“完成した状態が出発点”破壊と創造のキットブロックシリーズ「ヘキサギア」製作者が語るその自由さ・シナリオに内包された死生観とは
「破壊も創造も、全てお前が決めろ・・・」そんなキャッチフレーズで展開されているプラモデルシリーズがある。
老舗メーカーコトブキヤが2016年から仕掛けているこの「ヘキサギア」シリーズは、スクラップ&ビルドをコンセプトに掲げ、汎用性のあるブロック単位のパーツを組み合わせて様々なマシンを作り上げる創造性の高いものとなっている。
硬派な世界観を表現するストーリーと、各々のマシンのスタイリッシュかつ素直に「かっこいい!」と思えるデザインなどでじわじわと人気を獲得している本シリーズ。SPICEではこの面白さを伝えたいと思いたち、コトブキヤに取材依頼。企画部 クラフトコンテンツチームの亀山直幸氏、糸山雄大氏、原型課の桑村祐一氏に直接お話を伺うことができた。
今玩具メーカーが本気で仕掛けるオリジナルコンテンツはなぜ生まれたのか?どう展開していくのか?ロングインタビューでお届けしよう。
――今回お話を伺うヘキサギアですが、モデラーやファンには話題になっているものだと思いますが、改めて今回シリーズを知る方に向けて、ヘキサギアとはどういうものなのかをお伺いできればと思います。
亀山:弊社はプラモデルとかフィギュアとか様々な商品を展開しているんですが、ヘキサギアはアニメやゲームなどの原作が存在しないオリジナルで「プラモデルとしての要素と、ブロックの要素をかけ合わせたメカシリーズ」という形で展開しております。パイロットに相当するガバナーと呼ばれる兵士兼メカニックのキャラクターが、1/24スケールのメカに乗り込んで戦うという物語です。このメカは六角形のジョイント規格(ヘキサグラムシステム)になっていて、それを使って好きな形を自分でデザインして作っていけるところが特徴となっております。基本の仕様から、更にパーツなどを使って色んな形に変更していくことができるところが特徴ですね。
――このガバナーも中世騎士っぽいものから侍、女の子まで種類が色々ありますが、このラインナップの幅広さも狙っている部分なんでしょうか。
亀山:そうですね。ユーザーさんがどのキャラクターを好きなのかというのが最初は分からないものですから、何種類もの中から好きなキャラクターを選んで好きなメカに乗せるというところがポイントなんですね。なので人気の方向性というのは分かっていたりするんですけども、色んなパターンを出していくためにこういう展開にしています。
――軍事っぽいのが好きとかファンタジーっぽいのが好きとか分かれそうな気がしますね、思ったよりサイズ感も小さくて驚きました。
亀山:一番最初に出たポーンA1というキャラクターが全高74mmなんですが、このキャラクターを最初1/35にしようと思ってたんですよ。
――今よりさらに小さい?
亀山:はい、戦車のプラモデルとかと合わせるために。ただ1/35で可動を仕込むというのがかなりしんどかったんですね。一番最初はポーズを固定した状態で商品に付属するという内容だったんですけど、それだと毎回コクピットの形に合わせて形状を一から作らなきゃいけないというところと、無彩色のポーズが固定されているキャラクターが果たして面白いのかどうか分からなかったので、単品で成り立つプレイバリューというのを入れて、なおかつキャラクター性を持たせる。で、このサイズなので色んなポーズに動かして戦場を演出するみたいな、そういうことができたら単独で他のシリーズとの差別化もできて面白いんじゃないかな、と思ったところが発端ですね。
――コトブキヤさんには『フレームアームズ・ガール』とかメディア展開しているものもありますが、なぜヘキサギアという新しいシリーズを立ち上げようと思ったんでしょうか。
