大原櫻子が怪人に心を奪われるヒロインに 日本のオリジナルミュージカルの歴史が始まる『怪人と探偵』インタビュー
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大原櫻子
2019年9月14日(土)から29日(日)にかけて、KAAT神奈川芸術劇場<ホール>で上演される新作ミュージカル『怪人と探偵』。大怪盗・怪人二十面相を中川晃教、名探偵・明智小五郎を加藤和樹が演じることで注目を浴びているが、ヒロイン役を大原櫻子が務めることになった。
近年舞台での活躍が目覚ましい大原だが、昨年『メタルマクベス』で演じたマクベス夫人に衝撃を受けた人も少なくないだろう。成長著しい大原に、本作品への意気込みを合同取材で語ってもらった。
ーー『怪人と探偵』のヒロイン役として出演が決まりましたが、話を聞いた時はどんな気持ちでしたか?
怪人二十面相か! という感じでした。怪人って盗人ですけど、なぜかかっこよく、女性としては心を奪われてしまう存在なので、そのヒロインができるというのはワクワクしました。
江戸川乱歩は聞いたことはもちろんありますが、本を読んでいたというよりは話を聞いていた感じです。でも私の中では、探偵ものといったら江戸川乱歩というイメージがありますね。
ーー森雪之丞さんが書いたオリジナルの物語に関してどのような印象を受けましたか?
どこかエロティックなところがあるなと思いました。怪人って人を絶対に傷つけないじゃないですか。マジックを使って盗んでいくとのはすごくセクシーだし、その謎を解いていく明智小五郎の存在がいて常にハラハラするし、男と女の関係もハラハラするという印象があります。
ーーご自身が演じるリリカはどんな役だと感じていますか?
すごく品があるように見えて、でも実は暗い生い立ちがあります。決して品がいいだけじゃなくて、ちゃんと闇を持っている特別浮世離れをした変わった人ではないと思います。清純で品のある女性である一方で、泥沼の世界も知っているし、そういう部分を両方見せられたらいいなと思います。
大原櫻子
ーーギャップがあるところがポイントですか?
そうですね。ギャップもそうですし、脚本を読んだ時に、彼女は愛というものをつかめないでいるような感じがしたので、ちょっとかわいそうだなと思ったんです。そうしたところが私の中でとても共有できました。
例えば愛って信頼だと思うんですけど、リリカは自分の家族が人を裏切っている姿を見ているわけです。家族に対してさえも信頼を100%持っていないというのはとても悲しい人だなと思いました。
ーー先ほど怪人二十面相をセクシーな男性だと表現されましたが、それを演じられる中川晃教さんと明智小五郎を演じる加藤和樹さんの印象はいかがですか?
私、中川さんと共演できるのが本当に夢のようでうれしくて(笑)。小学生の頃、テレビで中川さんの歌を聴いて、本当に素敵な歌声だったので。色っぽさもあるしまっすぐさもあるし、「この人といつか歌いたい。同じステージに立ちたい」と思っていたんです。中川さんの声は魅惑さというか、女性がホロホロホロって酔ってしまうような印象がありますね。
ーーそういう意味で怪人にピッタリだと思いますか?
そうですね。この怪人の魅力はとても優しいところだと思うんです。ものを盗んでいるのにすごく優しくてジェントルマンで魅力的だなと思っています。「ああ、中川さんのイメージだー!」って感じです(笑)。
加藤さんはこの間イベントでご一緒させていただいて、舞台で演じられている姿とギャップがありました。普段はとてもフランクで、イベントでご一緒した岸谷五朗さんにツンツンっていじられているような方なんですよ。
でも先ほど撮影をされているところを見た時にビシッとされていて「かっこいい! 素敵!」と思って(笑)。フランクな加藤さんしか知らなかったのでびっくりしました。
ーー演出を手掛ける白井晃さんの印象はどうですか?
白井さんとは『わたしは真悟』という作品でご一緒しました。私は「だいたい8歳」という子どもの役だったのですが、この作品で白井さんのことが大好きになって、お父さんみたいに思っています。すごく心をゆだねられる演出家で、大好きすぎて白井さんの演出されている舞台をよく観に行っています。観劇でばったり会った時も友達に会うような感じで「白井さーーん!」って懐かせていただいています。
このお話をいただいたあとにお会いした時に「また一緒にできてうれしいです!」って伝えました。信頼できるし本音をぶつけることができる方なので、演出が白井さんと聞いた瞬間、絶対にいい作品になると思いました。
大原櫻子
ーー白井さんから今回はこんなふうに演じてほしいなど、具体的な話は言われていますか?
まだそういう話はしていないんですけど、お会いした時に、リリカには切なさが欲しいと言われました。愛ってなんだろうと常に模索しているのが切なさに通ずるのかなと思っています。「切なさ」が一つのキーワードだと思います。
ーー先ほどからお話に出ている「愛」というのはいろいろな側面があるというのを、森雪之丞さんが脚本の中で表していると思います。雪之丞さんがつむぐ美意識にあふれた言葉の数々はいかがですか?
うまく一言で言い表せないことを、きちんと一つひとつセリフや歌にして、からまっていた感情をきれいに優しくほどいてくれるような、そういう素敵な言葉が詰まっていると思っています。「愛は盗めない」とか「壊さないと愛をつかめない」というようなセリフがあるのですが、でも壊してしまったらそれが愛じゃなくなるとか、矛盾する言葉をつらねているんですけど、すごくよく分かるなと思いましたね。
愛とは少し違うのですが、「正義の復讐」という言葉をリリカが言うんです。この言葉に私はめちゃくちゃ共感できました。復讐という言葉はすごく悪というか、強くて怖くて狂気みたいな要素があると思うんですけど、凶暴さや狂気さがないと復讐できないし、一方で人のことも愛せないし、正義にもならないということなのかなと思います。うまくまとめることができないですけれど、一言で言い表せないところを、雪之丞さんは表現していますね。
ーー今日(取材当日の2月6日)は、KAATの2019年ラインナップ発表会があり、森雪之丞さんが「日本のオリジナルミュージカルの歴史がこの作品から始まったと言ってもらえるような作品にしたい」とおっしゃっていました。大原さんもミュージカル作品に出演するようになって今年で3年目ですが、森さんの言葉を聞いてどう感じますか?
