ストレイテナー・ホリエアツシに訊く、幕張ワンマン振り返りから新曲、故郷の情景歌うソロ曲まで
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ストレイテナー・ホリエアツシ 撮影=高田梓
今年・2019年1月に結成20周年、デビュー15周年、現体制10周年というアニバーサリーイヤーの締めくくりとして、幕張イベントホールでのワンマンライブを完遂したストレイテナー。そこで初披露された新曲「スパイラル」が既に配信スタートしているほか、4月10日には幕張ワンマンの模様を余すところなく収めた映像作品『21st ANNIVERSARY ROCK BAND 2019.01.19 at Makuhari Event Hall』もリリースされる。
本稿では、あの特別な1日をフロントマンのホリエアツシと振り返りながら、当日の心境から映像作品の見どころ、テナーがファン・リスナーへ捧げた想いの結晶たる「スパイラル」誕生の背景、そしてホリエ個人の名義で公開された楽曲「LOVERS IN NAGASAKI」にまつわる内容までが語られている。一つの節目を過ぎてなお歩みを止めず、バンドマンとしてもいち表現者としても好奇心、探究心を絶やさない姿勢が見えてくるはずだ。
——今回映像化された幕張のライブ『21st ANNIVERSARY ROCK BAND』、とても楽しく感慨深い空間でしたが、いま振り返るとどんなライブでしたか。
やっぱり過去のワンマンとは全然違うモチベーションでした。一つのライブだけど場面が展開していくような舞台をイメージして、サブステージは大きい会場でのワンマンではいつかやりたいと思っていたことだし、ゲストで秦(基博)くんが出てくれたりもあったから、これまでのどのライブよりも“ショー”っていうことを意識して、話し合いながら練っていった感じですね。
——ライブをやっているときにどんなことを感じていたかは覚えてます?
前半はやっぱり、サブステージのことを考えてました。成功するのか、どうなのかっていうことを。でも前半は、どっちかっていうと、後半と比べてよりストレイテナーのシリアスな側面というか。暗めなトーンの曲を固めたんですけど、前半からすごく手応えは感じてましたね。ただ、あのシリアスなテンションを最後まで引きずるとすごく重たいライブになっちゃうだろうから、そこは前半で一区切りさせて、中盤はパーティーっぽく、さらに後半はオープンになっていくという構成にして、新たなチャレンジだったかなと思います。
——いきなり「BERSERKER TUNE」でしたからね。出だしのスタートダッシュからものすごく強力でした。
そうですよね。ビックリさせたかったのはありました。「え?」って言われましたけどね、メンバーからも(笑)。いきなりフルテンな感じなので。
——(ナカヤマ)シンペイさんなんていきなりハイテンションで叫ばないといけないわけで(笑)。
そうそう。「しんど!」みたいなことは言ってましたけど、いきなりピークに持っていくことがやりたかったし、結果的にそれが今までと違う感になりましたね。
——サブステージでああいう曲調の曲をやったのも、違いが出たポイントですよね。大変だったという発言もされてましたが……。
スピーカーが遠いっていうね(笑)。スピーカーが遠いとこういう現象になるんだっていうことと、僕はイヤモニ自体が慣れていないので、それで四苦八苦したのはあります。
それにおそらく、(観る側には)僕らの振りからちょっと遅れて音が聴こえてるから、僕らが単純にこう拳を振り上げたりしても音に合ってないというか。でもそこが映像になると合ってるから気持ちいいですけどね。
——秦さんとの共演については、映像で改めて観てもすごく良かったです。
良かったですよね。「存在感あるわぁ」っていう話をMCではしてたんですけど、一緒にステージに立つと安心感があるので。あと秦チームのみなさんから、「鱗(うろこ)」で手が挙がっている感じがすごい新鮮だって言われました(笑)。
——あと、作品を通して観て、最初に思ったのが結構ノーカットなんだなという点で。
