綾野ましろ 3年ぶりのニューアルバムに込めた 「困難な道の先陣を切る」決意と思い
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撮影:岩間辰徳
2014年、綾野ましろのデビューは鮮烈だった。『Fate/stay night[Unlimited Blade Works]』オープニング曲テーマに抜擢された「ideal white」の、静かに燃える透明な炎のような、凛とした歌声に度肝を抜かれた。2016年、ファースト・アルバム『WHITE PLACE』で到達した、彼女のルーツであるV系やダークなロック志向と、ドラマチックなアニソンの世界観との融合に目を見張った。あれから3年、遂に登場するセカンド・アルバム『Arch Angel』。アニメ『Re:CREATORS』エンディングテーマ「NEWLOOK」、『グランクレスト戦記』オープニングテーマ「starry」と「衝動」、『パズドラ』エンディングテーマ「GET OVER」など、3年分のタイアップ曲に、ライブでの人気曲、さらに新曲をコンパイルした全12曲。デビュー5年を迎えた綾野ましろは今、何を思いどこを目指すのか? 注目の新曲中心にじっくりと話を聞いてみた。
――お久し振り。3年振り、ですか。
そんなに経っている感じもしなかったですけど、シングル曲を並べてみると、「けっこうたくさん歌わせてもらったな」と思います。
――あの頃と今と、何か変化を感じてますか。
いろんな感情を、サウンドだったり歌詞だったりで、少しずつ形にすることができ始めているかな?と思います。一番新しいシングルの「GET OVER」もそうですけど、明るい曲の時は歌い方を変えて、テンション感を変えたりとか、逆に心の中をさらけ出すような曲は、感情をむき出しにせずに歌うとか。まだまだ勉強中ですね。ワーッと歌っていればいいものではないというか、「歌で語る」ということは、すごく難しいことなんだなと、5年目になってより感じています。
――うんうん。なるほど。
あとは、3年の間にライブで積み上げてきた、応援してくださるみなさんの声を聞いて、見る目線が少し変わったというか、自分のライブを客観視しながらやっているような気がします。もちろん歌っている時は楽しいんですけど、要所要所で、どういうふうに表現できているのか?を感じながら、やらせてもらっていると思います。ライブもすごく楽しく感じます。
――歌の表現力は、本当に増したと思いますよ。
ありがとうございます。
――特に今回のアルバムの新曲は、「おおっ!」と思うものが多かった。「caelum」「Unleash」「TRUE KISS」、ましろちゃんの書いた歌詞じゃないけれど、タイトル曲の「アークエンジェル」。歌詞の世界観も歌い方も、今までなかったよなという、挑戦をすごく感じていて。
歌詞で言うと、自分の美学的に、あまり日常のことをさらけ出したり、身近なものをワードに入れることが苦手だったんですけど。「caelum」とか、幼い頃の自分の実体験を思い出しながら、物語を書いている感じで書きました。
――やっぱり。ここに出てくる「少女」は、ましろちゃんかな?と思って聴いていた。
そうですね。子供の頃にはできていた何かができなくなったり、逆に何かができるようになっていく、その一瞬一瞬が、大人になっていく一つのきっかけなのかな?と思うので。私が最初に感じた大人へのきっかけが、「caelum」には書かれています。ひたすら突き進んで、無敵だと思っていた頃から、先のビジョンを読んでしまって、なかなか動けなくなってしまうとか、そういうことはきっと誰にでもあるのかな?と思ったので。それをわかりやすく、物語っぽく書いてみました。
――物語だけど、ここまで赤裸々な歌詞は、今までなかったと思う。
確かに。
撮影:岩間辰徳
――水の表現がたくさん出てくるでしょう。プール、水面、囲われた水槽、とか。
「caelum」という言葉は、天空という意味なんですけど、自分が水の中に沈んで、上を見上げた時の、青い天空がすごく記憶に残っていて。きれいだったけど、ちょっと怖かったので、その大切な記憶が歌として残ってくれるのは、すごく嬉しいです。
――具体的なシーンなんだ。
そうです。小学校5,6年ぐらいの記憶です。それから私、プールとか海では泳いでないです。
