絵を鑑賞する人にも描く人にも嬉しい、鑑賞と学びが両立した充実のコンテンツ 上野の森美術館【ネット DE アート 第12館】
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ネット DE アート 第12館:上野の森美術館
2020年の春、新型コロナの影響で多くの施設が休館になり、さまざまな美術館や博物館が独自のオンラインコンテンツを制作・公開してきました。各施設が工夫を凝らしたコンテンツは、実際に作品を見るのとは異なる楽しみ方を示し、多くの人に充実した自宅時間を提供しているように思います。
今回ご紹介する上野の森美術館も、ユニークなオンラインコンテンツを公開している美術館の一つ。教育的な内容から展示作品の紹介まで手広く扱うコンテンツは、アートにアプローチする方法をさまざまな形で提案し、オンラインコンテンツの新たな可能性を示しています。
上野の森美術館 公式ホームページより
鉛筆・木炭の使い方から石膏デッサンまで
アートスクールの充実した番組が無料で見られる
上野の森美術館がYouTubeで公開しているチャンネル「上野の森アートスクール」は、美術館が運営する絵画教室・上野の森アートスクールのスタッフによるもので、鉛筆の削り方から石膏デッサンまで取り扱っており、無料であることに驚きを感じる充実ぶりです。
デッサンの基本である鉛筆の削り方を扱う回「【デッサン Part 1】鉛筆の削りかた(前編)」、「【デッサン Part 2】鉛筆の削りかた(後編)」では、鉛筆の芯の固さや削る方向、カッターや鉛筆の動かし方など、最初につまずきがちな点や分かりづらい点を細かく教えてくれます。その他、イーゼルのセッティングや木炭の使い方を扱う回もあり、重要ながらも知る機会が少ないコツが動画でわかりやすく教示されます。アートスクールで絵を始めた人はもちろん、独自のやり方で絵を描いている人にもありがたい動画です。
【デッサン Part 1】鉛筆の削りかた(前編)【上野の森アートスクール】
石膏デッサンの回「【実践デッサン①】実践石膏デッサン─マルス(前編)」「【実践デッサン②】実践石膏デッサン─マルス(後編)」では、白いキャンバスに線が描かれ、陰影がついて見事な石膏像が立ち現れていくさまに、絵を習っていない人でも思わず見入ってしまうでしょう。動画の中では、肩のボリュームの出し方やコントラストのつけ方などのさまざまな技術が語られ、一枚の絵は無数の手わざで構成されていることを改めて実感させられます。
【実践デッサン①】実践石膏デッサン─マルス(前編)【上野の森アートスクール】
その他、上野の森美術館が主催する公募展『日本の自然を描く展』についてのレクチャー動画もあります。アートスクールの講師である西村冨彌先生によって語られるこちらの動画は、出展の際に選択する課題部門と自由部門という2つのセクションについて知ることができる内容になっており、出展者はもちろん、作品を鑑賞する観客も深い学びを得ることができます。
学校や絵画教室などで絵を習うとき、見逃したり聞き逃したりしても、講師に二度聞いたり、やり直しをお願いするのは難しい場合もあります。動画「上野の森アートスクール」は、分からない部分は戻って参照したり、分かるまで繰り返し閲覧したりできるので、非常に有効な学習教材といえるでしょう。
『VOCA展』や『上野の森美術館大賞展』などの受賞作も閲覧可能
気鋭の若手作家の才気を感じられる
上野の森美術館は、新人作家にとっての登竜門である『VOCA展』や、将来の日本の美術界を担う気鋭の作家を顕彰する『上野の森美術館大賞展』、絵を描くことが好きな人全般が参加できる『日本の自然を描く展』などの主催もしており、新しい才能に出合える場を提供しています。トップページから「展示のご案内」を辿っていくと各受賞作品の一部が掲載されており、受賞した作家のインタビュー画像なども閲覧可能です。
上野の森美術館 - VOCA展2020 受賞作品(公式ホームページより)
VOCA展2020 VOCA賞 Nerhol 「Remove」
『VOCA展』や『上野の森美術館大賞展』などの受賞作品からは、時代を先取りする柔軟で繊細な感性、それらを絵の形で表現することを可能にする確かな技術がサイトの画像からも存分に伝わってきます。今もっとも勢いのある作家によるエネルギーに満ちた創作のかずかずは、見ているだけで刺激になるでしょう。
上野の森美術館 - 上野の森美術館大賞展 - これまでの大賞展(公式ホームページより)
2020年夏に開催された『上野の森美術館所蔵作品展 なんでもない日ばんざい!』の特設サイトにおいても複数の作品がピックアップされ、作品とともにその絵が描かれたストーリーを読むことが可能。日常をモチーフにしたものや想像力の広がりを感じさせるものなど、個性あふれるさまざまな絵を好きな順番で見ることができるのは、オンラインコンテンツならではの嬉しい特典です。
上野の森美術館所蔵作品展 なんでもない日ばんざい! 作品解説(公式ホームページより)
最近の美術館や博物館のオンラインコンテンツは、作品や作家のインタビューを見せてくれるものが増えてきました。それだけでもアートを十分に堪能することができますが、上野の森美術館のコンテンツは、鉛筆や木炭の使い方、石膏デッサンの陰影のつけ方、また公募展に出す方向けのアドバイスなど、多岐に渡っています。これらの番組を見れば、アートを見たい、知りたいという好奇心や感性が刺激され、実際に会場へ足を運んだ際、作品をより深く知ることができるでしょう。絵を見るのが好きな人と絵を描くのが好きな人の両方が楽しむことができ、刺激を受けることができる上野の森美術館のオンラインコンテンツ、是非堪能していただければと思います。
文=中野昭子 画像=公式ホームページ引用