日本で行われるミュージカルで、私がちょっと苦手だなと思うのが歌詞の日本語訳なんです。英語から日本語にしたときに雰囲気が半減しちゃうことが多くて……。例えば♪~なのよー♪と歌っても、「~なのよ」って最近言わないじゃないですか。
でも今回は全部オリジナルで作詞もしてくださっていて、言葉が本当にきれいだしすごく詩的だと思います。日本のミュージカルをやる上で、こういう言葉で歌を届けたいと思っていたから、まさにこれだなと思っています。
日本のミュージカルをどうにかしたいという思いの方がたくさんいらっしゃるんですけど、本当に始まってきたなというのを感じていて、今回自分がオリジナルでやらせていただくということに責任を持ちたいと思っています。
ーー今回の作品の舞台は昭和30年代です。大原さんにとって未知の世界だと思いますが、どうやって昭和の雰囲気を出していこうと思いますか?
昭和30年代というと、私はお腹の中にもいないですからね(笑)。これから役作りをしていこうと思っていますが、今日のビジュアル撮影の時にグレース・ケリーとオードリー・ヘプバーンの中間みたいな感じでと言われたんです。ピュアな感じと色っぽさをあわせ持ったような。白井さんからそういうアドバイスがあったというのを聞いて、なるほどと思いました。
あとはその時代にどういう出来事があったのか、どういう環境だったのかをいろいろ調べたいと思いますが、共演させていただく先輩の女優さんからもいろいろお話を聞けたらと思っています。
大原櫻子
ーー共演者で特に気になる方はいますか?
初めてお会いする六角精児さんがすごく楽しみですね(笑)。舞台もよく観に行かせていただいていますしドラマも拝見していますけど、キャラが濃すぎてつぶされるんじゃないかと思っています(笑)。
水田航生さんは映画でご一緒して以来です。フランク莉奈さんも舞台を観に行かせていただいていて、今回の作品では最後のほうでとても大きなからみがあるので楽しみです。
ーー曲は出来上がっているんですか?
先ほどちょっとだけ聴かせてもらいました。きたきたきたきた~~と感じる演奏で、常に遊ばれている感覚になるというか、心くすぐられる楽曲だなと感じています。
私はソロで3曲、デュエットで3曲ほど歌う予定ですが、実は昨年出演した『メタルマクベス』を観に来てくださった雪之丞さんが観劇後に「櫻子ちゃん、脚本書き直すわ」と言ってくださったんです。ちょっとクオリティーを上げたいとおっしゃって。リリカの小悪魔らしさや持っている影は、マクベス夫人を演じて得たところから出していけるのかなと思います。
ーー2016年からミュージカルに出演されている大原さんですが、今おっしゃった『メタルマクベス』で大きな変化があったと思います。大原さんにとってミュージカルの面白さはどういうところだと思いますか?
私はもともとJ-POPを歌ったり、芝居は小さい頃からストレートプレイばかり観てきました。日本のミュージカルには全然染まっていないのに、ありがたいことにミュージカルのお仕事ばかりいただいています。私は日本のミュージカルに染まっていませんが、歌も踊りも芝居も好きなので、そういう人が入った時にいい化学反応があるというのをすごく実感しているので、毎回面白いですね。
ーーファンの皆さんに今回の作品への意気込みとメッセージをお願いいたします。
『怪人と探偵』って、王道といえば王道な題材ではあると思うんですけど、そこに雪之丞さんと白井さんのお二人が関わってくださるのは非常に楽しみですし、私も豪華なキャストの方々に囲まれてお芝居ができて、しかもこんなにやりがいのある人間的な女性を演じられるのが本当に楽しみです。
私はまだまだ未熟者ですけど、今まで得たいろいろな引き出しをドロッと出せるように、全力を尽くしたいと思っています。「日本のオリジナルミュージカルの歴史が始まる」という責任を雪之丞さんと一緒に持って臨みたいと思います。
大原櫻子
取材・文=秋乃 麻桔 撮影=荒川 潤
公演情報
【作・作詞・楽曲プロデュース】森雪之丞
【テーマ音楽】東京スカパラダイスオーケストラ
【作曲】杉本雄治(WEAVER)
【音楽監督】島健
【演出】白井晃(KAAT 神奈川芸術劇場芸術監督)
【出演】中川晃教 加藤和樹 大原櫻子
水田航生 フランク莉奈 今拓哉 樹里咲穂
有川マコト 山岸門人 中山義紘 石賀和輝
高橋由美子 六角精児
斎藤桐人 石井雅登 碓井葉央 菅谷真理恵 大久保徹哉 咲良 茶谷健太 加藤梨里香
【会場・日程】
横浜:KAAT 神奈川芸術劇場 ホール 2019年9月14日(土)~29 日(日)
兵庫:兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール 2019年10月3日(木)~6日(日)
【公式サイト】http://www.parco-play.com/web/play/kaijintotantei/
【お問合せ】
パルコステージ 03-3477-5858 (月~土 11:00~19:00/日・祝 11:00~15:00)
http://www.parco-play.com/
【東京公演後援】TOKYO FM
【兵庫公演主催】兵庫県/兵庫県立芸術文化センター