市川猿之助×中村隼人、スーパー歌舞伎Ⅱ『新版 オグリ』会見レポート 「仲間とつくる新たな小栗判官」
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スーパー歌舞伎Ⅱ『新版 オグリ』中村隼人、市川猿之助
市川猿翁が生んだ伝説のスーパー歌舞伎を、市川猿之助が新たな解釈で創り上げる、スーパー歌舞伎Ⅱ(セカンド)『新版 オグリ』。本作は2019年10月6日(日)から新橋演舞場にて上演される。主演は、猿之助と中村隼人だ。主人公の《小栗判官》と本作のキーパーソンとなる《遊行上人》を、2人が交互に演じる。
8月1日、都内で制作発表記者会見が行われ、交互出演となる猿之助と中村隼人、脚本の横内謙介、演出の杉原邦生、松竹株式会社副社長の安孫子正氏が登壇した。会見では、新たな『オグリ』のテーマや演出プランについて語られた。会見の模様を、質疑応答や囲み取材でのコメントともに紹介する。
スーパー歌舞伎II(セカンド)『新版 オグリ』制作発表記者会見。左から、横内謙介、杉原邦生、市川猿之助、中村隼人、松竹(株)安孫子正副社長。
四代目が仲間と作り上げる世界
脚本の横内は本作に向けて、「猿之助さんは大胆な変更プランをお持ちでした。名作を『新版』としてやる以上、僕たちなりのオグリを。スーパー歌舞伎の魂を継承し、新しいオグリを創れればと思います」とコメント。
つづけて原作者の梅原猛と猿翁(三代目猿之助)が創り出した初演の小栗判官を「孤高の人」と形容し、「小栗個人の体の中に世界があるという描き方は《ザ・猿之助》の芝居」だったと敬意を語る。
一方、当代猿之助の場合「小栗判官一人の中に世界があるのではなく、大きな世界に小栗がいる」という。
「ワンピース歌舞伎をやらせていただいた時に強く感じたのは、四代目は、仲間の中にいるご自分としての猿之助を意識されているということ。先代が“弟子とともに作る世界”ならば、四代目は仲間と作り上げる世界ではないでしょうか」
横内謙介
記者から台詞が歌舞伎調になるのか問われると、「歌舞伎言葉とも違う、シェイクスピア劇の翻訳にも似た日本語、それが梅原先生と猿翁さんが作られたスーパー歌舞伎の言葉だと感じています。そこは踏襲したいです。しかし、あるキャラクターに関しては……」と含みのある答えで、一同の期待を高める。今後の情報を楽しみにしたい。
現世と表裏一体、白い地獄
演出の杉原は、猿之助から「《歓喜》をテーマにしたい」とリクエストされたことを明かした。そして自身のアイデアについても次のように紹介した。
「小栗党は、現代の若者のようなイメージ。衣装にはラグジュアリー・ストリートのテイストを取り入れています。また地獄には、赤や黒など暗い色のイメージがありますが、発想を変えて真っ白な世界に。現世と地獄を表裏一体でやってみたいと提案しました。猿之助さんやワンピース歌舞伎でもご一緒した皆さんの胸を大いにかりて、新しいオグリを作っていけたらと思います」
杉原邦生
演出は、猿之助と杉原の連名になっている。猿之助は当初、杉原一人に任せるつもりだったという。
「しかし一人ではまだ荷が重いと言われ、矢面に立つのは僕。賞賛を受けるのは杉原ということに(笑)。杉原は世代が違います。新しい発想が欲しいと思い任せました。すでに色々アイデアを言ってくれているので『どうぞ好きにやってください』と言ったら、帽子とバンダナになり……(後ろのポスターを一瞥)。地獄は白だとか……」
一同を笑わせつつも「想像もできないことを言ってくれるのが素晴らしい人。予想できることを言うのは並み」と続け、変化球の言葉で杉原を高く評価した。
30年先を行っていた猿翁の演出プラン
本作はワンピースの大当たりに続く作品とあり、「皆さんの期待が高く、次に何をするか悩みました」と猿之助。『オグリ』に決めた時、頭をよぎったのは、初演『オグリ』の鏡を用いた演出のことだった。
「当初、伯父は小さいテレビで背景を埋めつくす演出を考えていました。しかし平成3年当時、テレビはブラウン管です。予算が30億~40億かかるということで、やむなく鏡の演出に変更しました。結果的には大成功でしたのですが、それから約30年が過ぎ、技術も進み、映像による演出が簡単にできるようになりました。伯父の発想は30年先をいっていたんですね。今回、僕がそれを叶えられます」
市川猿之助
梅原猛への一つの答え
猿翁の演出プランを引き継ぐ一方、物語の中の「時代につきすぎていて、共感できない部分」は、現代にあわせて変えていくとも猿之助は語る。
「僕は(原作者であり哲学者の)梅原先生を尊敬しています。その意味で『新版 オグリ』は、梅原先生に捧げる、梅原先生への一つの答え。鎮魂の意味でもこの芝居を上演できることをうれしく思います」
今年は『新版 オグリ』を、来年は同じく梅原原作の『ヤマトタケル』を上演する。両作に通じる梅原猛らしさについても、猿之助は考えを明かした。
