自分の人生を振り返らずにはいられない、ミュージカル『Little Women -若草物語-』いよいよ開幕

レポート
舞台
2019.9.3

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個性豊かな四姉妹とそんな彼女らを見守る人々の、切なくも温かい愛に溢れた日々を描いたミュージカル『Little Women -若草物語-』が、2019年9月3日(火)に東京・シアタークリエでいよいよ初日を迎える。本作はルイーザ・メイ・オルコットの自伝的小説「若草物語」と「続・若草物語」をベースにミュージカル化され、2005年にブロードウェイで初めて上演された。今回の日本版の演出・訳詞は、繊細ながらも華やかな演出に定評のある小林香が務める。初日前日、本公演のゲネプロと囲み取材が行われた。


舞台は19世紀のアメリカ北東部。南北戦争真っ只中で、マーチ家の父は従軍牧師として戦争に赴き、母とその娘のにぎやかな四姉妹で慎ましく暮らしていた。

ステージ上にはマーチ家を模した大掛かりな木造のセット。上下可動式になっている屋根部分が下に降りてくると、四姉妹の思い出が詰まった屋根裏部屋へと早変わりする仕組みだ。マーチ一家の憩いの場である広間には、ストライプや花柄のソファ、レースのクッション、クラシカルな棚や燭台が所狭しと配置されている。作品への想いが込もった温かみを感じる小道具や衣装の数々は、それだけでも見応えがある。

マサチューセッツにあるマーチ家での日々と、次女のジョーが小説家を夢見てニューヨークで下宿生活を送る日々が、1幕と2幕の中で行き来しながら物語は進んでいく。時折、ジョーが自身の小説のストーリーを語るシーンの演出が特徴的だった。ジョーが熱く語りだすと、本作の登場人物たちが小説のキャラクターの扮装で演じるという、舞台ならではの演出だ。本編とは別に、一体誰がどんなキャラクターを演じるのか、お楽しみに。

本作の中心となる四姉妹を、4人の女優陣は各々実に魅力的に演じていた。中でも、主人公となる次女のジョーを演じる朝夏まなとは、有り余る情熱と太陽のような笑顔を解き放っていた。常に舞台上を駆け回っていたのが印象的で、もしや舞台袖でもずっと走っているんじゃないかと思ってしまう程。
ジョーは、まだ女性が職を持つことが稀な時代に結婚を望まず、小説家になって自立して生きることを望んでいた。彼女は言う。「私は世間がどう思おうと構わない。世間のために生きてるんじゃない」「私は書くために生きている」。ジョーの口から出てくる一片の迷いもない言葉たちに、たくさんの勇気をもらった気がした。

長女・メグ役の彩乃かなみは、たおやかで、どんなときでも優しい眼差しを妹たちに向けていた。生まれて初めてパーティーへ行くシーンでは、不安と期待で胸がいっぱいの表情を見せたり、ジョン・ブルック(川久保拓司)とのロマンスがあったりと、ジョーと対象的に描かれることでメグらしさが際立った。真面目で控えめな好青年ジョンと、ロマンチックなメグの恋の展開は見逃せない。

病弱だがピアノを愛す心優しい三女・ベス役の井上小百合(乃木坂46)は、小柄だがその存在感をしっかりと舞台上で示していた。マーチ家の隣人の気難しいローレンス(村井國夫)との微笑ましいやり取りでは、客席から思わず笑い声が上がった。ピアノがきっかけでベスとローレンスに友愛が生まれるわけだが、ローレンスはベスの持つ素直さに心を動かされたのだろう。井上の少女らしさのある優しい歌声と、村井のダンディだが軽やかな歌声とが合わさることで、劇場の空気の温かみが増していく。

