w.o.d. 現在とこれからへの飛躍を確信させた初ワンマンをレポート
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w.o.d. ONE MAN LIVE “バック・トゥー・ザ・フューチャー”
2019.6.15 下北沢SHELTER
「グランジ」の定義にも色々とある。その様々な見識の中、私が最もしっくりときているのが、「音楽が日常の延長」といった類い。それは「日常をそのまま等身大に描く」類ではなく、「目覚めた瞬間にパッとその辺りに転がっていたネルシャツを選び、いつ履いたかも定かではない脱ぎっぱなしの靴下の一つを履き、日常に溶け込む……そんな何も思惑の無い当たり前を音楽として吐き出す」との例えだった。いわゆる初期衝動性むき出しの音楽。日頃のやるせなさや多少の負い目や負け犬的視点からの吐き出し等、とりとめのない毎日の中の特別な瞬間や気持ちが、暴発性を宿したロックサウンドを用い、放たれてきた音楽の類を指す。
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2009年1月結成の神戸出身のこの3ピースロックバンド・w.o.d.も「グランジ」と称されるバンドの一つだ。歪みや揺らぎを擁した汚らしくて粗野なパワーコードと、リード楽器か!?と耳を疑うほどの存在感を有した歪んだベース。タイトながらも、ここぞという時の暴発が魅力のドラミング。その上に乗るアンニュイさと緊迫感を併せ持った歌。不穏や気だるさをまといつつ、そこを抜け突如現れる暴発的な開放感と吐露感へのメリハリは、この音楽性の特異点や魅力の一つでもある。そういった意味では、このw.o.d.はそれら全てを内包。まぎれもなく「現代版ジャパニーズロックのグランジ」だ。ただそこに、「現代版ジャパニーズロックの」が付くのは、やはり今の世代らしくそこだけに固執せず、ストーナーロックや16ビート、歌謡的なメロディラインをも取り入れた、進化やバリエーションが、彼らの音楽性から伺えるからに他ならない。
と、彼らの説明が長くなった。そんなw.o.d.がこの6月に東阪にて初のワンマンライブ『バック・トゥー・ザ・フューチャー』を行った。そしてこの15日の下北沢SHELTER編に私も赴いた。まさにこの日は冠通り、彼らの現段階での発表曲全曲をプレイ。それらは過去を全て曝け出し、現在とこれからへの飛躍を私に確信させてくれた。
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入口の階段までびっしり埋まり、立錐の余地がない程の満場に程良い緊張感が漂っている。彼らがこのシェルターに立つのは今回が2度目。前回は昨年末のイベントで、その際にはサイトウタクヤ(Vo/G)が泥酔し会場に迷惑をかけたという。
登場SEが流れ出すもなかなかステージに現れない彼ら。緊張感が増し飢餓感が募る。そんな中、ようやく低い光量のステージに3人が現れた。歓迎の大歓声の中、ステージにずっしりと「存在感」が加わる。
彼らの音楽性の特徴の一つは、時にリード楽器の役割を果たすKen Mackay(B)による歪んだベースとその音のデカさ。そんな重く歪んだKenのベースから、スモールクローン系の揺らぎ交えたサイトウのムスタング型のギターが音を重ね、あえてタイトさを突出させた中島元良(Dr)のドラムによって1曲目の「スコール」が導き出された。ステージライトの光量も上がり、その中からアンニュイさを醸したサイトウの歌が現れる。徐々に強度を上げていくサウンドを経て、同曲のサビに辿り着くとグワッと天空に引き上げられていく錯覚を覚える。このメリハリがw.o.d.の魅力の一つ。それがいきなり突き付けられたのだ。そして切り裂くように次曲の「THE CHAIR」へ。元良の生み出す16ビートがダンサブルさを醸し出し、会場が走り出していく。Kenのプレべによる重いダウンピッキングが与える疾走感と、時々交える中島のマシンガンのようなフィルに高揚。場内が徐々に熱を帯びていき、高度がグングンと上昇していく。同曲のフィードバックから更に会場に突っ込んでくるように「丸い真理を蹴り上げて、マリー。」が場内に挑みかかってくる。サビで現れたドライブ感もたまらない同曲。無数の力強い拳がステージに向けて贈られる。対して会場をバウンスさせたのは「lala」であった。やはりこの辺りは彼ららしいグランジの現代版的な解釈。リズム隊が生み出すハネた部分が会場を弾ませる。対してサビで現れるストレートさも気持ち良かった同曲。その波状攻撃に場内がグイグイと惹き込まれていく。
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ここで一息。会場から「超かっこいい!!」との掛け声が。私及び会場全体もそれには深くうなづいた。
「東京に来たのが2年前で、そん時はお客さんが全然いなかった。今日はワンマンなんだけど特別なことはしない。各人好きなように最後まで楽しんでほしい」とサイトウ。ライブに戻る。
