高橋一生「極悪人、楽しいですね」 “絢爛豪華 祝祭音楽劇”『天保十二年のシェイクスピア』がいよいよ開幕へ

2020.2.8
レポート
舞台

『天保十二年のシェイクスピア』の舞台写真 (オフィシャル提供)

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天保十二年の下総国を舞台にした任侠時代劇に、『ロミオとジュリエット』や『リチャード三世』をはじめとするシェイクスピアの戯曲全37作のエピソードを巧みに盛り込んだ、絢爛豪華 祝祭音楽劇『天保十二年のシェイクスピア』が2020年2月8日(土)から東京・日生劇場、3月5日(木)から大阪・梅田芸術劇場メインホールにて開幕する。初日の前日に行われた、演出の藤田俊太郎、主演の高橋一生浦井健治による囲み取材と、ゲネプロ(総通し舞台稽古)の様子をお伝えする。

『天保十二年のシェイクスピア』の舞台写真 (オフィシャル提供)

シェクスピア四大悲劇として名高い『リア王』『マクベス』『オセロー』『ハムレット』、世界中で愛される永遠のラブストーリーである『ロミオ&ジュリエット』、野望に生きる異形の王の『リチャード三世』など、発表から約400年、世界中で上演され続け、現代演劇においても絶大な影響を与え続けているウィリアム・シェイクスピア全作を横糸に、江戸末期の人気講談『天保水滸伝』を縦糸として織り込んだ、井上ひさしの名作戯曲。1974年に初演され、2002年にいのうえひでのり演出、2005年に蜷川幸雄演出で上演されている。 

『天保十二年のシェイクスピア』の舞台写真 (オフィシャル提供)

最初に、あらすじを追ってみたい。
 
舞台となるのは、江戸の末期・天保年間、下総国の旅籠街・清滝村。
 
農民たちのリーダーである隊長(木場勝己)と農民たちが登場。隊長の口上を皮切りに、旅籠を仕切る老侠客・鰤の十兵衛(辻 萬長)と、長女のお文(樹里咲穂)、次女のお里(土井ケイト)、末娘のお光(唯月ふうか)らがそろい、誰に身代を引き継がせるのか、というところから物語は始まる。強欲なお文とお里は、父親におべっかを使う中、心優しいお光は、父を想うゆえに父の怒りを買ってしまい、家を追い出される羽目となる。そして、健気にも姉二人に対して、父への孝行をお願いするのだった。

『天保十二年のシェイクスピア』の舞台写真 (オフィシャル提供)

時は経ち天保十二年。お文とお里の姉妹は、お互いの夫を巻き込んで醜い争いに明け暮れていた。父親への孝行などするはずもなく、十兵衛は娘たちの家をたらい回しにされる。
  
そんな争いを傍で見ているのは、背は曲がり顔には火傷の跡が残る流れ者・佐渡の三世次(高橋一生)。三世次は偶然に出会った清滝の老婆(梅沢昌代)のお告げを受けて、清滝村を自分のものにしようと目論む。剣術は得意ではないが策略ならお手の物という三世次。紋太一家と花平一家という両家の醜い争いをうまく利用して、成り上がろうとする。そこに、お文の息子である、きじるしの王次(浦井健治)が父・紋太の殺害の報を受けて、父の無念を晴らすために村に帰ってきて...。

藤田俊太郎、高橋一生、浦井健治(左から)

次に囲み取材の様子をお伝えする

−−大変な注目作ですが、まずはこの作品の魅力について教えてください。

  
藤田俊太郎:『天保十二年のシェイクスピア』と、タイトルにありますけども、シェイクスピアの全作品と、『天保水滸伝』という侠客物の講談をもとにしてできた作品です。江戸時代のヤクザの世界で入り乱れる活劇、生と死、生きる活力と死の闇が入り乱れた作品になっています。その中で「佐渡の三世次」役の高橋一生さん、「きじるしの王次」役の浦井健治さんがもう縦横無尽に駆け抜けております。楽しくも、喜劇であり、悲劇である。そんな作品になっております。本当に楽しんでいただけたらと思います。

高橋一生

−−最近はテレビなど映像でご活躍されていて、久々の大きな舞台主演だと思うのですが、今回の役どころと見どころをお願いします。
 
高橋一生:僕は、佐渡の三世次という役をやらせていただいています。多くの人からすごく悪い人の役だと言われるんですけど、僕は一番筋が通っている人間じゃないかなと思っていて。当時、自分が最初から生まれながらにして持ってしまったものに対して、コンプレックスもきっとあるんでしょうけど、それを逆手にとって、こう生きていくしかないじゃないかという思い切りの良さと突き抜け方というのは、ある意味正しいことのように見えてきてしまっていて。
 
だから三世次をやらせてもらっていることは、すごく楽しいですね。舞台が久しぶりなので、稽古中は浦井さんはじめ、みなさんにずっと頭を下げっぱなしの状態でした。本当に慣れていなくてごめんなさい、みたいな状況が続きました(笑)。
 
−−やはり、映像のお仕事と生の舞台のお仕事は違うものですか?
  
