現代アート国際展『ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020』11月開催~集大成をオンラインとリアルを融合させて開催【制作発表レポート】
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公開授業を行う栗栖良依 (撮影:加藤甫)
3年に一度のペースで、象の鼻テラスを中心に開催されてきた、障害者と多様な分野のプロフェッショナルによる現代アート国際展『ヨコハマ・パラトリエンナーレ』が今年(2020年)は11月18日(水)~11月24日(火)をコア会期として開催されることが決定した。8月24日(月)、横浜市立みなとみらい本町小学校5年生(56名)に向けた公開授業という設定で制作発表が行われた。東京パラリンピックが延期になり、2021年8月24日に開会式が予定されていることから、「1年後」への想いも込めて、この日に設定したそう。
『ヨコハマ・パラトリエンナーレ』は、2014年に横浜市の文化オリンピアードにおける発展進行型プロジェクトとして誕生。障害のある・なしに関係なく文化芸術活動に参加したいと思う誰もが、出会い、そして共(ともに)創(つくる)を掲げたアートプロジェクトだ。障害者とアート、そして社会の間のバリアを取り払うための活動を展開し、また東京2020開会式・閉会式4式典総合プランニングチームクリエイティブディレクターも担う栗栖良依(SLOW LABEL)が総合ディレクターを務めてきた。
ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020 メインビジュアル
栗栖は「パラトリは横浜市の文化観光局と健康福祉局と一緒につくり上げたプロジェクト。最初から3回の予定で、障害のある人と多様な分野のプロのクリエイターがコラボすることにより、新しい表現を生み出すことを目指して始まりました。またイベントをすることが目的ではなくて、イベントをつくり上げる過程の中でいろんなバリアが見えてきます。そのバリアをみんなの力で、クリエイティブな解決策を考えて、イベントの中で試してみようという取り組みです」とあいさつした。
「first contact はじめてに出会える場所」をテーマに初開催した2014年は、障害者とプロフェッショナルが協働する現代アート展が軸となった。来場・参加者は10万人を超えたが、アクセシビリティを皮切りに社会にあふれるさまざまな“障害”を目の当たりにすることになったことから、福祉と芸術に携わる伴奏者となるアクセスコーディネーター(障害のある人がアート活動に参加するための環境を整える人)とアカンパニスト(障害のある人と一緒に創作活動をする人)の発掘と研究に取り組んだ。「sense of oneness とけあうところ」をテーマに開催された2017年は、第1回目に出会った人びとが、その取り組みを時間をかけて醸成させながら、年齢、国籍、障害の壁を超えた約100名の市民パフォーマーによる大規模野外サーカス作品を発表し、大きな注目と話題を呼んだ。
そして集大成と位置付けられた2020年だったが、新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、昨年11月に発表した内容を全面的に見直すことになり、オンラインとリアルを融合させた、新しいプロジェクトとして挑戦することになった。
公開授業の様子 撮影:加藤甫
今年のテーマ「“ourcurioCity ‒ 好奇心、解き放つ街へ」について、栗栖は「(過去2回)街全体を変えていこうという意気込みでやってきました。今回が集大成ということで、より街へと広げていこうという決意を込めて“街”というワードをテーマに盛り込みました。好奇心というのは、私たちも手探りでパラトリをやってきましたが、私自身は障害ある人と何かやるという経験もありませんでしたし、ほかのスタッフやアーティストもパラトリを機に初めて障害のある人と活動するというメンバーがほとんどでした。すごく大変だったんですけど、それでも続けてこられたのは相手のことをもっと知りたいと思う好奇心があったから。障害がある側もない側も(お互いのあいだに)なぜバリアができちゃうのかな、どうやったらそれを乗り越えられるのかなと考えることこそが、そもそも好奇心だと思います。だからこそ、今一度、皆さんの中に眠っている好奇心を呼び覚ますとことで、コロナ禍のこの大変な時代を乗り超えていきたいという思いを込めています」と語った。
その後、制作発表は今年のプログラムの発表、映像によるパラトリの振り返りを経て、栗栖がこれまでも授業を行ってきた小学生たちが感想・意見を話す時間も設けられた。
公開授業の様子 撮影:加藤甫
最後に来年に延期されることになった東京パラリンピックへの思いを聞かれると、栗栖は「やっぱり今は意気込みを語れる段階にはないのかなというのが個人的な印象。正直、1年後がどうなっているかわかりませんが、個人としてはできることをやるしかないと思っているんです。パラトリを何とかしてやろうと思ったのも、自分が今できることはこれしかなかったから。パラトリの中で何か実験しておくことが2021年の開催や開閉会式に何か生かせることがあるんじゃないかと考えています。本当に一歩一歩、今できることをチームの仲間とともにやっていくことを大事に日々過ごしていきます」
なお、プレ会期である8月24日〜29日に、横浜市役所新市庁舎にて、写真・映像・作品などを交えながら出会いと共創、発展進行型のフェスティバルとしてのヨコハマ・パラトリエンナーレのこれまでの歩みを振り返るドキュメント展示を行っている。