「梅原先生らしさは『ロマンの病』(理想を求めるあまり周りを傷つけてしまう)。そこに着眼し、一つ哲学を見つけるところが、梅原先生の素晴らしさだと思っています。梅原先生らしさを大事にしたいからこそ、『ロマンの病』ではなく、『歌舞伎に哲学を持ち込む姿勢』、『演劇で一つ哲学を打ち出す姿勢』を学び、継承したい。その哲学が今回は“歓喜”です」
現代の、胸をうてる芝居を
隼人にとって、スーパー歌舞伎Ⅱは2度目の出演。父・錦之助は20代の頃より猿翁の元で修行をしていた。隼人は小さいころから『ヤマトタケル』や『オグリ』の話を聞かされていたという。そのような大きな役への驚きと喜びとともに、意気込みを語った。
「猿翁さんは、現代の方の胸を打つ作品を作りたいという思いで、スーパー歌舞伎を創られたと、おっしゃっていたそうです。最初に創られてから30年。また新しい時代に入り、現代の方の胸をうつ芝居の力となれるよう、精進します」
猿之助への思いも次のように語る。
「小栗判官は、荒くれものを束ね、道を示す役どころ。僕にとってそれが、猿之助兄さんです。歌舞伎の世界でどういう風にしていったらいいのか、皆、悩む時期はあります。そんな時、僕に道を示し、引っ張ってくださったおかげで今の僕があります。精一杯、全身全霊で、『新版 オグリ』のために力を注いでいきます」
さらに、記者から尋ねられ、錦之助との会話も紹介された。
「父はよく『猿翁さんと自分の年齢差が、猿之助さんと隼人の年齢差と同じくらい。自分が若い頃に感じていた猿翁さんの偉大さと、今、隼人が感じている猿之助さんの偉大さは似たものがあるはず』と話しています。近くにいき、芝居作り、その過程、人間性や色々なものを見習い、少しでも近づけるようがんばってこいと言われました」
中村隼人
猿之助と隼人、2人の小栗
交互で演じられる小栗判官は、猿之助と隼人でどのように違いがでるのだろうか。猿翁による小栗も例に加え、猿之助は答える。
「猿翁はあまりにも偉大でした。(実際にお弟子さんと演じたこともあり)小栗党10人衆が1人と9人の家来のようにも見えました。しかし10人衆は、対等であり、友達でなければいけません。今回、若い方々と出演する僕が、彼らと友達に見えるのかどうか。その意味で、僕は技術でみせる若さ、隼人君は実人生でみせる若さになるでしょう。人生経験と人物としての魅力がストレートに出てきます。どちらがより魅力的に生きているのか分かってしまうでしょうね」
不敵な笑みで会場の笑いを誘いつつ「負けちゃったらどうしよう」とこぼし、一同をさらに笑わせた。
これに対し、隼人は「ただただ怖いですね!」と答えつつ、「小栗と実年齢が近いことを意識するとともに、立廻りのシーンがあるので古典とは違うところを見せられたらと思います」と力強くコメントした。
どちらも小栗判官。白を基調としたモードなビジュアル。フード付きの着物にチェーンもついているとか。隼人の頭にはバンダナと(前後反対の)キャップ。
歓喜を哲学として伝えたい
会見でキーワードとなったのは「歓喜」。猿之助は「人生の意味を考えるようになった」という。
「人生の目的は、歓喜。苦労することでもなく、人のために役立つことでもなく、自分が歓喜の渦の中にいること。それを味わうのが人生の意味ではないかと思いました」「神様という存在がいると仮定して、人間に何でこの世に生まれたんだろうと聞かれたら『歓喜を味わいなさい』と言われたと思うんです。それを若い人にも『オグリ』で哲学として伝えられたら」
哲学と聞くと、とっつきにくい印象を受ける人もいるかもしれないが、猿之助は、決してそうではないことを強調する。
「大スペクタクルもあります。“血の池地獄”は、ワンピース以上に水浸しに。馬にのった状態で左右同時宙乗りもあります。そして最後は“歓喜”。ワンピースは皆で歌を歌い、タンバリンを叩きました。今回は、踊る宗教くらい踊って劇場を後にしてほしい。EXILEのようなことになり、わけわからない芝居になると思います。観て面白かった、楽しかったと思っていただけるものを作ります!」
最後は猿之助から隼人へ「猿之助を食うくらい、ドカーンと輝いちゃってください。飛躍し、この経験を活かし、ゆくゆくは古典ができる歌舞伎役者になって欲しい」とエールを送り、隼人が「遠慮をしてきたつもりはありませんが、これを機に殻を破り、飛躍したい」と真摯に答え、会見は締めくくられた。
スーパー歌舞伎Ⅱ(セカンド)『新版 オグリ』、新橋演舞場での上演後は、2020年2月4日から福岡・博多座で、3月4日からは京都・南座で上演される。
カメラマンから求められ、握手をする猿之助と隼人。
公演情報
■脚本:横内謙介 脚本
■演出:市川猿之助、杉原邦生
■スーパーバイザー:市川猿翁
■期間:2019年10月6日(日)~11月25日(月)
坂東新悟、市川男寅、中村玉太郎、中村福之助、市川笑也、市川男女蔵、市川笑三郎、市川寿猿、市川弘太郎、市川 右近、市村竹松、市川猿弥、市川門之助、石橋正次、下村青、髙橋洋、嘉島典俊、浅野和之