SPICEアニメ・ゲーム班オススメ!今だからこそ観たい!家で楽しめるアニメ三選 Vol.8
SPICEライター特選!オススメアニメ作品
テレワーク、イベントの延期や中止、自粛が続くこの時期だからこそお家で楽しめるエンタメを!SPICEアニメ・ゲームジャンルの編集・ライター陣による新旧いり混ぜたおすすめ作品をお届けします!
Vol.8選者:成松 哲
フリーライター。「音楽ナタリー」編集部勤務を経て現職。「SPICE」をはじめとしたWeb媒体や雑誌などでアニソンアーティスト、声優のインタビューを中心とした執筆活動をしています。主著に『バンド臨終図巻』(共著。河出書房新社 / 文春文庫)。好きなアニメは「日常系」と「オレが頭が悪いばっかりにさっぱり理解が及ばないSF」。量子力学とか言われてもちんぷんかんぷんなんだけど、観ているとなんか楽しくなれるっす!
オススメ作品①
『ソウル・ステーション / パンデミック』
(Netflix、AmazonPrime video、dアニメストア他)
『ソウル・ステーション/パンデミック』本編映像一部解禁
2016年の大傑作韓流ゾンビ映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』の前日譚に当たるアニメ作品。『新感染』でもメガホンを取ったヨン・サンホが自ら脚本と監督を手がけ、映画の舞台となったソウル発釜山行きの特急列車の中でなぜゾンビウイルスの集団感染が起きたのか? そのきっかけの場所、事件前夜のソウル駅前の様子を追っています。
……という作品なのですが、『新感染』から一転。車内という閉鎖環境でのゾンビパニックを前に、普通の人々が英知と勇気を振り絞り、己の肉体を駆使した無骨なアクションで立ち向かうことで大きな感動を呼び起した『新感染』的な痛快さは一切ありません。オープニングのシークエンスからラストシーンに至るまで、ただただイヤなムードしか漂っていません。
ソウル駅前におけるゾンビウイルスの感染源=最初の犠牲者は家庭からも街からもうち捨てられた社会的弱者であり、その弱者を契機にしたパンデミックに直面した為政者サイド、つまり警察や軍は当たり前のように彼らの暴力的排除を試みます。若干のネタバレ覚悟で言ってしまえば、風俗店を逃げ出したものの売春で身を立てざるをえないヒロインや、そのポン引き役でもあるカレシも、必死で現実に抗おうとするも、結果似たような誰かとのくびきからは逃れられません。しかも誰の命も等価。メインキャラクターであろうと、モブキャラクターであろうと、大したドラマや見せ場もなくあっさり死にます。
おそらくヨン・サンホ監督はこのアニメにおいて、感染爆発をフックに現代韓国の抱える家庭の問題や社会の問題、政治の問題を暴き立てたかったのでしょう。そして現在実際にパンデミックに立ち向かっている我々は、アニメとはまた別種のものではあるものの、健康や医療、それからさまざまな社会問題と対峙するハメになりました。どこまでいっても救いのない作品ですが、自身と照らし合わせて「あっ、これよりはマシだ」と胸をなで下ろすもよし。ウイルスパニックに対して極端な態度をとる劇中の人々を他山の石とするもよし。今の我々に客観的な視点を与え、いろいろなことを考えさせてくれる一作となるはずです。当然『新感染』未見でも問題なく鑑賞できます。また『新感染』でも話題になった“ダッシュするゾンビ群”はなかなか壮観です。
オススメ作品②
『輪るピングドラム』
(AmazonPrime video、Netflix、dアニメストア他)
2011年放送のテレビアニメ。『少女革命ウテナ』『ユリ熊嵐』『さらざんまい』で知られる幾原邦彦が監督・シリーズ構成・脚本を務めています。
個々の事情や葛藤を抱えた多くの登場人物それぞれの物語が多層的に絡まり合い、しかも全編キャッチーにもほどがあるビジュアルに彩られた、いわば「視聴者がいかようにでも感情移入・解釈し、また楽しめる」作品ですが、その複雑な要素の中でも中心となるある一点にフォーカスするなら、人工的パンデミック禍の加害者家族と被害者家族の「生存戦略」の物語ともいえます。ここで指す彼らはいずれも直接的な加害者でもなければ、直接的な被害者でもありません。あくまで「その家族」。人工的パンデミック禍をきっかけに、自分のせいではないにもかかわらず、圧倒的かつ無慈悲な現実や運命をつきつけられてしまった人々です。
しかし彼らは、その理不尽極まりない状況にあってなお、自らが「生存」するための「戦略」を模索し、その解決のキーとなるであろう「ピングドラム」なるサムシングを追い求めます。そして彼らが現実や運命を乗り越えるきっかけになり、またその先にあったものはごくごく普遍的な……しかし世界中の誰もが共感しうるだろう、あるひとつの想いでした。
今のウイルス禍、パンデミック騒ぎはおそらく誰のせいでもないはずです。しかし誰しもが無関係ではいられない理不尽な現実・運命であるという意味では『輪るピングドラム』の彼らが直面した現実と似ているのかもしれません。であれば、この作品の中にはヘビーな状況を生き抜く手立て・ヒントが潜んでいるのではないでしょうか。なお、鑑賞中思わず「陽毬ちゃん、早く『生存戦略』って鳴いてくれないかな」と期待してしまうほど、ドラッギーな幸福感に満ちあふれたバンクシーンも見どころです。
オススメ作品③
『はたらく細胞』
(dアニメストア、U-NEXT、AmazonPrime video、Netflix、他)
【公式】TVアニメ『はたらく細胞』Blu-ray&DVDシリーズ発売告知CM | NOW ON SALE!!
清水茜によるマンガを原作にもつテレビアニメ。2018年放送。人間の体内にある免疫系細胞を擬人化し、タイトルどおり、彼らが人間というコロニー・ファクトリーの中で汗して働く姿を描いています。2021年1月にはアニメ第2期『はたらく細胞!!』の放送も決定。
このウイルス禍にあって、我々にとって究極的かつ現実的な存在である「私」は果たしてなにをしているのか? それを明確に教えてくれ、勇気づけてくれるのが『はたらく細胞』ではないでしょうか。このアニメに登場する細胞たちがそうであるとおり、人間は自覚せずとも、さまざまな生命の危機、そしてこの状況とフルコンタクトで格闘しています。
もちろん「なにげに人間は強いから大丈夫っしょ」などと楽観する気はひとつもありません。しかし、私たちは生きているだけで、日々暮らしているだけで、しっかり現実や運命と戦っている。この事実に多少以上の元気をもらうことはできるはずです。
当たり前の話ですがアニメーションをはじめとしたフィクション作品は現実逃避のための装置という機能のほかに、現実を戯画化して表現する、ある種の鏡のような役割も担っています。今回セレクトしてみたのは、その鏡のような3作。どうかシリアス一辺倒に受け止めるのではなく、「どうせ明日も出社はできない、絶賛テレワーク中だから」とばかりに缶ビール片手にノンキに、しかし「ここと今のあり方」を少しだけ考えながら鑑賞してもらえるとうれしいです。
文:成松 哲
作品情報
公式HP:
作品情報
公式HP:http://penguindrum.jp/
作品情報
公式HP:https://hataraku-saibou.com/1st/