亀山:発端としては流行に左右されない、いつまでも遊んでいられるような商品を作りたかったというところがありますね。自分が担当してるシリーズで他にもモデリングサポートグッズ(M.S.G)というシリーズがあるんですけども、その中でフレームアームズに合わせて色んな形に作り変えられるヘヴィウェポンユニットというシリーズを始めたんですよ。それが過去のシリーズと比較して見ても爆発的に売れた。それでその3mmという基準を守った組み換え要素というところがユーザーさんに受けるということが分かってきたんですよ。
――なるほど。
亀山:それを使ってユーザーさんは動物型とかを自分で作り始めたんですね。ユーザーさんがそういう遊び方をするんだったらもっと遊びやすくするためにと試行錯誤した結果、3mmのジョイントだとどうしても強度が足りなくなってきたりするポイントもあったので、更に強化した5mmのジョイントと、六角形状で角度を決めて固定できるジョイント自体を換装できるシステムをデザイン上にも盛り込んだ、新しいシリーズとして展開しようということでこういうシリーズが始まったという感じです。
――桑村さんは制作する側だと思いますが、こういう形を作っていくというお話が来た時はどういう感じでしたか。
桑村:僕も制作の時に最初から関わっていたわけではないのであれですけど、人物に関してはやっぱりすごく小さいなと思いましたね。
――制作の原型を作っていくところでのご苦労などはありましたか。
糸山:私は今企画チームなんですけど、昔は原型チームだったんですよ。初期のポーンA1とか3~4キャラクター担当しました。先程亀山が1/35だと固定ポーズになっちゃうから、じゃあちょっと大きくして1/24で可動にしようというのをさらっと言ったんですけど、このサイズでもう当時のコトブキヤとしてはかなり限界に近いぐらいのサイズだったんです、できるわけねえじゃんぐらいの(笑)。
――限界レベルだったんですね。
糸山:で、試作をし始めて、お互いに一体ずつ試作を作ったんですね。このキャラクターは兵士だからライフルを構えるポーズがしたいとか、こういう動きができるようにしたい、その関節を入れて最低どこまで縮められるか、というところをお互いに熱論してるような感じでした。亀山が企画担当で私が原型担当、もうひとつ製品にするために工場で金型を作る開発というチームがあるのでそちらにも話を聞きに行って、今の限界の肉厚(プラの厚み)で攻められるのはどのぐらいかというのをギリギリまで攻めた関節のパッケージをまず作ってしまって、それを人体の形に組み合わせて、更に取りたいポーズを取らせるためには、どういうふうに外装を動かすとか、肩の関節をどうやって入れるかというのをかなり長いこと打ち合わせした結果、最初のやつは生まれてきたんですよ。
――そうそう簡単に生まれた小ささではないんですね。
亀山:そもそも新シリーズ企画自体が最初は反対されていたんですよ。説得に半年ぐらいかかってるんですよね(笑)。 実を言うと、この六角形の形状のジョイントを試験的に導入した商品がモデリングサポートグッズのなかにもあって、それがフレームアームズ・ガールが乗り込めるアイテムとして発売されたギガンティックアームズ01 パワードガーディアンだった。
ギガンティックアームズ01 パワードガーディアン
それが売れたんですよ。結果的に人が乗れるロボットって需要あるでしょ、ということが会社に証明できた。なので当初予定していた時期よりも一年伸びたんですけども、そういう形で商品のシリーズ化を勝ち取ったという流れがあります。
――かなり情熱を持って企画から制作までやられたんですね。
亀山:そうですね。実は私、昔病気でちょっと入院していた時期がありまして、そのときに温めていた企画なので、これをやるまでは死ねないという気持ちで始めたんです。なのでそういったところで一回反対されたぐらいじゃ「何がだめだったのか?」というところをヒアリングして直していくというか、営業チーム的にも全社的にも納得がいく「ヘキサギアをやる理由」みたいなものをどんどん作っていったんです。このブロック要素というところも、結構ユーザーさんを育てるというか、知育玩具的アプローチがあったりするんですよね。
――このハードな世界観と造形で知育玩具的アプローチ!