お洒落好きでちょっぴり生意気な末っ子・エイミーを演じるのは、今回が初ミュージカルとなる下村実生(フェアリーズ)。まさに末っ子のエイミーにぴったりな愛らしい風貌で、度々ジョーと衝突しながらも、憎めない少女を演じきった。エイミーは、四姉妹にとっての大おばであるマーチおばさん(久野綾希子)と共にヨーロッパへ旅に出ることで、少女から女性へと成長していく。四姉妹の中で、一番変化が大きい役どころかもしれない。

四姉妹を見守る人々も、温かみのある深い演技で魅せてくれた。

ジョーのニューヨークの下宿先で出会うベア教授役の宮原浩暢(LE VELVETS)は、黒い巻き髪にたっぷりの顎髭、大きな黒縁メガネという、これまでの彼の持つ印象とは異なる新しい一面を覗かせた。エネルギッシュなジョーに振り回されながら少しずつ彼女に惹かれていく、そんな不器用なベア教授が愛らしい。

マーチ家の隣人ローレンスの孫息子・ローリーを演じる林翔太(ジャニーズJr.)は、真っ直ぐで爽やかな少年を好演。育ちの良さが滲み出る清潔感のある服装が、非常によく似合っていた。ローリーがジョーに対して全力で想いをぶつけるシーンは胸キュン必至である。彼の伸び伸びとした歌声は劇場全体に響き渡り、聴いていて心地がいいものだった。

マーチおばさん/カーク夫人の二役を演じた久野綾希子は、対象的な二人を見事に演じ分け、本作の芝居に深みをもたらしていた。ジョーにお説教をしつつも、マーチおばさんの愛が見え隠れする彼女らのやり取りには、思わずニヤリとさせられる。

香寿たつき演じるマーチ一家のお母様は、芯のある母と同時に、たった一人で娘4人を支える孤独を胸に秘める母を熱演。娘たちの前では強がる彼女も、弱さを持つ一人の女性であるということが、切実な歌声からひしひしと伝わってきた。

四姉妹と彼女らを取り巻く人々が、葛藤しながらも前を向いて生きていく様を観ていると、自分自身の人生を振り返らずにはいられないだろう。人生を生き抜くのは簡単なことじゃない。でも、決して辛いことばかりではない。未来を信じて自分らしく生きていこう。作品を通して、そんなメッセージをもらった気がした。


囲み取材には、朝夏まなと、彩乃かなみ、井上小百合(乃木坂46)、下村実生(フェアリーズ)の四姉妹が揃って登壇。姿を見せる前から彼女らの賑やかな声が漏れ聞こえ、報道陣を和ませていた。

初日を目前に控えた主演の朝夏は、「いよいよ始まるんだなと実感しております。スタッフの方々が、衣装や小道具など細部にまで若草の世界を表現してくださっているので、その中で役として思いっきり生きたいと今は思っています」と意気込む。続けて、他のキャストも本作の衣装や小道具へのスタッフの強いこだわりを称賛していた。

四姉妹それぞれのキャラクターついて尋ねられると、次女・ジョーを演じる朝夏は「この時代の女性は結婚して子どもを生むことが当たり前なんですけど、その中で手に職をつけたいという自分の夢を追いかける。しかも、家族のためにそうありたいという彼女の強い精神力と、挫折しても立ち上がる強さ。常に本気で生きているキャラクターだなと演じていて思うので、私自身も毎日、毎回、本気でいきたいなと思います」と力強く語った。

長女・メグを演じる彩乃は「夢見がちでロマンティックなものが好きな性格です。四姉妹で唯一、裕福だった時代の記憶がある故に過去と今の現実を比べてしまったりするけれど、ある男性と出会うことによって自立していく過程がよく見える女性だと思います」と落ち着きのある柔らかい眼差しで自身の役を分析。

三女・ベスを演じる井上は「四姉妹の真ん中の視点からいろんな人をよく見て、影響を受けたり与えたりしているキャラクター。すごく病弱で人見知りという役ですが、私はこのベスという役から生きることの強さを学びました。なので、その辺りを皆さんにも観ていただけたらいいなと思います」と、静かに熱を込めて語る姿が印象的だった。

