音楽が鼓舞する! 少年たちのはじまりの物語/ホーム・シアトリカル・ホーム~自宅カンゲキ1-2-3[vol.10] <2.5次元舞台編>
イラスト:春原弥生
音楽が鼓舞する!少年たちのはじまりの物語
ホーム・シアトリカル・ホーム~自宅カンゲキ1-2-3[vol.10]<2.5次元舞台編>
by田中未来
【2】『僕のヒーローアカデミア』The “Ultra” Stage
【3】舞台「鬼滅の刃」
数多の作品が存在するなかでも、今や多大な影響力を持つ2.5次元舞台の世界。「あなたの2.5次元舞台デビューはどこから?」という質問をすれば、多種多様な回答が出てくるかと思います。若手俳優のフレッシュな演技や、役者の成長を追う楽しみもあれば、原作のキャラクターを忠実に再現した衣裳やメイク、舞台セットを堪能するも良し。二次元と三次元をつなぐ空間で、心ゆくまま作品の世界観に浸ることができる、最高のエンターテインメントなのです。
今回は、集英社「週刊少年ジャンプ」にて、現在も連載が続いている人気作の2.5次元舞台をピックアップ。本誌では、クライマックスを迎える作品もあり、筆者のなかでは、「今こそ物語の原点に立ち返りたい」という気持ちが高まっています。
主人公の少年が、仲間たちとの絆を深めながら、試合や戦いの中で強くなっていく姿には度々胸を打たれます。今では作中で立派に成長した彼らにも、必ずはじまりの物語がある。そこで、生涯の相棒や師匠、宿敵との運命的な出会いを、ドラマティックな演出で盛り上げてくれるのが、今回取り上げた2.5次元舞台の作品たち。なかでも劇伴音楽は、舞台に欠かせない要素のひとつ。本記事で紹介する舞台作品の音楽は、すべて作曲家の和田俊輔氏が手がけています。一度聞いたら耳から離れないメロディから、体の芯が熱くなるような印象的なテーマソングまで。聞きどころたっぷりの作品の魅力について語ります!
【1】ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』
ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」スペシャル映像
本作は、原作・古舘春一によるバレーボール漫画『ハイキュー!!』を舞台化したもの。演出をウォーリー木下が担当し、2015年の初演から現在に至るまで、全部で9作品の公演が行われてきた。プロジェクションマッピングを駆使した映像美と、演者の圧倒的な熱量が絡み合い、迫力ある空間を生み出している通称「ハイステ」。今回紹介するのは、記念すべき第1作目にあたる初演作品だ。
物語の主人公・日向翔陽の、太陽のような明るさで周囲を触発していく姿を、俳優の須賀健太が見事に演じきる。八百屋舞台(傾斜のある舞台)を縦横無尽に駆け回る姿には、自然と惹きつけられるだろう。須賀と息の合ったコンビプレイを見せた木村達成(主人公の相棒・影山飛雄役)をはじめ、本作が本格的な俳優デビューとなった、遊馬晃祐扮する及川徹(青葉城西高校主将)による迫力満点のサーブ姿など、本物のバレー試合を見ているような臨場感もあり、見どころは尽きない。
そんな中、「ハイステ」の世界に一気に引き込まれるのが、冒頭のオープニングシーン。人物紹介を兼ねた本場面では、プロジェクションマッピングを用いて、漫画のコマから次元を超えて、キャラクターが飛び出してくるような仕掛けが、観客の期待感を膨らませてくれる。役者の演技と最新の映像技術が組み合わさって、「これぞ2.5次元舞台の醍醐味!」と思わせるようなワクワクした演出を一層華やかにしているのが、劇中のメインテーマ。ラテン音楽のようなノリの良さと、一度聞くと頭から離れないメロディに、思わず手拍子を打ってしまう。
メインテーマは初演以降も引き継がれ、シリーズごとにアレンジが加わっている場合もあり。この曲がかかると、心身ともに「ハイステ」のスイッチが入り、瞬時に気持ちを入れ替えられるような、中毒性の高いテーマソングになっている。曲が流れると、反射的に感極まって涙する観客は、筆者を含めて一人ではないと信じたい。なお、6作目となる〝最強の場所(チーム)″では、和田俊輔自らが出演し、シリーズ初の生演奏を試みるなど、常に新しい可能性にチャレンジし続ける舞台作品である。