亀山:与えられた自由の中で、一つの形としての美しさを追求したり機能美を追求する。そういう部分があるから、人は熱中、没頭する、という研究を弊社と、ある大学さんで取り組んでいたことがあって、ヘキサギアというシリーズをそれらの集大成にできないかと当時の部長からお願いがきたんですよ。なのでよりブロック的な遊びの方面を強めていった、というような流れはあります。
――ご自身の体調を崩された中でどうしても企画を実現させたいという情熱があったとのことですが、どういう部分を実現したかったんでしょうか。
亀山:ストーリー上で言うと今も使っている「塔を目指す」みたいな話というところと、人間のあり方みたいなところですね。死生観的な部分を描きたいと思ったんです。生きることと死ぬことということについてその時は随分考えたんですけども、戦争の理由が私欲というよりは思想で戦ってるもの、それぞれの陣営で考え方が違うから争いが起きるという部分をちゃんと書いていきたいなという気持ちが生まれたのと、自分が得意としているもの、組み換えというか、言ってしまえば「何でも作れるシリーズ」というのを作りたかったんですね。
――何でも作れる、ですか。
亀山:定番のフォーマットでキャラクターが新しくなっていく、というスタイルではなくて、自分が創りたいものはこういうもの、それを実現するために必要なパーツがこのシリーズのなかで全部揃う!みたいなね。何かおもちゃの歴史のなかに自分が作ったものを残したかったという気持ちが強かったですね。
――僕の知り合いのオタク居酒屋のオーナーさんがお客さんにヘキサギアの話をしたら、「店長もヘキサギア始めたんだ」と言われたんだそうです、ヘキサギアは買った、じゃなくて始めるものなんだなと。
亀山:それは製作者としては嬉しい言葉ですね、このシリーズって完成した状態が出発点なんですよ。そこからどういう発想を入れ込んでオリジナルにしていくかという所ですね。
――まさに組み換えて想像するという感じですけれども、こうした組み換えるキットって、普通のコンパチのプラモデルキットよりも難しいものなんでしょうか。
亀山:普通のプラモデルだと、設計などを考える時にまずひとつの形態に向けて組み上げていくということがあるんですけど、ヘキサギアの場合は全部のパーツがそれぞれ別々に機能するブロックという形になっているので、組み合わせの検証やキツさとかの調整がものすごい大変ではありますし、イラストや設定画を書いてもらっている段階でもユーザーがどういう遊び方をするかというのはある程度考えながら、リテイクしてもらったりしつつやっているのが多いですね。
――設計段階から大変そうですね……。
亀山:ヘキサギアは、この形になっていればOKというところがないんです。これをこういうふうに使った時にはこういう強度がないとダメだとか、色んな要素が入ってくるので、パーツのひとつひとつをばらした状態で完成していないといけない。その辺りが一般的なキャラクターキットと違うところですね。
――遊んでみた人からは思ったよりも基本形の制作難易度が高いという意見がいくつかあったんですが、そちらに関しては。
亀山:正直、他の商品に比べると圧倒的に高いと思います。そもそも壽屋で組み換え遊びが可能なシリーズとしてフレームアームズが2009年、M.S.Gヘヴィウェポンが2013年に始まって、何年もシリーズが続いているのでお客様の技術レベルもかなり高くなってきたんですね。その中に投入するものですから、技術レベルが上がったお客様が作って楽しいと思える難易度になっていると思います。
バルクアームα(アルパ)
中にはしっかりとガバナーが搭乗できる
でもこの「バルクアームα(アルパ)」という製品は比較的シンプルな構造で作りやすくしたんです。
レイブレード・インパルス
バイク形態にすることも可能
「レイブレード・インパルス」とかがRPGでいうとレベル30の人向けの構造だとしたらバルクアームはレベル10の人向けというか。「バルクアーム」は人型というライトなユーザーが受け入れやすいというのがもう分かっている状態の商品だったので、導入用に構造自体も簡易になっています。なので作り方もシンプルです。商品ごとに組立て難易度が違うみたいな感じですかね。
フレームで組み上げた「素体」に装備や装甲を取り付けることで形成されている
――プラモデルよりは難易度が高いという部分で、ユーザーを選んでしまっているところも若干あるんでしょうか?
亀山:そうですね、モロに選んでいます。お客さんの顔を想像しながら商品を作ってるんですけども、この商品はこういうお客さんが買ってくれる筈だというところがあるんですね。今机の上に並んでいるガバナーという商品のデザインにもそういうところが出ていて、ミリタリー系好きなお客さんはこの商品(アーリーガバナー)
アーリーガバナー
を好きであろうとか、この商品を中心にこのあたりまでは許容範囲かなというのが結構キャラクターごとにあるんです。ファンタジー系のヒロイックなやつとかだと、派生して多分このあたりがターゲットになるだろうみたいな、それは商品単位で分けられている感じですかね。
――同じシリーズの中でライトなユーザー向け、コアなユーザー向けというのがあるんですね。
亀山:シリーズの中にひとつ好きな商品があったら十分だと思っているところがあります。他の商品も触ってみたいな、と思って興味を持ってもらえればそれでOKといいますか。全員が全員このシリーズを全部集めてくれるということは考えていないので。
――それも欲がないというか、なぜそういう考えに?