――そういえば、3年前、「子供の頃、水の中で呼吸ができたんです」という話をしてたでしょう。
あ、覚えてくださってました? そうなんです。それができなくなった瞬間です。
――なんとなく、そうかなと思った。子供の頃にあった特別な能力を失って、人は大人になってゆく。その切なさが、強く伝わってきたので。
たとえば、野球をやっていたら、ホームランを打ちたいと思ったら、ホームランを打つまでの道筋しか見えていなかったのが、どうやって打とう?とか、細かいことを考え始めて打てなくなっちゃう。それって、悲しいんだよなって思う。悲しいというか、もったいないと思った、そういう記憶がけっこうあって。
――子供のままでいられたら、いいのにね。
そうですね。でも、大人になってからもそのままだと、ちょっと大変な人になると思います(笑)。
――そうだね(笑)。その通り。
でも、そういった経験をしていた自分を、すごく色濃く覚えていて。今も、ライブをする時とか、その時の自分に帰りたいなと思いながらやっています。本当に楽しいことは、本当に楽しいし、今歌っている楽曲が切ないなと思ったら、涙してもいいんじゃないか?とか。それは今後、「ステージ上で涙は見せるものじゃない」とか、「ショーとしてどう見せるべきか」とか、変わっていくのかもしれないけれど、私がこの「caelum」を書いた時には、そういうふうに思っていました。
――明るい曲調だからこそ、沁みる。すごく大事な曲だと思います。作曲は初参加の、LM.CのAijiくん。知り合いでしたっけ。
Aijiさんは、LM.Cさんの音楽を昔から聴いていたのと、よく楽曲に参加してくださったり、ワンマン・ライブでベースを弾いてくださったこともある高井淳さんが、LM.Cさんのサポートをされていたりとか、いろんな繋がりがあって、「曲を書いてくださいませんか?」というお話をさせてもらいました。でもAijiさんは、この手の楽曲は書かない方だったらしくて、だけどこの曲に挑戦してみて、「自分自身も新たな道が見えて新鮮だった」と言ってくださって、お互いに「ありがとうと」いう気持ちを持って、この曲を完成させました。すごく親身になって、いろんな相談にも応えてくださって、だからこそ歌詞に関しては、すごくプレッシャーがありました。LM.Cさんの歌詞がすごく好きで、韻を踏んだり、うまく表現したり、胸に沁みるなーとか、いつも思っていたので、そういう面でも負けたくなかったし。
――ある意味、真剣勝負。
負けてると思うんですけど(笑)。Aijiさんをがっかりさせたくないなと思ったし、ふさわしい仕事をしたいと思いながら、気合いを入れて書きました。
――リリック・ビデオも出ているので。みなさん、ぜひ歌詞をじっくり味わって聴いてもらえると。
すごくポップな曲なので、ライブでは一緒に歌ったりとか、思い思いの感じ方でいいかなと思います。
撮影:岩間辰徳
――「TRUE KISS」の歌詞も、今までにない新しさがあると思うけど。これってラブソング、だよね。
そうですね。あんまり、生きてる二人のラブソングって、書いたことがなかったんですけど(笑)。どちらかはもういない、とかはありましたけど。この歌詞は、お互いにすごく大好きなんだけど、駆け引きをしている状態で、二人は食卓をはさんで座っていて。「チェス」が出てくるのも、チェスは駆け引きが大切なゲームだということと、食卓だから、スプーンと「匙を投げる」という表現を掛けていたりとか。
――比喩が多くて、すごく面白い。「キミが真実のボクを/グラスの縁に見つけ」とか。
これはyukaricoさんとの共作で、まずyukaricoさんの思う世界観でワードをはめてもらってから、「私はこう思います」というものを返して、そういうやり取りしながら作りました。「キュンと」というワードがたくさん出てくるんですけど、全部ニュアンスを変えて歌っているので、そこを細かく聴いてほしいです。ギターのリフも、すごく細かくて、きれいなので、そこも聴いてほしいですね。洒落てます。
――洒落てるね(笑)。この曲には新しさを感じますよ。
私の曲は、ストレートなものが多かったので。小悪魔的に、声色を変えたりとか、いろんなことができるんだという楽曲になりました。
――「Unleash」は?
