音楽劇『ふるあめりかに袖はぬらさじ』再演に挑む、大地真央に直撃インタビュー
大地真央
1972年の文学座初演以来、何度も再演を重ねてきた有吉佐和子の名作『ふるあめりかに袖はぬらさじ』。2017年、この作品は、大地真央主演、原田諒(宝塚歌劇団)の潤色・演出によって、音楽劇として装いも新たにお目見えした。それから2年、その再演の舞台が、福岡・博多座と東京・明治座で上演される。杉村春子、坂東玉三郎、水谷八重子といった名優たちが演じてきた主人公お園役に再び挑む大地真央に、意気込みを聞いた。
ーー音楽劇版ならではの作品の魅力をどう感じていらっしゃいますか。
セリフに音楽が加わることで、さらに表現が膨らんでいく部分があって、お客様にも一層イメージを膨らませて観ていただけるのではないかと思います。音楽の持つ力はすごく大きいですね。この作品ではメロディに登場人物の心情がうまく乗って自然に流れていくんです。ストレートプレイとしてしっかり完成されている作品を音楽劇にするのは、なかなか難しい部分もあると思うんですが、すごくいい形に出来上がっていると思います。
大地真央
音楽は玉麻尚一先生が書き下ろしてくださったんですが、冒頭はちょっと宝塚的に“チョンパ”(暗転から一転、照明がパッとつくオープニング)で華やかに始まります。そこで流れるのは「港崎音頭」。そこからバラードあり、またリズミカルな曲もあり……という風に次々と展開していく。そのあたりは、原田さんならではの宝塚的な演出です。お節介でお人好し、おしゃべり好きで飲んべえで、母性愛もある非常に人間らしいところのあるお園さんが、病弱な花魁の亀遊さんに対し、昔を懐かしんで歌う曲も、セリフから曲への入りかたが自然で気持ちいいんです。一幕の最後で、亀遊さんが亡くなった後に歌う歌も非常にドラマティックで、お園の心情にぴったり。亀遊さんと藤吉、互いに思いを寄せ合う二人が歌う曲はとてもロマンティックですし。また、舞台装置もすばらしくて、廻り舞台もうまく使われていて、舞台転換もスピーディ。原田先生の演出が、宝塚の良さを有吉さんの作品にうまくマッチさせた感じです。私の下級生でもある麻咲梨乃さんが手がけている振り付けもいいんですよね。
再演をというお話をいただいたとき、すごく嬉しかったです。大変な役なんですけどね、ものすごくおしゃべりなお園なので(笑)。けっこう難しいセリフもいっぱいありますし。後半、お園さんがついた嘘がだんだん大きくなっていって、講談のように一人で喋るところもあって。この間ちょっと台本を開いてみたら、こんなに一人で喋っていたんだとびっくりして、開いた台本を思わず閉じちゃったりして(笑)。でも、やっぱり本当に面白い作品なんです。演じていて非常に楽しかったし、観てくださった方々にもそれは感じていただけたのではないかなと思います。お園という三味線芸者は、ある意味哀しいというか、せつない部分もある人なんですけどね。でも、何か、観終わった後に、活力源になるというか、決して暗い気持ちにはならない作品だなと改めて思います。大変な役って、裏返しというか、背中合わせというか、その分やりがいもあります。三味線も初演のときに初めて経験したのですが、バチの持ち方から手の添え方から、本当に一から教わって。弾き語りもあるし、こなれ感が必要ですから、そこは初演よりさらに深く頑張りたいと思います。
大地真央
ーー演出の原田さんは宝塚でも中堅どころとして活躍されています。
何作も観させていただいて、すごく才能のある方だなと思いました。ご一緒できるということで、とても楽しみでした。実際、着物やかつらのこと、メイクにしても、本当によく勉強していらっしゃるんです。芝居は勿論、いろいろなことを勉強して、知っていらっしゃるから話も早いですし。言いたいことを言いながら、お互いに信頼関係があるから、お稽古がとても楽しかったです。2年経ち、その間、私も何本か舞台を演って、原田さんもオリジナルものを何本か発表して。先日、『チェ・ゲバラ』(月組日本青年館公演)を観ましたが素晴らしく、この題材をよく宝塚でやったなと思いました。今回は、それぞれに違う経験を重ねての再会ですから、よりいいものになるんじゃないかなと思いますし、そうしなきゃいけないなと思っています。お稽古のやり方、ダメ出しの感じは、私がいたころの宝塚と変わらないなと感じました。原田さんは、年齢がぐんと違うのに、私の出た作品のビデオを全部観ていて、全部知っているんです。だから、昔の話とか、私よりよく知っていて、そんな話で盛り上がったりして楽しかったですし、ふと私が上級生になっていることもあったりして(笑)。
ーー再演にあたって、改めてお園さんをどう演じたいと思っていらっしゃいますか。
より深く掘り下げて演じたいなと思います。おっちょこちょいでお人好しなところ、でも愛情豊かで飲んべえで、ちょっと哀しさもあって……。今は岩亀楼に拾ってもらって、三味線芸者として勤めているお園が、背負っているものと性格的なものの振り幅の広さ。一生懸命に生きている、その人間味ですよね。お客様には絶対楽しんでいただける作品だと思いますし、お園さんをより深く追求した上で、自分も楽しみながら演じられたらと思っています。でも、本当に沢山喋るんですよね(笑)。おしゃべり好きなのは、彼女のサービス精神ですね。
大地真央
ーー「岩亀楼」は今の横浜公園のところに実在した遊郭で、亀遊さんという遊女も実在した人物です。そこに、お園さんという架空の人物が絡むことによって、悲劇と喜劇が交錯するところがこの作品の見どころの一つでもあるのかなと思いますが、この時代のそうした女性たちの生き様についてはどう思われますか。
幕末の時代、まだまだ女性たちが市民権を得ていないような時代に、翻弄されて死んでしまった亀遊さんと、たくましく生きていくお園さん、同じ時代の中でも女の生き方はそれぞれですよね。それは今の時代にはない女性のあり方なのかなと思うと、ちょっとせつないものがあります。その一方で、嘘がホントみたいになっていって、どんどん拡散していって……ということは、今の時代でもありますものね。
ーー当時、SNSもないのに。
瓦版でね(笑)。そういうところは、いつの時代も変わらないところなのかなと。お園さんは、本当に亀遊さんが気になって、可愛くてしかたがない、そういった彼女の母性愛のようなものも、演じる上では非常に大事だなと思っています。あまり深くは描かれていないところで、お園さんがどういう風にここまで来たのか、それは私の中での組み立てがあるので、そういったものがちょっと見え隠れするといいなと思っているんですけれども。名優、大女優が演じていらした役柄、作品で、まさか自分がやることになるとは思いもしなかったですし、本当に光栄だなと思っています。明治座は、楽屋もすごく使いやすく、客席と舞台との距離感もとっても良くて、いい劇場だなって思います。本当におもしろい作品ですので、ぜひ劇場に足を運んでいただいて、同じ時間を共有していただければ。損はさせません(笑)。
大地真央
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取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=鈴木久美子