玉田真也・奈緒・山科圭太に聞く~玉田企画『今が、オールタイムベスト』再演に向けて
(左から)山科圭太、奈緒、玉田真也 (写真撮影:岩間辰徳)
2020年3月19日(木)から26日(木)まで、東京芸術劇場シアターイーストで、玉田企画『今が、オールタイムベスト』が上演される。玉田企画主宰の玉田真也は、自らの舞台を映画化した『あの日々の話』など、映像の分野でも活躍する俊英。今回の舞台は2017年にアトリエヘリコプターで上演された代表作の再演だが、キャストが3人入れ替わり、舞台美術も大きく変化するなど、初演からさらにアップデートされることが予想される。その内実を明らかにするため、稽古2日目に劇団主宰の玉田、NHKの朝ドラでも活躍した奈緒、初演から引き続いて出演する山科圭太の3人で座談会を行った。
――初演にも出ている山科さんはどうやって玉田さんと知り合ったんですか?
山科 4、5年前に水素74%っていう劇団の公演に僕が出て、それを玉ちゃんが見に来ていて。打ち上げでひと言だけ言葉を交わしたのを覚えてます。
玉田 その時、舞台でも打ち上げでも標準語だったよね。関西弁を封じていて、心を開いてなかったんですよ。
――ああ、山科さんは関西出身ですよね。
山科 上京してしばらく標準語で話していたんですけど、玉ちゃんの公演に出ることになって、関西弁のほうがいいって言われて。その人の持っているものもをそのまま使いたいから、ということで台詞も関西弁で書いてもらって。それから僕、関西弁で喋るようになったんです。
山科圭太
玉田 水素の役は標準語だったのもあって、ネイティヴじゃない言葉で喋っているから、標準語の台詞を扱いきれてなかったと思うんですよ。ちょっとカタいというか。居酒屋でもちょっとよそいきの感じでいて。でもしゃべっているの見ると、面白そうな人だなって出演をお願いしました。
――奈緒さんはこれまでテレビドラマなどの仕事が多かったですよね。
奈緒 そうです。去年イキウメの前川知大さんが演出した『終わりのない』っていう作品が初めての舞台です。でも、舞台をやりたいっていう気持ちはずっとあって、又吉直樹さんのエッセイが原作の『僕の好きな女の子』っていう映画を玉田さんが撮って、私も出ていて。その縁で今回出演することになりました。
奈緒
――玉田さんから見て、奈緒さんの俳優としての魅力や個性はどういうところでしょう?
玉田 奈緒さんはめちゃめちゃ柔らかい雰囲気がいいなって。『僕の好きな女の子』の奈緒さんの役が、男性を振り回わすタイプで。こんな柔らかい感じで振り回すの面白そうだな、今回の役に合いそうだなって思って。あと、頭がいいところですね。人のことをよく見ているし、その場に流れている空気を細かく見ている。で、その空気を察知してコミュニケーションをするので、普段しゃべってても頭いいなって思います。
演技って究極的にはコミュニケーションだと思っていて。普段人とやっているコミュニケーションでも、その場に合わせた振舞いをするじゃないですか。奈緒さんはそれを的確なチャンネルで出せて、しかもそのチャンネルが細かい。俳優によってはチャンネルが4つとか5つしかない人もいて、ここはもっとこういう空気にしたいんだけどって言っても、そのチャンネルを持っていない人もいるんです。でも奈緒さんは20個ぐらいチャンネルがあって、しかもそれがまたさらにうまくなりそうな予感もある。
――山科さんについては?
