浅井健一は約5年ぶりに始動させたソロプロジェクトで何を表現するのか
浅井健一 撮影=上山陽介
浅井健一が2月28日、ソロ名義では5年ぶりに「HARUKAZE」と「ぐっさり」の2曲を配信リリースする。SHERBETSの結成20周年アニーバーサリーがひと段落したと思ったら、突然伝えられた「ソロ・プロジェクト始動!」というニュースに驚いた人は少なくなかったはず。16年に中尾憲太郎(Ba)、小林瞳(Dr)と始めた浅井健一&THE INTERCHANGE KILLSが、浅井本人が自負するように絶好調であることを知っているファンならなおさらだろう。
疾走感が心地いいニュー・ウェーヴなロックンロール・ナンバーである「HARUKAZE」は、そのTHE INTERCHANGE KILLSとのレコーディングだが、彼らしいメランコリーが繊細なバンド・アンサンブルの中に流れるポップ・ナンバーの「ぐっさり」には、なんとBLANKEY JET CITY時代の盟友・照井利幸(Ba)が参加しているんだから、さらに驚かずにいられないではないか。
5年ぶりとなる今回のソロ・プロジェクトは、THE INTERCHANGE KILLSも含め、いろいろな形で曲を作っていこうということらしい。BLANKEY JET CITYのヴォーカル/ギターとして、91年にデビューしてから28年。これまでも浅井健一は、さまざまなバンド/プロジェクトで作品を作ってきたが、1つのバンド/プロジェクトに収まりきらない創作意欲、イマジネーションの広がりは、今も変らないようだ。いや、それどころか、ますます旺盛に、より自由なアウトプットを求め始めた! つまり、「HARUKAZE」と「ぐっさり」の2曲は、その序章に過ぎないわけだが、とりあえず、今回のインタビューでは、序章と言うにはあまりにも鮮烈な印象を残す2曲を手懸かりに、何が彼を突き動かすのか訊いてみよう。
――昨年11月、SHERBETSの結成20周年記念ツアーがファイナルを迎えた翌日に、浅井健一&THE INTERCHANGE KILLSの新曲を年明けに配信リリースするという発表があって。
あぁ、そうだったっけ。
――はい。なので、その新曲を楽しみにしていたら、いきなりソロ・プロジェクト始動と新たに発表されてちょっとビックリしたんですけど、THE INTERCHANGE KILLSの新曲も含め、今回、ソロ名義でのリリースになったのは、どんな経緯があったんですか?
最初は、KILLSでもう1枚、アルバムを出そうって考えてたんだけど、そこからちょっと考えが変わって、他の血も入れたいと言うか、混ざったアルバムにしたくなって。それで急遽、ソロ・プロジェクト始動ってことになったんだよね。
――KILLS、すごく調子がいいじゃないですか。
ライブは最強だよ。ただ、2枚アルバムを作って、他の血も入れたくなったんだ。
――KILLSではできない音楽をやりたくなった?
そうだね。KILLSのメンバーにしかできない世界はあるんだけど、次のアルバムはその世界だけじゃなくて、違う世界観も入れるべきだなって判断だよね。
――違う世界観っていうのは、もうすでに具体的なアイディアがあるんでしょうか?
世界観っていうか、人によって出来上がるものが変わってくるから。
――浅井さんがいろいろな形で音楽を発表することを、ファンも楽しんでいると思うんですけど、浅井さん自身がまず誰よりも、いろいろな人とやることを楽しんでいる。
楽しんでるよ。音楽を作り上げることはやり甲斐があるから熱中するよね。
――じゃあ、今回発表する2曲はその一部であって、他にもいろいろな曲があるわけですね。
うん、そうだね。照ちゃんと椎野さんとは「ぐっさり」って曲を作ったんだけど、そのメンバーでまだ何曲かあって、KILLSでもあってっていう。それとはまた別の血もあるから、最終的にベストなものを組み合わせて、次のソロ・アルバムにしようと思ってる。
浅井健一 撮影=上山陽介
――今回、「ぐっさり」を作るにあたって照井さんと椎野さんを選んだのは、どんな理由からだったんですか?
