実写映画『弱虫ペダル』坂東龍汰インタビュー 鳴子章吉の「ワイ」を活かす、too muchではない役へのアプローチ
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坂東龍汰 撮影=iwa
映画『弱虫ペダル』が8月14日(金)に劇場公開を迎える。2008年から『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)にて連載中の、渡辺航氏によるロードレースを題材にした同名漫画を映画化した本作では、『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』『覆面系ノイズ』などの三木康一郎監督がメガホンをとり、アニメ好きの高校生・小野田坂道が自転車競技部で仲間たちと支え合い、競い合いながらロードレースにのめり込んでいく姿が描かれている。
永瀬廉(King & Prince)演じる主人公の坂道や、伊藤健太郎演じる1年生エース・今泉俊輔など、総北高校自転車競技部の個性豊かな面々の中でも、ひときわ陽性の魅力を放つのが、「浪速のスピードマン」の異名を持つ関西からの転校生・鳴子章吉。癖の強い関西弁、人情に厚く、ストレートに感情を表現する性格で、坂道や今泉とともに物語の中核をなす人物である。鳴子を演じた坂東龍汰は、2017年の俳優デビュー以来、ドラマ・映画を中心に着実に経験を積み、2020年には『犬鳴村』『静かな雨』『#ハンド全力』など早くも3本の映画で才能を発揮している。今回のインタビューでは、坂東が初の実写映画で挑んだ新たな役づくりのアプローチや、演じることの魅力、新型コロナ感染拡大で余儀なくされた撮影休止期間中の経験までじっくりと語ってくれた。
映画という表現の“新しい鳴子章吉”
坂東龍汰 撮影=iwa
――原作漫画は、出演が決まる前から読まれていらっしゃいました?
はい。このお話をいだだく前から読んでいました。だから、鳴子章吉も知っていたんですけど、まさか自分が演じることになるとは思っていませんでした。オファーをいただいたときには、「自分でいいんですか?」という思いもあったんですけど……でも、今まで漫画の実写化映画に出たことがなかったので、是非やりたいと思いましたね。
――「実写化」と言っても色々ありますが、本作はわりと現実的な映像化ですよね。最初に脚本を読んだときには、どうなると思われました?
アニメも全部観ていたんですが、脚本を読んだときは、正直に言うと「大変そうだな」とは思いました。字で書かれたものを映画にするときに、「これをどうやってCGなしでやるのか?」とか、「どうやって撮るんだろう?」とか、「自分たちがどこまで乗るのか?」とか、最初は単純にいろんな「?」がありました。でも、撮影前に3ヶ月くらい練習期間があったんですが、そこでみんなでやっていくにつれて、「これはできるぞ」「みんなで、自転車に乗ってお芝居できるぞ」という気持ちになっていったんです。実際、本番までにみんな乗れるようになっていましたし、技術的にも、“お芝居をしながら乗る”ところにまでもっていけたので、すごくいい形で撮影に臨めたんじゃないかな、と。そのチームワークも、撮影中も、「まさに青春!」という感じだったんで、ぼくにとっては高校時代を思い出させてくれるような4ヶ月半でした。
(C)2020映画「弱虫ペダル」製作委員会 (C)渡辺航(秋田書店)2008
――個性が強いキャラクターがたくさん登場する原作の中でも、鳴子章吉という人物はかなり特徴的ですよね。どう演じられたのでしょうか?
ぼくも、ここまでキャラの強い役をやるのが初めてで。テンションが高くて、漫画の中でも「THE 鳴子章吉」というイメージがあるじゃないですか。人気もありますし、色んな人に愛されているキャラクターなので、自分の体、顔、声を使って、どうやって映画という表現の“新しい鳴子章吉”を演じるか。原作のイメージを消さないようにしながら、肉付けしていく形で自分のものにできたらいいな、という思いでした。でも、鳴子章吉は自分とすごく似ているんです。「自分に近い」というのは、人に言われて気づいたんですが。自分のことって、意外と自分が一番知らないと思うんです。だから、「似ている」と言われて、「何が似ているんだろう?」と自分に問いかけながら、鳴子章吉に寄せていきました。自分に近い役をやるのは今回が初めてだったので、それも楽しかったです。
坂東龍汰 撮影=iwa
――どの段階で「似ている」と気づいたんですか?
