宮沢氷魚、渡辺謙と初共演する思いとは 壮大な歴史劇『ピサロ』で若きインカ王アタワルパ役に挑む
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宮沢氷魚
モデルとしてデビュー後、映像作品で次々と印象的なキャラクターを演じ、俳優としても注目度急上昇中の宮沢氷魚。2018年には『BOAT』で初舞台を踏み、同年の『豊饒の海』、2019年『CITY』と話題作への出演が続き、舞台俳優としても着々と貴重な経験を重ねている。
その宮沢が、新生PARCO劇場のオープニング・シリーズの記念すべき第1弾である『ピサロ』に出演することになった。彼が演じる若きインカ王アタワルパというのは、1985年に上演された際には今回ピサロ役に挑む渡辺謙が演じていた難役だ。渡辺謙と初共演すること、『ピサロ』という作品のこと、そしてアタワルパという役に対する想いを、宮沢が語ってくれた。
ーー『ピサロ』への出演のお話が来た時、まずどう思いましたか。
素直に、うれしかったです。何よりも新PARCO劇場のオープニング、それも1本目の作品に出演できるなんて、一生に一度のことじゃないですか。しかも『ピサロ』のアタワルパ役で、なんて。きっと、アタワルパを演じたい役者は山ほどいると思うんです。そういう、役者ならみんなが演じたいような役を自分が演じられるということに本当に驚きました。さらにピサロ役は渡辺謙さんですから。僕は『豊饒の海』で東出昌大さんと共演し、ドラマ「偽装不倫」で杏さんと共演し、という状況だったので不思議なご縁を感じました。でも、もちろんうれしい反面、一瞬クスっと笑っちゃいました。だって、まさか3人連続で謙さんファミリーと共演できるとは! 謙さんからは「いよいよ、本丸だね」と言われて、すごくプレッシャーを感じました(笑)。だけど謙さんと初めてお会いした時、なんだか全然初めての感じがしないというか。東出さん、杏さんと共演したからか、遠い親戚の方と会ったような気分でした。
宮沢氷魚
ーー台本を読んだ感想は、いかがでしたか。
まずボリュームがすごくて、手に持った瞬間に重い! と思いました(笑)。一体これ、何時間の舞台になるんだろうと思いました。それにしてもインカ帝国のことや、インカをスペインが征服したこととか、自分が知らないことが本当に多かったんですが、展開がとても面白いので一気に読んでしまいました。すごく面白い教科書を読んでいるような気もして、すぐに自分でもネットでピサロのこと、インカやアタワルパのことを調べました。もちろんこの作品はフィクションなんですけど、物語の中で起こることは歴史に沿っているので。
ーー史実と同じ出来事がたくさん起こりますよね。
本当に。でも、知らないことを学べるというのもとても楽しいことでしたし、その上もちろんストーリーとしても面白いですから。すべてのセリフに意味があり、存在感があり、洗練されていて。素晴らしい脚本だなと思いました。今から、稽古がとても楽しみです。
ーー王様を演じるという経験もなかなかないことでしょうし、プレッシャーも大きいのかなと思いましたが。
プレッシャーは、かなりあります。だって普通の王でもなく、太陽の息子とまで呼ばれている王なんですから。だから今回、どういう風に役づくりをしようかと悩んでいて。とりあえず今のプランとしては身体をもうちょっと大きくして、見映えから王様っぽくしていこうかなと。まだ稽古が始まるまで時間が少しあるので、徐々に鍛えてみたいと思います。だけどアタワルパは、ただ身体が大きいから王様に見えるような人間ではないので。内側から湧き出てくる自信とか包容力、絶対的な存在感を出さないといけない。身体だけではなく、気持ちからもどんどん作っていかないと。もちろんプレッシャーはありますが、そういう役に挑戦できるということに楽しさも感じています。
宮沢氷魚
ーー過去にアタワルパを演じた経験を持つ渡辺謙さんが、近くにいてくれるというのも。
とても心強いです。本当にわからないことがまだいっぱいあるので、そこは謙さんにも助けてもらえるだろうという気がしますし。ただ、映像で残ってはいるらしいんですけど、謙さんが演じたアタワルパはあえて見ないようにしようと思っていて。演出家も違いますし、キャストも謙さん以外はみんな違いますし。新しいPARCOにふさわしい、新しい『ピサロ』を作っていきたいので、僕と今回のキャスト、スタッフのみなさんとで新しいアタワルパを表現したいと思っています。
ーー演出のウィル・タケットさんとは今日が初対面だったんですか。
いえ、実は昨日、オーディションも兼ねたワークショップがあったんです。そのあとで本当に数分だけでしたけど、アタワルパをどういう風に作っていきますかという話ができました。見た目に関しては、僕が勝手にイメージしていたアタワルパは身体が大きく、肌は灼けていて黒髪の長髪という感じだったんですけど、ウィルは髪の色はこのままでいいんじゃないかと言っていました。衣裳も史実に合わせると布だけみたいなことになってしまうので、それよりはもうちょっとおしゃれにしてみたいと考えている様子でした。
ーー今、次から次へとどんどん仕事がやってきて、それが事なほどに面白そうな作品ばかりで。ジャンルもイメージも全然違うものばかりですしね。それらを経験することで、ひとつずつ新しいものが身に付いていっている感覚があるのではないですか?