ああ、そうですね。MCも入れられるところは入れてます。今回は場面展開があったから、そこを映像にも落とし込まないとなと思って。だから本当はまるっと流したいくらいの勢いでしたね。……無駄に「VANISH」の映像だけのところとかもあるじゃないですか(笑)。
——あそこはちょっと短くなってますけど、全体的にはMCも含め、あの場の空気感ごとパッケージされていて。「泣きそうになる」っていうくだりとか、2度目なのに思わず笑いました。
たしかに。あのライブの後もだいぶ言われましたからね、「泣きそうになった」って(笑)。そういう部分からも、(幕張のライブを)体感できちゃうかなと。あの場にいた人たちが、幕張にいた日に戻れるような作品にしたいなっていう。そこはこだわってます。
——ホリエさん自身が、映像を見返して感想を新たにした部分はありますか。
サブステージは、自分でどういう風に見えているかわからなかったので、紙吹雪とかを映像で観て初めて「こんな感じだったのか」って思いました。
——あそこが演出としては一番派手だったシーンですね。インタビューの最初の方では「ショーという意識で」っていうお話もありましたけど、むしろ全体的な照明の使い方なんかはとてもバンドっぽいというか、ライブハウスっぽいなぁと思ったんですよ。
うん。結構、暗いですよね。基本はやっぱり暗いんですよ、ストレイテナーの照明は。めっちゃ攻めるなって僕らも思います。
——そのへんからもストレイテナーのライブバンド感と、特別な日ならではの華やかさの両面が味わえますね。ちなみに過去映像作品と比較して、今作ならではのポイントってありますか。
やっぱり会場の空気感。自分たちのライブを映像で観てくれっていうよりも、あの日の空気感を伝えたいっていうのが大きいかなと。お客さんの反応で、2階席の上の方まで手が挙がっていたりとかは自分でもグッときますもんね。アリーナの後ろの方までは(ステージから)見えてたんですけど、さすがに2階席まではわからなかったので、その映像が良かったです。
——わかります。それに引きの映像で観ると会場がめちゃめちゃ大きく見えました。
そうですよね……いや、十分広かったですけど(笑)。でもACIDMANの大木(伸夫)くんからもめっちゃ言われました。「何万人もいるみたいに見えたよ」って。良い感じのマジックがありますね(笑)。
——ライブのハイライト・シーンを挙げるとすれば、ホリエさんはどこですか?
「スパイラル」ですかね。「スパイラル」が結構な比重を占めてたなって思います。最初はアンコールの頭でやろうかなと思っていたんですけど、この曲の印象が強すぎるから、その後に何曲かあってもそれがちょっと消化試合みたいになるっていう風にシンペイが言って。それで最後の「ROCKSTEADY」の前に持ってきたんです。(背景に流れた)映像も、去年のツアーの道中で僕が撮影したものなんですけど、そのときからこの曲のバックに映そうっていうことを考えて撮っていて。
——ライブの大事なところでやるだろうし、そこで流す映像が必要だっていう考えが当初からあったわけですね。この曲に込めた想いはMCでもお話しされてましたけど、あらためてどんな想いのもと生まれた曲なのかを伺えますか。
やっぱりツアーですね。ツアーのときの気持ちを前面に出していて、何度も訪れて馴染みの景色っていうか……最初の<もう少しで海に出るだろう/その先に広がるのはよく知ったあの景色だ>っていうのはそのツアーのときの感覚です。
移動して、「あ、もうすぐ街に着くな」っていうところから始まって——そこから、いろんな人たちの気持ちを代弁していくじゃないですけど、Bメロの<自分の場所など 無いと思ってた>っていうところは、ライブという場を拠り所としてくれてるみんなの気持ちを思って、ライブに来たら「ここが自分の場所だ」って思ってくれたらいいな、みたいなことだったりしますね。
あとはMCでも言ったんですけど……いつかね、今はすごく必要としてくれてるけど、いつか音楽を、ストレイテナーの音楽を必要としなくなるときが来たとしても、またどこかで会えたらいいなっていうことが、サビでは歌われてます。
——そういうツアー中に感じることや、聴いてくれる人たちへの想いや関係性って、ここ最近になって急に感じるようになったわけでもないですよね?
