「現役アイドルは結婚できない」そんな見えないルールを壊すため、私は恋活アプリを使った

インタビュー
音楽
2019.5.6
鈴姫みさこ

鈴姫みさこ

NegiccoのNao☆と空想委員会の岡田典之(B)が、Nao☆の31歳の誕生日である4月10日に入籍し(NegiccoのNao☆と空想委員会の岡田典之が入籍)、このことが2組のファンのみならず多くの人々の間で話題を呼んだ。というのも、第一線で活躍している女性アイドルグループの現役メンバーが活動を継続したまま結婚し、しかもそれがたくさんのファンから祝福されたという例は過去にほとんどなかったからだ。

グループが恋愛禁止を明確に謳っていなくても、それは女性アイドルのシーン全体で暗黙のルールになっている。その状況を自ら打ち破ろうという気持ちから、鈴姫みさこ(バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHI、神聖かまってちゃん)は“現役アイドルのまま結婚して祝福される”を目標に、昨年からマッチングアプリを使用して本気で婚活に取り組んできた。Nao☆と岡田の結婚報告を知った際には、Twitterに「何か勝手に肩の荷がおりてる 笑」と感慨深げに投稿したみさこ。彼女にこの約1年間の婚活を通して感じたことなどを振り返ってもらい、さらに“アイドルと結婚”というテーマで思うことを語ってもらった。

女性アイドルはいつか時間が来たら終わるもの?

去年、あるアイドルがディズニーランドで男の子と一緒にいるところを盗撮した画像が拡散されてて、その子がものすごく叩かれるっていう出来事があったたんです。そのときに彼女が浴びせられていた言葉が、人に対して言っていいようなものじゃなかったんですよ。でもその後、写っていたのは男子じゃなくてボーイッシュな女子だったことが判明して、それまで叩いてた人たちがその瞬間に「本当は俺は信じてたよ」「大変だったね」なんて手のひらを返し始めて。

いやちょっと待ってよと。アイドルが人間だっていうことをみんな忘れてないかと。そのグループは恋愛禁止のルールがあったのかもしれないけど、もし本当にデートだったとしても、そんな人でも殺したのかっていうほどひどい言葉をぶつけられるべきじゃない。アイドル業界においては異性との交際は犯罪並みにやっちゃいけないことになってて、みんな感覚がおかしくなってる。そう思っているうちに「アイドルだって祝福されながら結婚してもいいじゃない!」って気持ちになって、私とかが率先して結婚することで見えないルールをぶち壊すことにしたんです。

それまでは私自身も「男性アイドルは結婚してからも続けられるけど、女性アイドルはいつか時間が来たら終わるもの」とどこかで思ってたところがあって、現役のまま結婚するなんて想像もしてませんでした。結婚するなら卒業しないといけないんだって。バンもん!は「女の子は自分が好きなことをやってるときが一番かわいい。だからみんなも自分の好きなことをして生きて」っていうテーマで活動してきたのに、私たち自身が“好きなことをして生きる”を体現しなきゃいけないのに、「アイドルを続けながら結婚はできない」っていう考えに囚われて生きてたことに気付いたんですよ。

1人目に会ったのは、一番会いたくない人だった

私はバンもん!を始めて以来ずっと、男性との付き合いは一切なかったから、結婚するにも相手がいないので、まず恋活アプリに登録することにしました。「忙しい」を行動しない言い訳にはしたくなかったから、恋活アプリだったら忙しくても空いた時間に使えるだろうと思って。恋活パーティとかのイベントだと自分のスケジュールをその1日に合わせないといけないけど、アプリなら相手と私がどっちも空いてる日があれば会えるし。それで何人かとやり取りをして、今までに実際に4人と会いました。

