the quiet roomの最新作『White』とそこへ至る道程を三浦委員長が斬る
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the quiet room / 三浦隆一 撮影=大橋祐希
the quiet roomは不思議なバンドである。日本のミュージックシーンの中で彼らは彼らの居場所を守り続けながら、上昇を続けている。様々な経験を経て、バンドがたどり着いた新たな局面とは。一年ぶりにリリースされる作品『White』に込められた想いとともに、彼らが目指す道を聞いた。
――ミニアルバム『White』リリースおめでとうございます。
一同:ありがとうございます!
――約一年ぶりのリリースということになります。一年活動したことが音源に如実に出ると思うんですが、一曲目から「明るいな」と感じました。この明るさはどこからきたものですか?
菊池遼(Vo/Gt):この一年が充実していたからこそ出た明るさだと思います。昨年の9月でドラムが脱けても止まらずに活動を続けてこられて、とても充実していました。「パレードは終わりさ」という今作のリード曲があるんですが、僕のイメージでは「今まで自分たちが楽しみにしていたもの、期待していたもの、それが終わってもその先の生活をどう楽しく生きていくかというのが今作のテーマだったのもあって明るい曲調になりました。
斎藤弦(Gt):今回はハネ感だったり、ポップさだったりを意識しました。楽しく、ポップに行こうっていう共通認識がメンバー間であったと思います。
――1曲目からこういう感じできたか!と驚きました。
菊池:違和感なくこういう感じになりましたね。
――アー写も海辺で爽やかですしね。
斎藤:めちゃくちゃ濡れましたけどね(笑)。
菊池:桟橋に座って、波打ち際で撮って。
斎藤:靴もビショビショでした(笑)。
菊池:早朝から撮影してたんですが、だんだん満ち潮になってきていて、カメラマンさんもビショビショで。
――そうだったんですね(笑)。撮影したのはいつ頃ですか?
菊池:ドラムが脱けてすぐですね。
the quiet room / 三浦隆一 撮影=大橋祐希
――それに関しては暗くなる感じはなかったと。
斎藤:どうしよう?っていう不安感はありましたけど、マイナスの感じはなかったですね。
菊池:今までもメンバーチェンジの経験はしてきたので、焦らずにいられました。今回は決まってからすぐにサポートドラマーも見つかったし、周りのバンドマンも「手伝うよ」って言ってくれたから大丈夫でした。
――キャリアを続けてきたからこそできていた、周りのミュージシャンとの関係性ですね。
菊池:バンドの状況的には、ツアーファイナルの(渋谷)クアトロワンマンがソールドアウトしたんですよ。クアトロのライブ、3回やっているんですけど、やっとソールドアウトできたこともあって、自分たちの中に自信も芽生えていました。やっとここまできたという想いもあって、4人で目標にしていたことを成し遂げて、しっかりと送り出せたのも良かったですね。
――曲の作り方は変わりましたか?
斎藤:サポートドラムの方にフレーズとかを指定するようになりました。「こういう風に叩いてほしい」と。そういう意味ではより周りを見れるようになったというか、視野は広くなったと思います。
――いろいろとリクエストできるような関係性もあってそういう作り方ができたんですね。手応えとしては今作に収録されている5曲はどうですか?
菊池:新しいことに挑戦できたのは大きいです。今までは音源を作る際に、4人で表現できることにこだわりを持っていましたけど、今作は新しいことに挑戦するきっかけになりました。元々ピアノを入れてみたいという思いはあっても、4人での表現にこだわることによってそれを先延ばしにしていたところもあったんです。今回それにチャレンジするきっかけになりましたね。
――表現の幅が広がったということでしょうか?
菊池:ドラムもサポートミュージシャンなので、ピアノがサポートで入ってもおかしくないでしょうという気持ちになりましたね。サポートミュージシャンを入れてもthe quiet roomの音楽として表現できるという意味で違和感がなくなりました。
――他の楽器の選択肢もあった中で、何故ピアノだったんでしょうか?
菊池:4曲目に収録されている「夜中の電話」という曲がピアノと歌から始まる曲なんです。王道バラードみたいなものも作ってみたくて、それをイメージしたときに必要なのがピアノで。そういう曲も構想にあったので、一曲目でもピアノにチャレンジできました。
斎藤:個人的にはピアノが一つ増えただけなので、「バンド」という枠からははみ出ないと思っていて。程よくステップアップできたと思います。
the quiet room / 三浦隆一 撮影=大橋祐希
――アルバムタイトル『white』に込めた思いも聞かせてもらえますか?
