高橋克典「役が立ち上がる瞬間を見て」 朗読劇『ラヴ・レターズ』で黒柳徹子と初共演
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高橋克典
2019年10月7日(月)からEXシアター六本木で上演される朗読劇『ラヴ・レターズ』に出演する俳優の高橋克典が、8月12日(月)都内で取材会を行った。全世界で上演されている同作への出演は「長年出演したいと思っていた」と台本を手に意欲は十分。相手役の女優・黒柳徹子との共演を心待ちにしている。
『ラヴ・レターズ』は米国の作家A.R.ガーニーが制作した朗読劇。日本では、本国で初演された翌年の1990年8月に渋谷・パルコ劇場で役所広司、大竹しのぶによって上演され、これまで四半世紀以上の間に俳優、芸人、ミュージシャンなどさまざまなジャンルで活躍する500組近くの男女が演じてきた。物語は幼なじみのアンディーとメリッサが、約50年に渡って交わす往復書簡で展開。テーブルと二脚のイスが置かれた舞台では、幼少期から50代になるまで、互いへの思いをつづった手紙を約2時間かけて読み上げていく。
ーー『ラヴ・レターズ』への出演は念願だったとうかがいました。どんな所に魅力を感じられたのでしょうか。
これまでたくさんの俳優や芸人さんなどが演じてこられて、時には現実の世界で友だち同士や夫婦とかもあって。色んな組み合わせでやっている、その企画が面白いなぁと思っていました。年齢も組み合わせによってバラバラですから、それぞれの組み合わせで成長の仕方も違う。これはやりがいがありそうだなと、とてもやりたいなと思っていました。僕は歌も歌っているのですが、子どもの頃に聴いた曲の歌詞の意味とかって、その当時は「全然分からないな」と感じたりすることもあるじゃないですか。でも人生経験を積んで、振り返って聴いたときに「あぁ、こういう意味かな」と感じることがある。手紙も、もらった当時は、分からなかったことも、時を経て落ち着いて見返したとき、「あっ!」って気付く気持ちがあったりして。そういう部分がこの舞台にはたくさんあって、「出たい!」と言い続けていました。
高橋克典
ーー今回、メリッサ役は黒柳徹子さんがお一人で、相手役のアンディーは高橋さん(10月7~9日)、筒井道隆さん(10月11・12日)、吉川晃司さん(10月14~16日)と3人いらっしゃいますね。3人は黒柳さんのご指名を受けての出演ということですが、初めて知ったときはどんなお気持ちでしたか。
「何でだろう?」と最初は驚きました。僕は、黒柳さんの半生などを描いたドラマ『トットちゃん!』で黒柳さんの恩師であった、作家の飯沢匡さんを演じさせていただいたご縁がありまして。黒柳さんは飯沢さんに才能を見いだされて、いまのキャリアへとつながっていくのですが、その作品の中でいろいろな勉強をさせていただいたので、そういうところを見ていてくださったのかなと。何にしても光栄です。
ーー黒柳さんとの共演はどのように感じられていますか。
類い稀な人生を歩まれた女優さんですからね。いろいろなことを感じながら生きてこられたと思うんです。だから黒柳徹子という女性が、どんな芝居をなさるのかとても楽しみです。
高橋克典
ーーどんな共演になるでしょうね。
東京では3日間、公演があります。事前に1日稽古があるんですけど……僕自身、一応心づもりだけは持って臨もうと思っているのですが、本当はあまり稽古をしたくないと思っています。稽古をするとアイデアの一つを使ってしまうようでもったいないなぁと。すごく良い題材ですからね。演出家に演技プランの意向を聞いて、そのイメージを持って、後は本番でいいんじゃないかと。事前に準備をし過ぎて、決めつけたくないという思いがあります。
ーー本番の中で作り上げていくということですか。
そうですね。多くの場合は演じる前に、役者が集まって台本を読んで行くんですけど。本を読む中で、役が立ち上がっていくんです。自分の中では、その役が立ち上がる瞬間って、実はとても面白くてやりがいを感じる時なんですよね。その瞬間って、普段はお客さんは見ることができないところだから、そういう意味では、今回の『ラヴ・レターズ』は、そこを見ることができる醍醐味があると思います。
ーー朗読劇ならではの楽しさ、難しさはどんなところでしょうか。
