岡山天音「舞台はすごく怖い。でも、だからこそやりたい」 松井周演出の舞台『ビビを見た!』に出演
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岡山天音
幻の童話作家と呼ばれた大海赫(おおうみ・あかし)による絵本『ビビを見た!』が2019年7月にKAAT神奈川芸術劇場で舞台化される。第55回岸田國士戯曲賞を受賞し、活動の領域を広げている松井周が演出を担当し、若手個性派俳優として注目を集める岡山天音や石橋静河らが出演する。今回は主演の岡山天音に、舞台のことや普段の役作りの方法などをたっぷりと聞いた。
盲目の少年・ホタルに「7時間だけ目を見えるようにしてやろう」と言う声が聞こえた。ホタルの目が見えるようになると同時に、まわりの人々は光を失ってしまう。母も猫も、町の人も...。突如、町が正体不明の敵に襲われると警報がながれ、人々はパニックに陥る。盲目になった母と逃げるために列車に乗り込むホタル。そこで、ホタルはやぶれた美しい羽と触覚を持った緑色の少女ビビと出会う。天真爛漫で無邪気なビビに手を焼きながら、一緒にいるホタル。ホタルたちの乗った列車を謎の巨人・ワカオが追いかけてくる...。
悪夢にうなされているような、不思議な感覚
ーー原作の『ビビを見た』はお読みになったと思いますが、感想を教えてください。
絵本というのは聞いていたのですが、最初思っていたイメージとは違って、油断をしていました(笑)。現実世界のお話ではないのですが、どこかでこの世界と通ずる芯みたいなものがあって、生々しくて。ありきたりな言い方ですが、手に汗を握ったと言いますか、逃がしてもらえない感じがしました。
言葉で説明すると一番近い感覚は、悪夢にうなされている感じです。起きて冷静に考えると確実におかしな話なのですが、見ている最中は“現実”としてしか信じられないというような、不思議な感覚になりました。新しい体験でした。本を読んで、そういう風に迫ってくる感じは味わったことがなかったので。
ーー岡山さんが演じられるのが、盲目の少年・ホタルです。ホタルについてはどのような印象をお持ちですか?
まだ分からないですね。ただ、すごくピュアと言うか……それは平均的な少年性みたいなことなのですが、脚本を読んでいると、パーソナルな生い立ちが浮かび上がってはくるのですが、この作品に関してはそういうものを掘り下げていくことがちゃんと価値のある効果を生む結果になるのかが、まだちょっと分からなくて。
特に(自分にとって)舞台は踏み入れたことがない場所ですし、原作の世界が本当に独創的なので、これまで映像で自分がやってきたアプローチをすることが正しいのか、まだ分からないです。
岡山天音
舞台に立つことは、すごく怖い。でもだからこそ、やりたい。
ーー初舞台は2011年で、それ以来主に映像の世界でご活躍されてきました。舞台に関してはずっとやりたいなという思いはあったのでしょうか?
ありました。
ーー岡山さんにとって、舞台はどのような「挑戦」なのでしょう?
舞台はすごく好きで、よく観にいきます。僕らお客さんが捉えている対象物は映像と一緒なのですが、舞台と映像が大きく違うのは、舞台の方が「体感する」という感覚が強いこと。とても贅沢な時間、お芝居の味わい方だなと感じていました。
それに舞台に立つことって、すごく怖いなと思うんです。でも、だからこそやってみたい。本番に立つまでの稽古期間があるし、自分の知らないことをたくさん教えてもらえるのではないかなという気持ちはあって、また舞台をやりたいなとずっと思っていました。
ーー「怖い」と感じるのは何故ですか? お客さんが目の前にいて、「生」だからですか?
そうですね……。お客さんたちの視線が、より暴力的になるというか……ズルをできないと言いますか……。いや、これまでズルをしてきたわけではないのですが(笑)、カメラマンさんや照明部さんなどのスタッフさんや監督が施してくれた装飾みたいなものを、まぁ舞台には舞台の装置がありますが、全部剥がされた状態で、自分の血肉で表現しなくてはいけないのはやはり怖いですね。
“松井節”をたくさん吸収して
ーー演出を担当されるのは松井周さんですが、お話はされたそうで。どのような印象ですか?
一度お会いしただけで、まだちゃんとお話ししていないのですが……映像の現場で共演者とか周りの人から「今度舞台やるんだね」という話になると、みんな「松井さん、変態だよね」って(笑)。初対面では全然そんな感じしなかったんですけどね(笑)。ご本人と作品のギャップがすごいあるという話は聞きます。作るものは変態だと。
でも、変態の方が面白いですよね。今回、呼んでいただけて、本当に光栄です。
ーー松井さんのもとで、こんなことを学びたい、こんなことをやりたいなど、期待されていることはございますか?
うーん。まだ分からないですね。そんなに固める必要はないと、仰っていました。「フラットな状態をちゃんと維持して稽古初日に来て欲しい」と言われたので、覚悟とドキドキみたいなものだけ持参して、極力手ぶらで行って、空いた余白にたくさん松井節を吸収して、それを味わえたらなと思います。
岡山天音
ーービビを演じる石橋静河さんは同い年でいらっしゃいます。
この間、石橋さんが出演されている舞台を観に行って、その時にご挨拶させていただきました。
すごく肝が座っているというか、タフネスを感じます。だからビビが石橋さんと聞いた時に、不思議ですけど、すごく頼もしいなと思いました。ちゃんと相乗効果になるように、僕も何かをお返しできるように頑張って取り組みたいなと、強く思います。
外連味と真実味をミックスさせたい
ーー岡山さんは役幅が広くて、本当にいろんな役を演じられている印象です。普段は役作りはどうされているのですか?
