美弥るりかがクールな女教師役で魅せる! 『SHOW-ISMS』より「Version マトリョーシカ」ゲネプロレポート

レポート
舞台
2020.7.28
『SHOW-ISMS』より「Version マトリョーシカ」ゲネプロより

『SHOW-ISMS』より「Version マトリョーシカ」ゲネプロより

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演出家・小林香が生み出す独創的で華やかなエンターテインメントショー『SHOW-ISMS』。その「Version マトリョーシカ」が、東京・シアタークリエにて2020年7月28日(火)より上演される。

『SHOW-ISMS』は2010年から小林が手掛けてきた『SHOW-ism』シリーズの集大成。7月20日から上演されていた「Version DRAMATICA/ROMANTICA」では、同シリーズの作品『DRAMATICA/ROMANTICA』、『ユイット/∞』、『マトリョーシカ』から、今回の「Version マトリョーシカ」では『マトリョーシカ』、『Underground Parade』、『TATTOO14』、『ピトレスク』から、それぞれの歴代キャストが日比谷の地に集った。

以下、「Version マトリョーシカ」の初日公演直前に行われたゲネプロの模様を写真とともにレポートする。なお、このゲネプロでは中川晃教と藤岡正明が帝国劇場で『ジャージー・ボーイズ』に出演中のため、二人が不在の状態で開催された。

本公演は、前半に『マトリョーシカ』をミュージカルスケッチ形式で上演、後半に『TATTOO14』、『Underground Parade』、『ピトレスク』の順にコンサート形式で上演された。

『マトリョーシカ』は本来『SHOW-ism』シリーズの最新作として上演予定だった作品だ。一度は新型コロナウイルス感染拡大の影響で公演中止となったが、本公演では演出・構成を変更して新生『マトリョーシカ』として上演することが叶った。舞台は今まさに我々が生きている現代日本。野原高校夜間コース4年A組に赴任してきたばかりの社会科教師・バンビと、それぞれ胸に闇を抱える個性的な生徒たちを中心にストーリーが展開していく。

物語冒頭、舞台中央にマトリョーシカの置かれた教壇と、その周りを囲むようにいわゆる学校の机と椅子が配置されている。暗転の後、そこに教師と生徒たちの姿が現れる。美弥るりか演じるバンビが、タブレット端末に向かって語りかける。周囲の生徒たちも各々にスマートフォンやパソコンを覗き込んでいる。どうやら緊急事態宣言下のために、リモートで授業が行われているという設定のようだ。他にも、ソーシャルディスタンスを取るためにエアハグをしたり、エアハイタッチをしたりという場面も作中で見られた。まさに、昨今の日本の状況がそのまま台本に反映されている。

謎めいた教師バンビを演じるのは、2019年に宝塚歌劇団を退団し、本公演が外部初舞台となる美弥るりか。濃い緑を基調としたユニークな衣裳が実によく似合う。クールで掴みどころがないが、実は愛情深い教師という役どころを好演し、舞台上で存在感を放っていた。



生徒たちも非常に個性的な面々が揃っている。4年A組に通う彼らは、境遇も違えば年齢もバラバラだ。学習障害を持つ建設作業員、高校生の息子を持つシングルマザー、前科持ちの元暴走族、末期がんの妻を持つ酒癖の悪い男、高校を中退した歌手志望の少女、文盲の専業主婦……彼らを平方元基、夢咲ねね、樋口麻美、今拓哉、塚本直、保坂知寿らミュージカル界の実力派キャストが活き活きと演じきった。さらに、保坂演じる主婦の娘であり、同高校の普通科に通う女子高校生を下村実生が演じた。

短い時間ながら、歌唱シーンやダンスシーンも非常に充実していた。「翼をください」、「ロンドン橋」、「ソーラン節」など、聞き覚えのある懐かしい曲の数々が意外な形で劇中に登場する。

物語後半、バンビの提案でサークルゲームをするシーンが強く印象に残っている。バンビからの質問に該当する人は円の中に入るという、ただそれだけのゲームだ。最初はくだけた質問からはじまるのだが、「暴力を受けたことがある」「居場所がないと思ったことがある」「夜間を卒業できたら叶えたいことがある」と、段々と人の本質を問うような質問へと深まっていく。そこにいる誰もが、正直に円の中に出入りする。きっとこの作品を観る人は、各々自問自答するのではないだろうか。

演劇は社会を映す鏡だとよく言うが、『マトリョーシカ』はまさにその言葉通りの作品だ。現代日本を生きる人々の悩みを、登場人物たちがそれぞれ抱えている。だからこそ何気ないセリフの一つひとつが胸に深く刺さるのだろう。もがき苦しみながらも前を向いて生きようとする4年A組の生徒たちの姿に、勇気をもらう人は少なくないはずだ。

ここから先は、コンサート形式で3つの作品が展開された。まずは2012年と2013年に上演された『TATTOO 14』から。本作は、孤児だった7人姉妹がショー・カンパニー「TATTOO 14」を結成し、アメリカ東部のナッシュビルから西海岸のサンフランシスコを車で横断するという旅物語だ。

