたものを凝縮したものになる。「私は映画人。本当はこの作品を映像に残したかった」と岸は語るが、主人公の女性を演じられる人が見つからなかったとのことで、まわりの勧めもあって舞台で一人語りをすることを決心し、一気に脚本を書き上げたそうだ。
「舞台慣れしていないから、初日の明治座で満席のお客様を見たら真っ青になってガタガタ震えてしまった」と大女優の意外な一面を見たが、「ライトを浴びて観客の拍手が起こったとたん怖さが消えて、主人公の伊奈笙子になりきって夢中で演じた」というのはさすがだ。
第2部では同時に発売される新作エッセーの話をからめ、時にはスクリーン映像を見ながらのフリートークとなる予定だ。岸が今の年齢で感じていること、ちょっと聞いてほしいと思っていることを語るということだが、
「本のタイトルは『孤独という道連れ』(幻冬舎)にしました。孤独ってネガティブで寂しい意味にとられているけれど、私は若い時から一人でいるのが好きでした。日本人は優しく礼儀正しい民族だけれど、腰砕けなところがあります。フランスの女性は強いですよ。だから日本人は、優しいところを活かしつつ、(孤独に)めげないようにしたほうがいいと思うので、そういうことをちりばめて今回のエッセーを書きました」と、パリで43年間暮らした岸ならではのコメントが飛び出した。
以下、主な質疑応答を紹介する。
ーー昨年『愛のかたち』という本を出版されましたが、この作品も恋愛小説です。岸さんにとって恋は大切な要素ですか?
『愛のかたち』の中の『南の島から来た男』以外は、全く何もないところから生み出した話です。私は恋物語を書くのが好きですね。恋なんていう突飛な出来事が、人生の最晩年に起こってもいいんじゃないかなという発想があります。
恋と友情、そして家族は大切。でも本当の友達は男女一人ずつあればいいと思っています。私の家族はフランスにいるので寂しいですけれど、本当の友達はいますから幸せに思っています。
ーー長く映像の分野で活躍されてきて、舞台に臨まれるのにあたり取り組んだことは?
ないです。私は舞台を見るのがあまり好きではないんです。すごいなと思って舞台を観ることはあるけれど、舞台って声を張るじゃないですか。実は私、声にすごくコンプレックスがあるんです。時々割れてしまうし、かすれるし。朗読劇はその人の気持ちになって(せりふを)言っているだけなのですが、それが私のやり方ですし観ている方が楽しんでくださればいいと思っています。
岸惠子
ーー2部で流されるスクリーン映像ですが、過去に出演された映画を使うのですか?
2部にどんな映像を使うかは、まだ決まっていないんです。長い間生きているといろいろな場面が思い浮かぶんですよ。今回は私が訳した本で亡命したユダヤ人のおばあさんの話「パリのおばあさんの物語」を使うつもりです。いい話なんですよ。映画の話はするかもしれませんが、自分が出演した映画は入れないつもりです。
ーー2幕目でちょっと聞いてもらいたいことをお話するとおっしゃっていましたが、聞いてもらいたいと思うのはどういうシチュエーションの時ですか?
前回の公演の時に50代ぐらいの品のいい方が「岸さんの著書『風を見ていた』の感想を書きましたので、読んでください」と持っていらしたんです。すごくいい感想だったのでうれしかったんですけど、最後に「失礼を顧みず申し上げると、大好きなあなた様がまだご存命でいらっしゃるとは夢知らず」と書いてありびっくりしました。私はその頃『かあちゃん』で日本アカデミー賞主演女優賞をいただいていましたし、『こころ』というNHKの朝ドラに出演していて、すごく評判になっていたんです。その方は私を女優としてではなくて、作家として見ていてくださるのかなと感動しました。
また「お若く見えますね。何か秘訣は?」とよく聞かれますが、私は年中ストレスがたまっているんです。ぬるい温泉につかっているよりもそういう生活をしているから老けている暇がないんですよ。
このような話を新作のエッセーに書いていますので、そんなことを聞いていただこうかと思っています。
ーー本のタイトルがどれも素敵ですが、タイトルは急にわいてくるのですか?例えば『わりなき恋』というタイトルは、どういう感じでつけたんですか?
「わりなき」というのはどうしようもないという意味なんですけど、これは妻帯者の男性とリポーターである女性の話ですから、わりない恋なんです。古今和歌集の中から「心をぞわりなきものとおもひぬる見るものからや恋しかるべき」という和歌からいただきました。私は日頃からいいなと思う言葉や詩(うた)をノートに書いて、それを時々パラパラと見ています。
ーー岸さんの人生は多くの人が憧れる唯一無二の人生だと思います。ジャーナリスト、作家、俳優としてやってきて、岸さんは自分の人生をどう思われますか?
唯一無二は確かですね。こんなに苦労があった人生を生きてきて、自分でも感心しています。
私は人生で自分のやりたいことをやってきた、そしてこれからもやっていきたいと思っています。何でも引き受けるタイプではないので、「これをやりなさい」と言われて嫌なものは断っています。
ーー重要にしているのは、物語をつむぐ根本ともいえる「恋」ですか?
恋というよりも心の在り方です。こういう時代に恋を求めるか、母や娘の愛情を求めるか。人間って自分への愛だけじゃなくて誰かに尽くしたい、誰かに喜ばれたいというものがないと、つまらなく歳をとってしまうと思います。だから情を大切にしていきたいですね。
岸惠子
■岸惠子
ヘアメイク:石田伸(アーツ)
衣装:松田綾子(オフィス・ドゥーエ)
取材・文=秋乃麻桔 撮影=山本 れお
公演情報
0570-00-3337(全日10:00〜18:00)