役によって全然違いますね。うーん、何しているんですかねぇ?(笑)
ーー現場で作ることの方が多いですか?
それはあまりないです。そんなに柔軟性や要領の良さがある方ではないので、準備はします。いろんなことをとにかくします。要領が悪いので、何をすればいいのかが選びとれない。とにかくいろんな側面から一つずつ入れていくことが多いです。
あとは、散歩が好きで。台本を読んで、その後に散歩をして、直接芝居に生きるかは分からないけれど、台本を読んだ残り香みたいなものを転がしながら、散歩をして、いろんなところに思考が飛んでいくのを楽しむ。まぁそんな時間が取れれば贅沢ですよね。忙しくなると、なかなかそういう時間も取れないのですが。
ーー今回のホタルに関しては、役作りに関してどの辺りから入ろうかなと?
松井さんの色にちゃんと染まりたいなと思うので、勝手なことはあまりしたくないというのはありますが、やはり自分を観察することから入りたいなと思います。
ホタルは、少年で盲目で、かなり飛躍の幅が大きい役だと思います。自分の中の純度や少年性がどれぐらいあるのか、どれぐらい表に出ているのか。自分のことを観察することから始めたいです。それで本当の部分をどう使っていけるか。飛躍した役だからこそ、地の部分がちゃんとないと面白くないなと思うので、外連味と真実味をミックスしていけたらいいなと思います。
目標は、好奇心をくすぐる役者
ーーお話を伺っていると、言葉のセンスがさすがだなと思うのですが、本や絵本はお読みになるのですか?
絵本はすごく読みたいですが、子どもの時以来ちゃんと読んでいないんです。絵本、始めたいです(笑)。絵本好きな大人って結構いますよね。周りの人に話を聞いていると。俳優の方たちって、いろんな顔を持っていて、多趣味な人が多く、いろいろな世界を教えてもらえる。この間、絵本が好きな方からオススメの絵本を聞いたのですが、まだ読めておらず、Amazonの欲しいものリストには入れています(笑)
本は時間があれば読みます。小説が意外と少なくて、エッセイとか、今は伊丹監督(※伊丹十三)の「女たちよ!」を読んでいて、キングコングの西野さん(※西野亮廣)の広告に関するビジネス書とか……いろいろ読みます。
岡山天音
ーーオフの日は何をされていることが多いですか?
最近は家にいることが多いですかね。久々の休みだと買い物に行ったりもします。服が好きなので服を見に行ったり、あと、生活に直接関わらない、必要のないモノが好きです。
いろんなものが家にはあって、先日、こけしをモチーフとしたドラマをやって、撮影で使わせてもらったお店でこけしを買ったり、いただいたり。こけし、好きです。作家性もあるし、最近雑誌で特集組まれていたりしますもんね。流行っていますよ。今、家には4体いて、でもこれ以上あると「こけしの人」になっちゃうので、我慢していますが(笑)
こんな感じで、基本的には超インドアですね。こもっています。
ーー今後こういう役者になりたいなど、夢や目標はございますか?
ずっと期待し続けてもらえる人でいたいです。抽象的ですが、好奇心をくすぐる俳優でいたいなと思います。「この人はこういうキャラだから、こういう役の時はこの人だよね」ということに落ち着くのではなくて、「この人ってこういうこともできるんじゃない?」と。
年を重ねていくと、それはすごく難しいことだと思います。でも、そういう無茶振りをしたくなるような俳優で居続けたいです。いろんなものを犠牲にできる、努力ができる人でいたい。退化していくことは簡単ですが、ちゃんと進化し続けたいなと思いますね。
ーーその思いはいつからお持ちなのですか?
20歳の木村拓哉さんが言っていました(笑)。いやでも、本当にそうだなと思って。難しいことをやっていきたいです。人として生まれたからには。
この舞台が、人生が豊かになる助力になれば
ーー最後に、この『ビビを見た!』をどんな人に見て欲しいか、一言お願いします。
大人や演劇好きな人にはもちろんゾクゾクしてもらえる内容になっていると思います。また、10代や今まで演劇に触れたことのない人、物語に触れたことがない人は、やはり原作が持つ力がすごいので、それを僕がちゃんと舞台でやる意味というものを提示して、このホタルという役と『ビビを見た!』という作品を頑張って体現するので、人生が豊かになる助力に少しでもなればいいなと思います。
見る人にとって衝撃的な出会いになったら面白いし、見てくれる人に影響を与えられるような作品にしたい、そういう風になれる器の作品だと思う。柔らかい部分がたくさん残っている年代の人や、まだ真っ白い余白の部分が多い人に見てもらったら、すごく面白いことが起こるのではないかなと思います。
岡山天音
スタイリスト:岡村春輝
ヘアメイク:森下奈央子
取材・文=五月女菜穂 撮影=寺坂ジョニー
公演情報
場所:KAAT 神奈川芸術劇場 <大スタジオ>
原作:大海赫
上演台本・演出:松井周
出演: 岡山天音 石橋静河 樹里咲穂 久ヶ沢徹 瑛蓮 師岡広明
大村わたる 熊野晋也 岩岡修輝 長尾純子 中島妙子 小林風花
公演お問合せ:
公式サイト:https://www.kaat.jp/