「Unleash」は安田史生さんの書下ろしの楽曲です。ミディアム・テンポで、あまり明るくない曲。安田さんは、あまり明るい曲を書かないので、いつも通りな感じで(笑)。少し洋楽テイストを入れたくて、歌詞に英詞を入れています。「FEEL is feeling so lonely in the night from the window」の、最初のFEELが大文字なのは、自分の心の中で欠けてしまったものが、外に出て行ってしまって、行き場を失っている。それをFEELという鳥の名前にして、その鳥が感じた気持ちを、サビの前半では歌っています。
――おおー。なるほど。
「Unleash」は、新曲の中で最初に歌詞を思いついた楽曲です。自分でもすごく感じる部分があって、前のめりになって書いていました。触れられても、触れられているとわからない部分や、感じていない振りをする感情とかを、人はたくさん、いなしながら生きているのかな?というところから、考えていきました。でもそれをダメなことだとは、私は思っていなくて、少しでも取り戻してほしいという気持ちで、「見守る」「寄り添う」とか、そういうスタンスでいたいので。この場合のFEELは、自分自身の心でもあるので、解き放ってあげたい、イコール、自分の中でちゃんと生きてほしいという気持ちがあります。なので、解き放つという意味の「Unleash」をタイトルにしました。
――深い。そしてアルバムのラストを飾る「アークエンジェル」は、ましろちゃんの歌詞ではないけれど、これも大事な曲でしょう。
そうですね。「confession」の歌詞を書いてくださった、RUCCAさんにまたお願いしました。RUCCAさんの歌詞は、すごくすんなり入ってくる言葉が多くて、いろんなパターンの感情を持っている方なのかなと思います。SNS上で「いつもありがとうございます」というやりとりはありますけど、まだお会いしたことがないんですよ。こういった、バラードらしいバラードというのも、私にとっては初めてかもしれない。話すように歌っていたり、ワンコーラス目の終わりまでは、感情をぐっと抑えて、高まりそうなところも、語るようなイメージで歌っています。語るところは、いつも歌っているキーよりも低いので、そこに言葉の重みを乗せることができたんじゃないかなと思います。私の中での、新しい楽曲になったなと思います。
――まさに。
歌を届ける側からすると、ずっと頑張って耐えていれば「きっといいことがあるさ」とか、「雨は絶対やむから大丈夫だよ」とか、言ってあげたくはなるんですけど、それを綾野ましろが言うことは違うかな?という気がしていて。なので、悲しかったり、楽しかったり、寂しかったり、そういう気持ちを全然否定しないというスタンスで歌っています。無理にそれを変えようとしてしまうと、絶対どこかで歪みが出てくると思うので。なかなか現代社会では理解されることがないですけど、でもそれを、ちょっとでも理解して、私の音楽がよりどころというか、居場所というか、アルバムの中の1曲でもいいから、「この曲を聴くと涙が流せてスッキリした」「踊りたくなった」「友達と一緒に聴きたくなった」「ライブに行きたくなった」とか、何でもいいんですけど、黙っていられなくなるような、そんな曲が作れたらいいなと思って取り組ませてもらいましたね。それは新曲の全部に言えることですけど。
――もちろんタイアップ曲も、気持ちは100%入っているんだろうけど。やっぱり書下ろしの新曲は、綾野ましろそのものだなあと思いますよ。
タイアップ曲は、アニメ作品の世界観を大切にしながら歌わせていただいています。そこで綾野ましろの中での、精一杯のポジティブさを出してみるとか、そういうチャレンジはします。でも新曲は、今回「歌詞も自由に書いていいよ」と言っていただいたので、自分で書けたことがすごく大きかったし、大切な経験になったと思います。すごく等身大の1枚ができたかなと思いますね。
撮影:岩間辰徳
――そして、タイトルが『Arch Angel』。
アークエンジェルは、天使のいろんな階級がある中で位の高い神と並んで座れる天使達のことです。なぜ『Arch Angel』にしたのかというと、「たくさんいる中で」というのが私の中でキーになっていて、1曲1曲が天使なんです。1曲1曲が天使のように、みなさんのその日その瞬間の感情に寄り添える存在になったらいいなということでタイトルにしました。シングルの表題曲もたくさん入っていますし、シングルのカップリングの中からも、「pixy breath」と「MATROSKA」「ANGEL HORIZON」が、ライブですごく盛り上がる曲なので、あらためて入れさせていただています。