左から熊谷拓明、中嶋涼子、栗栖良依 撮影:加藤甫
取材・文:いまいこういち
イベント情報
■コア会期:2020年11月18日(水)~11月24日(火)
■場所:オンライン https://www.paratriennale.net/2020
横浜市役所アトリウム(横浜市中区本町6丁目50-10)
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■ヨコハマパラトリエンナーレ2020公式サイト https://www.paratriennale.net/2020
Program 01.「パラトリテレビ」
オンラインとリアルが融合するパラトリ2020のメインのコンテンツ。プレ会期より、障害当事者から多様な分野のプロフェッショナルまで、パラトリを通じて出会ってきた人びとが集結し、オリジナル番組を制作、YouTube配信する。コア期間には横浜市役所アトリウムの特設ステージから生配信。放送は第2・第4日曜(アーカイブ化)
「おうちでサーカス」
日本初のソーシャルサーカスカンパニー「SLOW CIRCUS PROJECT」の個性豊かなメンバーが、お家でできるサーカステクニックやエクササイズを紹介。
「HELLO! My Neighbors わたしとあなたのパラトリヒストリー」
これまでにかかわった人びとに取材し、パラトリエンナーレの物語をそれぞれの視点で語ってもらうプロジェクト。
「Play 手話と詩であそぼう」
詩人・三角みづ紀が投げかけた言葉と、ろう者のアーティスト・南雲麻衣の手話がかけあわされて生まれる新しい表現。
■ナビゲーター:中嶋涼子
■パペット話者;熊谷拓明
■パラトリテレビディレクター(撮影・編集):鹿子澤拳
「そのうち届くラブレター~わかりあうことの不可能さと、あきらめないことについての考察~」
BOOK PROJECTキュレーター陣
障害のある表現者と多分野のアーティストによる、読む展覧会。パラトリエンナーレの第3回目となる美術展はこれまでの取り組みの延長線上に立ち、「障害」とは何かを根底から問うテーマを設定。人間が誰しも抱える、わかりあうことの不可能さを見据えながら、その絶望を乗り越えていく視点・姿勢をもった6人の作品に対し、8人と1組の表現者たちがそれぞれの方法で彼らの作品への応答を試みる。本展は、読む展覧会としてブック(本)の形式で編まれ、公式ウェブサイトでも展開される。
■場所:本(横浜市役所で1000部無料配布) オンライン
※横浜市役所展示スペースAで一部作品展示も行います。
■参加費:無料
■キューレーター:金澤韻 田中みゆき 畑井恵
■参加アーティスト(順不同): ジェス・トム(作家、美術家) リ・ビンユアン(現代美術家) 山本高之(現代美術家) 鎌江一美(やまなみ工房) 井口直人(さふらん生活園) 杉浦篤(工房集) 川戸由紀(アートかれん)
■応答するひと(順不同):松本美枝子(写真家、美術家) 中川美枝子(「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」スタッフ) 華雪(書家) 磯子区障害者地域活動ホーム+飯塚聡(映像作家) 柏木麻里(詩人) 船越雅代(料理家/アーティスト) 金氏徹平(現代美術家) dj sniff(音楽家) 横山裕一(美術家、漫画家)
「サーカスアニメーション」は、両足義足のサーカスアーティストであるエリン・ボールをはじめとした世界のサーカスアーティストと「SLOW CIRCUS PROJECT」のメンバーが、時空を超えたサーカスアニメーションの共創に挑戦。また、コア会期には、SLOW CIRCUSPROJECTのメンバーと、みなとみらい本町小学校5年生のこどもたちが議論を交わす「パラトリみらいサミット」を開催。「全人類アカンパニスト化計画! めざせ、だれかの伴奏者」をテーマに、みんなが暮らしやすい街について考える。
■場所:オンライン / 横浜市役所アトリウム
■参加費:無料
■クリエイティブプロデュース:栗栖良依(SLOW LABEL)
■演出:金井ケイスケ(サーカスアーティスト/SLOW CIRCUS PROJECT)
■脚本:益山貴司(劇作家・劇団子供鉅人)
■撮影・監督・編集:矢彦沢和音(ビデオグラファー)
■出演:
「サーカスアニメーション」エリン・ボール SLOW CIRCUS PROJECT
「パラトリみらいサミット」みなとみらい本町小学校5年 SLOW CIRCUS PROJECT
「食」を切り口に福祉や持続可能な社会について考え、学び合う「フードラボ」と、「伝えかた」をテーマに多様な立場の人びとと学び合う「メディアラボ」を実施。本ラボは、プレ会期からコア会期までオンラインゼミとして配信される、さらにコア会期は、横浜市役所アトリウムの特設ステージでリアルイベントも開催する。
■ディレクター:中山晴奈(フードラボ) 中嶋涼子(メディアラボ)
■参加費:有料 ※コア会期のリアルイベントのみ無料
横浜市内外・海外の人を巻き込み、支えられながら成長してきた「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」。2014年の誕生から2020年の集大成までの歩みやアクセシビリティの試みを、写真・映像・作品などとともに紹介。
■会期:2020年8月24日(月)~ 29日(土) 9:00~20:00(最終日は17:00まで)
■会場:横浜市役所 2F プレゼンテーションスペース(入場無料)