内野聖陽、風間俊介、溝端淳平が出演する舞台『最貧前線』開幕 宮崎駿の5ページの作品から平和を考える
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2019年8月27日(火)、神奈川県立青少年センター 紅葉坂ホールにて舞台『最貧前線』が初日を迎えた。本作品は、宮崎駿が模型雑誌「月刊モデルグラフィックス」に1980~90年代、不定期に連載した「宮崎駿の雑想ノート」にある物語の一つ。井上桂が脚本、一色隆司が演出を手掛け、宮崎のオリジナル作品が国内で初めて舞台化された。初日前にゲネプロ公演が行われたので、その模様をお伝えする。
太平洋戦争末期を舞台に、漁船・吉祥丸に乗り込んだ船長と漁師、日本海軍の軍人たちの姿を描いている。戦況が厳しくなり、ほとんどの軍艦を沈められた日本海軍は、アメリカ軍の動きを探るべく海上で吉祥丸に見張りをさせようとする。漁師と軍人、立場が違う者たちが同じ船に乗ることで当然軋轢が生まれるのだが、さまざまな困難を一緒に乗り越えていくうちに次第に理解し合うようになっていく。
物語は吉祥丸の船上で進んでいくため、舞台上に大きな船のセットが登場する。船長を演じる内野聖陽が舵を切るたびに吉祥丸の向きが変わる仕掛けとなっているのだが、盆回しで動いているのではなく人力で行っていることに驚く。船そのものが動くわけではないので、嵐で船が揺れるシーンや爆撃を受けるシーンでは、映像を駆使しつつ、キャストたちは柱につかまって揺れを表現したり、時には自ら吹き飛ばされたりして体を張った演技でリアリティーを出している。
太平洋戦争末期の話ということで、重苦しい雰囲気になるのかと思いきや決してそんなことはなく、吉祥丸の船長を演じる内野がとにかく明るい。軍隊方式で漁師たちの頭を押さえつけようとする軍人たちに見事な福島弁で軽口をたたくところがクスッと笑える。決して軍人たちに反発するわけではなく素直に与えられた任務をこなすのだが、間違っていると思うことは躊躇せず意見する筋を通す男だ。終始低い声で威圧感を出し、漁師たちを押さえつけようとする海軍のトップ・艇長を演じる風間俊介へ向けて放つ言葉に重みがある。そんな船長のまわりにいる漁師たちも一様に明るく前向きなので、戦時中の話だということを、つい忘れてしまう。
一方で軍人たちは、常に眉間にしわを寄せて厳しい顔つきをしている。艇長はもちろんのこと、部下の通信長を演じる溝端淳平も例外ではなく、漁師たちに厳しくあたる。しかし漁師たちと船に乗るうちに、彼らの海に関する知識の豊富さから次第に一目置くようになり壁が次第になくなっていく。無線室でたばこを吸いながら漁師たちと会話を楽しみ、若い漁師見習いに手紙の書き方を教えると約束するところは、心安らぐシーンの一つだ。
やがて吉祥丸は、海の最前線といわれている南方の海域に派遣され、仲間の漁船が撃沈されるところを目の当たりにするなど乗組員全員が死を意識する。さまざまな困難を漁師たちと共にした艇長の心にも変化が生まれ、吉祥丸が向かうべき道を決断する……。
宮崎のオリジナル作品はたった5ページなのだが、そこからこのような壮大な物語が生まれ、戦争の悲惨さ理不尽さを改めて実感した。物語の最後に吉祥丸の船長と艇長が放つ「平和はいい」という言葉を、私たちはしっかりと受け止めなければならないと心の底から感じた。
本作は神奈川・横浜での公演を経て、愛知、水戸、上田、新潟、東京、兵庫、神奈川・大和でも上演される。
取材・文・撮影:秋乃麻桔
公演情報
「宮崎駿の雑想ノート」より
『最貧前線』
原作:宮崎駿『最貧前線』(「宮崎駿の雑想ノート」より)
脚本:井上桂(水戸芸術館ACM劇場芸術監督)
演出:一色隆司
出演:
内野聖陽、風間俊介、溝端淳平 / ベンガル
佐藤誓、加藤啓、蕨野友也、福山康平、浦上晟周、塩谷亮、前田旺志郎
【水戸公演】
2019年9月12日(木)〜15日(日)
水戸芸術館ACM劇場
2019年10月5日(土)〜13日(日)
世田谷パブリックシアター
2019年8月27日(火)〜29日(木)
神奈川県立青少年センター 紅葉坂ホール
2019年9月6日(金)〜8日(日)
穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
2019年9月21日(土)、22日(日)
サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター)大ホール
2019年9月28日(土)、29日(日)
りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
2019年10月17日(木)〜20日(日)
兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
2019年10月26日(土)、27日(日)
大和市文化創造拠点 シリウス1階芸術文化ホールメインホール
公式サイト:http://poorfront310acm.com/