自分の感覚。長年やってきて、ここらで久しぶりに照ちゃんとやってみたいなって。すべては感覚で動いているじゃん。ミュージシャンなんて。
――照井さんとは7年とか8年とか振りですよね?
ね。久しぶりだよね。
――浅井さんから連絡して、「一緒にやろうよ」って?
うん。電話した。
――電話したとき、どんな反応でしたか?
そりゃもちろん、「いいよ」って(笑)。
――曲が先なんですか、それとも人が先なんですか? この曲には照井さんと椎野さんが合っていると思うのか、それとも、照井さんと椎野さんとやるにはこういう曲を作ったらいいかと考えるのか。どっちなんでしょう?
曲が先だね。曲は常にいっぱいあるから。その中から、この曲とこの曲を、照ちゃんとやろうかなって。
――照井さんとやりたいと思う曲って、何か傾向があるんですか?
ない。その時のタイミング。
――ぱっと照井さんの顔が思い浮かぶわけですか?
どうだったか忘れた(笑)。
――久々にやってみていかがでしたか?
すごい領域まで行っとるなって思ったかな。ベース・ラインがもう。あれはなかなか、いろいろなベーシストがいるけど、出せないと思うな。
――そこから3人でどんなふうに形にしていったんでしょうか?
俺が照ちゃんの家に行って、まず照ちゃんとギターとベースで合わせて、それでベース・ラインを考えてもらって。で、最後に椎野さんとスタジオに入って3人で合わせて、そして出来上がったかな。すぐ形になったよ。
――椎野さんとも最初からやりたいと思っていたんですか?
そうだね。照ちゃんとやるときに椎野さんがいいかなって思ってたけど。
――「ぐっさり」は、浅井さんが今の世の中に対して、どんなふうに感じていて、どんなふうに心を痛めているのかがわかるような曲なんじゃないかと思うのですが、「ぐっさり」を書いた時の気持ちを、改めて教えてもらえないでしょうか?
社会を眺めてたら、みんなも普通に感じてるというか、感じてるだろうなってことが歌になっちゃったね。
――歌になっちゃった?
うん。別に、こんなこと書かなくてもいいかなって思ってたんだけど、初めに曲が出来て、それに歌詞を乗せとったら、日頃、自分が感じていたであろうことが言葉に出てきて。「ああ、こんなこと俺、歌っていいのかな。歌わなくてもいいのにな」って、いろいろ迷いながら出来ていって。
でも、最後に、<柔らかな草の上に立って にっこり笑おう>っていう言葉が出てきて、これは聴いている人もたぶん光が見えるだろうし、世の中のプラスになる要素をたくさん持っているって自分で判断できたんで、これはいいと思ってそのまま歌詞にした。そこに照ちゃんの素晴らしいベース・ラインと椎野さんのすっげえドラムが合わさったことによってパワーアップして、この形になったんで、かなり好きな曲になったかな。
今の世の中って、誰もが「そんな話、聞きたくもねえよ」って思うような歌ばかりだと思うんだよ、俺。その中で、大事な存在だなって自分で判断できたんで。今、(所属レーベルの)Ariola Japanさんとも一緒にやってて、宣伝してくれるだろうし……なので、宣伝がんばってます(笑)。
――ありがとうございます(笑)。こうしてインタビューできる機会をいただけてとてもうれしいです。
だからね、文章、がんばって書いてね(笑)。
浅井健一 撮影=上山陽介
――それはもちろん。「そんな話、聞きたくもねえよ」って歌って、たとえばどんな歌ですか?
誰かにフラれて悲しいわとか、強く生きようとかさ。だからこそ僕は生きてるんだみたいなさ。そういう歌、ものすごいあるじゃん。
――多いですね。でも浅井さん、自ら勧んでは聴かないですよね?
