池波正太郎による幻の名作『市松小僧の女』が上演決定 主演・中村時蔵のお千代姿も公開
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『市松小僧の女』お千代:中村時蔵
2019年11月1日(金)~25日(月)に上演される歌舞伎座の11月公演『吉例顔見世大歌舞伎(きちれいかおみせおおかぶき)』にて、池波正太郎による『市松小僧の女』が上演されることが決定した。同作品が上演されるのは、昭和52年(1977年)以来のことだという。
「顔見世」とは、江戸時代、毎年11月に役者と一年の契約を結んでいた芝居小屋が、その顔ぶれをお披露目するために行っていたもの。新たな一年が始まるため、11月を「芝居国の正月」とも呼ぶという。この伝統は現在でも息づき、10月は名古屋・御園座、11月は東京・歌舞伎座、12月は京都・南座で「顔見世」が行われている。
今回、発表された『市松小僧の女』は夜の部に上演される。同作品は、時代小説の大家・池波正太郎が歌舞伎のために書いた戯曲で、江戸・日本橋の大店の娘に生まれながら、女だてらに剣術の修業をする男勝りのお千代と、「市松小僧」という異名をとる年下のスリ・又吉との恋模様を描いた物語。池波自身が演出も手掛けた数少ない歌舞伎作品のひとつだ。池波は、江戸の女を主人公にした『江戸女草紙』シリーズとして『出刃打ちお玉』『市松小僧の女』『あいびきの女』の三本を七世尾上梅幸に当てて書き下ろしている。
昭和52年(1977年)2月歌舞伎座で、池波正太郎が作・演出を務め、後に人間国宝となる七世尾上梅幸のお千代、池波の代表作『剣客商売』の主人公・秋山小兵衛のモデルとなった二世中村又五郎の市松小僧又吉という、錚々たる名優により上演された。池波が信頼を寄せる二人に当てて書いたこの作品は、新作歌舞伎の優れた脚本に贈られる大谷竹次郎賞を受賞するなど、高い評価を得たが、その後、上演の機会がないままだった。
今回の上演で主演・お千代を演じるのは、歌舞伎座で数々の主演も勤める女方・中村時蔵。そして、上方の大名跡を四代目として継ぐ中村鴈治郎が市松小僧又吉を演じる。映像でも活躍する中村芝翫が同心永井与五郎、先日人間国宝認定となった片岡秀太郎のおかねも揃い、演出は、人情の機微を細やかに描く大場正昭が担う。
主演を勤める中村時蔵は本作品について、「(初演)当時は拝見していませんが、同じ池波先生の作品で、(尾上)菊五郎さんが『出刃打ちお玉』をされた時には、私も出演していました。池波先生には残念ながらお会いしたことはありませんが、その作品は、実に“男っぽい”ですよね。」とコメント。同じ池波正太郎による『鬼平犯科帳』は、彼の叔父にあたる萬屋錦之介が演じていたのをテレビでよく見ていたという。今回合わせて公開されたお千代ビジュアルについて、初演の七世尾上梅幸とは変化をつけた、とし、その意図について、「普段からあのような恰好をしている女性のイメージにしたくて、その後の市松小僧の又吉に惚れた後との差をつけようと思い、床山さん、衣裳ともよく相談して、普通の女の恰好にするよりも面白いかなと。」と述べた。また、「初演当時とは時代背景や、観にいらっしゃるお客様も違いますので、いまのお客様に納得して喜んでもらえるような作品にできればと思います。」と意気込みを語っている。