撮影前の練習からですね。「まんま、鳴子章吉やん!」と言われることがあって……廉くんからは、「鳴子よりもうるさい」と言われましたが(笑)。「これは自分の生まれ持った性格を活かさないと意味がない」と思ったので、そこは振り切って演じました。ただテンションが高い、おちゃらけた役というわけではないんです。すごく熱くて、負けず嫌いで、友だち想いで、小さいころからしっかりと自転車と向き合ってきた。自転車が一番好きで、愛してきた過去があるので、その芯のようなものを忘れないように演じました。
――さじ加減が難しそうですね。鳴子は、現実の関西人があまり使わない「ワイ」という一人称を使いますし。
原作からそうですよね。でも、あれは大事な特徴だと思いました。最初の脚本には、「オレ」と言うセリフもあったんですが、全部「ワイ」に替えさせてもらっています。あとは、ブレないように、締めるところはちゃんと締めたお芝居をしないと、鳴子の良さは絶対に伝わらないと思いました。関西弁をtoo muchな感じにしないように、できるだけナチュラルにいこうというのは、最初に監督とも話をしました。「あまりそこはやりすぎなくていいよ」と。ただ、だいたい自転車に乗っていて必死だったので、セリフも言おう言おうとしたものじゃなく、自然に出てきました。みんなで走っている中で、化学反応のようなかたちで。自転車に乗っていないと味わえないお芝居、掛け合いみたいなものがずっと続いたので、その後の自転車を降りたときの演技にも広がりが出てよかったな、と思います。
――自転車に乗ったことがいい方向に働いたんですね。「現実的にしよう」というのは、監督ともお話をされたのでしょうか?
坂東龍汰 撮影=iwa
アニメより、よりリアルに近づけたいということだったので、そこは監督とは結構話をしました。ただ、原作の鳴子の良さは捨てたくはなかったので、“元気”な印象は残したい。やっぱり、小野田と今泉と鳴子の3人のバランスがあると思うんです。そこは、お芝居をやるうえで、ふたりに引き出していただいたところが大きいですね。引っ張ってもらったというか。
――永瀬さん伊藤さんとの関係性も役に繋がったと。
廉くんと健太郎くんは、「流石です」という感じです。ぼくはもう、ついていったというか。やっぱり、ぼくがずっとテレビや映画で観ていたふたりですし、いつか一緒にお仕事をしたいと思っていたので、すごく刺激的でした。自分に持っていないものを持っているおふたりだな、と。
――具体的には、どういうところが刺激になったのでしょうか?
感じた部分が多いですね。ぼくは感じて芝居をするというか、考えたくないタイプなんです。もちろん現場に入るまでは考えていますが、芝居をするときには直感で動くので。おふたりそれぞれから、気迫だったり、スイッチの切り替え方だったり、一緒に芝居をしているときの空気の凄さを感じていました。あとは、現場の居方にもいっぱい学ぶことはありました。「本当にプロだな」と。
「リアルを見る」芝居へのアプローチ
坂東龍汰 撮影=iwa
――普段はどういう役づくりをされるのでしょうか?
今回は、初めて(演じる役が)具体化されたキャラクターだったので、ホンを読んでゼロから創っていくというよりは、すでにあるものから抽出して、プラスアルファで自分のお芝居を付けていくという作業でした。普段とは違う役作りだったと思います。普段といっても、作品や役によってアプローチは違いますけど。ただ、例えば病気を患っている役だったら、実際にその人に会いに行って、色んなものを取り入れたりして、「リアルを見る」ことは大切にしています。真似ごとにならないようにするのが、見ていて引き込まれる芝居なんじゃないかと思っているので。想像して作る部分もありますが、ぼくはどちらかと言えば、あるものを信じて、そこに忠実に役を作るようにしています。
――脚本を読んで、リサーチして、自分の中でイメージを作って演じる、と。
そうですね。今回の場合も(原作という形で)鳴子が“いる”ので。できるだけ観察して、「彼がどういう思いでいるのか?」という話を監督ともしました。「自分の中で作ってもいいから、ちゃんと心に“ある”状態でお芝居してほしい」と言われたので、バックボーンのようなものはしっかり持って演じられたと思います。
(C)2020映画「弱虫ペダル」製作委員会 (C)渡辺航(秋田書店)2008
――鳴子には“スプリンター”という自転車競技ならではの専門的な要素もあります。どういう練習をされたのでしょう?
