務川 慧悟(ピアノ)インタビュー~仏ロン=ティボー=クレスパン国際音楽コンクールの熱狂を聴かせる春のソロ・リサイタル

2019.12.31
インタビュー
クラシック

務川 慧悟

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2019年11月、若手音楽家の登竜門として知られているロン=ティボー=クレスパン国際コンクール ピアノ部門が行われた。ファイナルでは6名のピアニストが、パリのラジオ・フランスでフランス国立管弦楽団と共演した。そこで、サン=サーンス作曲 ピアノ協奏曲 第5番「エジプト風」を演奏し、見事、第2位に輝いたのが、パリ国立高等音楽院に留学中の務川 慧悟(むかわ・けいご)。パリの聴衆を魅了した演奏の興奮が冷めやらぬ中、2020年4月9日(木)ソロ・リサイタル浜離宮朝日ホール(東京)で開催される。務川は、東京藝術大学1年次在学時に第81回日本音楽コンクール第1位に輝き、その後も内外のコンクールで華々しく活躍、2014年からはパリ国立高等音楽院に在籍している。その務川に、パリでの学びやロン=ティボー=クレスパン国際コンクールでの経験、そして、今回のリサイタルに寄せる想いを語ってもらった。

ロン=ティボー=クレスパン国際コンクールを振り返って

――ロン=ティボー=クレスパン国際コンクール第2位、おめでとうございます。コンクールから、まだ1か月しか経っていませんが、改めて振り返ってみていかがでしょうか。

1か月以上にわたって、全てをコンクールに向けて集中してきましたので、コンクールが終わってしばらくの間は、燃え尽き症候群でした。でも、今は、すごく元気になってきました。有難いことに、フランス国内で演奏する機会を多く頂き、やる気が溢れてきました。

務川 慧悟

――様々なコンクールに参加されてきたと思いますが、他と比べて、ロン=ティボー=クレスパン国際コンクールはどうでしたか。

パリに留学しているので、そこで行われるコンクールには特別な思い入れがありました。ロン=ティボー=クレスパン国際コンクールは約1週間のなかで4ラウンドとタイトスケジュールであり、体力的にも精神的にも大変でした。コンクールでは、緊張と喜び、両極端のことが同時に起こりますので、各ラウンドが終わってロビーに出た時に、聴衆のフランス人からフレンドリーに温かい声をかけて頂いたことが心強かったですね。

――務川さんにとって“コンクール”というものはどのようなものなのでしょうか。

やはりコンクールだと、「良い演奏をしたい」という想いが強くなります。勿論、演奏会でもそういう気持ちはありますが、コンクールでは格段に強くなります。演奏の1分前まで悩み、自分と極限まで向き合うのがコンクールです。順位が出てしまうので、精神的なプレッシャーもあります。演奏会はすごく好きなのですが、コンクールは苦手。だからこそ、覚悟をもってコンクールには出ています。

凱旋リサイタルに向けて

―― 4月のリサイタルは、ちょうど誕生日に行われると聞きました。

ええ。狙ったわけじゃないんですが、偶然にも27歳の誕生日に行うことになりました。東京で行うリサイタルとしては、これまでのなかでも一番大きなものです。今回は、一度、はまったことのある作品を並べました。高校生のときのショパン、パリに行く直前のラフマニノフなど。自分にとってお気に入りの作品ばかりです。

務川 慧悟

――リサイタルの最初は、ヘンデルの「シャコンヌ ト長調 HWV435」ですね。

「シャコンヌ」は、東京藝大にいたころに良く弾いていた一曲。当時は、チェンバロのことはよく知りませんでしたが、フランスに来てから独学で研究し、バロックに対する見方が変わってきました。そういった視点で弾きたいというのと、この曲が「晴れた日のいい朝」みたいな良い雰囲気をもっているのでオープニングを飾りたいという思いもありました。

続く作品は、ラヴェルの「高雅で感傷的なワルツ」。前の「シャコンヌ」がト長調の和音で終わって、この曲がト長調を基音に始まるというところに、こだわりがあります。また、ラヴェルがバロックや古典に魅せられていたという特徴も感じられ、そういう繋がりから、フランス音楽へと繋げていければと思いました。ラヴェルの作品は、自信をもって、自分のライフワークと言えるものです。

――その後、現代曲が2曲続きますね。聴きどころを教えて下さい。

デュサパン「エチュード 第6番」と、ブレーズの「アンシーズ」です。デュサパンの曲は、ブレーズの「アンシーズ」とも雰囲気が合い、音響の効果が面白いですね。「アンシーズ」は、コンクールでも弾いた曲でリサイタルに入れたいと思っていました。2001年に書かれた作品で、この時代のピアノ作品としては、間違いなく最高傑作の一つに数えられると思います。

