PAELLAS 『the last show』に見た4人の揺るぎない自信と誇り
PAELLAS
PAELLAS『the last show』
2019.12.13 渋谷WWW X
PAELLASのツイッターに【PAELLASよりご報告です】というツイートがあがったのは9月26日のことだった。「2019年12月13日(金) 渋谷WWW Xにてワンマンライブを行います。そしてこのライブを最後にPAELLASは解散する事になりました。(後略)」。そう書いてあった。
それからPAELLASは告知済みだった東京でのイベント2本に出演し、12月9日に台北、11日に上海でも最後のワンマンライブを行なった。PAELLASはアジア各国でも熱い支持を得ていたのだ。
そして迎えた12月13日。渋谷WWW Xにおける正真正銘の『the last show』。もちろんSOLD OUT。これまでのどこかのタイミングでPAELLASの音楽と出会った人たちがそれぞれの思いを抱いて会場に集まっていた。
ある時期の彼らのライブがそうだったように、アルバム『Pressure』の「intro」で開幕。演奏する3人に続いてボーカルのMATTONが登場し、観客に軽く手を振った。オープナーは結果的に最後の作品となってしまった2019年のアルバム『sequential souls』の1曲目「in your eyes」。新たな始まりを感じさせたあの作品がまさか最後になるとはあのとき思ってもみなかった。<限りあること 感じたくなくて>。<巻き戻せたらいいことなんて 山ほどにある>。その歌詞のフレーズにどうしたって意味を感じてしまうが、とにかくこの曲で『the last show』を始めるのがPAELLASらしいなとも思ったのだった。
初のワンマンとなった2018年3月24日の渋谷WWW Xは、吊るされたフラワーボール(花のオブジェ)がライトの当たり方によって異なる色合いを見せていたが、メンバーが照らされることはほとんどなかった。『sequential souls』リリースツアーとして行われた2019年7月6日のリキッドルームの始まりは真っ暗闇で、やがてグリーン・ライトのなかにメンバーが影のように浮かび上がり、そのあともライトの色の変化が観る者たちのイマジネーションをかきたてる重要な役割を果たしていた。自分が観た2度のワンマンはどちらもメンバーたちの表情が明るく照らされることがなかったのだ。が、それに対して今回は、初めからそこまで真っ暗というわけではなく、ライブにおける通常の光量でメンバーたちの演奏姿を観ることができた。終盤などは照明が長い時間メンバーに当たっていたりもして、かなりはっきりとそれぞれの表情を確認することができた。確かに4人がここに存在している。存在していた。そのことを印象付ける照明の塩梅だったように思う。
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序盤は『sequential souls』から続けて3曲、『D.R.E.A.M.』(2017年)から続けて2曲。そこからは『Remember』(2016年)や『Yours』(2018年)の曲も挿みながら演奏されていった。Ananのギターのカッティングが小気味いい「Fever」は後半でグッと熱を帯びた。久しぶりにアルバムバージョンで演奏された「Fire」では後方の照明がまさに火のようで、MATTONの歌もまた揺らぐ炎のようだった。そしてライブ前半の区切りとして、11曲目でインストゥルメンタルの「airplane」を。Ananのギターは静かに広がる水面波のようだが、曲のなかでそれがブルージーな展開を見せもする。この曲のギターソロはPAELLASのライブにおける聴きどころのひとつでもあった。
「airplane」のあと、改めて「こんばんは」と挨拶するMATTON。静まり返っている観客に対して「もうちょっと元気だして」と言い、「みなさんご存じの通り、今日が最後です」と続けると、前のほうの観客から「嫌だ」の声がとんだ。MATTONが話し出す。
