MASS OF THE FERMENTING DREGS × SuiseiNoboAz オルタナバンド2組による衝撃の120分1本勝負
MASS OF THE FERMENTING DREGS × SuiseiNoboAz 撮影=西槇太一
DESTROY THE UNIVERSE⇔宇宙ヲ破壊致シ候 2019.12.11 LIQUIDROOM
とんでもないものを見てしまった。12月11日、恵比寿リキッドルーム、MASS OF THE FERMENTING DREGSとSuiseiNoboAzによる共催ライブ『DESTROY THE UNIVERSE⇔宇宙ヲ破壊致シ候』。オルタナティヴと呼ばれるエッジィなロックの血脈を継ぐ二つのバンドが、極限まで高めあいしのぎを削る、一瞬たりとも爆音と興奮が途切れない驚異の120分。フロアは満員とまではいかなかったが関係ない。この日ここに来ることを選んだあなたは素晴らしい。
SuiseiNoboAz 撮影=西槇太一
「今日は二度と来ない特別な夜だから、最後まで楽しくやろう」
石原正晴(Vo/Gt)がサンプラーのボタンを押し、尖ったブレイクビーツに乗せておもむろにラップを始める。先攻はSuiseiNoboAz。張り詰めた緊張感のもと、淡々としたループの中に破壊への衝動を忍ばせる「liquid rainbow」から、一気にアクセルを踏み猛烈疾走エイトビートの「ultra」、さらにパワフルな演奏力と変態的な技巧の高さを遺憾なく発揮するマスロック・チューン「GAKIAMI」へ。ストイックな修行のように楽器と格闘するメンバーと、ドスの効いたシャウトを響かせる石原。凄いという言葉しか浮かんでこない。3曲一気にやり切って、フィードバック・ノイズが消えないうちにマスドレを呼び込む。転換はゼロ秒。なるほど、今日はこれで行くのか。
SuiseiNoboAz 撮影=西槇太一
MASS OF THE FERMENTING DREGS 撮影=西槇太一
「ここから異空間になっていくと思うんで。ついてきてください」
笑顔満面の宮本菜津子(Vo/Ba)が叫ぶ。ボアズがストイックで鋭角的なら、マスドレは自由形で開放的だ。爽快きわまる「あさひなぐ」でぶっ飛ばし、お祭りビートの「かくいうもの」で景気をつけ、メーターがレッド・ゾーンに飛び込む超高速ラウド・チューン「She is inside,He is outside」へ。3人でも音圧でボアズに負けない、小倉直也(Gt/Vo)と吉野功(Dr/Cho)もいつも以上に気合が入っているように見える。菜津子がフロアに手拍子を求め、嬉しそうにガッツポーズを決めてる。いいぞいいぞ。
MASS OF THE FERMENTING DREGS 撮影=西槇太一
SuiseiNoboAz 撮影=西槇太一
プロレスのようにタッチを交わしてメンバーが入れ替わり、再びSuiseiNoboAz登場。曲は、アッケラカンと明るいテクノ・ポップがかえって不気味な「HELL」。石原がにこやかにオーディエンスに手拍子を求めたのは、菜津子に感化されたのかも。ヤノアリト(Dr)の重い杭打ちビートがフロアを揺るがす「SHORES」も良かったが、その次がさらに凄かった。「このツアー中に生まれた新曲をやります。友情の歌です」と紹介された新曲「3020」。ふつふつと高揚するミドル・テンポのビートに乗せ、歌うように語るように、鮮やかな言葉のつぶてを投げつける詩人・石原。3020年までずっと友達でいよう――。こんなスケールのでかい友情の歌は初めて聴いた。すでに名曲確定、アンセム必至。
SuiseiNoboAz 撮影=西槇太一
MASS OF THE FERMENTING DREGS 撮影=西槇太一
どんどん行こう。マスドレの楽曲の中でも特にスウィートなメロディが胸に染みる「Sugar」から、ぐっとスピード・アップして「New Order」と「ひきずるビート」。吉野のドラムはつい「タイコ」と呼びたくなる情熱的な味わいで、ディレイをかけた小倉のカッティングには、なぜか「ロマンチック」という言葉が浮かぶ。そしてピュアそのものの菜津子の歌声。マスドレの音には色気がある。
MASS OF THE FERMENTING DREGS 撮影=西槇太一
SuiseiNoboAz 撮影=西槇太一
