小栗旬主演『ジョン王』を演出する吉田鋼太郎 シェイクスピア愛、小栗愛を語る
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吉田鋼太郎
ウィリアム・シェイクスピアの全戯曲37作品すべてを上演するという壮大な企画、彩の国シェイクスピア・シリーズ。初代芸術監督の故・蜷川幸雄のもとで1998年にスタートしたこのシリーズ、残り5作品という時点で2代目芸術監督に吉田鋼太郎へバトンが渡り、2017年には『アテネのタイモン』、2019年には『ヘンリー五世』を吉田の演出・出演で上演し、2020年2月には『ヘンリー八世』の上演を控えている。そんな中、シリーズ第36弾にあたる『ジョン王』を2020年6月に上演することが早くも決定! 演出はもちろん吉田が手がけ、主役となる私生児フィリップ・ザ・バスタードに小栗旬、タイトルロールのジョン王に横田栄司、そのジョン王と敵対するフランス王に吉田が扮することになった。そのヴィジュアル撮影が行われたスタジオを訪ね、吉田に作品への想い、演出の狙い、キャストの小栗と横田に対する期待などを語ってもらった。
ーーシリーズ第36弾で『ジョン王』を上演するにあたって、今の心境はいかがですか。
まあ、いつもと一緒ですよ(笑)。でも、この『ジョン王』というのは上演する機会が少ない作品ではあるし、参考になる前例もあまりないので、純粋に一から作る楽しさがありますね。作り込まれたストーリーがあるわけではないし、たとえばリチャード三世とかハムレットとかマクベスというような魅力的な登場人物も一見すると出てこない感じもする。でも戯曲をじっくり読むと人間臭い人物ばかりが出てくる、善の部分と悪の部分とが非常に入り乱れた面白いお芝居になっている。役者としてはとても演じがいがあるし、演出家としてはそんな人物たちをどう際立たせていくかに、やりがいを感じました。確かに、シェイクスピア作品の中では比較的ないがしろにされがちな作品ではありますが、僕はこれも名作だと思っています。それを演出させてもらえることには、今からワクワクしています。
ーーその作品に小栗さんや横田さんをキャスティングしたということは、お二人がそれぞれの役にとても合っているからということですか。
もちろん、もちろん。合っているも何も、まず横田くんの場合は何でもできるしね。そして『ジョン王』を小栗くんで、バスタード役を主演にしてやりたいというのはずっと前から頭にありました。冷静さ、クールさ、みたいなものを彼は持っている。比べるわけではないけど同世代の蜷川組、蜷川さんに薫陶を受けてきた藤原竜也のほうは熱い、情熱的なイメージがあるじゃないですか。それと比べると小栗くんはクールなんですね。今回のバスタードという役は、イギリスもフランスも関係なく、物語に関わる人の全体像、すべてを俯瞰して見ている役でもあって、いかにも小栗くんにピッタリの役だと思ったんですよ。
吉田鋼太郎
ーー吉田さんが演じるのはフランス王だということですが。
演出も自分でするので、あまりカロリーの高い役は無理なんです(笑)。とはいえ、フランス王も結構カロリー高めですが。あまり端役で出るわけにもいかないので、その中で選択するならフランス王かな、ということです。でもとても魅力的な役ですよ、横田くんとの激論のシーンもありますし。なんとか横田くんと僕とでがんばって激論して汗を流しつつ、小栗くんを盛り上げたいと思っています。
ーー吉田さんご自身は以前、バスタード役を経験されていますよね。だからこそバスタードに魅力を感じ、今回はジョン王を主役にするのではなくバスタードを主役にしたのですか?