本当にスプリントをするんですが、毎日吐きそうになるまで練習しました。やっぱり、体が変わりましたね。撮影までに3ヶ月くらい練習期間があったので、本編をみてもらえばわかりますが、ガタイが明らかに変わりました。お尻がデカくなって、ふとももが太くなりましたし。
――原作でも言及されますが、未経験者はロードバイクに乗ることすら苦労するとのことですが。
そうなんです。ぼくも最初に跨いだときには、すぐこけました。おそらく、ぼくが練習で一番にコケたと思います(笑)。ただ、慣れれば乗れるようになりましたし、みんなも運動神経がよかったので、撮影はスムーズに進みました。
――一番キツかったトレーニングは?
やっぱり、スプリントですね。田所役の菅原健くんとふたりで並んで競争するんですが、一番重いギアで回すんです。
――ストーリー上でも競う二人ですね。原作をなぞるような練習じゃないですか。
実際の力関係も原作と似ています。実際に(菅原は)事務所の先輩で、ライバルでもありますから。そのキャスティングはたまたまだと思いますが、(原作の田所と同じく)健くんもすごく大きいです(笑)。
坂東龍汰 撮影=iwa
――『EVEN〜君に贈る歌〜』ではギタリストを演じて、実際にバンドを結成してデビューまでされました。専門性のある役を自分で演じるのは、やはり楽しいですか?
楽しいですね。ぼくは、そういうことを経験したくて役者になった部分もあります。普段は触れられないようなことを映画を通して経験できるというのは、人生を豊かにするというか、プラスになることなので、どんな専門的な役もガツガツやっていきたいです。
――高校まで受けられたシュタイナー教育が、その考え方に影響しているのでしょうか?
確実に影響があったと思います。自主性を追求する教育なので、色んなことに興味を持つきっかけになりました。趣味が多すぎて、将来何をやろうか迷うくらい……と自分で言うのもなんですが(笑)。それぐらい色んなことをやりたい欲求があるので、役者という職業を通して、こうして自転車だったり、人と出会えたりというのがぼくにとっては刺激的だし、楽しい。だからこそ続けているんじゃないかな、と思います。
――自転車は今も乗られているんですか?
確実にハマりました。乗ってないとウズウズしちゃって。サイクルパンツも買いましたし、ツーリング仲間も5人くらいいます。
坂東龍汰 撮影=iwa
――新型コロナの感染拡大で撮影が一時中断されましたが、不安にならなかったですか?
「早く芝居がしたい」という気持ちはずっとありました。でも、「何もやらなくていい時間をどう使うか?」と切り替えて、有効活用する期間でもあったかな、と。作品を観たり、本を読んだり、2ヶ月間は有意義に使えたな、と思っています。
――コロナ後を経て、良くも悪くも考え方や生活様式が変わる方が多いと思います。坂東さんは、いかがでしたか?
考え方が変わったというか、「なぜ、自分はこう考えるのか?」とか、「なぜ、人からこう思われているのか?」といったことを、問いかけるゲームをやっていました。「何でなんだろうゲーム」と呼んでいるんですけど。これをやることで、新しい自分が見つかりました。
――「何でなんだろうゲーム」とは?
瞑想したりとかではないんですが、「何でだろう?」と疑問に思うことを書き出したりするんです。「なぜ、いま役者をやっているんだろう?」と問いかけて、その原点が幼少期にあったんだ、ということが発見できたり。最終的に超抽象的な答えが出たりするのが、すごく楽しくて。普段はそんなに自分のことを考えることはできないですよね。ずっと人にあっているから、誰かしらの影響は受けてしまうわけですから。ひとりでずっと考える作業をすると、普段は見えなかった景色がこんなに見えるんだ、と今回の自粛期間で思いました。
坂東龍汰 撮影=iwa
『弱虫ペダル』は2020年8月14日(金)全国公開。
インタビュー・文=藤本 洋輔 撮影=iwa ヘアメイク=イケナガハルミ スタイリスト=李靖華
作品情報