そんなキャラクターは井上自身に似ていると思うか? という質問があがると、即座に朝夏が「そのままだよね!」と割り込み、井上が「そのままです……」と回答する(させられる?)場面も。

四女・エイミーを演じる下村は、「おしゃまでかわいいものが大好きという女の子。一幕ではまだまだ子どもでジョーと喧嘩する場面もありますが、周りの出来事と共にエイミーも成長していきます。二幕では大人になったエイミーが出てくると思うので、そこに注目していただければ」と、そのかわいらしい声でキャラクターの魅力をアピールした。本作が初のミュージカル出演という点については「なかなか苦戦して、お姉様方にたくさん教えていただいてやってきました。本当に今までで一番お芝居と向かい合ったと自分では思うので、観てほしいです」と、稽古期間を振り返りながら語った。

稽古場での話に移ると、朝夏が「お稽古を待っている間に、『最近どう?』みたいに話します。やっぱりコミュニケーションをたくさん取りますね。それを見た演出の小林さんに『パンダがじゃれ合ってるみたい』って言われたり、“若草萌え”というワードを作っていただいたり(笑)」と、何とも微笑ましいエピソードを披露した。

最後に、作品の見どころと意気込みを4人それぞれ語ってもらい、囲み取材は終了した。

井上「すごく心から温まる作品なので、ぜひ大事な人を思い浮かべながら観てほしいなと思います」

下村「原作の若草物語を知っている方でも知らない方でも観てほしいなと思う舞台。音楽やセットも素敵なものになっているので、ぜひ観にきてほしいです」

彩乃「誰しも必ず通る青春時代、成長期のお話なので、自分の人生を照らし合わせていただいて、各々の思うところを持って帰っていただきたいな、と。今の女性や男性が観ても、いまだに同じようなことを言われているとか、悩みが一緒だとか、現代の方にも響くところがあると思うので、楽しみにしていただけたら」

朝夏「この物語は絆がとても大事になってくる作品だと思うのですが、今回初めてお会いしたキャストの方たちが、皆本当の家族のようにすごく温かくて、カンパニーがとてもまとまっています。それはもちろん、大先輩方はじめそれぞれのキャストさんのお陰です。すごくいい状態だと思うので、そんなカンパニーが繰り出す若草物語を観ていただき、皆様の心に残せたらなと思います」



余談だが、シアタークリエの1階エントランスに足を踏み入れると、マーチ家の四姉妹がひょっこりとお出迎えしてくれる。舞台上以外にも“若草萌え”があるのでお見逃しなく。

取材・文・撮影 松村蘭(らんねえ)

公演情報

ミュージカル『Little Women -若草物語-』
 
■日程:2019年9月3日(火)~25日(水)
■会場:シアタークリエ
※他に愛知、福岡にて公演あり
 
■原作:ルイーザ・メイ・オルコット
■脚本:アラン・ニー
■音楽:ジェイソン・ハウランド
■歌詞:ミンディ・ディックスタイン
■翻訳:小山ゆうな
■演出・訳詞:小林香
 
■キャスト
ジョー:朝夏まなと
メグ:彩乃かなみ
ベス:井上小百合(乃木坂46)
エイミー:下村実生(フェアリーズ)
ローリー:林翔太(ジャニーズJr.)
ベア教授:宮原浩暢(LE VELVETS)
ジョン・ブルック:川久保拓司
マーチおばさん / カーク夫人:久野綾希子
ローレンス:村井國夫
お母さま:香寿たつき
 
<イープラス 貸切公演>
日程:2019年9月19日(木)
場所:シアタークリエ
開演:18:30~ (開場 18:00~)
申し込みは【こちら】から
 
日程:2019年9月21日(土)
場所:シアタークリエ
開演:12:30~ (開場 12:00~)
申し込みは【こちら】から
 
■公式サイト:https://www.tohostage.com/littlewomen/
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