亀山:結構販売ペースが短いじゃないですか、普通は年に4商品ぐらい出たらシリーズとしては普通のペースなんですけども、ヘキサギアのシリーズって年に8から9、下手すると10商品ぐらい出たりするので、全部が全部買ってくれているとは思っていなくて、そのうちのいくつかがお客様の心にヒットすればいいな、というような気持ちで商品を作っているところがありますね。
――実際手にとって、お話を伺っていると、子供の頃にロボットの名前を勝手に変えてオリジナルの設定で遊んだりしていたことを思い出しました。それに近い感覚があるのかなと。
亀山 :本当にそのとおりですね。自分の分身がガバナーとしてその世界観の中に登場したとき、乗りたいギアは何なのか?と好きなものを選ぶ、更に派生させていく、武器を追加したり組み換えて違うものを作っていって、その世界の中で活躍するということを、脳内で妄想の世界で遊んでもらう。これは結構楽しいことだと思うんです。自分自身も子供の頃から他社さんのデフォルメプラモデルとかの改造やブロック玩具が大好きで作ったおもちゃで色々な妄想をしていましたし、そういうプロダクトをしているつもりです。
本当は世界観設定などなくても自由に遊べる人はたくさんいると思う機会も多いです。ただ、すべてのお客様がそういった物語を考え出すことに長けているわけではないので、みんなで共通認識となる一応のストーリーや世界観を提示しています。基本的には提示した世界の中から一部でも好きな設定があったらそれを使ったらいいし、気に入らなかったら使わなかったらいいというような感じで楽しんでもらいたいと考えています。
ただ、最近はその世界観について色々とお問い合わせをいただくことも増えてきました。その理由としては共通の世界観の中に組み込まれるミッションというイベントをやっているからだと思います。自分の制作した機体がイベント終了後に描かれる小説内に登場するかもしれない。これが結構な刺激になっているみたいですね。
――かなり動かして遊ぶことを前提で作られていますが、キットとしての強度も結構計算されて作られているのかなと。
桑村:そこはある程度規格化しているところがありますね。六角形周りは必ずこの寸法で統一するとか。その部分が守られている限り、一応の最低保証はなされるというふうに見ています。
亀山:あとは素材的に一番強度があるものを使っているというところもありますね。メインのフレームの部分にはABSという強度のあるものを選んでいて。ただしプラスチックの樹脂とはちょっと違うので、塗装する時に気をつけないといけないという注意点があったりするので、このあたりは賛否があるところではあるんですけども。
――強度と彩色のしやすさどちらを取るかという感じですね。
亀山:商品を提供する側としては全員が塗装するわけではないので、パッケージを開けて組み立てた段階でバッチリの状態にしないといけないから、そこにあわせて調節させてもらっているというところですね。
このサイズ感の中にさまざまなアイデアと技術が組み込まれている
――先ほどお話にもあった「ミッション」の一回目が昨年実施されましたが、これは具体的にどういうものだったのでしょうか?
亀山:昨年の5月15日から8月31日にかけて募集をかけて、全部で206作品ぐらい掲載されているんですけども、その中から何体かの作品を選ばせていただいて、小説の中で活躍させるということをやってしまったんですよ(笑)。
――サイトにストーリーが掲載されていて、そのオリジナルのボスキャラを倒すための作品を投稿して、ウェブストーリー上で部隊を編成して討伐しに行くというものですが、昔『マル勝ファミコン』誌上で展開されていた『ダブルムーン伝説』のような読者参加型ゲームで、どこか懐かしさも感じる企画だなと。
亀山:そうですね。模型のイベントとなるとまずコンテストがあるんですよね。そういうところでやると必ず一位から三位あるいは金・銀・銅みたいな形で、技術レベルが高い人を選ばないといけないというところがあるんですよ。そうなると模型を始めたばかりの人というのがどうしても参加しづらいですよね。
――まあそうですよね、技術を競うわけですし。
亀山:どうせ勝てないし、という気持ちで何も残らないというところが僕としてはイヤだった。そこでできるだけ多くの方に楽しんでもらえるように、全国から参加できるホームページに投稿していただいて、Webを通じてみんなが遊べるイベントを考えました。技術レベルが高かったらエピソードに登場するというわけではなく、そのアイデアだったりが面白かったら素組であっても劇中に登場する機会が与えられるみたいな。そういう一番を決めないような遊び方が提案できたらいいなと思って始めたのがきっかけなんですよね。
――応募数は想像していたより多かったですか。
亀山:多かったですね、やっぱり。初日とか十何作品とか応募されて、ヘキサギアのそういうことって通常の業務には含まれてないんですよ。商品企画が基本なので、物語書くのも商品企画の仕事では本来ない(笑)。 他のスタッフを見ていると同じことをしているスタッフはひとりもいないです。
――亀山さんだけ?