そうですね。でもそれを周年のときに強く思ったのはあります。そうじゃないときって、新しい作品を作ってその新しい音を表現することが第一だったりするので、ファンの気持ちに向き合うというよりも自分たちの今に向き合うっていうか。
前のツアーで全都道府県をまわったときにも……初めてやったのが2007年で、2回目が2013年なんですけど、その間に一回もライブを観ていなかった人って少なからずいるんですよ。自分の街に来てくれたからこそ5年ぶりに来たんだっていう、そういうことを体験して実感して、去年の10月からのツアーにも5年ぶりに来てくれる人がいるんだろうなっていうことを想像しながらできた曲なので。
——それはきっとキャリアを重ねたからこその視点でもありますね。
やっぱりロックバンド=ライブっていうところに立ち返ったのはありましたね。
——ただ、サウンド面に関してはそこまでバンド感を前面に押し出した曲にはなっていなくて、しっかりと歌が聴こえる造りになっています。
たしかにそうですね。意外と今までにないタイプの曲っていうか、バラードっぽく歌を聴かせるんじゃなくて、ノリも重視しながら歌を聴かせるっていうのが、実はストレイテナーの曲にはそんなに無かったかな。サウンド的には「彩雲」とかに近いけど、それとは違ってノリがあるから、空気感は違って聴こえるかもしれないですね。
——なんだかキラキラした感じもして。
素直なんですよね。自分としては捻った部分もあるんですけど、モットーとしては素直に聴かせるっていうのがありました。
——歌詞の表現もストレートですもんね。近作からの流れもそうですけど。
人の気持ちを代弁するって、自分が本当にそう思っていないとできないんですけど、そこに立てた実感がありますね。「自分の場所が無いっていう風に感じながら生きてる人もいるかもしれないな」「その気持ちに自分が立てるか?」って考えたときに、ライブに来たら自分を解放できて素直になれてるんだっていう人たちの表情を実際に見て、初めてそこで歌にできるのかなって思っていて。
——ホリエさん自身も似た感情を抱いたりすることもあるんですか。
僕で言ったら、バンドがなかなか前に進めない時期の気持ちがそうだったかな。行きたいところはあるけど、なかなか進めない状況ってあるじゃないですか。「おれはここにいたいワケじゃないんだ」っていう気持ち。僕にとってはそれを思い出させるっていうか。今は、自分がここに居られることが幸せだなって思ってますけど。
——タイトルの「スパイラル」って、“螺旋”ですよね。そこに関しては。
……僕、螺旋階段がすごく好きで、古い団地の螺旋階段の写真を撮ったりとかしていて。
——あ、インスタか何かで見た気がします!
そうそう。その螺旋階段が好きっていうところからも来てたりするんですけど。今回のアー写を撮った高円寺の“座”っていう劇場にもカッコいい螺旋階段があって、このスパイラルのジャケットもその写真なんですよ。
この曲の歌詞もなんというか、グルグル回っている感じがして……サビの歌詞も葛藤してグルグル回っている。それが螺旋っぽいなっていうのもあって。上に上がってはいるんだけど、同じ感情が何度も巡りめぐりながらちょっとずつ上がっていく。直線的じゃなくて、「また同じ壁にぶち当たってるよ」みたいな迷いとかもあるじゃないですか、生きてると。
——堂々巡りっぽく思える中で、でも少しずつ目的地に近づいているっていう。
そう、ちょっとずつ成長していく感じですよね。
——……余談ですけど、僕も螺旋状のものにわりと惹かれるタイプなんですよ。
お、アンモナイトとかは、(グッと)来ないですか?
——わかります。
アンモナイト、めっちゃ好きなんですよ。手に入れたことはないですけど、子どものころ富士山に行ったときにお土産売り場にアンモナイトがあって、すっごい欲しくてずーっと見てました。でも8000円とかするんですよ(笑)。
——高い(笑)。
——話は変わって、もう一つお聞きしたいテーマがあるんですが、先日発表されたソロ名義の楽曲「LOVERS IN NAGASAKI」はどういう経緯で生まれたんでしょうか。
観光大使としての初の仕事みたいなところで、長崎市のPR活動をする人たちの発案でした。
——大使になったのは去年でしたっけ?