相手を選ぶときの第一条件は、音楽業界の関係者とか私のファンの方ではない人。うまくいかなかったときに無下にできないので、仕事に支障がないようにということです。それに本気で結婚を考えるなら、私がかまってちゃんやバンもん!のみさこじゃなかったとしても好きになってくれる人じゃないと厳しいので。だから私のことを知ってそうだなっていう人、例えばフェスの写真をプロフィール画像にしている人とかは全部選択肢から外してたんですが、にも関わらず1人目に会った人が前にかなり有名な事務所でマネージメントとして働いてた人だったんですよ。一番会いたくない人ですよね(笑)。その後も、私のプロフィールには口元しか写ってない写真を載せてたのに、男の子から「あれ? 神聖ちゃんですよね?」って言われたことがあって。聞いたらその人の元カノさんがちばぎん(神聖かまってちゃんのベーシスト)のファンだったそうで。ちばぎんってところが「ガチで好き」って感じがするじゃないですか(笑)。マッチングの精度が高いってことなのか、避けていてもバレることはありましたね。

私が恋活を続けるモチベーションは“アイドルのみんなの未来を切り開きたい”、つまり“誰かのために”だったので、正直言って私自身にはそんなに結婚に対する憧れはないんです。結婚しなくても、子供がいなくても幸せにはなれると思うし、そもそも「恋愛は男女間だけでするもの」とも考えてないので。私は根がロックンローラーだから「世の中へのカウンターとして恋活をしている」という部分があるんですよね。それについて、相手の方にはもちろん会ったときにちゃんと説明をしていますが、ありがたいことに今のところ皆さん理解してくれましたね。4人目の方とは今でもLINEとかでやり取りをしてます。

アイドルのファンの関係について

アイドルが「結婚しました」とか「お付き合いしてます」みたいな報告をすることで本気で落ち込む人はいると思いますけど、私は常々「みさこにとっての一番はファンのみんなだから、結婚しても落ち込まないでくれたらうれしいな」って言ってるんです。だから逆に、恋愛対象になった人に対して申し訳ないんですよね。その人を一番大事にはできないから。私はバンもん!を始める前には恋人がいたこともあったんですけど、かまってちゃんの活動が忙しいときに、お付き合いしてた方の誕生日を2年連続で忘れたことがあったんです。さすがに人としてヤバいだろと思って、2年目は忘れてたことに気付いたときに泣きました(笑)。相手のことを大事にできないって、恋愛感情とはまた別の話なんですよ。それと、そもそも私は恋愛が起きにくい体質というか、人を好きになるのが下手なんですよね。押されると逃げてしまう。自分のことを好きになってくれる人を好きになれるって、私からしたらめちゃめちゃ恵まれてることなんですよね。

さっき「ファンの方は恋愛対象から外した」という話をしましたが、私は「アイドルとファンがつながる」みたいなのが自分の美的感覚からすると嫌で。もちろん「正当な出会い方をした2人が、たまたまアイドルとファンだった」というのは全然いいと思うんです。でも、お客さんという立場で出会ったイケメンからDMが届いて、それに返事をしてこっそり2人で会うようになる、みたいなのは本当に嫌だなと思う。でも私がそれを嫌な理由って「正々堂々としてないから」なんですよね。だから「みさことそのファンしかいない恋活イベント」を開催してYouTubeで公開する、とかだったら面白いかもしれないと思うので、いつかそういうのをやりたいです。相手も「顔を出さなきゃいけない」っていうリスクを伴うから正々堂々としてるし。それができたら私は、今までファンだからと思って聞けなかったこともガンガン聞きたいですね。例えば、早く死なれちゃったら寂しいから「ガン家系ですか?」とか(笑)。

養子をもらおうと思って本気で調べたことも

年始に親から「孫の顔が見たいよ」って言われて、その言葉にすごくビックリしたんです。私には2個下の妹がいて、それこそ恋活アプリでいい人と出会って一緒に楽しく過ごしてるから、「妹よ、孫はお前に任せた」みたいな気持ちだったんだけど、親が本心では私の孫も見たいと思ってたんだって初めて知って。ビックリしすぎて夢を見ちゃったんですよ。「おばあちゃんになったけど私には子供も孫もいなくて、友達がする孫の話を聞いてうらやましくなる」っていう夢。それで「そういえば、80歳になったときの自分の未来を考えたことがなかった」って気付いたんです。今の私は仕事に夢中になってるけど、おばあちゃんになったみさこは、孫が欲しいのかもしれない。今がんばらないと、10年後20年後に子供や孫が欲しくなってがんばっても難しくなっちゃう。その責任が今の自分にあるってことなのかと。