聴くわけないがな。そんなもん(笑)。
――自然に耳に入ってくるわけですね。
入ってくるよ。子供と回転寿司に行ったら、めちゃめちゃやかましくかかってるし(笑)。「これ、やかましいから止めてください」って言おうとしたんだけど、よく考えたら、あ、これ、長居してほしくないんだなって。
すげえ並んどるから、食べ終わったらさっさと出て行ってほしいんだなと思ってさ。あ、そういうことかと思った。めっちゃめっちゃやかましいJ-ポップがかかっとって、なんだこの世の中はと思ったけどね。
――さっき、<柔らかな草の上に立って にっこり笑おう>という歌詞が出てきたからとおっしゃったんですけど、それは自然に出てきたってことですよね?
すべては自然に出てくるものだよね。
――このままじゃ希望がないから、明るい気持ちになれるような歌詞を付け加えようと考えたわけではなくて。
漠然とそんなようなことは思ってるよ、いつも。
――<だから変われ 無理じゃないさ><どれだけ腐った 魂だって>とも歌っていますが、“腐った魂”を持った人間でも変われると信じている?
うん。まぁ、わからないけどね。望みと言うか、願望と言うか、そうあるべきだよなっていう。
――最近の浅井さんの歌は必ず、最後に希望を見せることが一つテーマになっていると思うんです。たとえば、楽しく生きて、自分が死んだ後のことは知らないっていう考え方もあるわけじゃないですか。
子供がいないんだったら、自分の人生を全うして、後は地球がどうなろうと知らないよって人はいるだろうね。そういう人は公害だろうが、放射能だろうが、何も関係ないわな(笑)。自分が死んだ後、地球のことを心配する必要はないよね、自分の遺伝子が残らないから。全然理解はできるよ。
――じゃあ、浅井さんが必ず希望を歌うのは、お子さんがいらっしゃるから?
もちろん、それもあるだろうけど……単純に、日々、楽しく過ごしたくない? 日々、最悪な気分で生きていたくないじゃん。
――生きていたくないです。
でしょ。だから、周りがさ、暗い世の中だったら、それこそ戦争は最悪なんだけど、そんな世の中だったら生きていても楽しくないじゃん。自分が楽しく過ごすためには、自分ひとりだけじゃどうしようもなくて、周りも一緒にそうなっていかないと成し得ないことだから、俺は曲を聴いた人が最後、「はぁ……」って暗くなっちゃうような作品を作るのは当然イヤなんだよね。そんな人が増えてほしくないもん。
世の中が暗くなってほしくないからさ。世の中が暗くなるイコール自分も暗くなることだし、世の中が明るくなることは、自分も明るくなることにつながるから、自分が世の中に出す曲は、最後、聴いた人の心がアガると言うか、明るい方向に行くようにしたくなるものだよね、自然に。
――なるほど、根底にはそういう思いがあるわけですね。ところで、「ぐっさり」の楽曲的な聴きどころを挙げるとすれば、どんなところでしょうか?
それ一番難しいんだけど(笑)、曲全体だよね。最初から最後までどっぷり、なるべくデカい音で浸ってほしいね。曲が持っている世界を感じてほしいかな。それで、心に響いたら、友だちに教えてほしいな。「こんな曲があるよ」って。流行りのラヴソングもいいかもしれんけど、それに洗脳されちゃってる人たちにも聴かせてあげたい。アイドルとか、そこらへんしか知らん人にも、こういのもあるよって。
浅井健一 撮影=上山陽介
――一方の「HARUKAZE」はKILLSとのレコーディングですね。
初めはもっと(テンポが)速かったんだよね。倍ぐらい。それで1回、レコーディングしたんだけど、いまいち違うなって思って、遅くしたんだわ。そしたら今の形になって、お、これだってなったね。
――右側でリフを奏でているギターの音色が、ちょっとニュー・ウェーヴっぽいですね。
ちょっと懐かしい感じするよね。あのギターが来たとき、「やった!!」ってなったよ。「かっこいいな、これ」って。
――音色を作りながら?
音色もそうだけど、あのフレーズだよね。直線的な、懐かし新しいみたいなさ(笑)。
――そのへんのニュー・ウェーヴって、浅井さん、どんなバンドを聴いていました? 以前、スージー・アンド・ザ・バンシーズがお好きだとおっしゃっていましたけど。
いろいろあったよね。何があったっけ?