玉田 山科君は、小劇場で出会った俳優だけど華があるなって思いました。華のある俳優がいることは作品にとってはめちゃめちゃ重要だと思うんですよ。
――初演では宮崎吐夢さんが再婚する父親の役でしたが、今回はかもめんたるの岩崎う大さんが演じますね。
玉田 せっかく芸劇に呼んでもらって再演をやるんだったら、何か変えたいなと思って。まず俳優は変えようと思っていました。特に、お父さんとの軸が変われば、お母さんや子供のとの関係性も変わって、そうとう印象変わるだろうと思って。あと、多少台詞を書き換えるつもりです。かつ、う大さんがいて、奈緒さんがいて、ロロの篠崎大悟さんがいて、その人たちが面白いってなれば、この作品を新作と同じように見る価値があるだろうなって。あと、美術も大きく変わります。挟み舞台っていう、両側から客席が舞台を挟んでいる形なので、それだけでも「同じ作品だったか?」って思うくらい見え方が違うと思いますね。
玉田真也
――稽古する上での課題って何かありますか?
玉田 皆さん演技がうまいので、最初からある程度できちゃうんですよ。初演の人も多いし、上手な人が多いから。「あれ、もうできてる? 言うことなんもないな」っていうところからのスタートで(笑)。それであと一か月稽古があるので、この時間をどうやって使おうかと……。新作の時ってギリギリに脚本ができあがるし、全員あて書きだから、その場で覚えてもらって演出する感じなんですよ。でも今回、一か月間あって、既にできあがっているものをさらにもう一個上にあげるっていうのは再演でしかできないので、それがやれればなと。
――しかし、結婚式の前日にコテージに集まった人たちの群像劇で、なぜ『今が、オールタイムベスト』というタイトルなのでしょう?
玉田 元々全然違う話だったんですよ。長野県に大麻村っていうのがあって、当時長野県で十数人の男女がコミューンを作って大麻を栽培して、自分たちだけで楽しんでいたんですよ。音楽イヴェントとかやってのどかに暮らしていたんですけど、その人たちが芋づる式に捕まって。「大麻村」って新聞に書いてあって。わー面白そうだと思って、大麻村の話を書こうと思って。大麻を吸いながら上機嫌に音楽聴いてわーってやってるやつらの話だから、『今が、オールタイムベスト』なんですよ(笑)。俺たち今一番楽しいねっていう。
――それが全然違う話になって(笑)。
玉田 取材に行けなくて、というか、どこに行っていいか分からない(笑)。日本にもそういうところが他にあるかもしれないけど。でも、もうタイトルつけちゃったから変えられないけど、違う内容のものをやろうと思って。まあ、よくあることですね。
玉田真也
――山科さんの役は初演の時はあてがきだったと思うんですが、奈緒さんは違うから、そこは難しくないですか?
玉田 いや、めちゃくちゃハマってると思いますけね、今のところ。
奈緒 大丈夫ですか?
玉田 何も言うことないぐらいハマってるし、手練れなんですよね、奈緒さん。対応力がめちゃくちゃ高い。映像って台本渡されてちょっとの時間で練習してすぐ撮影だから、そういう場数こなしているだけあるというか。職人的なんですよ。
――奈緒さん、舞台ならではの面白さはどういうところですか?
奈緒 同じことを何回もやるんだけど、でもどんどん変わっていきますよね。あと、お客さんが目の前にいるのが新鮮で。演技している最中に人の笑い声が聞こえるのにびっくりしたんですよ。映像の時はお静かにっていう環境でやるので、演技していてすぐ反応が返ってくるって、舞台の俳優さんたちはすごいことをやっているんだなって。
――玉田さんの演出の特徴はどんなところでしょう?