ちなみに、もともと私は「家族が欲しい」っていう気持ちは強かったんです。うちは家族仲がめちゃくちゃいいから、こんなふうに私も自分の家族を作りたいって。でも「子供を産むために配偶者が必要」って言われるとなんか違うなと思うし、自分の遺伝子を残したいという気持ちもまったくないから、恋活を始める前に、養子をもらおうと思って本気で調べたこともあるんですよ。赤ちゃんのうちから育てたいという気持ちも特にないので、中学生とかでもいいなと思いながら。でも今は子供がすごく少ない時代なので、親を求めてる子供のほうが子供を求めてる親より少ないんですよ。それに養子を迎えることができるのは、お父さんとお母さんがいて経済的に安定してる家庭がどうしても優先になるので、私が1人で養子をもらうのは現実問題として難しかった。

孫が見れない責任を、事務所の人たちは取ってくれない

Nao☆さんが入籍を発表したとき、ファンがみんな祝福モードだったことがうれしかったです。絶対幸せになりそうなお似合いの2人だし、「これを祝えない人は心が狭い」ってくらいの空気になっていたので、私は勝手に肩の荷が降りました。Nao☆さんが最初にやってくれたことで、“アイドルの未来になろう”という私の役目は終わったのかなと思って。私は一度公言したら一目散に突き進むことしかできないタイプなので、前までは「少しでも早く結婚を決めたいな」と思って、すぐに会ってくれる人を探してたんです。使命感に駆られていた部分も多少はありましたが、今はもうそんなに急いでません。でも、ペースは落ちますけど引き続き恋活はやっていこうと思ってます。

Negiccoさんがこれまで築き上げてきたものがあるからこそ、「Negiccoだったら結婚しても続けていいんじゃないか」みたいに思ってもらえるようになったのはあると思うんです。ほかの女性アイドルだったらどうだったかわからない。でも、このままNao☆さんのあとに続く人がどんどん増えていったら、その1つひとつが女性アイドルたちの希望になるはずだし、「卒業しなくても、アイドルのままでも恋愛や結婚をしていいんだ」って思う人も増えるんじゃないかなと思います。

実際に自分が恋活をしてみてわかったのは、結婚までの道のりってめっちゃ長いんだなってこと。正直もっとツルっと結婚できると思ってたんです(笑)。アイドルの場合、恋愛に関する話題ってファンとの信頼の問題だけじゃなくて、事務所とかのスタッフだったりスポンサーにも関わってくる問題だったりすることもあるけど、私は結婚したいなと思う相手がいるなら絶対そのタイミングでするべきだと思う。だって80歳になったときに孫が見れない責任を、事務所の人たちは取ってくれないから。アイドルを続けながらでも、自分の人生のために今何が必要かを考えながら、好きなように生きられる世界になってほしいです。

男性アイドルが結婚しながら活動を続けるのが普通になってきたのと同じように、女性アイドルも結婚や出産をしても生涯ずっとグループに所属したまま活動できるようになってほしい。「アイドルだから人間らしい生き方ができない」っていうのは違うと思うから、アイドルが仕事以外のことも大事にできるように業界全体が変わっていったらいいなと思ってます。もちろん、自分たちで「私たちは恋愛をしません」って宣言するような人が一定数いても別にいいと思うし、そういうグループのよさもあると思うけど、それはアイドル全体のルールなんかじゃない。ルールがおかしいのであれば私はそれを変えていきたいし、音楽業界の人たちにもこのことについてもっと考えてほしいと思ってます。

取材・文 / 橋本尚平 撮影 / 沼田学

音楽ナタリー
シェア / 保存先を選択