3ピースが故の強度やしなやかさが味わえたのは5曲目以降であった。このゾーンでは、ミディアムで横に会場を揺らせ、サビでパーっと開ける彼らの必勝パターンが次々と繰り出された。硬質でマシナリーな音色の元良のドラムと、横ノリでダルでルーズさも特徴的な「ハロウ」では、あのニルヴァーナの<Hello Hello Hello How-low? >への回答とも捉えられる世界に向けての交信も感じられ、AメロBメロでの平熱感と一定のドラムキープの中、Kenのベースとサイトウのギターがゆるやかな上昇感とドラマ性を寄与した「みみなり」「Vital Signs」では、ドライブ感やうねりのあるヘヴィーなロック性が。対して、元良がドラムソロで繋ぎ、セッション風にサイトウのギターとKenのベースによるメロディアスなインストを経て、16のハネとストーン性、キメも多用した「VIVID」に入ると、同曲の歌謡的要素を有したメロディラインも映え、サイトウもリバーブたっぷりのギターソロを披露。荒野を2人で並んで歩こうとの歌を通し、場内もその情景を自身に差し替えて思い浮かべていく。
「新曲やります」(サイトウ)と発売されたばかりの最新カセット収録の彼らの新要素的ナンバー「0」が披露された際には、スリリングさと緊迫感を擁した同曲にステージ上の赤いライティングもリンクを魅せる。ダイナミズムを擁する反面、ラストはテンポアップに移り怒涛性で場内を引き込みつつも、そこから突然放り出されるように同曲の幕は閉じた。
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ここでのMCは、「ワンマンなので今日は特別に」と、普段はステージ上でしゃべらないKenと元良にもマイクがふられた。とは言え2人とも軽い挨拶のみ。そしてマイクの戻ったサイトウからは、「9月のアルバム発売の予定と、そのレコ発的な企画ライブの誘い」が満場に伝えられ、待ってましたの大歓声に包まれた。
ライブに戻る。続いてはやはり最新カセットから「サニー」が。「サニー」と題するも、それは決してクリアな空ではなく、むしろどこか記憶感漂う日差し。楽曲の持つゆるやかな上昇感の下、サイトウも情景的なギターを加えていく。
ここからはラストスパート。スピードを上げるように「Wednesday」が再び会場を走り出させる。ここでは3人がトライアングルに向かい合いプレイする姿と共に、ストレートな部分では無数の拳があがる場面を見た。また、元良のタムとKenのベースが阿鼻叫喚を作り出した「Fullface」では、やさぐれ具合も炸裂。サイトウの声を荒げて歌う姿も印象深い。
ラストは「またね」(サイトウ)と一言告げ、そこはかとない生命力を宿した「KELOID」が誇り高く鳴らされた。Kenの運指の多いベースが高揚感と躍動感を寄与し、8分の6拍子のロッカバラード性がダイナミズムを育んでいった。カタストロフなノイズとフィードバックのリバース音を残し、無言で彼らはステージを降りた。長く続いたそれらがピタリとやんだ瞬間、我に返り現実に引き戻された我々は、その正気を確認するように既に無人となったステージに向けて懸命に拍手を贈った。
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ライブ自体は約1時間とワンマンにしては非常に短いものであった。しかしそこには物足りなさは全くなかった。むしろ充足感の方が大きかった。きっとこれが今の彼らの音楽を適度な緊張感を保ち、届けるのに最良な時間だったのだろう。今の彼らにはこれ以上は何をやっても「蛇足」と感じていたことだろう。
既存曲しか演っていないにも関わらず、逆にそこに今後やこれからが見い出せたのは、最新曲からの今後への可能性はもちろん、逆に彼ららしい新しい何かをそこで多分に感じ取れたからに他ならない。逆にますます今後やこれからが楽しみになったのも面白い。これぞまさにタイトル通りの『バック・トゥー・ザ・フューチャー』。断言しよう。今後彼らはますます大きくなっていく。そしてもしかしたら、「グランジ」と称されるこのジャンルが、彼らと共に再度市民権を得れるチャンスが来るかもしれない。そんなポテンシャルも感じ取ることが出来た。「現代版ジャパニーズロックとしてのグランジの繁栄」。それは今後の彼らの活動へと託されたのを見た一夜でもあった。
文=池田スカオ和宏 撮影=東 美樹
セットリスト
2019.6.15 下北沢SHELTER
1. スコール
2. THE CHAIR
3. 丸い真理を蹴り上げて、マリー。
4. lala
5. ハロウ
6. みみなり
7. Vital Signs
8. VIVID
9. 0
10.サニー
11. Wednesday
12. Fullface
13. KELOID
ツアー情報
9/19(木) at 心斎橋Pangea (大阪) w/Suspended 4th
9/20(金) at 名古屋CLUB ROCK’N’ROLL (愛知) w/Suspended 4th
9/23(月) at 渋谷CHELSEA HOTEL (東京) w/後日発表
▼最速プレオーダ―
受付期間:6/28(金)12:00~6/30(日)23:00