「ここにいるほとんどの人が、PAELLASを観るのは1回目ではなく、2回目、3回目……。10回目20回目30回目の人もいるかと思います。どこで出会ったんやろなって考えていて。下北のライブハウスでやってた頃とかは普通にお客さんが3人とか4人しかおらんくて。あと僕にとっての思い出として大きいのは、『Pressure』ってアルバムを出したときのツアーファイナルをclubasiaでやったときにnever young beachがヤシの木フラミンゴって名前でシークレットで出てくれて、そのとき初めて数百人のお客さんの前でライブができて、すごくいろんなことを実感したというのが残ってます。それから、めっちゃ前に遡ると、2014年の8月14日かな、バローっていうもうなくなっちゃったライブハウスでまだnever young beachと名乗る前のnever young beachとYOUR ROMANCEってバンドに出てもらったんですけど、その二組がよすぎて、めちゃめちゃ打ちのめされたこととか思い出に残ってますね。あとは代官山のTSUTAYAでインストアライブしたときに来てくれた人が、そのあともずーっと観に来てくれたりとか。『SWEET LOVE SHOWER』の湖のステージで出会った人も多いかなと思います。あと、初めて僕たちがワンマンをやったのがここWWW Xなので。そうやっていろんなところで出会った人たちが今日またここに来てくれてるんやなと思って……。愛してくれてありがとうございます」
「今日は、できる曲は全部やるんで。みなさんの思い出がある曲、ひとつひとつ噛みしめて、焼き付けて帰ってください。では後半いきます。ありがとう」
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そして「Pears」から後半戦がスタート。PAELLASなりのこのブギーファンクでカラダを揺らしながら、アッパーな気分になるでもなくこんなふうに平熱のまま音にノって揺れるのも今夜が最後なんだなと、このときふと思った。いつだってPAELLASの音楽はひとりで聴くものであり、PAELLASのライブはひとりで観たいもの、ひとりで観るべきものだった。メンバーもそういう意識で音楽をやっているとインタビューで話していた。そこにいるひとりひとりがそれぞれの思いで、それぞれの楽しみ方で、そこで鳴っている音を聴き、そうしながら何かを感じたり何かを考えたりする。そういうライブを彼らはやっていた。みんなでノる、みんなが一体になる、みたいなこととは真逆の価値基準で成り立っているライブ。自分なりの思いで曲に没入できるライブ。それが心地よかったし、恐らく彼らのライブに何度となく足を運んだ人の多くがそうだったと思う。笑顔で楽しまなくてもよく、前を見なくてもよく、俯いたままカラダを揺らしていてもいいのが、よかった。それでいいんだよ、だってそもそも人はひとりなんだから、というのがPAELLASのライブのよさだった。だから会場内は大抵ずいぶんと静かだったが、それは醒めているのではなく、自身の内側に彼らの表現が深く届いているのを実感しているからいちいちそれを声にして出すのは違う……ということだった。その証拠に1曲終わるごとの拍手はいつもとても大きかった。演奏者も観ている自分たちも、熱は外に出すものじゃなく内側で感じるものだった。
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それでも「最後の「Echo」です。盛り上がりましょう」とMATTONが言ってその曲が始まったとき、一体感というのとは違うけれども、会場にいるみんながたぶん同じことを思い、自分を含むみんなの内側の熱が一斉に少し外に出たのを感じた。そう、これを聴くのはこの夜が最後なのだ。シングルになった「Echo」はそんな思いを受け止めたうえで、それを軽やかに、かつ前向きに変換させる力があった。「最後の「Shooting Star」です。盛り上がりましょう」と、あえて同じ紹介の仕方をして続けたダンサブルな「Shooting Star」もまたそういう効力を発揮した。さらに「Miami Vice」が続いた。bisshiのベースとRyosukeのドラムの切れ味が際だっていた。そして「Pray For Nothing」におけるMATTONのボーカルはまさしく祈りのようでもあった。いつもそれを感じさせる曲だが、いつも以上に強くそう感じたのは、やはり最後だという思いがこもっていたからだろう。
「mellow yellow」で少しクールダウンさせ、「あと2曲です」とMATTON。「え~~っ」と、それを受け入れたくない観客から声があがる。そして本編最後の2曲「Weight」と「Over the night」を続けて演奏。この2曲がたまらなく胸に沁みた。屈指の大名曲と言いたいソウルバラード「Weight」(筆者が最も愛した曲だ)の途中、MATTONの歌声が少しだけ震えているように感じられた。「Over The Night」の初めのほうでは少し歌が揺れた。ここ2年くらいの間に自分が観たPAELLASのライブでそういうことは一度もなく、MATTONの歌はテクニカルな意味でも感情コントロールの意味でもいつも完璧に思えていたのだが、この日のここだけは違った。泣いているようだった。自分のそばで観ていた女性が手で涙をぬぐった。「けれども 願いや 思い出みたいのを ひとつふたつ重ね時を進めてく」と歌われるのを聴きながら、自分の目頭も熱くなっていた。二度とない時間。かけがえのない時間。いまここでこうしてこの歌を聴きながらこみあげるものを感じているこの瞬間のことを忘れたくないと思った。「バイバイ、ありがとう」とMATTONが言い、メンバーが一度ステージから去った。