【2】『僕のヒーローアカデミア』The “Ultra” Stage
「僕のヒーローアカデミア」The “Ultra” Stage 公演ダイジェスト映像
原作・堀越耕平によるヒーローアクション漫画『僕のヒーローアカデミア』初の舞台化作品にあたる本作。演出を元吉庸泰が手がけ、2019年4月に初演が開幕、同年6月には上海公演も行われた。物語の主人公・緑谷出久(デク/田村心)を含む、雄英高校の生徒14名に加えて、プロヒーローや悪役(ヴィラン)の死柄木弔などが登場し、総勢20名のキャストたちが熱演を繰りひろげる。各ヒーローの“個性”を元にデザインされた、特徴的なヒーロー衣装も見どころのひとつ。髪型やメイクだけでなく、細かな部分まで忠実に再現されたクオリティの高い衣装は、ぜひ映像でじっくり見てほしい。
さらに、劇中を彩る力強い歌の数々が、「ヒロステ」の世界を形づくる重要な要素になっている。冒頭、プロヒーローのプレゼント・マイク(岡本悠紀)のシャウトが会場に響き渡り、登場人物や物語のあらすじ紹介を交えながら、平和の象徴・オールマイト(岩永洋昭)を讃える曲を、ヒーローたちが皆で歌い上げる。この瞬間から、筆者は「これはヒーローショーならぬヒーローミュージカルだ!」と気持ちが高揚した。
劇中には、ほかにも「ヒーロー」や“個性”など、各テーマに沿ったキャッチーなメロディと、覚えやすい歌詞からなる楽曲が、ふんだんに盛り込まれている。演出家の元吉氏は、ヒロステの劇中歌を「我々が我々であるために、自らが世界を鼓舞するような歌」と評している。
なかでも、「I want to be a HERO」は、ヒロステの世界を象徴するような一曲だ。主人公のデクや幼馴染の爆豪勝己(小林亮太)をはじめ、誰もが自分なりの方法で、最高のヒーローを目指す想いを、役者たちが一丸となって熱唱する姿を見ていると、身体の芯が熱くなってくる。目の前のヒーローを応援したくなる気持ちが沸き起こると同時に、観客の自分まで勇気づけられるような、パワフルでバイタリティあふれる曲なのだ。デクとオールマイトとの出会いや、幼馴染とのぶつかり合いなど、物語の見せ場となるシーンにおいて、要所要所で効果を発揮していたこの曲は、鑑賞後につい口ずさみたくなってしまうはず。
【3】舞台『鬼滅の刃』
舞台「鬼滅の刃」公演CM
近年、爆発的な人気を誇る大ヒット漫画『鬼滅の刃』(原作・吾峠呼世晴)が、2020年1月に待望の舞台化。脚本・演出を末満健一が担当し、心優しき主人公・炭治郎を小林亮太が好演した。炭治郎が鬼殺隊に入るための最終選別が行われた藤襲山(ふじかさねやま)や、宿敵・鬼舞辻無惨(佐々木喜英)と浅草で邂逅するシーンでは、幻想的な妖しさや大正ロマンを感じさせる舞台セットが目を引く。
また、原作内で“汚い高音”と表記された台詞も巧みに再現した植田圭輔(我妻善逸役)や、しなやかな殺陣を披露し、緊張感あるアクションシーンを演じた本田礼生(冨岡義勇役)など、キャラクターの魅力を存分に引き出した俳優たちの力演も見逃せない。炭治郎役の小林は、キレのあるダンスで血気盛んな爆豪を演じた「ヒロステ」から一転し、劇中で柔和な表情を見せてくれる。圧倒的な台詞量を消化しながらも、殺陣も歌もこなしていく姿には、自然と「頑張れ炭治郎頑張れ!」とエールを送りたくなる。
さらに本舞台の見どころは、歌唱シーンにある。珠世役の舞羽美海は、元宝塚歌劇団雪組トップ娘役の実力を発揮した、美しい歌声を本作で披露している。原作に見られる独特な台詞回しや、印象的な四字熟語を歌詞に活かした楽曲は、思わず「そこで歌うの!?」とツッコミを入れたくなる場面も。
筆者のテンションが最高潮に達したのは、一幕の終わりに、佐々木扮する鬼舞辻無惨の歌う旋律と、主人公サイドのキャストたちが歌うメインテーマを、掛け合いで重唱する場面だ。抜群の歌唱力で、独り『悪』の主旋律を貫く無惨の歌詞に、「人を喰らう鬼を滅し、刃を持て」と、主人公たちによる『光』の歌詞が重なっていく。まさに、宿敵との運命的な出会いが、音楽によってドラマティックに印象づけられた名場面になっているのだ。
文:田中未來