山科 淡々としていて、起伏があまりないですね。楽しそうな時は楽しそうに笑っていて。あと、内面のこととかは言わないですよね。この役はどういう気持ちだからこう演技してとか、そういうことは一切言わないです。間(ま)とかテンポに関しては、ここはもうちょっと間を空けてとかは細かくて。
奈緒 確かに玉田さんの演出って結構細かいんですけど、それが俳優の内面や心理がどうとかではなくて。玉田さんの中にこれは面白いっていう琴線があって、そこに触れるか触れないかっていう演出だと思うんです。だから、玉田さんから言われたことを自分が役者として体現できれば、絶対面白くなるだろうと思ってます。
奈緒
――「俳優に内面はいらない」と言ったのは、玉田さんの師匠にもあたる青年団主宰の平田オリザさんですね。
玉田 青年団に入って『革命日記』っていう作品でオリザさんの演出助手やったんですよ。初めて見た他人の演出がオリザさんだったから、ちょっとお手本にしているところはあるかもしれないです。
奈緒 私は元々会話劇が好きなんですけど、今回の脚本って究極的には人が話してる内容だけですごく面白いんですよ。けど、演技によってそれがめちゃくちゃつまらなくもなる。そうとう怖い脚本だなって。だから、玉田さんのおもしろを最大限に活かせる俳優さんが揃った時に、最高のものができる気がしていますね。
山科 僕は元々映画を撮ったり俳優として出ていたんですけど、5、6年前に『演劇最強論』っていう本を読んで、片っ端から舞台を見ていたんですよね。その中で驚いたのが、地点とか岡崎藝術座とか鳥公園とか、ポスト・ドラマとされる作品で。それらの作品と玉ちゃんの脚本は全然違いますけど、俳優を俳優として立てるところは同じだったんです。役になりきることを求めずに、その人自身の面白さを最大限に出すっていう演出で。その意味ではポスト・ドラマ演劇とも一緒だなって。だから玉ちゃん、普段しゃべっている時に「あ、今の発言面白そう」って言って、それを脚本に活かすっていうことは結構あって。
玉田 だから、飲み会が大事なんですよ。みんなで飲み会に行って、そこでしゃべったことを、そのまま使うとかありますね。
山科 笑うんですよ、玉ちゃんがニヤっと。「あ、あいつこれ使うだろう」って(笑)。
山科圭太
――もう今の座組で飲み会やったんですか?
玉田 初日は行きましたね。なんでもない世間話と、お芝居の話も少しします。まあ、身の周りの人の話だったりするので、小劇場界隈の話なんですけど、奈緒さんが……。
奈緒 話に出る固有名詞が、全然分からないんです…。ハッとして玉田さんが説明してくれて。(笑)まるでまったく違う文化に触れているような気持ちで、知らないことがたくさんある。知らないことで皆さんが盛り上がっているのを聞くと、勉強になります。この公演が終わるころには、皆さんの会話にもっと参加できるようになりたいなと思ってます!
――玉田さんは最近映像も撮ってますが、演劇での活動が映像に活きてくることはありますか?
玉田 劇作家だから、台詞っていうことで言えば、どの書き手よりも考えている量が多いと思うんですよ。映像の脚本家とか小説家とか漫画の原作者とか色々いますけど、台詞っていうことでは劇作家がいちばん考えている時間が多いし、考えてきた歴史もあると思うんですよ。それを学んできているから、台詞を面白く書くっていうのは映像をやっても活きてくると思いますね。
取材・文=土佐有明 写真撮影=岩間辰徳
公演情報
■会場:東京芸術劇場シアターイースト
■作・演出:玉田真也
■出演:浅野千鶴(味わい堂々)、岩崎う大(かもめんたる)、神谷圭介(テニスコート)、篠崎大悟(ロロ)、玉田真也、奈緒、野田慈伸(桃尻犬)、堀夏子(青年団)、山科圭太(五十音順)
※学生・高校生以下券は前売・当日共同一料金、入場時要学生証、枚数限定
※全席自由(整理番号付き) ※開場は開演の30分前、受付開始は1時間前より ※未就学児入場不可
■一般発売日:2020年2月1日(土) 10:00~
■取扱:
イープラス https://eplus.jp/tamada/
店頭販売…ファミリーマート各店舗内Famiポート
■公式サイト:http://tamada-kikaku.com/
■Twitter 玉田企画 @tamadakikaku
■-mail:tamada.kikaku@gmail.com