姿を表したEXiNA 熱狂のライブハウスで西沢幸奏が手に入れた「毒針と爆音」 ライブレポート

2019.8.25（SUN）EXiNA SHOW CASE LiVE 2019 "XiX"＠新宿MARZ

アニメ『艦隊これくしょん-艦これ-』のEDテーマ「吹雪」でデビューを果たしたシンガー西沢幸奏、彼女が新たに立ち上げたソロ・プロジェクト“EXiNA”（読み：イグジーナ）。

激的なビジュアルとサウンドの変更を行い動き出した彼女の初ライブ『EXiNA SHOWCASE LiVE 2019“XiX“』。昼夜に公演行われたこのショーケースの夜の部をレポートする。

会場となった新宿MARZは開演３０分前から熱帯のような暑さを含んだフロアとなっていた。昼の部を終えた興奮と熱が抜けていないその空間にギュウギュウに詰まったオーディエンスのアップも万全に見えた。不思議と期待は溢れていたが、不安を感じることはない。

楽器隊のチューニングの段階で「これは爆音がぶっ飛んでくるやつだ」とわかるレベル。だとしたらこちらも臨戦態勢で迎えるしかない。インタビューを行わせてもらったとき、西沢幸奏は「変わりたかった」と少し伏目がちに語ってくれた。先行で発表されたミニアルバム『XiX』でサウンド面の衝撃は既に感じているが、ライブで何を見せてくれるのか
、いよいよ幕が開く。

黒いフードを被り登場した彼女は愛用のギターを抱えて一曲目「EQ」へ。「飛べよ！」と叫び爆音が叩きつけられる。彼女の怒りを表現したこの一曲でボルテージは開幕からトップギアだ。

改めてその姿を見ると、本当に小さい。EXiNAのサウンドプロデュースも担当するギターの篤志が長身だというのもあるかもしれないが、ミニマムなその身体を張り裂けんばかりに叫ぶその声はラウドではあるが、変わらず綺麗にハイトーンを響かせる。天性の強くしなやかなボイスがやりきれない衝動を表すように叫び続ける。

ベースの中村泰三のうねるようなスラップベースから繰り出された二曲目「KATANA」でも爆音のパフォーマンスは続く、「いつまでも子供じゃないわ」というワードが鼓膜に突き刺さってくる。そこからの三曲「Shark」「Gemini」「Reason To Scream」は西沢幸奏名義でライブでも歌われてきた楽曲。それがドラムの中村“マーボー”真行の激しくタイトなツーバスのリズムとともにラウドなメタルサウンドとしてリアレンジされ投下される。前々からのファンの反応はどうか……？と思ったが、心配無用、会場中が熱狂と最大限のクラップ、声で応え続ける。

ステージ上の彼女はどんどんと加速すると同時に、その顔を真っ赤に紅潮させながら歌い、ギターを掻き鳴らす。彼女のアイデンティティの一つでもあるギターは前よりも激しくその身を震わせて持ち主の思いを表現しようとする。

「NEON」「OVERTHiNKiNG BOY」と矢継ぎ早に歌い続けるEXiNA、「そんなもんじゃねえだろ！もっと来いよ！」とMCではない叫びをみせると「BERSERK」へ。ミニアルバムの中でも屈指のハードチューンがドロップされた瞬間、フロアは爆発、ツーステップで踊りまくった後は全員が肩を組んでヘッドバンキングで空気が揺れる。西沢幸奏のライブも熱いものだったが、これは完全にロックキッズたちの現場だ。無秩序で攻撃的な空間。だが特筆すべきは治安はそこにあったということ。

スタッフがフロアでコントロールしていたのもあるかもしれないが、巻き起こるサークルモッシュもどこか線が引かれており、その中で「飛び込みたい」ものだけが思いっきり楽しむ空気になっていた。もちろん危険という声があるかもしれないが、決して「危ない！」という印象を受けなかったのは、楽しみ方を知っている人が多い現場だったということもあるのかもしれない。まるでEXiNAのやりきれない怒りと、歌えることの喜びを体現しているかのようだった。

本人のギターリフが冴える「PERiOD」で本編は終了。MCらしいMCは最初の挨拶のみ、まるで稲妻のような時間だったが、アンコールの声は止むことがない。

再度STAGEに現れた彼女は「EXiNAです！と言いたい所なんだけど、西沢幸奏なんだよな」とはにかみながら語り、メンバー紹介の中でも笑顔を浮かべた。昼の部では「自分がやってることを自分が認めてあげられなくなったことで、音楽が楽しめなくなってしまった」とEXiNAとしてリスタートした心情を吐露したが、どこか肩の荷が降りた部分もあったのかもしれない。リラックスした中で「EXiNAとして新しい世界をみんなと切り開いていきたい」とこれからの展望も語った。

改めての1stワンマンライブ『XiX GiG』を12/7に東京・新宿BLAZE、12/8に大阪・ESAKA MUSEにて開催することも発表した彼女が「EXiNAのボーカル・ギター西沢幸奏ってことでいいのかもしれないな」とつぶやいた瞬間、どこかフロアが安堵したような歓声を出したのも印象的だった。やはりファンは「西沢幸奏」を諦めきれていない部分もあるのだろう。彼女の口から「西沢幸奏は死んでいない」という言葉を聞きたかったのかもしれない。

アンコールを飾ったのはアニメ「『学戦都市アスタリスク』のOP主題歌2ndシングル「Brand-new World」。この日一番の大爆発でコール・モッシュ・ハンズアップ、なんでもありの最強の空間を生み出し、1時間の短くも濃厚なショーケースは終演した。

全く余裕はないパフォーマンスだった、だが余裕がないからこそ痛いほどビートと衝動で正面から殴られるような素晴らしいライブだった。怒りを内包したEXiNAという“毒針”を手に入れた西沢幸奏は素早く鋭い雀蜂のような進化を見せた。興味本位でちょっかいを出すと痛い目にあいそうなEXiNAは更に鋭さを増すだろう。

そして、ステージを去る前に深く頭を下げ、ほほ笑みを浮かべて去った西沢幸奏の”怒り”がいつか歌い続けることで解消されることはあるのだろうか？その時彼女はEXiNAとして何を叫ぶのか？それが今気になって仕方ないのだ。

レポート・文：加東岳史