――みなさんぜひ。ジャケット写真も素敵だし。
無機質な雰囲気の中で、いつも素で過ごしている時の表情を撮ってもらいました。みんな、どんな私が好きなのか、はっきりわからないですけど、これからライブもまた決まっていますし、もっともっと、応援してくれるみなさんとは、心で繋がっていきたいと思います。
――アーティストとファンというよりも、同志のような。
私は「行くぞ!」というタイプではないですけど、先頭を切ってあげたいというか、困難な道も私が先に行ってあげたいし、自分は捨て身で良くて、自分のことを大切にしてくれる存在を守りたい、大切にしたい気持ちがすごくあります。
――そういう発言は、3年前には聞かなかった。やっぱり、すごく成長してる。
成長、したのかな?(照笑) この3年、あっという間で、その間にすごく悩んだりもしましたし、ライブでうまく歌えなかったり、悩んだこともありました。5年前に「ideal white」でデビューした時は、「正解なんて一つじゃないから、がむしゃらに頑張ろう!」という自分がいたんですね。それからファースト・アルバムを作って、私は歌うのが好きだし、みんなと一緒にライブするのも好きだし、「でもこれからどうなっていきたいんだろう?」って、すごく考えるようになった。なので、時間はかかるかもしれないけれど、自分が表現したものが誰かの心の支えになったり、ちょっとした逃げ道になってくれたら嬉しいなと思いながら、これから私は活動していくんだろうなと思います。
――頼もしい。
単純に、もっと大きいところでライブをできるようになりたいという野望もありますけど。そうなると、できることが違ってくるじゃないですか。このアルバムをきっかけに、たくさんの人に、私の歌が届いたらいいなと思います。
――次のワンマンが、11月16,17日、神田明神ホール、タイトルが『綾野ましろLIVE 2019「ARCH」』です。
神田明神ホールって名前がかっこいいですよね(笑)。2Daysは難しくて、1日目で温存したくないし、今回はゆっくり準備をしながら、計画的にやりたいなと思います。計画的にというのが本当に苦手なんですけど、今回は少し大人になってみようかなと。MCも、8月のライブ(白金高輪SELENE b2)の時に、珍しくたくさん話したんですよ。そしたら「ましろがどう思って楽曲を作ったのかがわかって嬉しかった」って、お客さんが言ってくれて。うまく話せる時と話せない時があるんですけど、そこは隠れて訓練したいと思います(笑)。おかげさまで曲数もだいぶ増えてきたので、2Daysでけっこう違った色を出せるんじゃないかなと思いますね。
撮影:岩間辰徳
インタビュー・文:宮本英雄 撮影:岩間辰徳
リリース情報
綾野ましろ 2ndアルバム『Arch Angel』
VVCL-1510~2 7,000円(+税)/
CD+BD(MV映像)+ Tシャツ + フォトブック
【初回生産限定盤】
VVCL-1513~4 4,000円(+税)/
CD+BD(LIVE映像)
VVCL-1515 3,000円(+税)/
CDのみ
〈CD収録内容〉
01 pixy breath
02 NEWLOOK(TVアニメ「Re:CREATORS」エンディングテーマ)
03 confession
04 MATROSKA
05 TRUE KISS(※新曲)
06 衝動(TVアニメ「グランクレスト戦記」2期エンディングテーマ)
07 starry(TVアニメ「グランクレスト戦記」1期オープニングテーマ)
08 Unleash(※新曲)
09 ANGEL HORIZON
10 caelum(※新曲)
11 GET OVER(TVアニメ「パズドラ」エンディングテーマ)
12 アークエンジェル(※新曲)
〈完全生産限定盤Blu-ray 収録内容〉(ミュージックビデオを収録)
01 NEWLOOK -Music Video-
02 starry -Music Video-
03 衝動 -Music Video-
04 GET OVER -Music Video-
05 confession -Music Video-
〈初回生産限定盤Blu-ray 収録内容〉 (ライブ映像を収録)
公演:綾野ましろ One-man Live 2018「YOUR WORLD」
(2018.11.03 @マイナビBLITZ赤坂 )
01 OPENING
02 衝動
03 starry
04 NEWLOOK
05 MATROSKA
06 ideal white
ライブ情報
綾野ましろ LIVE 2019 「Möbious」
(ヨミ:アヤノマシロ ライブ 2019 メビウス)
会場:東京・白金高輪SELENE b2