札幌の弦巻楽団が3年ぶりの東京公演『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』~作・演出の弦巻啓太に聞く

インタビュー
舞台
2019.10.1
弦巻楽団『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』舞台写真 撮影:原田直樹(n-foto)

弦巻楽団『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』舞台写真 撮影:原田直樹(n-foto)

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2003年から札幌を拠点に活動している劇団、弦巻楽団が2019年10月4日(金)~7日(月)に東京・こまばアゴラ劇場で『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』を上演する。この作品は2005年に弦巻啓太が他団体に書き下ろし、弦巻楽団でも13、16、18年と繰り返し上演されてきた人気作で、「恋愛は幻想に過ぎない」という自説を唱えるシェイクスピア専門の大学教授が、ラジオから流れてきた気象予報士の声に恋をすることで巻き起こる騒動を描くラブコメディだ。弦巻楽団は様々な演劇人とのコラボレーションを行うことをコンセプトに掲げており、昨年の上演時に大学教授・奥坂役で出演した青年団の永井秀樹が今回も同役で参加している。

9月21日(土)~23日(月・祝)に行われた札幌公演後、弦巻楽団にとって3年ぶりとなる東京公演へ向けての思いを、作・演出の弦巻に聞いた。

弦巻楽団『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』舞台写真 撮影:原田直樹(n-foto)

弦巻楽団『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』舞台写真 撮影:原田直樹(n-foto)

コメディとまっすぐ向き合って書いた作品

――先に行われた札幌公演でのお客様の反応や、上演した手ごたえはいかがでしたか。

これまで何度も再演している作品なので、マンネリになっていないだろうか、という心配もあったのですが、お客様からは非常に良い反応をいただけました。この作品がこうして皆さんに楽しんでいただけるのは、決して一過性の面白さとか、物珍しさのようなものではなくて、普遍的な何かがちゃんとあるんだな、ということを確認することができました。

――この作品は弦巻楽団で何度も上演されてきました。

これまで上演した作品の中で「もう一度やりたいな」と思うものはいっぱいあるのですが、その中でもこの作品は皆様のご要望やタイミングなど、様々な要素が重なってあまり間を置かずに再演の機会を続けて設けることができました。自分の思いとしては、30代になるかならないかという頃に書き下ろした作品で、これまでいろんな演劇をやってきた自分がこれから先どうしていくのか、どうなっていきたいのか、ということを考えたときに、コメディとまっすぐ向き合って、勢いに任せただけではないものを作ってみようと思って書いたので、大事な作品ですね。

――今作の見どころを教えていただけますか。

「誰でも楽しめる作品」に本気で取り組んで創っている舞台、と言えると思います。好き嫌いはどうしてもあると思いますが、僕は見る人によって疎外感を覚えるような作品は創りたくないという思いがあって、間口は広くして、でも中に入って見たら結構奥も深いと思ってもらえることを目指しています。今作は一見よくあるタイプの作品ですが、でも僕なりにひねりを加えているというか、こだわって作っている部分があるので、そういうところを見てもらえたら嬉しいですが、まずは特に何も考えずに見に来て楽しんでもらえたら、それが一番いいかなと思っています。今の世の中、複雑な問題もいっぱいありますが、お客様が見た後で心が軽くなって元気になってくれたらいいですね。

弦巻楽団『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』舞台写真 撮影:原田直樹(n-foto)

弦巻楽団『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』舞台写真 撮影:原田直樹(n-foto)

――昨年の公演から青年団の永井秀樹さんが出演されています。

永井さんとは10年ほど前に札幌で行われたワークショップでお会いして、そこから交流が始まりました。昨年この作品を再演することになったとき、前回の上演から2年しか経っていない中で、何か前回とは違う新しさを持って上演したいと思い、主演を新たに永井さんにお願いすることにしました。東京を拠点にしている永井さんに札幌まで来ていただくなどハードルも高かったのですが、幸い引き受けていただき、良いコラボレーションができたことが今回の上演にも繋がりました。