務川 慧悟

――コンサート後半は、どのような曲が散りばめられているのでしょうか。

前半のフランス音楽を受け、後半では、ショパンがパリを訪れて直ぐに書いた「ボレロ ハ長調 Op.19」と「バラード 第1番 ト短調 Op.23」を選びました。ショパンは高校生のころからずっと好きでした。そして、ショスタコーヴィチの「24の前奏曲とフーガ」より第15番 変ニ長調。非常に短い作品ですが、インパクトのある一曲です。最後には、ラフマニノフ「コレルリの主題による変奏曲 ニ短調 Op.42」をもってきました。この作品は、曲を通して大きなクレッシェンドを描きますが、最終変奏で崩れ落ちて、無になって終わる。自分の性格にも合う曲だと思います。

――演奏会で大事にしていることは、何でしょうか。

演奏会でしか分からないことがあると思っています。一つの作品を十回弾けば、ある程度は安定した演奏はできます。しかし、どんなに練習しても本番の舞台でしか気づかないことがあります。練習で決めたことをしっかりとやるというのと逆で、本番では、その時に感じたことを捉えることを目指して臨んでいます。自分の人生において、最も幸せな瞬間の一つは舞台上で起こる。そう考えて、演奏家になりました。演奏する側として、そのことが伝わって欲しいと願っています。

パリでの日常

――この秋から、古楽科(フォルテ ピアノ科)に在籍されているそうですね。

パリに来て3年目くらいの時に、古楽科のフォルテピアノの授業を副科として選択しました。そこで、出会ったパトリック・コーエン先生がきっかけです。古楽って、変わった人が多いんですけれど、その典型のような人(笑)。携帯電話、パソコン、固定電話をもたず、文通しか連絡する術がない!パリから3、4時間かかる森の中の一軒家にお住まいで、毎朝、裸足で森の中を歩くんです。パリで5年間師事したフランク・ブラレイ先生は、細部の表情など、具体的なアドバイスを下さいます。一方、コーエン先生の指示は、踊ってみたり、叫んでみたり、哲学的であったり…。コーエン先生の魅力的な人柄に惹かれて、古い楽器にも興味を抱きました。

務川 慧悟

――パリ音楽院に留学されて6年目ですね。音楽以外でパリを訪れて変わったことはありますか。

パリでは、自分自身について考える時間をもつようになりました。日本にいた時には人と会ったりする時間がありましたが、パリで一人になり、考える時間が増えたんです。日に一回ぐらいは、散歩をするという習慣もできました。家の近くにも森があり、徒歩で行ける距離にいくつも公園がありますので。

――今後、挑戦していきたいことはありますか。

これを機に、ヨーロッパでの繋がりをもっと増やしていきたいですね。2020年は、様々な音楽フェスティバルにも呼んで頂いています。田舎町の教会で演奏したりすることは、音楽家じゃないとできない経験です。そういったことを続けていきたいと思っています。また、将来的にはフランス人演奏家と日本で一緒に演奏していきたいとも思っています。ラヴェルを始めとしたフランスの歌曲を、歌手と一緒にやってみたら凄く良いのではないかと期待しています。

――最後に、リサイタルを楽しみにしているファンの方に向けて、一言をお願いします。

今回のプログラムは、意気込んで作りました。この10年位の間で、自分がはまってきたものを、欲張って並べており、曲目は多岐にわたっています。今だからこその選曲です。ちょっと冒険ではありますが、それを、是非、聞いていただけたらなあと思っています。

務川 慧悟

取材・文=大野 はな恵  撮影=鈴木 久美子

公演情報

務川 慧悟 ピアノ・リサイタル
 
日時:2020年4月9日(木) 19:00開演
会場:浜離宮朝日ホール
料金:3,000円(全指定席・税込)
一般発売:2019年12月25日(水)
 
演奏予定曲目:
ヘンデル:シャコンヌ ト長調 HWV435
ラヴェル:高雅で感傷的なワルツ
デュサパン:エチュード 第6番
ブーレーズ:アンシーズ(2001年版)
ショパン:ボレロ ハ長調 Op.19
ショパン:バラード 第1番 ト短調 Op.23
ショスタコーヴィチ:24の前奏曲とフーガより 第15番 変ニ長調
ラフマニノフ:コレルリの主題による変奏曲 ニ短調 Op.42
※曲目・曲順はやむをえない事情により変更になる場合がございます。予めご了承ください。
   
主催:NEXUS

問合せ:mukawakeigo-info@eplus.co.jp
 
【務川 慧悟オフィシャルHP】 http://keigomukawa.com
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