アンコール。まずMATTONがひとりでステージに。“ここまで”を振り返りながら話し始めた。
「上京して、年が明けたら6年目かな。時が経ちましたねえ。その前は大阪でbisshiとふたりで1年ちょっとか2年やって……Ananくんもいたんですけど留学で途中消えちゃうんで。で、戻ってから東京に来て」
「今日は本当に、来てくれたみんなのためにやろうと思ったので。もちろん関係者の方々……いままでのレーベルの人たち、制作の人、地方行ったときにサポートしてくれる人、カメラ、映像、音響、照明さん、そういう人のおかげで……なんて言ったらいいんだろな、ここまで来れましたっていうのもおかしいけど、でもほんとにそういう人たちの力があったから、解散するっていうときにこれだけの人が集まってくれるバンドになれたと思ってます。ほんとにありがとうございます。あと、僕がね、楽器も弾けない僕のような人間がミュージシャンと名乗れているのは、本当にメンバーのおかげなんで。いろんな感情がありますけど、それだけは忘れてないですし、感謝してます。いないけど(笑)」
そんなタイミングで、Anan、bisshi、Ryosukeがステージに。そしてそれぞれがそれぞれなりにバンドの歴史を振り返りつつ、思いをぽつぽつと話しだした。Ananがmixiでメンバー募集を見て連絡をとり大阪・難波のタワレコで初めてMATTONと会ったときのこと、上京した当時のこと、これまで何人もがバンドに入っては辞めていったこと。そんななかでAnanがこう言った。
「ストイックなバンドだったんですよ、僕らは。ストイックすぎましたね。ギリギリで僕ら、やってきまして。それでこうやって解散まで突っ走ってしまったんですけど……」
「まあ、まだこれからみんな音楽を続けていくと思うので、僕らそれぞれの活動を見守ってくれたら嬉しいですね。誰も音楽はやめないと思うんで。みんな音楽が好きでやってるんで。好きだからこそ解散って形なんですけど。うん。そんな感じです」
その言葉をMATTONが引き取って言う。
「ほんまにみんなのおかげですよ。ここにいる人もいない人も含めて、みんながいたからこそ。みんながいなかったら、このバンド、とっくに終わってたと思うので。だからほんまに感謝してます。人生は続くので。音楽やるんで。そこに会いに来てください。今日はどうもありがとうございました」
そして「最後6曲やって終わりましょう」と言い、「Take Baby Steps」から「Anna」まで2016年作『Pressure』からの曲を中心に演奏。それは初期からのファンに対する感謝の気持ちの表れでもあり、同時に自分たちにとっての重要な時期をひとつひとつ思い出すためのものでもあったかもしれない。
最後に演奏されることがこれまでも多かった「Anna」で、寂しさや悲しみの感情は不思議なことにあまりなかった。Ananとbisshiは笑顔を浮かべて演奏していた。Ananは振り返ってRyosukeに笑いかけているようでもあった。やりきったことの充足感なのかなんなのか、それを自分が代弁するのも野暮な気がするのでやめておくが、とにかく『the last show』での演奏はそのようにして終わった。MATTONも笑顔になり、曲が終わると手を挙げて「またどこかで会いましょう。PAELLASでした。バイバイ!」と言った。
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全26曲。約3時間。心と熱のこもった素晴らしいライブだった。クオリティとして彼らの頂上を感じさせた。1曲1曲と一対一で向き合うことができた。そして楽曲そのものとアンサンブルに対する4人の揺るぎない自信と、何より誇りを感じた。
「ギリギリのバランスで成り立っているバンドだった」「ストイックすぎた」。それが解散の一因だとAnanは言っていたが、だからこそあれほどまでに洗練されて完成されてもいた楽曲群を残すことができたのだし、ライブにおいては録音ブツとまた異なる高い熱量を持った演奏を聴かせることができたのだ。音楽は残るし、人生は続く。ハッキリと、完全に前向きな気持ちとして、いまそう思う。
ライブの翌日、PAELLASのツイッターには、最後に観客たちと一緒に撮った記念写真と共にこんな言葉があがっていた。
笑顔でお別れしましょう。
みんなありがとね。
メンバー4人も観客たちも、みんなとてもいい表情だった。
文=内本順一
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