映画『レディ・マエストロ』~女性指揮者のパイオニア、アントニア・ブリコが、ドラマチックによみがえる

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2019.9.17
 今年は、アントニア・ブリコ没後30年

今年は、アントニア・ブリコ没後30年

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女性指揮者のパイオニア、アントニア・ブリコ(1902オランダ生~1989アメリカ没)の半生を、実話をもとに描いたオランダ映画『レディ・マエストロ』が、2019年9月20日(金)から公開される。約100人の奏者を束ねて感動の演奏を披露する「指揮者」という仕事は、長らく女性を受け入れなかった。近年やっと、人気楽団の常任指揮者や首席指揮者などに女性の名前を見るようになってきたとはいえ、まだまだ少数である。

アントニアは、ピアニストの父とカトリック教徒の母の間に生まれた。が、間もなく養子に出され、ウィルヘルミーナ(ウィリー)として育てられ、6歳の時に一家でカリフォルニアに移住。ピアノを習い、カリフォルニア大学バークレー校で音楽を学び、1926年にオランダで亡き生母の存在を知ったそうだ。ドイツの名指揮者、カール・ムックのもとで指揮修行をし、ベルリン音楽アカデミー(現ベルリン芸術大学)指揮科に入学。1930年ベルリン・フィルを指揮して念願のデビューを果たす。この成功で、サンフランシスコ響、ロサンゼルス・フィル、ハンブルク・フィルなどを指揮し、1938年にはニューヨーク・フィルも。また、女性音楽家の厳しい環境改善を思い、1933年に創設した女性だけのウィメンズ・シンフォニー・オーケストラは各地で人気を呼んだ……。

恋の行方は?

恋の行方は?

監督のマリア・ペーテルスは、そんなアントニアの映画を長年撮りたいと思っていたという。1974年にアメリカでアントニアのドキュメンタリー『Antonia : A Portrait of A Woman』がアカデミー賞「長編ドキュメンタリー部門」にノミネートされたとき、彼女の仕事に対する情熱、男社会の楽壇で受け入れられるための奮闘ぶりに心を突き動かされたそうだ。本作の制作にあたっては、アムステルダム在住のアントニアの従兄弟(90歳)への取材がかない、彼女に対する理解が深まったと聞く。

映画では史実をもとに、どんな状況でも夢をあきらめずトライし続けたアントニアの半生を、無理のない範囲でドラマチックに脚色してあり、さらにマーラー、ドヴォルザーク、ベートーヴェン、ドビュッシーをはじめとするクラシックの名曲が、さまざまな場面を盛り上げ、139分があっという間に過ぎていく。

アントニアを見守り続けるバンドマンにも秘密が

アントニアを見守り続けるバンドマンにも秘密が

映画の舞台は今から約100年前のニューヨーク。ヒロインのウィリー(クリスタン・デ・ブラーン)は指揮者に強い憬れを抱いているが、なす術が分からず悶々と暮らしている。オランダ移民で、仕事はホールの案内係だ。ある日、祖国の巨匠メンゲルベルクがニューヨーク・フィルを指揮するコンサートで、思いあまって舞台前の客席通路に椅子を置いて鑑賞してしまい、クビになる。親切なバンドマンに助けられ、ナイトクラブでピアノ弾きをしながら音楽学校に通うも、今度は教師のセクハラがもとで理不尽な退学の憂き目に。意を決してオランダへ渡り、やがてドイツの著名なマエストロのムックに直談判して、念願の指揮修行が始まる。だが、数多のバッシングが容赦なく続いて……。

黎明期の女性指揮者と彼女を支えた人たちの心情や生きざまがストレートに伝わってくる。明日へ向かう勇気が湧いてくる作品だ。

女性楽団を指揮するアントニア

女性楽団を指揮するアントニア

文=原納暢子

上映情報

映画『レディ・マエストロ』


■監督・脚本 マリア・ペーテルス
■音楽監督 ステフ・コリニョン
■出演 クリスタン・デ・ブラーン、ベンジャミン・ウェインライト、スコット・ターナー・スコフィールド 他
■製作 2018年、オランダ
■配給 アルバトロス・フィルム ©Shooting Star Filmcompany-2018
■公開:2019年9月20日(金)より、Bunkamuraル・シネマ 他、全国公開
■公式サイト:
http://ladymaestro.com/
https://www.bunkamura.co.jp/cinema/lineup/19_lady_maestro.html​
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