そうですね。これはいろいろな方から言われるんですけど、「氷魚ってすごく恵まれているよね」って。出させていただく作品がみんな素晴らしいものばかりで、なかなかこんなにいい作品ばかりに立て続けに出会えることってないだろうから、そこは本当に恵まれているなと自分でも感じています。きっとそれぞれの作品から、何かがちゃんと身に付いているはずだとも思います。
宮沢氷魚
ーーたとえば渡辺謙さんはどういう俳優さんで、どんなところを学びたいと思われていますか。
すごく強い人なんだろうなというのは、ずっと以前から思っていました。もちろんハリウッドに行く前の作品はいくつも拝見していますし、海外に進出されてからも映像に舞台にと大活躍ですから。あくまで想像ですがきっと、いろいろと言われてきただろうと思うんです、日本人のくせにとか、日本人だからできないだろうとか。そういうことも全部乗り越えてきたからこそ今の謙さんがいらっしゃるんだろうし、その覚悟もものすごく強く伝わってきます。でもそういった部分は人から教わることのできないものでもあるので、そこは自分で見て、感じて、いつか僕もそうなれたらいいなと思っています。
ーーちなみに、最近までご一緒にお仕事されていた杏さんにはアタワルパをやるということは伝えたんですか。
実は僕、ドラマの撮影が終わった時に杏さんに伝えようと思っていたんですけど。その前に杏さんから「アタワルパ役、氷魚くんなの? すごくうれしい!」って連絡が来て。謙さんが『ピサロ』をやることは、だいぶ前から知っていたようで、誰がアタワルパをやるのか気になっていたらしいんです。それがまさか、共演相手だったということで、だいぶ驚かれたみたいです。
ーー先ほどの取材で、渡辺謙さんが「難題をふっかけてくるプロデューサーを大切にしたほうがいいよ、と宮沢くんにも言うつもりだ」とおっしゃっていましたが。
本当に、それは僕もそう思います。だって、アタワルパを僕にと選んでくださったことは、たぶんすごく大きな賭けだったろうなと思うんです。これは『豊饒の海』の時にも感じたんですけれど、飯沼勲というのはとても大事な役で、一番三島に近い人間だとも僕は思っていて。それなのに、まだ舞台経験の少なかった僕に賭けてくれたことにはすごく感謝しているんです。その上でこうしてまた今回もご一緒させてもらえるので、その期待にはしっかり応えなければ、と思っています。
ーーいい作品に巡り合うこと自体も、プレッシャーにはなりますか。
舞台はこれが4作目になりますが、毎回プレッシャーは感じます。だけど今回は、プレッシャーを感じながらも早く初日を迎えたいなという気持ちもすごく強くて。なんだろう、今までにない感覚なんです。
宮沢氷魚
ーー自信がついたからなんでしょうか。
そうなのかな、自信は、ほんのちょっとだけという気もしますけど(笑)。とにかく本当に素晴らしい脚本とキャストが揃っているので、今はこれが早く世に出てほしい、みなさんに早く届けたいという想いでいっぱいです。一見すると歴史的な、昔の話だととらえる方が多いかもしれませんが、人間の本質が描かれている物語だとも思うんです。文化の違う人たちが出会って、歩み寄るのか、距離を取ってしまうのか。それによって争いが起きたりするんですが、それって今も同じじゃないですか、戦争もなくならないわけですし。ある意味、人間の醜さとか器の小さいところもうまく表現していますし。そんな作品を2020年に改めて上演するということに関しても、すごく意味があることだなと思っています。
ーー特に、宮沢さんが気になっている場面はどこですか。
重いテーマの作品ではあるのですが、その中で僕が個人的に楽しみにしているのは、アタワルパとピサロが踊るシーンなんです。あそこの場面では、文化の違いとか位の違いをいったんなくして、友達みたいな感じで時間を過ごすことができるので。
ーー二人で笑いあって。面白いシーンにもなりそうですよね。
はい。ピサロとアタワルパの会話にも、愛がありますし。二人の心の距離が一番近づいた瞬間でもあると思うので、そこにもぜひ注目してみていただきたいです。
宮沢氷魚
スタイリスト/馬場順子
ヘアメイク/筒井智美(PSYCHE)
取材・文=田中里津子 撮影=iwa
公演情報
『ピサロ』(原題:The Royal Hunt of The Sun)
日程:2020年3月13日(金)~4月20日(月)
会場:PARCO劇場
作:ピーター・シェーファー
翻訳:伊丹十三
演出:ウィル・タケット
出演:渡辺謙 宮沢氷魚 他
企画・製作:パルコ
前売開始=2019年11月23日(土・祝)
お問合せ=パルコステージ 03-3477-5858(月~土 11:00~19:00/日・祝 11:00~15:00)
http://www.parco-play.com/
入場料金=13,000円(全席指定・税込)
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