去年ですね。J-WAVEのラジオのイベントで市の職員の方たちと会ったときに「大使になる気はありますか」って言われて、そのときはシンペイと一緒だったんですけど、「あります」って答えて。『Sky Jumboree』の前の日に任命式をしました。最初は仕事があるというわけでもなくて、「気が向いたら東京で長崎のことをPRしてください」くらいのノリだったんですけど、こういうしっかりした仕事のオファーが、意外と早い段階で来たなと(笑)。インスタの写真コンテストがあって、それと楽曲を絡めようっていうお話なんですけど。
——そこから歌とピアノと弦だけのバラードというか、静かで綺麗な曲調になっていったのはどういう流れだったんですか。
最初はとりあえず曲を作ってくださいというところで、「どうしようかな」と思ったんですけど——バンドでやるっていう手もあるじゃないですか。その規模感がわからなかったんですよ、まず。
でもとりあえず作ってみようと思って考えていたら、この曲ができた。アコースティックの弾き語りでも良いくらいの曲だから、そのままでもっていう話もしていたんですけど、ちょうど『ROCKIN’ QUARTET』(ロックバンドのボーカリストを迎えた弦楽四重奏のライブシリーズ)でNAOTOさんに自分の曲をアレンジしてもらう機会がタイミングとして重なったので、この曲もNAOTOさんにアレンジしてもらったらすごくいいんじゃないかと思ってお願いしました。
あと、長崎についての曲は既にストレイテナーとして、「NO 〜命の跡に咲いた花〜」を書いているので、それとは違うものにしたいのはあったかな。だからバンドっていうやり方は避けたのかもしれないですね。
——オファーをもらった段階でお題みたいなものはあったんですか?
お題はその写真ですね。コンテストなので、入選作品以外にも審査の途中段階で写真を早めにいただいたりしていて。それぞれ写真としてもすごく魅力的だし、長崎の四季織織の風景だったり催し物だったり、人が写っている写真もあるし、全部が「ああ、なるほどね」っていう、自分の中にある原風景と重なるものばっかりだったから、その写真を見て曲を作って歌詞を書きました。
——普段とは違う作り方ですよね?
ああ、そうですね。でもお題があったほうが作りやすいというか、漠然と「長崎について歌にしてください」って言われるよりは、長崎の人が撮った写真で切り取られたものから思い浮かべて書くのは面白いなって思いながら書きました。
——出てくる言葉が、思い切り土地そのものをフォーカスしているじゃないですか、人や景色、文化とか。僕はこの歌を聴いたり、MVに出てくる写真を見たりしているうちに、すごく長崎に行ってみたくなりました。
綺麗ですもんね。僕もちょくちょくSNSに長崎の写真を上げてるんですけど、独特の街の作りなので、「ここに行ってほしい」っていう観光地とかとは別に、いろんなところを歩いてみてほしいなって。どこか目的地に行くというよりは、その場所をどこから見るかで印象が変わって面白い。何でもかんでも斜面に建っているから、平地から見るのと反対側の斜面から見るのとで全然違うし、キリスト教系の学校とか建物も多くて。
——めちゃめちゃPRに役立っているじゃないですか(笑)。
めちゃめちゃ大使の仕事ですね(笑)。
——結果としてこの曲が、過去のバンドでの作品ともentの作品とも違った手触りの楽曲になっていることは、新たなアウトプットの形とも言えそうですか?
そうですね。作家としてのワークっていう感じがします。自分で歌っているから、作家でありシンガーでありっていうところですけど、そこを際立たせた作品にできたなと思っています。
——新たな表現もあり、新曲「スパイラル」もあり、ライブではACIDMANとTHE BACK HORNとの3マンツアーが控えていたりと、周年イヤーを過ぎても様々な展開があるわけですけど、当面の活動に関して考えていることはありますか。
幕張に向けての1年は結構な重圧だったから、今はそこから解放されて「ああ、力を抜いていいんだ」っていう、多少は体と頭を休めたいなとは思ってますけど……でも力を抜きながらも、自然と出てくるアイディアとかをうまく形にしていけたらいいなって思ってます。もちろんライブで出ていけるところにはたくさん出たいし、なんだかんだ僕は日常で曲を作っちゃうので、新しいものを作りたい欲みたいなものは徐々に出始めてますからね。そういうものがこれからのストレイテナーの音としてどういう形になっていくか、楽しみですね。
取材・文=風間大洋 撮影=高田梓
リリース情報
2019.4.10 Release
BLU-RAY
DVD
【収録内容】