――キュアーは聴いていました?
もちろん、キュアーは大好き。サザン・デス・カルトとか、バウハウスとか、ラブ・アンド・ロケッツも好きだったな。ウルトラヴォックスも流行ったよね。1曲、「New Europeans」ってやつがコマーシャルに使われたじゃん。あれ、かっこよかったな。
――でも、今回は特にその辺の音を意識したわけではなく?
脳みそに入っとるから、すべてを意識しているとも言えるし、していないとも言えるし。
――重ねたギターのアンサンブルも聴きどころの1つではないか、と。
そうだね。いろいろやって、かっこいいか、かっこ悪いかでしかないんだけどね。「ギターを重ねようか」って言って、何も決めずに「(オケを)流して」って言って、やるじゃん。それで一番初めに出てきたのがこれなんだわ。
――うわ。ビックリと言うか、思わずため息が出ます。「HARUKAZE」の歌詞は「ぐっさり」に比べて、もうちょっとパーソナルな気持ちを歌っているように感じたのですが、<悲しみはもうない>とくりかえし歌っているじゃないですか。つまり、その前には悲しみがあったってことですよね?
うーん、そうだね。
――もちろん、聴き手それぞれに感じればいいことなんですけど、浅井さんが感じている悲しみは、何に対するものなんでしょうか?
心配しなくていいんじゃないのっていう。自分の故郷が宇宙だと思ったら、大きい気持ちになるじゃん。苦しいことも悲しいことも、そういうこともあんまり考えなくていいじゃんっていうニュアンスなんだけど。見てのとおり、俺はいつも悲しがっているような人間じゃないからさ、そんなことは考えなくていいんじゃないかな。そういうところを突き詰めて訊きたがると言うか、訊くことがなくなって、そういうことに突き進むライターさんおるけど(笑)。
――ははは。
こっちとしては、いちいちそんなことを訊いてもしかたがないのにって思うんだよね(笑)。言葉では説明できないものが曲になっているわけだから。曲ってそういう感情的で、感覚的なものだよね。せっかくそういう形にしたのに、それをわざわざまた言葉で説明しちゃうの? 説明していいことあるの? そういうふうに思うな。いちいち説明したら、せっかく作った音楽を台無しにしちゃう気がするけどね。
――それはごもっともです。いや、今の言葉を聞ければ、質問した甲斐が……
あった?(笑) いいんじゃないの、別に。質問することがなくなったらなくなったで(笑)。
――いや、質問したいことはいっぱいあるんですけど、台無しにしちゃってもなぁ。
台無しにする質問はよくないよ。
――でも、これは訊きたいな。<男にとって女性は すべてなんだってことも>って歌っているじゃないですか。
男が好きな男の人以外はね。
――どんなときに、そう感じるんですか?
それはずいぶんに前にわかってたことだよ。世の中それで動いているから。素晴らしい人に出会いたいなって気持ちでさ。出会っている人もいるだろうけど。俺はそう思うけどね。違うって人もいるだろうけどさ。
――いつ頃からわかってたんですか?
相当前だね。30年くらい前かな。ずいぶん若い時から気づいているけどね。女性以外のために自分の人生を考える人も、そりゃおると思うんだけど。たとえば「電車が好きで」とかさ。でも、電車がすべてでも安らぎがほしいと思うんだよ、たまには。電車と寝るわけにはいかないから、布団の中で(笑)。だから、そういう人も最終的には女の人が必要になってくるんじゃないのかな。そう思うんだけどね。聞いてみるよ、今度、電車マニアに(笑)。
――リリース後の3月9日からはTHE INTERCHANGE KILLSとのツアーが始まりますね。
始まるね。KILLSの演奏は、今、ほんとすごいことになっているので、最高に楽しい、激しいライブになると思うよ。なので、ぜひ、みんなに観にきてほしいです。
――「HARUKAZE」はもちろん、やると思うんですけど、「ぐっさり」は?
やるよ。KILLSヴァージョンのアレンジでね。それも楽しみにしてほしいね。
取材・文=山口智男 撮影=上山陽介
浅井健一 撮影=上山陽介