高橋:お芝居の質感的には変えているつもりはないんですけど、例えば稽古をしていく段取りなどが映像とは違っている。それを分かっていたんですけど、あまりにも久しぶりすぎて、あんまりちょっと分かっていなくて、ポーッとした状態で進んでいくことが多かったので。みなさんの背中を見ながら勉強させていただいて、改めて“舞台の感じ”を経験させてもらった気がしますね。
 
−−今回は「極悪人」と称される役どころですが...
 
高橋:極悪人、楽しいですね~(笑)。いま、三世次をやっていて、ものすごいウキウキしているので、どのぐらい極悪度が増していけるのか。舞台は毎日のように連続して上演して、同じことをやれるので、その中でどれだけ面白い発見ができたり、お客さんがどう反応していくのか、リアルに応えていけたりすることができるので。そういったところも改めて噛み締めていきたいと思いますね。

浦井健治

−−では、浦井さんの役どころと見どころについて教えてください。
 
浦井健治:浦井は、きじるしの王次という役をやらせていただきます。蜷川さんの時(2005)には藤原竜也さん、劇団☆新感線さん(2002)では阿部サダヲさんが演じた役なんですけれども、(高橋が演じる)三世次と同じシーンがほぼないというのが寂しいと思って…
 
高橋:そうなんです!すごく共演を楽しみにしていたのに、フタを開けて見たらほとんどね...
 
藤田:
台本の構造上、二人が登場するシーンがないんですよね…
 
浦井:なので、稽古場で一生さんの佇まいや役に対するアプローチをいろいろ見学というか、出ていないので見ることがたくさんあったんですけど、三世次がすごく哀れで。極悪なんですけど、人間としてすごく悲しいというか。そういう風に見えてきて。この人はこの人なりの生き方があったんだな、死にたいんだなということを一生さんとも話をしていて。

井上ひさしさんがいろいろ書いている中で、人間味を醸し出すのが一生さんの凄みだなと思うんですね。それが自分には刺激になったので、(自身が演じる)きじるしの王次は生に渇望して、生き急いだ人だということを、ハムレットのようにやっていけたらなと。頑張ろうと思っています。

藤田俊太郎

−−高橋さんと浦井さんの共演も注目ポイントの一つだったと思うのですが、一切ないんですか…?
 
高橋:ぜひ見ていただいて…
 
藤田:
(割り込むように)と、思われがちなんですけど、演出的には見事に共演しています。台本上は共演しておりませんが、私の演出で、2人は見事に共演しております!
 
高橋:
よくわからないな…(笑)。
 
−−「藤田マジック」ですか(笑)。
 
藤田:マジックは、私ではなくて、俳優がかけてくれました(笑)。この芝居は、一生さんが演じている佐渡の三世次が見ている世界なんですよね、それが一つの大きい作品の要素なんです。だから佐渡の三世次は、きじるしの王次のシーンを見ている。だから台本上の(セリフの掛け合いといったような)共演はないんですけれども、舞台上ではすごく深く共演しております。そこは乞うご期待です。伝わりました?(笑)
 
高橋
:浦井くんは稽古場で稽古の席から僕を見てくださっていたんでしょうけど、僕は舞台上で本番中も浦井くんのことを見ている。そういう状況になっていると思います。セリフでの掛け合いみたいなものはないんですけど、ずっと浦井くんのお芝居を見させていただいている感じですね。本番中も。

高橋一生、浦井健治(左から)

−−去年の12月ぐらいから稽古を重ねて、いよいよ初日を迎えます。
 
藤田:そうですね、12月から一歩一歩駆け上がって、階段を1歩ずつ昇りながら、カンパニーみんなで稽古をしてきて。演出冥利につきると言ったら言い過ぎかもしれませんが、自信作です。
 
−−藤田さんからご覧になって、高橋さんと浦井さんはどのような演技をされるのでしょうか。
 
藤田:高橋一生さんに対して思うこと。お芝居は、劇場にお客様が入って、お客様と一緒に作って完成するものですから、ぜひお客様に楽しんでいただきたいんですけども、高橋一生さんをよく知っている方は、極悪人の一生さんに大いに裏切られてください。もし、お芝居というものをこの劇場で初めて見に来る方がいるとするならば、演劇・高橋一生さんを大いに楽しんでください。
 
浦井健治さんの芝居は極悪人の佐渡の三世次と相反して、とてもピュアで透き通っています。きじるしの王次、そしてこのお芝居の中で、誰よりも知的に命を全うします。その演劇の潔さをぜひ体感してください。
 