菊池:前作『色づく日々より愛を込めて』というミニアルバムのリリースツアーのタイトルを『捨てられないからこのまま全部抱いて走っていくツアー』としたんです。アルバムに入っている「Prism」という曲の歌詞から取ったタイトルなんですけど、今まで4人で積み上げてきたもの、その前のメンバーと積み上げてきたものも全部抱いて走っていけるバンドでありたいなと思ってタイトルをつけたんです。
その前作のリリースから一年間活動してきて自信もついてきたし、3人でもやっていけると思ったので、新しいスタートという意味で『White』。これはゼロから始めるという意味ではなくて、今まで積み重ねてきたものの上に白色を塗って、その上にまた新しいものを描いていこうという意味で。
――楽曲制作にかなりの時間がかかるという噂もちらほら聞くんですが(笑)、今作の曲作りのスピードはいかがでしたか?
菊池:今回は曲のネタみたいなものは割と早い段階からありましたけど、ドラムがいなくなったぶんアレンジしていく作業の部分では時間がかかってしまいました。4人のときはセッションしながら曲を作っていたのが、ドラムがサポートになったので、「こういうドラムを叩いてほしい」という意見交換はいつもより大変でしたね。
斎藤:曲を作っていると、「もっと良くできる」って思うのでどうしても時間がかかってしまいますね。
――これから曲の作り方は変わっていきそうですか? 例えば、ドラムがいないために打ち込みなどをしたり。
斎藤:今回はDTMを使って、ちょっとずつ肉付けしていくような作業をするようになりましたね。実際に使ってみるとハモリとかを作るときにすごくわかりやすいので、今後しっかりやってみようと思ってます。
――曲調も変わってきそうですね?
菊池:そうですね。今回の作品でも曲によってドラマーが違ったりするので、そういう面でも変わってくる可能性もありますね。
斎藤:ただ、そもそも曲を作ってるときはその作業自体が楽しいので、極力みんなで集まって音を鳴らしながら作るということはなくしたくないです。
前田翔平(Ba):ピリついたりもしますけどね(笑)。
菊池:意見のぶつかり合いはありますけど、それは曲にこだわりがあるからだと思います。
the quiet room 撮影=大橋祐希
――バンドを始めたときと今とで、曲を届けようとする相手のイメージは変わりましたか?
菊池:まだ応援してくれる人が少なかった頃は、活動の中で苦しいこととかがあったときに「誰のためにやってるんだろう」って思ってしまうようなこともあったんです。でも今は数多くの経験をさせてもらい、「誰のために」という景色が明確に見えるようになりました。イメージしやすくなったという点では昔とは全然変わりましたね。
――最初にバンドを作って曲を作ったときは、まだ届ける相手が明確ではなかったと思います。それが今は明確になって、それに伴って曲の中で選ぶ言葉などは変わりましたか?
菊池:その点は変わらないです。そもそも僕は音楽を作りたいという気持ちよりも、エンターテインメントとして楽しんでもらいたいという思いが強かったので音楽を始めたんですよ。最初から「どういう風に楽しんでほしい」とか、「どういう風に聞いてほしい」というイメージを持ったまま活動しているので、選ぶ言葉は変わらないです。昔から「聞いてくれる人のために音楽をやる」というのは変わらなくて、喜んでくれる人がいるから音楽をやっているというのが大きいです。逆に僕以外のメンバーはアーティスト気質が強いと思いますけど。
斎藤:正反対とまでは言わないですけど、「このフレーズかっこいいでしょ!」っていうのがありますね。そこが楽しくて音楽をやってます。
前田:僕は単純にベースが好きですね。曲の中にいかに自分らしさを散りばめられるか?っていうのが楽しくて曲を作っているところもあります。
――それではちょっと意地悪な質問をしますけど、人を楽しませることが目的であるなら、音楽じゃなくても他に方法はあるわけじゃないですか。そこを何故、音楽を選んだんですか?
菊池:どうしてなんですかねぇ……話が飛んじゃうんですけど、僕、本気で柔道をやってたんですよ。中学三年間だけだったんですけど、強豪校にいて。でもめちゃくちゃ頑張ったんですけど、県でベスト8くらいが限界で。そこから先はもう自分のセンスとか、体格とかいろんなものも含めて限界だなと感じてしまいまして。そんな状況になって、他に輝ける場所を探していたんだと思います。
幼少期からずっと音楽は大好きだったんですよ。柔道部でランニングするときにBGMを流すことができたんですけど、そこで流すプレイリスト作りを任されるくらい好きでしたし、そういうのもあって音楽始めてみようかなと思いました。
――なるほど。でも、誰かがやっている音楽を聴いて「楽しいな」というのと、「自分で音楽をやってみよう」っていうのはベクトルが全然違う気がするんですが、そこはすんなり切り替わったんですか?