そうなんです。戯曲を読むだけでなく、実際に芝居をやってみると、役の重さや活躍するシーンの多さなど、役の比重というものがわかってくるんです。つまり、芝居でやってみると圧倒的に私生児バスタードの役がとても魅力のあるキャラクターとして重く感じたんですよ。
ーーこの作品は、心理合戦の芝居になりそうとのことでしたが。
論争が多い芝居で、イギリスとフランスの戦争が背景にあるため、必ずどっちに分があるか、どっちに利があるかということをまず言い合ってから、実際のバトルになるんです。その言い合いを、ただパワーとエネルギーだけでやってしまうと全編がそれだけになってしまうので、僕としてはそこにひとつ手を加えなければいけないなと思っています。それをどこまでやるかが問題で、思い切ってやるとすれば、芝居をやる時のエネルギーの出し方を変えてみる、とかね。もういい年齢なので物理的に大きな声を出すとか汗をかくとか、そういう手段を使わずにパワー、エネルギーが出せないものかと考えているんです。そうして次の段階の芝居ができないものかと。小栗くんはまだそんな年ではないから当然暴れてもらうつもりだけど、僕と横田くんあたりは少し抑えた芝居でも圧倒的な迫力を出せるという境地を目指してみたいなと、今はまだぼんやり考えている段階です。
吉田鋼太郎
ーー『ジョン王』というこの作品ならではの言葉の魅力については、たとえばどういうところに感じられていますか。
言葉の魅力という意味では、他のシェイクスピア作品と一緒です。ただ面白いのは、さっきまで黒だと言っていたことを、すぐに白だと言ったりするようなシーンがいっぱいあるんです。人質で囚われている王子が脱走しようとして飛び降りて死ぬというシーンとか「どうなってんだ、これ?」って、ちょっと不可解な展開もありますし。その不可解さは特に、単なるエネルギーだけでは追いきれないと思っています。まあ、シェイクスピア作品に矛盾が出て来ることは珍しくないので、そのことは深く考えないでやっちゃおうというやり方ももちろんあるけど。今回は矛盾として放っておかずに、考えてみようということです。人間がたくさん集まればいろいろと矛盾も出てくるし、意見の食い違いから起こる矛盾もあるし、それおかしいんじゃないのという欠損が出ることもある。そもそも、これは矛盾だらけの芝居なのでそう観てくださいというのではなくて、ああやっぱりこうなるんだ、とお客さんにはちゃんと腑に落ちた感覚を味わってもらいたい。なので、細かく丁寧に作るつもりでいます。
ーーまだ、小栗さんと横田さん以外のキャストは発表になっていませんが。
現在、いろいろな方にオファーしている最中なんです。登場人物の中に、コンスタンスというモーレツなおばさんがいるんですが。
ーーどなたが演じることになるのか、非常に気になります(笑)。
でしょう(笑) 当初は女優さんで探していたんだけど、途中からこの役は男優でやっても面白そうだなって、ちょっと思い始めてきたところなんです。この作品って展開としても少々変わっていて、奇形な、異形な芝居だというか。だったら、その女性の役を男優がやるとさらに異形さが増幅される気もするので、ひょっとしたらオールメールでやってもいいかもしれない。というわけで、現在この件に関しては検討中です。結果はどうなるか、お楽しみに(笑)。
ーー改めて、小栗さんとご一緒できるということで特に楽しみなことは。
蜷川さんのもとで、小栗くんとは3本くらい芝居をやったのかな。だからお互いに勝手知ったる仲だから、そういう意味ではとてもリラックスできる相手でもあります。役者というのは面白いもので、いろいろ冒険もしてみたいんだけど、手の内を知っているリラックスできる相手とも一緒にやりたくなるんですよ。
吉田鋼太郎
ーー気心も知れているから、安心していいものが作れそうな気もしますね。
そうそう。でもそれで緊張感をなくしたらまずいんだけど。なにしろ小栗くんと一緒に芝居をするのは本当に久しぶりなので。海外映画ものシリーズ『時計じかけのオレンジ』(2011年)と『カッコーの巣の上で』(2014年)でも共演はしているけどあまりからめなかったので、僕の中では消化不良気味だったんです。だから、ガチでやるのは『タイタス・アンドロニカス』(2006年)以来になっちゃうのかな。
ーーぜひシェイクスピア作品でご一緒したかった、ということでしょうか。
そう、だから今回はやっとできる! という気持ちもあります。成長した小栗くんも見せてもらえそうだし、あいつが何をやらかしてくれるのか、こちらに何を持ってきてくれるのか、すごくドキドキしています。これは、小栗くんに引っ張ってもらう芝居でもありますから。
ーー小栗さんを演出する、ということは初めてですよね?
