舞台『はい!丸尾不動産です。』の通し稽古をSPICE独占取材、第2弾の鍵を握る三船美佳、吉本新喜劇・佐藤太一郎にインタビュー
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
兵動大樹、桂吉弥が主演を務め、11月30日(土)から12月2日(月)大阪・ABCホールで上演される舞台『はい!丸尾不動産です。〜本日、家に化けて出ます〜』。不動産営業マン・菅谷(兵動)が、林田(吉弥)らワケあり客たちの秘密に巻き込まれていくシリーズの第2弾だ。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
前作『本日、家をシェアします』から長期密着をおこなっているSPICEでは今回、通し稽古の模様を独占取材。出演者の三船美佳、佐藤太一郎(吉本新喜劇)のインタビューをまじえながら、本番目前で緊張感を帯びてきた稽古場の様子をレポートする。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
三船が演じるのは、林田の妻・早苗。義母・光子が突然亡くなってしまい、光子宅の土地売買をめぐって、菅谷とやりとりをする。そんな中、光子がなぜか女子高生姿でよみがえってくる。菅谷、息子・亮介(明石陸)だけがその姿が見えるため、早苗と二人の会話が噛み合わなくなっていく。
舞台作品への出演は15年ぶりとなる三船。刻々と初日が迫ってくる中、「怖さはないか」と尋ねると、「映画、ドラマ、バラエティ、どの現場でも常に怖さはあります。「慣れる」ということはないです。でも、いつもスタッフさん、共演者のみなさんのおかげでその怖さを乗り切ることができています」という答えがかえってきた。
三船美佳
三船:今回は特に、夫役の吉弥さんの存在が大きいです。普段も素敵な方なのですが、お芝居のときはさらに「こんなに頼りがいのある人はいない」というくらいなんです。吉弥さんとの掛け合いのとき、ふと目を見ると「大丈夫ですよ」と言ってくれているような感じがします。私にとって久しぶりの舞台出演なので、不安が大きい中で稽古をしていますが、引っ張っていただいています。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
三船が信頼を置く吉弥が演じる林田は、「老人福祉の救世主」と呼ばれて政界進出もささやかれている人物。人前では誠実で、しっかり者。しかし、年下女房の早苗にはデレデレで、意外な一面が見えてくる。
三船美佳
三船:林田さんは、早苗と二人きりになると甘えん坊になるんです。普段はすごくしっかりしているのに。そういうギャップが可愛くて仕方がない。私の母性本能もくすぐられて、思わずキュンキュンしちゃいます(笑)。ただ、本番ではそのシーンは、吉弥さんに背中を向けて芝居をしているので見ることができない。だからみなさんには、私の分まで見てほしいです。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
佐藤太一郎が扮する角田は、光子が生前懇意にしていた訪問販売員。だがその素性は、老人をターゲットにした詐欺師。吉本新喜劇でいつも、まさにモンスターのようなクセの強い役者たちと舞台を共にしている太一郎。その経験もあって、自信を持って本作にも挑めているという。
佐藤太一郎(吉本新喜劇)
佐藤:新喜劇での経験はすごく生きています。特に今回、兵動さん、吉弥さんがお相手なので、瞬時に対応していく点が多い。そういう部分で、新喜劇で培ったものが大きいです。僕は新喜劇に入る前から舞台もやっていたのですが、感覚的に、新喜劇やお笑いは短距離走みたいなところがあって、演劇は長距離走なんです。この『丸尾不動産』は、ちょうど真ん中の距離感。中距離走のような感じなんです。自分には、短距離、長距離の両方を経験している強みがあると思います。
幕があけてすぐ、林田が母親の死体を発見してしまう。複雑な感情がうずまく一見シリアスな場面なのだが、菅谷、そして角田の登場によって笑いへと転化していく。この流れは、通し稽古で見ていても「お見事」と思えた。兵動、吉弥、太一郎の3人のやりとりは、尺もじっくりと取られていて大きなポイントとなっている。
佐藤太一郎(吉本新喜劇)
佐藤:お客さんはそこで「あ、これはコメディとして楽しんでいいんだ」となるはず。作品として、一つの方向づけができていく。ただ「コメディだ」と気軽に見はじめたら、油断ができないような深いテーマへと引っ張られていく。ものすごく振り幅が大きな物語ですよね。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
前作でも主演をつとめているとはいえ、兵動はお笑い、吉弥は落語が主戦場。そして、若返って化けて出てくる光子役の清井咲希はメインがアイドル活動で、本格的な舞台は初挑戦。亮介役の明石陸も新人だ。そんな一座にあって、三船、佐藤は芝居経験も豊富であり、通し稽古を見ても、二人が作品の芯を担っているように感じた。
木村 淳(カンテレ)
演出家・木村淳からも、「太一郎さん、あの場面の台詞の言い回しはもっとミュージカル調で良いかもしれない。本番までに試してもらえませんか」「早苗が林田の甘えを受ける芝居なのですが、より彼の依存感を強調させる間合いを作ってほしい」「三船さんは、台詞の中で「そして」という接続詞をついつい多く使ってしまっている。でも、それだと意味合いが変わってしまうこともあるので、別の接続詞を使いませんか」など、三船、太一郎にはかなり多く、細かいリクエストがあった。その点からも今回の物語の鍵は、三船、太一郎が握っているのではないか。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
佐藤は、まさに自分の役回りを強く意識して、木村の演出を受けたり、兵動や吉弥に質問をしたりしている印象だった。
佐藤:兵動さんの笑わせどころに関しては、僕がいかに緊張感を作って、パスを出せるかだと思っています。林田を追い詰めるシーンもありますが、そこは真綿で首をしめていくような感覚で、僕も演じていて楽しいです。お客さんには、吉弥さんと同じような苦しみを味わっていただこうかと(笑)。いろんなキャラクターに絡んでいく役なので、僕自身、全員とのバランスをきっちりとっていこうと考えています。
三船美佳
一方の三船は今回の稽古を通して、「自分は舞台の芝居が好き」ということを実感したという。
三船:子どもの出産を経て、まず子育てを大切に考えながら仕事をしてきました。お芝居の仕事はどうしても時間の拘束が多いですし、なかなか取り組めなかったんです。だけど、子どもが来年、高校1年生になり、この舞台も「行ってきていいよ」と後押ししてくれたこともあって、お芝居に専念できる機会をいただきました。自分の中で、木村さんの演出も受けながら、演技を一から学び直している気持ちです。これからもタイミングをみながら様々な舞台に挑んでいきたいです。
今作で、キャラクター像がおもしろく変化していくのは、早苗と角田である。二人の変化にあわせて、物語もどんどん動いていく。三船と太一郎が本番までにどこまでキャラクターとして精度をあげていくか。そこを注視したい。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
取材・文=田辺ユウキ 撮影=田浦ボン