3度目の登場で、その度に凄くなるSuiseiNoboAz。プログレ者は思わずニヤリ、イエスのベースラインを組み込んだ「T.D.B.B.PIRATES LANGUAGE」から、「shoegazer」「SUPER BLOOM」と、マスロック、シューゲイ系のラウド・チューン三連発で波に乗る。コーノタケ(Ba)のベースは音の領域を超えて風圧になり、高野京介(Gt)のギターはカオスのハレーションと化す。それでいて、曲調はなぜか明るい。ライトも明るい。笑えてくるほどかっこいい。
SuiseiNoboAz 撮影=西槇太一
MASS OF THE FERMENTING DREGS 撮影=西槇太一
マスドレの歌い手は菜津子だけじゃないぜ。小倉が歌えるギタリストであることを堂々と証明するパワーポップ・チューン「HuHuHu」の、二人のハーモニーは最高だ。ちなみに吉野も歌えるドラマーなので、マスドレの曲はコーラスにも注目しよう。「我々も新曲持ってきました!」と言って披露した「うたを歌えば」も、菜津子と小倉のハーモニーがばっちりハマったシューゲイズ系のロックンロール。ステージから放たれる強力な電圧で感電しそうだ。
MASS OF THE FERMENTING DREGS 撮影=西槇太一
SuiseiNoboAz 撮影=西槇太一
マスドレ2曲、SuiseiNoboAz2曲。交代の速度がぐんと上がってきたのは、そろそろライブが終盤だから。SuiseiNoboAz「elephant you」は、どことなくノスタルジックなメロディと重いビート、猛烈ラウドな間奏の楽器バトルが聴きもの。規則正しくストイックなヤノアリトは、真っ赤に焼けた鉄を打つ職人のようで、恐ろしくテクニカルな指さばきを高速でやってのけるコーノタケは、まな板の上の何かをひたすら切り続ける料理人のよう。見とれているうちに、「SuiseiNoboAzでした。ありがとう!」と石原が叫ぶ。しまった、もうラストだった。「PIKA」はオルタナ・ロックを絵に描いたようなストレートなラウド・チューンで、胸のすくようなサビの解放感が凄い。ハイトーンなのにドスの効いた、脳天に響く石原の歌声は最後まで衰えないどころか最後が一番いい。狂おしいノイズのカオスの中でマスドレ登場。さあ、いよいよフィナーレだ。
MASS OF THE FERMENTING DREGS 撮影=西槇太一
出てきたときからガッツポーズで嬉しそうな菜津子。ノリノリダンス・チューン「スローモーションリプレイ」から、キレキレエイトビート「ワールド イズ ユアーズ」へ。3人コーラスが本当に美しい。「ベアーズ」のイントロ、菜津子が鳴らしてた小さなパーカッションは何て言うんだろう。そいつをフロアに投げ込んで、カオティックな変拍子インストに突入し、ついでに菜津子はフロアにも突入して、狂喜乱舞のオーディエンスの向こう側で見えなくなってる。なんて平和的なカオスだろう。ラストはドラム台から飛び降りてのエンディング、湧き上がる拍手、歓声、ガッツポーズ、ピースサイン。2バンドが途切れさせずに繋いだオルタナ・ロックのバトンは、かくしてオーディエンスに渡された。
MASS OF THE FERMENTING DREGS × SuiseiNoboAz 撮影=西槇太一
石原が小倉をおんぶして出てきた、和気あいあいのアンコール。「(4日前の)ファンダンゴでマスドレ見てて、目頭熱くなった。家族みたいだなと思った」――しみじみつぶやく、石原の言葉に嘘はない。ラストを飾るのは7人総出の爆音祭り、まずはマスドレの「ハイライト」から。トリプル・ギターのド迫力はもはや“聴く”とは言えない、“浴びる”だ。そしてSuiseiNoboAz「E.O.W.」では、度を越した爆音の前で人は笑顔になるしかないことを学んだ。石原と菜津子のダブル・ボーカルは、全然違うのにしっかり寄り添う。フィードバックの海の中、石原がエフェクターを高々と掲げ、コードをブチッ!と引き抜いてジ・エンド。
山形、仙台、大阪、東京と続いた『DESTROY THE UNIVERSE⇔宇宙ヲ破壊致シ候』の、ここがファイナル。山形ではskillkillsが、大阪ではKING BROTHERSが参加してツアーを盛り上げてくれた。ここまで尖って、カオスで、詩的で、爽快で、2バンドが完璧に釣り合ったライブは近年稀に見る。来て良かった。思わずTシャツを買ってしまった。またいつかやってくれないか。
取材・文=宮本英夫 撮影=西槇太一