初めてですね。もともと彼には遠慮なく何でも言えるんで、そういう意味でもとてもいい座組になるんじゃないかと思っています。
ーー横田さんへの信頼は特に厚そうですが、どういう俳優さんだと思われていますか。
こちらが思い描いている役の像を、きっちり出してくれるんです。途中でそれを多少、軌道修正したいとなっても、まったく問題なくそれについてきてくれる。一切、愚痴も文句も言わない。演出家にとってこんなにいい俳優さんはいませんよ(笑)。
ーーありがたい存在ですね(笑)。
今ではすっかり、横田くんが出ればとにかく芝居が締まるってみんな言っているけど、まったくその通り。僕とは考える方向性がいつも一緒なんです、同じようなことをやってきたからね。それにパワーがあり、声が出るし滑舌もいい。他に、なかなかいない俳優だと思います。
ーーそして、この彩の国シェイクスピア・シリーズもいよいよ終わりに近づいてきましたが。
そうだね。だけど蜷川さんが始めて、本当なら蜷川さんが最後までやらなければいけないこと、あるいはやらせてあげたかったことだったということもあって、実はここで終わりにはしたくないんです。「37本全部やりきりました、ハイ終了」にしたくない。お客さんからもできれば「もっと続けて」という声が聞きたいし、正直なところ僕らももっとやりたい。僕はシェイクスピアがライフワークだから、可能ならこの先も続けたいなと思っているんです。小栗くんも、いつか『ハムレット』をやりたいって言っていたし。
ーー蜷川さんとできなかった『ハムレット』、ぜひ実現していただきたいですよね。
でもだんだん、年齢的なタイムリミットもあるからね。もちろん40歳過ぎてからやったっていいんだけど、なるべくなら若いハムレットで見たいですから。そんな、希望はありますね。
ーーその場合、蜷川さんの名前は。
それは、使ったほうがいいと思っていますよ。亡くなってしまうと、記憶からだんだん薄れてしまう。それをとどめておくためにも、絶対に蜷川さんが続けていたシリーズだということはどこかに冠として残しておきたい。というか、そうしないと蜷川さんが怒ると思うんです。わりと、そういうことを気にする人だったから、「俺の名前はどこ行ったんだ!」って(笑)。化けて出られたらイヤですからね。
吉田鋼太郎
ーーでもいまだにいるんじゃないかって思うこと、ありませんか。
特に彩の国の稽古場とか、絶対にいます。みんな、感じていますよ。妙に緊張するから、あそこ。
ーーでも、そういう存在って大事ですよね。
大事です。どうしても怠けたくなるものなので、シェイクスピアをやるのはしんどいから。ついラクしたいと思ってしまう。だけどそういう気持ちになると「鋼太郎、それでいいのか」って声が聞こえてくるようで。きっともう、こういう考えからは逃れられないんだろうなあ(笑)。
ーー特に、今回の作品をやる上での一番の楽しみは。
それはやっぱり、小栗くんだね。舞台の上で、そして稽古場で、小栗くんに会えるのがすごい楽しみ。大好きなんだよ、なんだか恋しちゃってるみたいに(笑)。
ーー相思相愛ですね(笑)。
もう、ヘンな関係だよ。小栗くんと仲良くすると竜也が怒る、竜也と仲良くすると小栗くんが怒る。リアル『おっさんずラブ』をここでやってたのか! っていう感じ(笑)。あ、そこに横田くんも入ってくるんだった。また竜也も小栗くんも、横田くんをすぐいじめるんだよ。横田くんは優しいから、いじりがいがあるんだろうね。いつもニコニコして絶対怒ったりしないし。蜷川組の奴らってちょっとおもしろいんだ、他のカンパニーとは一味違って普通の愛とも違う愛で結ばれているの。みんな、家族のようなものだから。家族的な愛というか、近親憎悪があるというか。
ーーファミリーとして、どんな感情をぶつけても大丈夫だという関係ができている。
そうそう。だから、芝居の時もいろいろな表現を出しやすいんです。しかもそれをお互いに言いやすい。「その芝居はダメじゃないか」とか、なんの遠慮もなく言えるから。それってとても、芝居をやる上ではいい環境なんですよ。
ーーでは最後に、お客様へお誘いのメッセージをいただけますか。
知名度の高い作品ではないんですが、往々にしてそういうシェイクスピアの作品って観てみたらとても面白かったりするもので、この芝居もその例にもれず、かなり楽しめるものになると思います。いわゆる歴史劇というものに区分されていますが、歴史劇の部分だけでなく、悲劇の部分、シニカルな笑いに満ちた喜劇の部分、それにもちろん立ち回り、バトルの場面もあって、いろいろなものが混在している芝居なんです。そういう意味でもシェイクスピアの中では異例で面白い作品だし、その世界に小栗旬、横田栄司、吉田鋼太郎たちが入って縦横無尽に暴れまわるという、なかなかない貴重な公演になるはずです。どうぞ、この機会をお見逃しなく!
吉田鋼太郎
取材・文=田中里津子 撮影=福岡諒祠
公演情報
『ジョン王』
小栗旬 横田栄司
中村京蔵 玉置玲央 白石隼也 植本純米
間宮啓行 廣田高志 塚本幸男 飯田邦博 二反田雅澄 菊田大輔 水口てつ 鈴木彰紀* 竪山
隼太* 堀 源起* 阿部丈二 山本直寛 續木淳平* 大西達之介 坂口舜 佐田 照/心瑛(Wキャス
ト)
吉田鋼太郎
翻訳:松岡和子
演出:吉田鋼太郎(彩の国シェイクスピア・シリーズ芸術監督)
企画:彩の国さいたま芸術劇場シェイクスピア企画委員会
日程:
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
主催:公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団
一般 S席 10,000円、A席 8,000円、B席 6,000円
SAF メンバーズ S席 9,300円、A席 7,400円、B席 5,500円
U-25(B 席対象)2,000円(劇場のみ取り扱い)
※U-25
公式サイト:https://www.saf.or.jp/
<名古屋公演>
日程:
会場:御園座
主催:御園座
<大阪公演>
日程:
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
主催:梅田芸術劇場
公式サイト:https://www.umegei.com/schedule/884/
作品公式Twitter:https://twitter.com/Shakespeare_sss