亀山:社内で僕だけがやっていて、自分を中心に最初に相談をしたのが桑村で、糸山のほうは最初作品を作る部分で手助けをして貰っていたんですよ。商品の遊び方提案でこういうカスタマイズができますよ、という玩具としてのレビューとかそういう部分。ただ物語を書いていく上でいろんな人に読んでもらわないと良いかどうか分からないってところもあって、そのうち本格的に参戦してもらったという感じですね。
――巻き込んでいった感じなんですね。
亀山:熱量で協力してくれる人を増やしていったというのが本当のところですね。Web担当であったりデザイン担当であったりというところで個別に声をかけて「こういう企画をやりたいんだけど誰に相談したらできる?」みたいな形で一人ひとり相談していってだんだん仲間が増えていったような感じです。なのでヘキサギアにはプロジェクトチームって存在しないんですよ、みんな別々の本業があるんですね。その中で少しずつ時間をいただいてやっているという感じです。
――公式の同人活動みたいな感じですね。
亀山:そんな感じですよ(笑)。 やっぱり自分自身ストーリーを書いていって公式とか言われていますけど、正直物語を書いたのはヘキサギアが初めてだし、文章も稚拙だと自覚しています。これしか書く気がなかったので、自分がかっこいいと思えるような王道を突っ走っているという感じではあるんですよね。
――ハードに面白く書いているなという印象はあります。
亀山:自分自身は人間と人工知能の友情のような部分を物語として描くのが好きです。どっちのロボットが強いかということを描くよりも楽しいと感じますね。そこにみんなの知恵を貸してもらって今の世界観が描かれていったと思います。
亀山氏
――桑村さんは最初にお話を伺った時はどう思われましたか。
桑村:一番最初は亀山が何人かに振って真面目に赤線して返したのが僕だけだった、みたいな記憶があります(笑)。
亀山:商品化発表の前にすでにプロモーションビデオを作り始めていたんですね。プラモに付属するテキストだから商品発売前ぐらいに少しずつ書けばいいやと思ってたんですよ。ただ映像化されるとずっと残ってしまうので、その時にもう物語の方向性を決めなきゃいけなかったというのがあるんですよね。映像を作る方もどんなものを作ったらいいのかというのが分からないので、色んな質問が来るんですよ。
――世界観わからないと映像も作れませんしね。
亀山:当時僕は商品を解説するための文章しか書いたことがなかったので、こういう物語調の書き方は初めてだったんです。自分の好きな映画のテイストとか、考えていたことを物語にしたらこんな感じの流れになるのかな、というところを最初に練って作ったプロットを桑村に見せて、難しい単語に置き換わったりして今のスタイルができたというか。
桑村:もともとのコンセプトとして例えば人工知能に絡んだ話には絶対したいとか、ある程度ハードなミリタリー寄りのSFにしたいというのは、結構最初から打ち出してあったんですね。
亀山:打ち出してはあるんですけど、SFはSFなので、不思議パワーで動いていることには違いないんですよ(笑)。 車のエンジンみたいなパーツが動力源だとしたら必ずそのパーツを体に入れないと動かないというのが商品上都合が悪かったんですよね。ヘキサグラムというジョイントが主役のシリーズなので、そのヘキサグラムというのが合体部分で自動的に動く部分を作ってくれるんですよとか、それがエネルギー源なのでエネルギータンクとか別途積んでなくても動きますよとか。便利なヘキサグラムや人工知能KARMAなどは様々な都合に合わせて設定していったというのが根幹です。あまり難しく考えてはダメです(笑)
――ハードSFにしすぎると造形もそれに囚われていくんですね。難しい。
亀山:お客さんのほうがSF考証とかミリタリーの知識というのは当然深いんですよね。僕らは3人でやってますけどユーザーさんはもっといる。知恵比べしたら絶対勝てないんです。でも前提はブロック玩具だし、そういうファジーな部分を作っておいたという感じですね。
――設定として面白かったのは肉体を捨ててでも情報体として生きていくグループと、人間のまま生きていく勢力となっていくというのは、先程の死生観のテーマに繋がっていくのかなと。
亀山:そうですね。本当に管に繋がれてと言いますか機械に繋がれた状態でずっと病院で上を見ているだけの生活で、一日でも長く生きたいのか、それともやりたいことをやって死ぬのか。僕は実体験を通じてその両方の気持ちに共感できたので、そういった思想の違いが対立の理由になっているといいかなと思います。
――ミッションには200通以上応募が来て、どういう基準でエピソードに登場する作品を選んでいったのでしょうか?作る能力のうまさというよりは、世界観にそぐう、ここにいたら面白そうと思えるものを選んでいった感じですか?
