映画館で楽しむ『パリ・オペラ座ダンスの饗宴』、ダンサーの存在そのものが芸術品!

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2020.3.20

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「パリ・オペラ座」――そう聞いただけでバレエファンは優雅でエレガントで華やかな、気品あふれる舞台とダンサーらの姿を想像するだろうし、バレエをあまり知らなくても、華麗なイメージを抱く人は多いに違いない。彼等は美と芸術の都パリを象徴する存在にして、世界のどこも真似することのできないエレガンスと気品をたたえた、フランスの伝統を伝える美の体現者。その姿を大スクリーンで堪能できる「パリ・オペラ座バレエ・シネマ 2020」が、2020年3月20日から始まる。第一弾となる『パリ・オペラ座ダンスの饗宴』はパリ・オペラ座の伝統『デフィレ』やバレエのレッスンをモチーフとした『エチュード』、そしてヌレエフ振付『くるみ割り人形』抜粋版の3本。古参のファンには懐かしく、ニューカマーは「レジェンド」の姿を目にし、バレエ団の伝統にふれることのできる絶好の機会である。


■歩くだけでもこんなに美しい。パリ・オペラ座たるゆえんを最もシンプルに表現する『デフィレ』

『デフィレ』はパリ・オペラ座のシーズン開幕を飾るガラ公演の、その最初に行われる「演目」。といっても踊るわけではない。舞台の奥から手前の客席側に向かってバレエ団のダンサー全員とバレエ学校の生徒たち約250名による行進で、いわば歩くだけなのだが、しかしこれが実に美しい。「歩く」という最低限の動きで「パリ・オペラ座」とはなにかということや、ダンサーとしての個性を存分に表現しているのである。

衣裳は、女性は純白のチュチュで、男性は白をベースに階級に応じて黒いタイツ、あるいは黒のベストを身に着ける。ベルリオーズの『トロイ人の行進曲』の音楽が始まるとともに、舞台の奥に横たわっていた女生徒が起き上がり、バレエ学校の女子たちとともに客席の方向に向かってゆっくりと進んでくる。続いてバレエ団の女性ダンサーが行進し、途中2人並びのプルミエール・ダンスーズ、1人で登場するエトワールを織り交ぜながら、ゆっくりと歩く。女性陣のトリを務めるエトワールは現パリ・オペラ座芸術監督のオーレリ・デュポン。今まさにこの時!ここぞ!とばかりに華やかな笑顔を披露するデュポンの貫禄溢れるオーラには、ただ圧倒される。

女性たちに続き、男性たちが登場する。最初はバレエ学校の生徒たち。さらにバレエ団の男性が登場して同様に行進し、途中で白い衣装をまとったプルミエ・ダンスールが2人ずつ、単独で進むエトワールが登場する。大トリで登場するのは最古参のエトワールである、マチュー・ガニオ。美しさは全てを凌駕すると、思わずつぶやきたくなる華やかさだ。

この『デフィレ』は2014年のもの。引退してしまったジョシュア・オファルトやバンジャマン・ペッシュ、カール・パケットの姿もあり、先日の2020年パリ・オペラ座来日公演で見事なパフォーマンスを披露したアマンディーヌ・アルビッソンやドロテ・ジルベール、今まさにパリ・オペラ座の顔となっているユーゴ・マルシャンやフランソワ・アリュがプルミエ・ダンスールとして登場するなど、時代を感じる見どころも満載だ。

かつて日本でもテレビ放送された映像ではあるが、年月を経て大スクリーンで見るのはまたちがった味わいがある。何より『デフィレ』は現地のを購入しようとしても、まず入手困難な演目。非常に貴重な機会なのだ。

■『エチュード』のレッスン風景もまた美技の連続

続いて上演される『エチュード』は、バレエのレッスン風景を一つの作品としたもの。初演は1948年、デンマーク王立バレエ団で、パリ・オペラ座では1952年にレパートリーに取り入れている。

最初は様々な足のポジションから始まり、次第に様々なテクニックを織り交ぜた、難易度の高いテクニックを披露していくバレエだ。特別なストーリーはないが、「エチュード」だけあってか、ピアノの教本でも有名なチェルニーの音楽を時々調子っぱずれにしているところが小洒落た感もあり、それをパリ・オペラ座のダンサーが踊ると、フランス映画のようなコケティッシュな味わいが感じられるところが不思議だ。

登場するエトワールはドロテ・ジルベールにジョシュア・オファルト、そしてカール・パケットだ。この3人によるテクニックだけではない、醸す空気もまた美技とともに味わう見どころのひとつ。すでに引退してしまった男性2人の姿を、こうしてスクリーンで目にすることができるのもまた感慨深いものがある。

■妖精ウルド=ブラームの姿におもわずため息が漏れる『くるみ割り人形』

3作目はヌレエフ版『くるみ割り人形』の抜粋だ。ヌレエフ版の「くるみ」はドロッセルマイヤーが王子を踊る点が独特なのだが、オーソドックスな『くるみ割り人形』のストーリーを考えると、クララの憧れの人がドロッセルマイヤーおじ様、という解釈も無理はない。少女から女性の成長を描いたといわれるのも、納得だ。

そのドロッセルマイヤー兼王子を踊るのは、すでに引退したジェレミー・ベランガール。彼がまたどことなくいかつくミステリアスな雰囲気で、いわば「大人の男性」の魅力を漂わせる。
対するクララ役は当時まだプルミエール・ダンスーズであった現エトワールのミリアム・ウルド=ブラーム。持ち前の透明感ある魅力が、当時は若さもありより一層初々しい。少女クララというよりはもう妖精のような愛らしさで、ベランガールとの大人と子供のような組み合わせにはドキドキするような危うささえ感じられる。それがまた実にフランス的な魅力を感じさせるのだ。

見応えたっぷりの2時間半だが、休憩はなし。最初に行くべきところ、やるべきことは済ませて、じっくりとご堪能いただきたい。

文=西原朋未

上映情報

パリ・オペラ座バレエ・シネマ 2020
『パリ・オペラ座ダンスの饗宴』(2014-2015)

 
【演目】
●『デフィレ』
【出演】パリ・オペラ座バレエ団、パリ・オペラ座バレエ学校
●『エチュード』
【振付】ハラルド・ランダー
【音楽】カール・チェルニー、クヌドーゲ・リーサゲル
【出演】ドロテ・ジルベール、ジョシュア・オファルト、カール・パケット、パリ・オペラ座バレエ団
●『くるみ割り人形』(抜粋)
【振付】ルドルフ・ヌレエフ
【音楽】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
【出演】ミリアム・ウルド=ブラーム(クララ)、ジェレミー・べランガール(ドロッセルマイヤー/王子)、パリ・オペラ座バレエ団

 
【上映会場】※上映時間は各劇場にお問い合わせください。
●東劇(東京・東銀座)
2020年3月 20日(金)~
●ミッドランドスクエアシネマ(愛知・名古屋)/なんばパークスシネマ(大阪・なんば)/神戸国際松竹(兵庫・神戸)/札幌シネマフロンティア(北海道・札幌)
2020年4月 3日(金)~4/9(木)
●YEBISU GARDEN CINEMA(東京・恵比寿)
2020年5月15日(金)~

 
【上映時間】2時間30分(休憩なし)
【撮影場所】パリ・オペラ座ガルニエ宮、オペラ・バスティーユ
【収録】2014年10月
 
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