菊池:目立ちたがり屋だったんですよ、学生時代。今はそんなになんですけど(笑)。中学生のときは生徒会長をやっていましたし、それで柔道も強くて、さらに楽器もできたら「無敵だぜ」って思ったんですよね。
そんな状態のまま高校に進学したんですけど、そこが男女共学になったばかりの元女子高でして、男子がとても少ない、肩身が狭い状況が長く続くことになって。なので、中学生のときは自信家だったんですが、高校生になったらその自信を失ってしまった感じです。女子だらけの学校生活の中でちやほやされたのは最初の1ヶ月間だけで(笑)、あとの2年11ヶ月は本当にしんどかった。
――(笑)。
菊池:最初は自信家だったのが、高校に入ってへし折られて、そんなときにthe quiet roomのメンバーに出会って。「このバンドだったらいけるかも」って思えたからどんな状況でも音楽だけは自然と続けてこられました。
the quiet room 撮影=大橋祐希
――その当時から歌っている内容はずっと一緒ですか?
菊池:内容は少し違ってきているかもしれませんけど、バンドを始めた当初に“表情豊かに生きる”というのをテーマに決めたので、大きい意味では変わってないです。表情だったり、喜怒哀楽に焦点を当てて書くというところは続けていて、でも最初はもうちょっと文学的だったと思います。今はもうちょっとラブソングよりだったり、ポップスよりだったり、キャッチーな言葉の響き、話し言葉みたいなところにこだわっています。会話しているみたいな歌詞を意識して書いています。まあ当時はちょっと厨二病でしたね(笑)。
――当時から特に制約を決めることもなく、その時その時でやりたいことをやってきたんですね。このCDがリリースされたあと、どんな風に届いていくのかというイメージはできていますか?
菊池:今回のアルバムは自分たちの活動の中でもきっかけになる作品じゃないかなと思っています。このアルバムを作ったときに、この作品によって「ステップアップする」という確信があったんですけど、それがちゃんと形になり始めていて。例えば、ずっと憧れていた夏フェスにも何本か出演が決まったし、たくさんの人に聞いてもらえるきっかけになるんじゃないかと思います。
――2019年はすごくいい感じになりそうですね。
菊池:そうですね。リリースがあって、フェス出演があり、そのあとのツアーファイナルの恵比寿LIQUIDROOMをしっかり満員にできるように頑張りたいですね。今回、初めてのワンマンツアーなんですよ。
――それは意外でした。今まであまりやったことがないという意味で、長尺のライブに不安などはありますか?
菊池:最近は対バンイベントなどの持ち時間が30分のライブだと、自分たちを表現するのが難しいなと感じることが多いんです。伝えたいことが伝えきれないというか。なので、やっと長尺で思う存分ライブができるのが楽しみですし、その中で新譜の曲もしっかり表現できる自信はあります。
斎藤:このタイミングで一気に変わるのではなく、今までの楽曲たちに新曲も加えてどうやって表現しようかというふうに考えています。
――初のワンマンツアー、すごく楽しみですね。
斎藤:地方でやるワンマンはどうなるのかわからないですけど、対バンのときよりもたくさんの人が集まってくれそうですし、ライブによってはピアノのゲストを呼んで演奏する、みたいなこともできたらいいなと思っています。
――活動も長くなってくると、後輩バンドも続々と出てきます。そこで何か思うところはありますか?
菊池:僕たちの活動によって、後輩たちにも何か還元できるようなバンドになっていきたいですね。
取材・文=三浦隆一 撮影=大橋祐希
the quiet room 撮影=大橋祐希
リリース情報
発売中
1.パレードは終わりさ
2.かずかぞえ
3.Tansy
4.夜中の電話
5.話をしよう
MDMR-2041 / ¥1,500(+tax)
ツアー情報
9月1日(日)宮城県 enn 3rd
9月7日(土)福岡県 graf
9月14日(土)愛知県 CLUB ROCK'N'ROLL
9月15日(日)大阪府 Shangri-La
9月21日(土)東京都 LIQUIDROOM