完成形はないのかなと感じる部分は難しいところです。手紙って、瞬間の積み重ねじゃないですか。ドラマとも映画とも違う。でも、朗読劇だからこそ、育てていくことができるところは楽しみでもあります。
高橋克典
ーー演じられるアンディー、メリッサの恋物語はどのように感じられましたか。
アンディーにとってメリッサは、子どもの時のあこがれの人。この芝居は距離感が重要です。裕福な暮らしをしているメリッサに対しての憧れ。だから、ずっとトラウマ(心的外傷)的な感情を持っているかもしれない。認めて欲しいという。一方で、メリッサはアンディーのことをちょっと下に見ている感じで、ずっと感情的。アンディーのことは、自分の感情のはけ口として見ている。お互い、もしかしたら相手のことをちゃんと見ていないかもしれない。
アンディーは、メリッサのことを崇敬して手紙を書いているので、どこかちぐはぐというか。お互いに本当の意味で、相手のことを見ていない。だから2人の恋は 1つにはなれなくて。水と油のように分離してしまうんです。それをつなげている乳化剤のような存在が「手紙」かと。
ーー本当の気持ちを伝えることはなかなか難しいことですね。アンディーは手紙にしたためていましたが、高橋さんは俳優の他に音楽もなさっているので、例えば歌詞の方が気持ちを伝えやすいとか、ありますか。
歌の方がストレートに、よりダイレクトな気持ちを伝えることができるかな。言葉は、口にするまでの間に作為が入るので、日によって違うこともありますし。口にしていることが本心とは限らないですよね。日によって違うこともありますし。
高橋克典
ーー時には、自分自身をも欺くときがありますものね。
そうです。アンディーが「手紙を書いているときだけが、なりたい自分でいられる」と言っている場面があるんです。書いた手紙の中にいる自分が本当の自分なのか、理想なのかも分からないでいるんですよね。あるじゃないですか、現実でもそういうのって。今日もたくさんお話ししましたが、帰宅してシャワーを浴びているときに、「本当に自分が言いたかったことを伝えられたかな」とか「あ、いま思ったこっちが、真実だったんじゃないか」とか。「こう言えば良かったなぁ」って。だから、手紙に書かれていることが全てでもないのかなと、台本を読んでいて感じます。とても難しい。
ーー高橋さん自身が、本当の自分でいられる時は、いつだと思いますか?
家族といるとき、あるいは、真逆ですが役者として人前にたっている時ですね。家族は、いろいろなしがらみとかから解放してくれる存在。役は、映画や舞台などその作品のために、その役になるので、演じている時間は他のことを考えずに、その役に没頭している。それ以外のことを考えない。集中しているあいだは、役者として生きていることを感じられる時間です。
高橋克典
ーー50年をかけて気持ちを交換していくってすごいことですよね。高橋さん自身は、いただいたラヴ・レターで印象的だったものってありますか。
ファンの方から「応援しています」という手紙をいただくことがあるのですが、やっぱりその言葉はうれしいですよね。書かれた文字の向こう側には、その人の人生があるので、僕も(書いてくれた人を)応援するつもりで仕事をしようと思います。後は、子どもから「パパ頑張って」とか「いつもありがとう」って書かれた手紙をもらうとうれしいですね。それが一文でも、成長などを感じることができて。ラヴ・レターじゃないですけど、子どもが書いた作文を読むのも好きです。「あぁ、そんな風に感じていたのか!」と驚かされます。
ーーなるほど。では最後に、スイーツ好きの高橋さんにちょっと変化球の質問です。いつもブログでおいしそうなオススメスイーツをたくさん掲載さえているので、この『ラヴ・レターズ』をスイーツで表現するとしたら、どんなスイーツでしょうか?
渋谷ヒカリエShinQsなどにもお店があるフランス洋菓子店・Libertable(リベルターブル)の「コンプレキシテ」です。キャラメリゼされたチョコレートのパイ生地で、濃厚なチョコレートクリームをサンドしているもので、甘くて苦い。まさに大人の味です。でもそれだけではなくて、このベースの上に、ソテーされたリンゴやザクロなどの果実が乗っていて、一緒にほおばると、このケーキの名前(フランス語)通り、とても“複雑”なんです。舞台はもちろんですが、スイーツを通しても、アンディーとメリッサ。2人のことを感じて欲しいです。
高橋克典
取材・文=Ayano Nishimura 撮影=山本れお