地域ごとの違いが、様々な土地で上演する理由

――3年ぶりに東京公演を行うことになった経緯を教えてください。

永井さんが主演ですし、弦巻楽団は2015年と16年に東京公演をやっているのですが、今作のようなコメディ作品は上演したことがなかったので、この機会に東京のお客様にも見てもらいたいと思って、今回東京公演に挑むことにしました。

――これまで札幌や東京以外にも様々な場所で公演をされていますが、上演する地域ごとの違いは感じられますか。

違いはかなりあると思いますし、それがいろいろな土地で上演する理由の一つです。僕たちは札幌で活動していて、札幌で生まれ育った人間たちで作品を創っていますが、他の土地、他の文化の中で生活している人たちからは、僕たちと違う意見や反応が返ってくることがあります。そうした“違和感”というか、自分たちの中にはない価値観と出会うために札幌以外の場所での上演に取り組んでいるところはありますね。

――東京公演初日に行われるアフタートークのゲストがiakuの横山拓也さんですが、横山さんとは以前から交流があるのでしょうか。

横山さんが札幌で公演をしたときにお会いしたのが最初で、それから弦巻楽団の東京公演は必ず見に来てくださったり、横山さんが札幌にいらした際にお会いしたりしています。横山さんと僕は年齢が近いんですよ。(※弦巻は1976年、横山は77年生まれ)

弦巻啓太 撮影:原田直樹(n-foto)

弦巻啓太 撮影:原田直樹(n-foto)

札幌で作ったコメディを見てもらいたい

――弦巻楽団のこれまでの活動を見ると、非常に多岐に渡って精力的に活動されていらっしゃいます。

僕は演劇活動をしながら、演技指導など講師の仕事もやっているのですが、そうした活動の中で、面白い作品を創りたいという思いと同時に、演劇の面白さが伝わるような土壌をこの札幌に作っていかなければならないな、ということも強く感じています。古典、シリアス物、コメディ、と様々な作品を楽しんでもらえるように演劇そのものを普及したいと思い、劇団としてオリジナル作品をやるだけではなく、いろんな人たちとコラボレーションをしたり、演技講座や戯曲講座を開いたりと多様な活動をしています。

――今後の展望がありましたら教えてください。

今回の東京公演に際して自分の中に一つある思いは、札幌で作ったエンターテインメント、札幌で作ったコメディを見てもらいたい、ということです。どうしても演劇の中心は東京だという考えになりがちですが、決して東京で作られているものに劣らない、札幌だから作れるエンターテイメントのあり方というものを見てもらいたいです。これからも今のスタイル自体は変えずに、札幌の演劇人たちで作れるものを模索したり広げたりしていきたいと思っています。

――それでは東京公演に向けてメッセージをお願いします。

お芝居を見て何か感じたり考えたりしたいという方も、何も考えずに楽しみたいという方も含めて、どんな方でも楽しめる舞台を目指して創っていますので、ぜひ劇場に足を運んでいただけたらと思います。永井さんが、札幌でどんなコメディに挑んで、どんな演技をしているのかにもぜひ注目していただきたいですね。

弦巻楽団『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』舞台写真 撮影:原田直樹(n-foto)

弦巻楽団『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』舞台写真 撮影:原田直樹(n-foto)

取材・文=久田絢子

公演情報

弦巻楽団『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』

【作・演出】弦巻啓太
【出演】永井秀樹(青年団) 岩杉夏(ディリバレーダイバーズ) 小林なるみ(劇団回帰線) 柴田知佳 遠藤洋平
 
【公演スケジュール】
2019年10月4日(金)19時★、5日(土)14時/18時、6日(日)15時、7日(月)14時
(受付開始は開演の45分前、開場は開演の30分前)
★終演後、アフタートークあり
10月4日(金)19:00 横山拓也(iaku主宰)
【会場】東京・こまばアゴラ劇場

一般 前売3,500円 当日3,800円
22歳以下 前売2,000円 当日2,300円
*日時指定・全席自由・整理番号付
*未就学児童の入場不可
【問い合わせ】弦巻楽団 TEL.090-2872-9209 tsurumakigakudan@yahoo.co.jp
https://www.tsurumaki-gakudan.com/
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