水夏希とシルビア・グラブが登場すると、当時を振り返りながら思い出話に花を咲かせた。2012年、宝塚歌劇団を退団して間もなかった水は、あまりにも自由過ぎる女7人の稽古場に怯えていたというエピソードも。その後、本来劇中では5人で歌うナンバー「Quiet Your Mind」を二人で披露した。スタイリッシュな衣裳を着こなす二人の立ち姿は凛と美しく、それでいて非常に力強い歌声を聴かせてくれた。

続く『Underground Parade』は、2011年4月に上演された作品。ニューヨークの地下鉄ですれ違う人々の、ほんの一瞬の交わりを音楽と身体表現で描く斬新な作品だ。中川晃教、彩吹真央、藤岡正明の3名で歌唱する予定だが、中川と藤岡は他作品出演中のため、ゲネプロでは彩吹一人でのトーク&歌唱となった。まるで少年のような出で立ちで彩吹が登場すると、不在の中川と藤岡の自己紹介とトークまでこなし、冒頭から笑いを誘った。本作は2011年春の上演ということもあり、ちょうど稽古期間中に東日本大震災が起こったそうだ。地震が起こった際、女性陣を安全な場所に避難させ、その場で冷静に状況判断をしていたという中川の武勇伝を語ってくれた。

披露されたのは、劇中から「Again and again」。ある登場人物が自殺し、その悲しみに包まれながらも再起しようと歌う希望の曲だ。時折悲哀に満ちた表情を見せながらも、その歌声からは生きたいという前向きな想いが感じられた。舞台の上から降り注ぐスポットライトが、まるで地下に降り注ぐ希望の光のようだ。


最後のパフォーマンスは、2014年3月に上演された『ピトレスク』から3曲が披露された。中川を除く、クミコ、J Kim、保坂知寿ら3名が登場。歌唱披露前には、マイペースでほのぼのとした空気のトークが繰り広げられた。物語の舞台は1942年、ドイツ占領下のパリ。様々な迫害を受けながら生きる人々の姿を描いた作品だ。

1曲目、エディット・ピアフの歌唱で有名なシャンソン「群衆」は、流石の一言。クミコの存在感と歌唱力に、思わずカメラを持つ手が止まったほどだ。一気に劇場中を『ピトレスク』の世界へと誘ってくれた。2、3曲目は、本作のオリジナル曲「ピトレスク」と、ベートーベンの「歓喜の歌」を原曲とする「自由の歌」が続けて披露された。クミコ、保坂、J Kimという3人の素晴らしい歌声が重なり合い、他では決して聴けない至極のパフォーマンスを味わうことができた。

上演時間は2時間10分(休憩なし)。現代日本にはじまり、アメリカ横断の旅、ニューヨークの地下鉄、ドイツ占領下のパリまで、実に幅広く個性的な世界観を楽しむことができる。各作品に共通するのは、困難に立ち向かいながら希望を見出す人々の姿が描かれているということ。今だからこそ我々の胸を強く打つ作品ばかりだ。本公演は8月4日(火)まで上演予定。その間、複数の配信回も予定されている。1回1回の舞台の有り難みを噛み締めながら、めくるめく『SHOW-ISMS』の世界を堪能してほしい。

取材・文・写真 = 松村蘭(らんねえ)

配信情報

ON STAGE&STREAMING
『SHOW-ISMS』
 
■日程:
2020年7月20日(月)~7月25日(土):DRAMATICA/ROMANTICA(マトリョーシカ・∞/ユイット)
2020年7月28日(火)~8月4日(火):マトリョーシカ(Underground Parade・TATTOO14・ピトレスク )
■会場:日比谷 シアタークリエ
 
■Created by Caori Covayashi(小林香)
■演目/出演:
「マトリョーシカ」
美弥るりか
平方元基 夢咲ねね 樋口麻美 下村実生 今 拓哉 保坂知寿
塚本直 神谷直樹 池田美佳 井上真由子
「DRAMATICA/ROMANTICA」
彩吹真央 JKim 知念里奈 新妻聖子 井上芳雄
「Underground Parade」
中川晃教 彩吹真央 藤岡正明
「TATTOO 14」
シルビア・グラブ 保坂知寿
「ピトレスク」
クミコ 中川晃教 JKim 保坂知寿
「∞/ユイット」
井上芳雄 彩吹真央
 
■配信日程:
7月20日(月)18:00~ ※終了
7月23日(木・祝)18:00~ ※終了
7月24日(金・祝)12:00~ ※終了
7月25日(土)12:00~ ※公演中止
7月28日(火)18:00~ ※終了
8月1日(土)18:00~ 
8月4日(火)12:00~
■キャストスケジュール:https://www.tohostage.com/showism9/castsch.html
 
■配信場所:イープラス「Streaming+」
※アーカイブ・見逃し配信の実施は予定しておりません。
■配信視聴券:4,000円(税込)
販売は6月30日(火) 18:00~各配信回終演(開演後110分)まで。
※各配信日2日前AM00:00からは、カード決済のみでの販売となります。
※公演の途中からご視聴頂く場合でも、巻き戻し再生はできませんので予めご了承ください
※東宝ナビザーブ・テレザーブ、劇場窓口では視聴券をご購入いただけません。
 
■公式サイト:https://www.tohostage.com/showism9/
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