この二人のお芝居が僕は今までずっと演劇をやってきた人間として言うんですけれども、2020年の新しい芝居の形が作れたと思う。世界演劇の最前線に行くぞと思って、二人の芝居を見て、行ったと思いますね。
 
高橋・浦井:(驚いて、顔を見合わせる)

 
藤田:演出家冥利につきると思います。いま穏やかな気持ちでこの荒くれた作品の通し稽古を見ています。お二人の芝居をぜひ多くのお客様に楽しんでみていただきたいですね。

藤田俊太郎、高橋一生(左から)

高橋:...とにかくプレッシャーですね。世界演劇とか、そんなこと言われちゃったら(笑)。ドキドキですね。
 
浦井:
はい、ドキドキですね。諸先輩方、木場さんや番長さんたちに引っ張っていただいてやっているので、自分たちは緊張もきっとするんですよね。先輩たちの背中があまりにも大きいので。そういう時には、一生さんの楽屋に僕は入り浸って、二人でタピオカを飲みながら、仲良くやらせていただきたいと思います(笑)。
 
−−では、最後に意気込みをお願いします。
 
高橋:本当に多くの人たちに見ていただけたら嬉しいなと思います。俳優は舞台の上で別の人生を生きていくようなものなので、それを目撃しにきてもらえたらなと思います。 

『天保十二年のシェイクスピア』の舞台写真 (オフィシャル提供)

長年の演劇ファンの中には、2002年のいのうえひでのり版、2005年の蜷川幸雄版(そしてもしかしたら初演の出口典雄版も!)をご覧になっている方も多くいらっしゃるだろうし、いろいろと「比較」したくなる気持ちや楽しみも分かるが、まずは純粋な気持ちで、この藤田俊太郎演出の『天保十二年のシェイクスピア』を見てほしいと思う。華やかで、艶やかで、猥雑で、けれどもそこには「死」が常にある、そんな任侠ものの活劇として。
  
シェイクスピアについての知識に関しても多少なりともあった方がより深く楽しめるのは事実だろう。例えば、3人の娘が財産を分ける『リア王』、老婆の予言は『マクベス』、父を殺された若者が復讐を誓う『ハムレット』、「To be or not to be, that is the quesion」という翻訳の違い、「バッサーニオ!」と言う効果音のみの『ヴェニスの商人』(笑)など...これらはほんの一例で、挙げるとキリがないのだが、すべてを把握せずとも、物語にはしっかりとついていけるはず。あまり怖がらずに、藤田の演出、宮川彬良の音楽、そして高橋一生、浦井健治、唯月ふうか、それから梅沢昌代、辻萬長、木場勝己ら総勢26人の俳優たちが全力で作り出した『天保十二年のシェイクスピア』を面白がってみたい。
 
上演時間は約3時間35分(途中20分休憩あり)。 東京公演は2月29日まで、大阪公演は3月5日から3月10日まで。

『天保十二年のシェイクスピア』の舞台写真 (オフィシャル提供)

取材・文・囲み撮影=五月女菜穂

公演情報

絢爛豪華 祝祭音楽劇『天保十二年のシェイクスピア』
 
<東京公演>
■日程:2020年2月8日(土)~2月29日(土)
■会場:日生劇場

 
【2月28日(金)~29日(土) 東京公演中止】
現在日生劇場にて上演中の『天保十二年のシェイクスピア』(東宝株式会社主催)につきまして、新型コロナウイルス感染拡大防止の措置として、以下の公演を中止することになりました。 
 
<大阪公演>
■日程:2020年3月5日(木)~3月10日(火)
■会場:梅田芸術劇場メインホール
 
【3月5日(木)~3月10日(火)大阪公演中止】
2月26日に発表された新型コロナウイルス感染症対策本部での首相の要請に従い、感染拡大防止の観点から、梅田芸術劇場主催公演を中止とすることを決定いたしました。
公演を心待ちにしてくださっていた皆さまには、多大なるご迷惑をおかけいたしますこと、心よりお詫び申し上げます。
 
 
■作:井上ひさし
■音楽:宮川彬良
■演出:藤田俊太郎
 
■出演:高橋一生、浦井健治、唯月ふうか、辻 萬長、樹里咲穂、土井ケイト、阿部裕、玉置孝匡、章平、木内健人、熊谷彩春、梅沢昌代、木場勝己 ほか
 
※辻萬長の「辻」は一点しんにょうが正式表記。
 
作品HP https://www.tohostage.com/tempo/
  • イープラス
  • 藤田俊太郎
  • 高橋一生「極悪人、楽しいですね」 “絢爛豪華 祝祭音楽劇”『天保十二年のシェイクスピア』がいよいよ開幕へ