亀山:そうですね。プラモデルを作る技術って簡単に上達するものでもないので、そういう部分ではないところ、頭の中の面白さみたいなところを武器に戦っていける、そういう場にしたいなという気持ちはありましたね。念のため申し上げますと機体解説が奇抜であるという意味ではないですよ~ プラモデルとしての技術を競う場じゃないからこそ、役割さえちゃんとイメージできるように作られていれば採用したという感じです。
現在進行中のミッション02「魔獣追討」に登場するレイブレード・グライフ
色も塗ってない偵察機みたいなやつだけど、そいつは今書こうとしてる物語の中ではこういうところで活躍できるなと思ったら入れるみたいな、輸送機と書いてあったらじゃあ重要なキャラクターが登場するシーンでこの輸送機から飛び降りたらいいやとか、そういうふうに選んでいった感じですね。
糸山:ミッションの公募が始まった段階である程度作戦のオーダーが出るんです。だからその作戦目標であるボスに対して、俺はこういうやり方で戦うためにこういう機体にしたとか、もしくはそういうやつらをサポートする兵站を受け持つためにこういう機体にした、そういうところが面白いという。
――やはりTRPGに近い感覚ですね。ヘキサギアの面白さの一つに、車やバイクとロボット、生物型メカが混在していい世界観というのもあると思うんですね。この辺は意図的なものなのでしょうか?
亀山:この物語は、1から10まで歴史がある中の7とか8ぐらいから10に向かって進んでいるような時代想定で商品展開をしてるんですね。レイブレード・インパルスというのは作品の世界観的にはかなり後半に開発された機体で、物語を完結させるために生まれた主人公の機体なんですよ。バルクアームというのは世代でいうと2とか3の時代に生まれたロボットなので、当然そういうような技術的な違いがあって、バルクアームが活躍した時代がかなり長かった。世界中に普及して一番数の多いヘキサギアがバルクアームだという設定で書いてるんです。その中で今8ぐらいの時代の話を書いてるんですが、時系列順に商品を発売してるわけではないというのは伝えたい部分ですね。
――男の子がワクワクする要素がかなり詰まっていますよね。
亀山:そうですね。バルクアームにしたって一般的な日本のロボット好きが好きだというデザインではないと思ってるんですね。ただそうではないからこそ他のロボットと並んだ時に「おっ!なんだこれ?ちょっとおもしろそうかも」というふうに興味を持ってもらったのかなとか。あと設定上も突出した機体ではないから、じゃあ俺がミッションに合わせて武器の追加や機動力を向上させて活躍しよう。というようなカスタマイズ魂に火がついたとか、そういう部分もあるんじゃないかな。最初から強いロボットで更に武器をマシマシでとなってくるとインフレがすごくなってしまうので、いじりやすいちょうどいい設定のキャラクターだったかもしれませんね。
アグニレイジ
――先日大型商品のアグニレイジが出て第一シーズンが完走というところでしょうか。
亀山:アグニレイジとレイブレード・インパルスというのが、劇中で存在する兵器の中でも最強の兵器を持っている同士という形になるんですよ。一言でいうと主役とボスキャラです。なのでシリーズがもし振るわなくて、一年二年でシリーズが完結したとしても物語が完結できるように、そのあたりのキャラクターから商品展開していたという部分があるんです。お陰さまでシリーズとしては好調なので、色んな商品を今後も展開していくんですけども。今後は過去を振り返っていくというか、ここに置いているバギーみたいな普遍的なビークルとかがバルクアームの時代には一緒にいて戦っていたんだよ的な感じでやっていきます。
第1世代~第3世代ヘキサギアまで幅広く展開して周辺の機器もどんどん増やしていこうかなと思っています。情景を作りやすい、ガバナーと一緒に遊んで楽しいようなグッズと言うようなものですね。
――それは楽しみな部分です。SPICEはモデラー向けの媒体ではないので、ライトユーザーがこの記事を読むことが多いと思うんです、そういう人にヘキサギアを勧めるとしたらどんなアピールをされますか?
亀山:やっぱり手に取りやすいものでいうとガバナーだと思うんですよ。ユーザーがオリジナルで自分のキャラクターとして作っていくという前提の商品でもあるので、まずはアーマータイプ:ポーンA1をお勧めします。このキャラクターは成型素材の見直しをして、より動くようになったバージョンアップ版が商品化予定です。
ガバナー アーマータイプ:ポーンA1 Ver.1.5原型
あとはやっぱり見た目が気に入ったものが一番おすすめだと思うので、個人的にはレイブレード・インパルスとか見た目に格好良いものだったりとか、バルクアームとかパイロットが乗るということに対して面白さを感じてもらう人にはこの辺りをおすすめしたいですね。
――見た目から入って、頑張って作る面白さみたいなものもあると。
亀山:出来上がったものは机の上に飾ると思うんですが、その時に見て自分がかっこいいと思えるものを飾って欲しいんですよね。そのために色んな形の商品を出していっているというところもあるので、ぜひバラエティ豊かなラインナップの中から自分の見た目で好みなものをまず選んでほしいかな、というのはあります。
糸山:ひとつはまず本当に自分が好きな見た目のやつを、ホームページにもいっぱい画像が掲載されているので見て選んでいただきたいですね。そこから組み上げたあとは、フレームと外装みたいな感じで分かれているような部分があるので、例えば自分の一番好きなやつを買ってもらって、そこから外装だけ外しちゃって、弊社にM.S.Gウェポンという便利なシリーズがありますので、そのへんのライフルとかキャノンとかブースターを付けてもらったりすると楽しいかなと、お値段もお求めやすくなっております(笑)。 そこから今度はフレームも弄り始めるみたいな、そういう順序で嗜んでいただければいいかなと思いますね。
桑村:さんざんインタビュー内で作るのが難しいという話がでたばかりなんですが、組み換えをどうしたらいいのか、そのアイデアが出てこないということであれば自分も思い当たるところはありますね。
――まあ最初は自由に、と言われても考えるところはあるかもしれませんね。
桑村:そこに関してはまず、始めた後にどこで止めてもいい、と考えるのもいいと思っています。とりあえずバルクアームを一体組み上げるところまでは頑張っていただくとして、もしくは組立途中で早速脱線して、そこからあと組み換えてどこで納得するか、今はここでいいんじゃないかなと思ったらそこでいいんです。自分が納得してここで格好良いというところでやめていい。それでまた何か思いついたら再開するとか、そういうスタンスで、今すぐ投稿しなきゃいけないから!としゃかりきになるよりは、もうちょっとだけ長い目で見るのもいいのかなと思ったりします。そうやって、ちょっとずつ自機がバージョンアップしていければいいというか。
亀山:いったん落ち着いてからまた熱が再燃した時に、今だったらもっとできそう、というのはあると思いますね。
――大人になるに従って一個の完成形に行きたくなって、こういうものを作りたい、作らなきゃという意識に仕事を含めてなりますが、もっと自由に作っていいんだろうなというふうにお話を伺っていて思えました。
亀山:パーツ単位で使える理由としてはそういうところがあったりするので、一回作っても2~3日置いておいたらここはやっぱりこうかも、とか。趣味として没頭できる時間を提供できて、なおかつ飽きたらやめて、また日が経ったら遊んでと、そういうことを無限に繰り返しできるような商品になっていればいいなというのはちょっと考えているところですね。物語すら組み換えで作っているというか、こういう場面を描きたい!というシーンを並べて、その間をつなげて作ってきているものですから、ユーザーさんのアイデアもどこかでストーリーの中に組み込まれるかもしれないですし。僕らも本気で遊んでいるので、それに付き合ってくれたら嬉しいなと思っている部分もありつつ、あくまでホビーなのでライトに考えつつ遊んでもらえれば最高ですね。
左から桑村氏・亀山氏・糸山氏
インタビュー・文:加東岳史 撮影:林伸行